妖怪の山の風が涼しげに木々を撫ぜる。もうすぐ冬の到来を感じさせる。
「涼しいわね。」
「あぁ。」
いつものメイド服ではなく、緑の首元が緩やかなシャツに…じーんず?だったか。紺色のズボンを履いている。
「そういえば、聞いてなかったわ。私服の感想。」
「何を今更。…別に初めて見たわけじゃ…。」
そこまで言いかけて、咲夜の人差し指が吾の口を遮る。少し頬を膨らませて、ムッとしている。
「…デートの時は初めてでしょ?…それに、貴方の前でこの靴、履くの初めてじゃない。」
そう言われたので下を見る。
ピチッとしたストッキングの下、足元の靴は白いシューズだ。…山登りってことで、可愛さよりも機能性を取ったのだろう。ただ、とても似合っている。
「らしくないな。…だが、似合ってる。」
「うふふ。ありがと♪…でも、そうよね。もうちょっと可愛いのでも良かったかなぁ。」
「やめとけ。あんまり履き慣れないのを履くと怪我するぞ。」
「えぇー。だって、怪我したらユタ、おぶってくれるじゃない。そしたら、思いっきり甘えられるでしょ?」
…ニコッと笑う咲夜。木々の木漏れ日によってか、いつにも増して煌びやかに見れる。
「もうちょっと、自分の身体を大事にしなさいな。」
「ユタには言われたくないわよ。」
「むっ…。それもそうか。…心配かけてすまないな。」
「…ふふ。大丈夫。だって貴方だもの。」
舗装された山道を進みながら、そんな話をしてると目的の場所へと着いた。…玄武の沢だ。キラキラと輝く水面に、ザーッと音を立てて流れる滝。そして、澄んだ美味い空気。
「…綺麗…。」
咲夜もうっとりとしたようにそれを見ている。
…こうやって、恋人同士で来る場所の少ない幻想郷。しかし、そんな場所だからこそ、これほどまでに美しい景色を探す楽しみが増える。…その感動を共有するのが、とても好きなのだ。
「ねぇ!!もうちょっと近くで見たいわっ!!」
…珍しく咲夜がはしゃいでいる。時折、幼くなるのがとても可愛い。勿論と微笑むと彼女の手を取り、吾は沢の淵へと歩み寄る。…少し足元が滑りやすいな。気をつけないと落ちてしまう。
「…とりあえず、座ろうか。ほら、ランチョンマット…持ってきてるだろ?」
「ええ。じゃ、少し休みましょうか。」
「あぁ。」
…比較的、岩の少ない場所を選び、そこへマットを敷く。腰を落ち着かせると咲夜がぎゅっと吾に寄ってきた。肩と肩が触れ合う。
「…黒葉の話じゃ、夏の夜にはここは蛍で一杯になるそうだ。」
「へぇー。…見てみたいわね。勿論、ユタと一緒に…。あ、でも、その時は…もう一人増えてるかも。」
頭を吾に寄せて、肩に顔を乗せる咲夜。
彼女の髪が首に当たって少し痒い。だが、落ち着いたいい香りが鼻を通る。…ある意味で気持ちいい。
「へぇ。欲しいのかい?…子ども。」
「そうね。…一姫二太郎っていうから、最初は女の子かしら。貴方に似て、多分、優しい子になるわ。」
「ふふ。早すぎるだろ。…でも、そうだな。」
…子ども…か。考えたこともなかった。例えば、吾に子どもが出来たとして、その子を愛せるだろうか。…子どもは好きだ。無邪気で可愛く、純粋だ。過去の吾とは同じ轍は踏まない。
「…その子は人で生まれるのか、はたまた、不死者で生まれるのか…。」
「どっちだっていいじゃない。…だって、私たちの子ですもの。あーあ。それだったらちょっと悲しいな。」
「…何がだ?」
咲夜が吾の顔を見る。少し呆れたような笑みで吾を見る。どこか、寂しそうにも見えた。
「だって、もし不死者だったら、私一人だけ取り残されちゃうじゃない?…大好きな貴方と大好きになる子どもを置いて先にバイバイなんて、寂しいじゃない。」
「…だが、不死身にも妖怪にもなる気はないんだろ?」
「…もし、子どもが出来たら考える頃が来るかもね。…でも、吸血鬼になったら羽が邪魔にならないかしら。」
…吸血鬼になる?
「…どういうことだ?」
「…レミリアお嬢様に血を頂くのよ。大図書館の本にあったわ。そうすれば、吸血鬼の眷属となれるの。…レミリアお嬢様が首を縦に振れば…だけどね。そうすれば、永遠は無理でも長く一緒にいられるわ。」
「…だが。」
…咲夜は人間でいることに拘っていた。
死ぬ時は死ぬと、それまで一緒にいると。…そんな彼女が何故…。
「興味が出たの。…貴方と家族っていうのに。そうなったら、嫌でもお別れを考えてしまうわ。夜な夜な、貴方と一緒に寝ているとね、この時間がずっと続けばいいのにって。お嬢様といる時は申し訳ないけど、これほどまでのことを考えないの。…これが恋ってやつかしら。好きってことかしら。」
「…咲夜。」
「私ってばいけない子。…貴方の優しさやお嬢様方の優しさに触れて、甘えてしまうのよ。…だから、欲しがってしまう。何の努力もせずに…貴方との時間を求めてしまう。」
咲夜が吾の首筋に手をかける。
頬が紅潮し、咲夜の目が少しうるっとする。泣いているのではない。
「…貴方と会ってから私は変わってしまったわ。貴方のことを思うたび、胸がキュってなる。…あぁ、やっぱり私は貴方のことが…好きなんだって。」
「あぁ。…吾も愛している。」
そう言って、静かに口づけを交わす。
…甘い。目を瞑り、ぷるっと震える唇にゆっくりと重ねた。
「ぷはっ…。ねぇ。ユタは反対?私が人以外になるのは。」
「…吾は…十六夜咲夜が好きなんだ。その娘が判断したことならば、喜んで応援しよう。」
「ふふ。ありがとう。」
…いつかの話はもう終い。まだ見ぬ我が子の為、彼女の下した決断は必ず吉となる…はずだ。そんな未来に胸躍らせ、吾はまた彼女と口づけを交わした。
まぁ、そろそろ此方の問題に終止符を。
100話前には第一子の話を書きたいのですが、前みたいに時間がわからなくなるほどトントン拍子でする気はありません。まぁ、皆様の反応次第で。因みに覆りはしませんが一応…例えばの話ですが咲夜さんや霊夢、魔理沙などの人のキャラが不死身になるのは如何なのでしょうか。今作では霊夢や魔理沙は人を辞めることはしない…と思いますが、咲夜さんはこんな感じなので…。宜しければ意見をお聞かせください。今後の指標になります。次回は未定です。では次回。ではでは。