※この作品はR-18です。

人斬り武者の幻想歌   作:紳爾零士

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五十八杯『第二試合』

『な、ななな、なにが起きたというのでしょうッ!?黒葉選手の目の前から三太夫選手がき、ききき、消えたァァァァァッ!?』

 

「どこに…!?」

 

…黒葉の大振りの横一閃。それが起こした砂埃が消えたのだが、そこには千石三太夫の姿はかけらひとつもなかった。

 

それもそのはず。

 

「凄いです。今の一瞬で、私の刀に跳び乗るとは。」

 

「ヒヒッ。アンタとまともにやり合うたら、死ぬからなぁ…?」

 

黒葉は微笑みを浮かべ、太刀を振り払う。

 

太夫は後ろに回転しながら跳び、地面に着地と同時に地面を蹴って走り出した。

 

黒葉は前から走ってくる太夫の足元に刀を振るい、砂煙を上げた。

 

「チッ…!!目眩しのつもりか…?」

 

黒葉はそのまま横一閃に刀を振るう。

 

それを太夫は地面に体を寝かせ、滑らし避ける。と同時に黒葉との間合いを詰め、刀を抜刀する勢いで黒葉を斬る。

 

「…ッ!?」

 

「…チッ。硬っ…。何食うたらこんなカッチカッチになるんや…!!」

 

『なんということかッ!?人が天魔に傷を追わせたッ!!天魔の血が宙を舞うッ!!これは山の天狗たちも騒然としているッ!!』

 

…確かに。以下に少量であっても血は血。黒葉の脇腹にも切り傷がある。…しかし、勿論、致命傷にはなっていない。叩き切るというよりは刺し貫く、という斬り方だ。つける傷は浅いが、速さは明らかに上。

 

「…凄いわね。彼、ただの人間でしょう?」

 

「ええ。…ただ、頭のネジが数本、ぶっ飛んでいる。」

 

「…イカれてるってことね。まぁ、イカれてなきゃ…天魔なんて相手にしないわ。」

 

「ヒヒッ…!!行くで。黒葉ちゃんッ!!」

 

またしても始動は太夫。姿勢を低くし、刀を握りながら走っていく。

 

それを横一閃で切り裂こうとする黒葉。

 

跳んで避け、その勢いで刀を縦に持ちかえ、空中で振り下ろす太夫。

 

黒葉はそれを即座に刃で受け止める。

 

そのまま、後ろへとまた向かっていく。

 

「…あんなにギアあげて大丈夫かしら。」

 

隣のレミリア嬢がそう声を漏らす。今の太夫はあれだ。止まらない暴れ馬。全力で向かっていって、一撃入れて戻る。そして、即座に次の一手へと行く。

 

「…逆だ。ギアを上げないと勝てない。」

 

「どういうこと?」

 

「黒葉は確かに速い。…だが、その速さを戦闘に活かしきれていないんだ。火力が高いだけで、瞬間的な速さなら太夫の方が速い。ならば、黒葉のギアが入りきる前にある程度牽制しておく必要がある。」

 

…しかし、明らかに間合いに入るのを嫌っているな、太夫のやつ。黒葉が気づいていないとは思えない。

 

「…なるほど。ならば、こういうのは如何でしょう。」

 

「ハァ?急に何を…。」

 

…一歩も動かなかった黒葉がついに動き出した。

 

地面を蹴り、向かってくる三太夫の腹を蹴り上げた。

 

「グハッ…!!」

 

『おおっと、これはまずいッ!!天魔黒葉の一撃が三太夫選手に直撃したァァァァッ!!』

 

『これはモロだね…!!』

 

『そのまま、三太夫選手、空中へと飛び、武舞台へと着弾ッ!!背中から落ちたッ!!』

 

…博麗神社側、全員が言葉を失った。

三太夫は立ち上がらない。痙攣しているかのようにビクッ…ビクッ…と体を動かしていた。

 

「…三太夫のやつ、死んだんじゃ…。」

 

霊夢がそう言った。

 

「…いや、よく見ろ。」

 

…吾は霊夢にそう返した。

…武舞台の上にはゆっくりと立ち上がる三太夫の姿があった。

 

「…く…。」

 

『なんということでしょうかッ!?あの一撃を喰らって三太夫選手、立ち上がったァァァァァッ!!まさか、効いていないとでも言うのかァ!?』

 

「…うっさいわ…ッ!!効いとるに決まっとるやろ…ッ!!」

 

…実況…とやらに半分キレかかっている太夫。

 

「丈夫…ですね。先程、背中から落ちたので、死んでしまったのではないかと…。」

 

「…十分、効いとるわ。蹴り一発で死にかけた…。…やけど、まだまだやな。こんなところで千石三太夫は、死なへん。」

 

「…笑ってる…んですか?」

 

「ヒヒヒッ…!!不思議やのう?腹が痛くてしゃーないのに…骨が折れとるかもしれへんのに…今は、この喧嘩が…楽しゅうてしゃーないんじゃあッ!!黒葉ちゃんッ!!」

 

…笑っている。この土壇場で、白鞘ではなく短刀を構えて、口から血を吐いているにも関わらず、笑っている。その人間の異質さに、天狗も、人間も、河童も、吸血鬼も、幽霊も…笑みを失った。笑っていたのは、千石三太夫と天魔、黒葉のみ。

 

「うふふ。…流石ですね。三太夫さん。私、感服いたしました。…では、しきり直しましょうか。」

 

「…ヒヒッ。」

 

