『な、ななな、なにが起きたというのでしょうッ!?黒葉選手の目の前から三太夫選手がき、ききき、消えたァァァァァッ!?』
「どこに…!?」
…黒葉の大振りの横一閃。それが起こした砂埃が消えたのだが、そこには千石三太夫の姿はかけらひとつもなかった。
それもそのはず。
「凄いです。今の一瞬で、私の刀に跳び乗るとは。」
「ヒヒッ。アンタとまともにやり合うたら、死ぬからなぁ…?」
黒葉は微笑みを浮かべ、太刀を振り払う。
太夫は後ろに回転しながら跳び、地面に着地と同時に地面を蹴って走り出した。
黒葉は前から走ってくる太夫の足元に刀を振るい、砂煙を上げた。
「チッ…!!目眩しのつもりか…?」
黒葉はそのまま横一閃に刀を振るう。
それを太夫は地面に体を寝かせ、滑らし避ける。と同時に黒葉との間合いを詰め、刀を抜刀する勢いで黒葉を斬る。
「…ッ!?」
「…チッ。硬っ…。何食うたらこんなカッチカッチになるんや…!!」
『なんということかッ!?人が天魔に傷を追わせたッ!!天魔の血が宙を舞うッ!!これは山の天狗たちも騒然としているッ!!』
…確かに。以下に少量であっても血は血。黒葉の脇腹にも切り傷がある。…しかし、勿論、致命傷にはなっていない。叩き切るというよりは刺し貫く、という斬り方だ。つける傷は浅いが、速さは明らかに上。
「…凄いわね。彼、ただの人間でしょう?」
「ええ。…ただ、頭のネジが数本、ぶっ飛んでいる。」
「…イカれてるってことね。まぁ、イカれてなきゃ…天魔なんて相手にしないわ。」
「ヒヒッ…!!行くで。黒葉ちゃんッ!!」
またしても始動は太夫。姿勢を低くし、刀を握りながら走っていく。
それを横一閃で切り裂こうとする黒葉。
跳んで避け、その勢いで刀を縦に持ちかえ、空中で振り下ろす太夫。
黒葉はそれを即座に刃で受け止める。
そのまま、後ろへとまた向かっていく。
「…あんなにギアあげて大丈夫かしら。」
隣のレミリア嬢がそう声を漏らす。今の太夫はあれだ。止まらない暴れ馬。全力で向かっていって、一撃入れて戻る。そして、即座に次の一手へと行く。
「…逆だ。ギアを上げないと勝てない。」
「どういうこと?」
「黒葉は確かに速い。…だが、その速さを戦闘に活かしきれていないんだ。火力が高いだけで、瞬間的な速さなら太夫の方が速い。ならば、黒葉のギアが入りきる前にある程度牽制しておく必要がある。」
…しかし、明らかに間合いに入るのを嫌っているな、太夫のやつ。黒葉が気づいていないとは思えない。
「…なるほど。ならば、こういうのは如何でしょう。」
「ハァ?急に何を…。」
…一歩も動かなかった黒葉がついに動き出した。
地面を蹴り、向かってくる三太夫の腹を蹴り上げた。
「グハッ…!!」
『おおっと、これはまずいッ!!天魔黒葉の一撃が三太夫選手に直撃したァァァァッ!!』
『これはモロだね…!!』
『そのまま、三太夫選手、空中へと飛び、武舞台へと着弾ッ!!背中から落ちたッ!!』
…博麗神社側、全員が言葉を失った。
三太夫は立ち上がらない。痙攣しているかのようにビクッ…ビクッ…と体を動かしていた。
「…三太夫のやつ、死んだんじゃ…。」
霊夢がそう言った。
「…いや、よく見ろ。」
…吾は霊夢にそう返した。
…武舞台の上にはゆっくりと立ち上がる三太夫の姿があった。
「…く…。」
『なんということでしょうかッ!?あの一撃を喰らって三太夫選手、立ち上がったァァァァァッ!!まさか、効いていないとでも言うのかァ!?』
「…うっさいわ…ッ!!効いとるに決まっとるやろ…ッ!!」
…実況…とやらに半分キレかかっている太夫。
「丈夫…ですね。先程、背中から落ちたので、死んでしまったのではないかと…。」
「…十分、効いとるわ。蹴り一発で死にかけた…。…やけど、まだまだやな。こんなところで千石三太夫は、死なへん。」
「…笑ってる…んですか?」
「ヒヒヒッ…!!不思議やのう?腹が痛くてしゃーないのに…骨が折れとるかもしれへんのに…今は、この喧嘩が…楽しゅうてしゃーないんじゃあッ!!黒葉ちゃんッ!!」
…笑っている。この土壇場で、白鞘ではなく短刀を構えて、口から血を吐いているにも関わらず、笑っている。その人間の異質さに、天狗も、人間も、河童も、吸血鬼も、幽霊も…笑みを失った。笑っていたのは、千石三太夫と天魔、黒葉のみ。
「うふふ。…流石ですね。三太夫さん。私、感服いたしました。…では、しきり直しましょうか。」
「…ヒヒッ。」
…次の瞬間、黒葉が動き出した。
黒葉が刀を横一閃に振るう。
それを太夫は屈んで避け、地面を蹴って、斬りかかる。
その刃を左手でガシッと掴む黒葉。その後、太夫の腹にまた蹴りを入れた。
「ぐおっ…!!」
そのまま短刀ごと右へ放り出される太夫。
しかし、後ろに回転しながら跳び、なんとか武舞台へと着地した。
「ハァ…ハァ…。ぐっ…。」
…食い下がらない太夫。誰が見ても本気である。…だが、身体はすでに限界を迎えていた。
「…チッ…。あかん、足が思うように動かへん…。」
「…終わりですね。」
「…くっそ。…悔しいわ。やけど、降参や。」
困ったように笑う三太夫。差し出された黒葉の手を取り、立ち上がる。
『なんと、三太夫選手、健闘虚しく、無念のリタイアですッ!!』
『いやぁ、でも天魔相手によく頑張ったよ。一撃でも入れるなんてね…!!』
『皆さま、三太夫選手と黒葉選手に今一度大きな拍手をお願いしますッ!!』
…拍手喝采。黒葉の肩をかされ、太夫がやってくる。
「アンタね。勝手なことしといて負けるなんて…ッ!!」
やってきた太夫に対して、霊夢が激怒する。そんな霊夢の声を太夫は耳に指を突っ込んで聞いていない。
「は、博麗さん?千石さんも健闘されましたので…。その、もう少し労って頂けると…。」
「ま、そういうこっちゃ。あー、身体中痛いわぁ〜。」
「あ、アンタねぇ〜…!!博麗神社の未来がかかってるのよ…ッ!!」
「は、博麗さんッ!!」
…奇妙な図だな。侍に怒っている巫女を天魔が宥めている。
「…はぁ…。早く、永遠亭のところへ行ってきなさい。積もる話もあるでしょうに。」
「えぇ?…先生に叱られそうやけどなぁ…。まぁ、ええわ。ほんじゃあな。」
…天魔の肩を借りず、そのまま永遠亭組のところへと行く太夫。それを見届けて、帰っていく黒葉。
「…はぁ。愈咫郎、次はアンタが行ってきなさい。」
「…?次は霊夢のはずだろ?」
「身内のしでかしたことは身内がケリをつける。アンタが一番好きそうな話だけど?」
…ふむ。義理を通す…というやつか。それならば、仕方ない。吾は重い腰を起こし、立ち上がる。
「…では、行って参ります。」
「ええ。紅魔館の威信にかけて、絶対に勝ってきなさい。愈咫郎。」
「…御意。」
頭を下げて武舞台へと向かう。
「愈咫郎さんッ!!」
「…椛。」
待機場らしきところから椛が走ってくる。
…どうしたんだろうか。
「…あのっ…そのっ…が、頑張ってくださいっ!!」
少し顔を赤らめながら、はにかむ椛。
「いいのか?山の意向に背くことになるぞ?」
「えへへ。…私は愈咫郎さんに助けていただきました。だから、せめて応援くらいはさせてください。」
…義理は通す…か。
吾は椛の頭を撫でる。なんというか、忠犬という感じがする。目の前にいるのは女の子なのだがな。
「…安心しろ。必ず、勝ってくる。」
霊夢と魔理沙に楽をさせてやらなければならない。それに、レミリア嬢の命令は絶対だ。必ず勝たねば。
「はい。微力ながら応援してますねっ!!」
「ふっ。ありがとう。」
椛に感謝と別れを告げると、吾は武舞台の方へ歩いていった。
『さぁっ!!今のところ、博麗神社側一勝、守矢神社側一勝と拮抗している中での第三試合、折り返し地点の選手をご紹介致しますッ!!先ずは守矢神社側選手のご紹介ですッ!!…今大会の主催者であり、守矢神社の巫女であり風祝。奇跡の風を起こし、二度目の勝ち星となるかっ!!…祀られる風の人間、東風谷早苗ェェェッ!!』
武部隊に上がる少女。先ほど、神社の境内前で挨拶をした緑の少女だ。確かに只者ではないのは明確だが…。勝てない相手かどうかは戦ってみて決めるとしよう。
『そしてそしてッ!!博麗神社側選手のご紹介ですッ!!…かの者は死して幻想郷にやってきた。かの者は、人殺しを生業とする。かの者は紅き館の侍である。…紅魔館の懐刀…朱智愈咫郎ォォォォッ!!』
…なるほど。これはなかなかに壮観な景色だ。首の骨を鳴らし、前を向く。するとお祓い棒を構えた早苗の姿があった。
「まさか、貴方と戦うことになるとは。」
「ふっ。どういう結果になろうと、恨みっこなしだ。」
刀を抜いて少女に剣先を向ける。少女もニコッと笑い、お祓い棒とお札を持って、臨戦態勢で答えた。
『では、第三試合ッ!!はじめッ!!』
当初は早苗戦は霊夢の予定でした。…が、やっぱ大トリは霊夢が良いよねってことで。太夫が負けちゃうのは結構、予想されてたんじゃあないかな。メタ的な話。ここもどうするかは決めてません。勝っても負けてもバレるからね。では次回。ではでは。