…次の瞬間、黒葉が動き出した。

 

黒葉が刀を横一閃に振るう。

 

それを太夫は屈んで避け、地面を蹴って、斬りかかる。

 

その刃を左手でガシッと掴む黒葉。その後、太夫の腹にまた蹴りを入れた。

 

「ぐおっ…!!」

 

そのまま短刀ごと右へ放り出される太夫。

 

しかし、後ろに回転しながら跳び、なんとか武舞台へと着地した。

 

「ハァ…ハァ…。ぐっ…。」

 

…食い下がらない太夫。誰が見ても本気である。…だが、身体はすでに限界を迎えていた。

 

「…チッ…。あかん、足が思うように動かへん…。」

 

「…終わりですね。」

 

「…くっそ。…悔しいわ。やけど、降参や。」

 

困ったように笑う三太夫。差し出された黒葉の手を取り、立ち上がる。

 

『なんと、三太夫選手、健闘虚しく、無念のリタイアですッ!!』

 

『いやぁ、でも天魔相手によく頑張ったよ。一撃でも入れるなんてね…!!』

 

『皆さま、三太夫選手と黒葉選手に今一度大きな拍手をお願いしますッ!!』

 

…拍手喝采。黒葉の肩をかされ、太夫がやってくる。

 

「アンタね。勝手なことしといて負けるなんて…ッ!!」

 

やってきた太夫に対して、霊夢が激怒する。そんな霊夢の声を太夫は耳に指を突っ込んで聞いていない。

 

「は、博麗さん?千石さんも健闘されましたので…。その、もう少し労って頂けると…。」

 

「ま、そういうこっちゃ。あー、身体中痛いわぁ〜。」

 

「あ、アンタねぇ〜…!!博麗神社の未来がかかってるのよ…ッ!!」

 

「は、博麗さんッ!!」

 

…奇妙な図だな。侍に怒っている巫女を天魔が宥めている。

 

「…はぁ…。早く、永遠亭のところへ行ってきなさい。積もる話もあるでしょうに。」

 

「えぇ?…先生に叱られそうやけどなぁ…。まぁ、ええわ。ほんじゃあな。」

 

…天魔の肩を借りず、そのまま永遠亭組のところへと行く太夫。それを見届けて、帰っていく黒葉。

 

「…はぁ。愈咫郎、次はアンタが行ってきなさい。」

 

「…?次は霊夢のはずだろ?」

 

「身内のしでかしたことは身内がケリをつける。アンタが一番好きそうな話だけど?」

 

…ふむ。義理を通す…というやつか。それならば、仕方ない。吾は重い腰を起こし、立ち上がる。

 

「…では、行って参ります。」

 

「ええ。紅魔館の威信にかけて、絶対に勝ってきなさい。愈咫郎。」

 

「…御意。」

 

頭を下げて武舞台へと向かう。

 

「愈咫郎さんッ!!」

 

「…椛。」

 

待機場らしきところから椛が走ってくる。

…どうしたんだろうか。

 

「…あのっ…そのっ…が、頑張ってくださいっ!!」

 

少し顔を赤らめながら、はにかむ椛。

 

「いいのか?山の意向に背くことになるぞ?」

 

「えへへ。…私は愈咫郎さんに助けていただきました。だから、せめて応援くらいはさせてください。」

 

…義理は通す…か。

吾は椛の頭を撫でる。なんというか、忠犬という感じがする。目の前にいるのは女の子なのだがな。

 

「…安心しろ。必ず、勝ってくる。」

 

霊夢と魔理沙に楽をさせてやらなければならない。それに、レミリア嬢の命令は絶対だ。必ず勝たねば。

 

「はい。微力ながら応援してますねっ!!」

 

「ふっ。ありがとう。」

 

椛に感謝と別れを告げると、吾は武舞台の方へ歩いていった。

 

『さぁっ!!今のところ、博麗神社側一勝、守矢神社側一勝と拮抗している中での第三試合、折り返し地点の選手をご紹介致しますッ!!先ずは守矢神社側選手のご紹介ですッ!!…今大会の主催者であり、守矢神社の巫女であり風祝。奇跡の風を起こし、二度目の勝ち星となるかっ!!…祀られる風の人間、東風谷早苗ェェェッ!!』

 

武部隊に上がる少女。先ほど、神社の境内前で挨拶をした緑の少女だ。確かに只者ではないのは明確だが…。勝てない相手かどうかは戦ってみて決めるとしよう。

 

『そしてそしてッ!!博麗神社側選手のご紹介ですッ!!…かの者は死して幻想郷にやってきた。かの者は、人殺しを生業とする。かの者は紅き館の侍である。…紅魔館の懐刀…朱智愈咫郎ォォォォッ!!』

 

…なるほど。これはなかなかに壮観な景色だ。首の骨を鳴らし、前を向く。するとお祓い棒を構えた早苗の姿があった。

 

「まさか、貴方と戦うことになるとは。」

 

「ふっ。どういう結果になろうと、恨みっこなしだ。」

 

刀を抜いて少女に剣先を向ける。少女もニコッと笑い、お祓い棒とお札を持って、臨戦態勢で答えた。

 

『では、第三試合ッ!!はじめッ!!』




当初は早苗戦は霊夢の予定でした。…が、やっぱ大トリは霊夢が良いよねってことで。太夫が負けちゃうのは結構、予想されてたんじゃあないかな。メタ的な話。ここもどうするかは決めてません。勝っても負けてもバレるからね。では次回。ではでは。
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