「は、はろうぃーん?」
「ええ。知らない?ハロウィーン。」
…初めて聞いた名だ。
片仮名の他国語名は元々、あまり知らないが、今回に関しては全くだ。何も知らないのがわかったのか、レミリア嬢が困ったように笑った。
「ええっと…。ハロウィーンというのはね。先祖の霊が家族を訪ねてくると言われていて、それに扮した子どもたちが各々、家を訪ねて、『trick or treat』、お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ?なんて言って、お菓子をねだっていくっていうのがハロウィーンの恒例行事よ。」
…なるほど。盆…みたいなものか。
「だいたいわかった。」
そう言うとレミリア嬢は柔和な笑みを浮かべた。…しかし、異国の盆とは不思議なものだな。わざわざ、子どもたちがお菓子を貰うとは…。まぁ、悪戯されてしまうからというのもあるとは思うだろうが。
「…例年、この日になったらハロウィーンパーティをやるのだけれど…。」
「…祝祭か。一体、何をするというのだ?」
「…まぁ、仮装パーティね。西洋風の宴会、みたいなものと考えてもらっていいわ。貴方にもドレスコード、してもらわないとね。一人だけ、いつもの服装じゃあつまらないから。」
「むっ。吾もか?」
…たしかに、仮装の中に一人だけいつもと同じ服装がいては興醒めだ。…洋装は苦手なのだが…まぁ、咲夜に選んで貰えばいいか。
「じゃあ、今日の夜。好きな人でも誘ってきなさいな。」
「…御意のままに。」
「…ほお。」
…時は来たり。苦手な洋装…灰色のスーツとやらに袖を通し、ゆっくりと階段を下る。…こりゃ、また壮観だな。フロアには所狭しと人、妖怪が変わった服装でざわめいている。
「愈咫郎さん。似合ってますね。」
隣には美鈴、レミリア嬢、フラン嬢など紅魔館の各面々が吾と同様、階段を進んでいく。…右手には勿論、咲夜の姿もある。いつものメイド服…では無く、黒いドレスに身を包んでいる。他にもレミリア嬢、フラン嬢は紅いドレス。お揃いだなんて笑顔で喜んでいる。美鈴、小悪魔はメイド服。パチュリー殿は…来ていないか。まぁ、外に出るタイプでは無いしな。
「ありがとう。咲夜に頼った甲斐があったよ。」
「ユタ、お洋服、苦手だものね。動きづらいとか、何処かキツイとかない?」
「大丈夫。」
「そう。良かったわ。」
そう言うと柔和な笑みを浮かべる咲夜。何も言わずとも、吾の右手を握る咲夜。華奢な指が吾のゴツイ指に絡み合う。
「みんな、今宵は集まってくれて有難う。仮装パーティとは言うけど、表向きなカジュアルに楽しんでくれると助かるわ。」
レミリア嬢が声を上げる。
綺麗な声が屋敷内に響き渡り、パチパチと少なからずとも拍手が上がった。豪華絢爛、キラキラと光るその場所には冥界の主人でもなんとか満足してもらえそうなほどの上等な料理が大机に並べられている。
「おおーい。ユタロー!!」
「…魔理沙。」
…いつもの霊夢と魔理沙、それとアリスと早苗がいた。霊夢、魔理沙はいつもと同じ服装だが…。
「〜っ…。」
「えへへ。お久しぶりです。愈咫郎さん。」
アリスの後ろに隠れ、ひょこっと此方を見ている早苗。…アリスは魔女らしい黒いローブを着ていて、手には子ども用のお菓子やらを入れたバスケットを持っている。…対して、早苗のは…あれはなんだ?白と青を基調とした服で胸元で青いネクタイを結んでいる。現代風の…なんだあれ。
「ふふ。ほら、早苗。」
「…っっ…。どう…ですか…?」
顔を仄かに赤らめて上目遣いで吾を見る。…何かはわからぬが、違和感はない。かじゅある?…ってのはわからねえが、何となく動き易そうではある。
「うむ。似合ってる。…可愛らしいぞ?早苗。」
「〜〜っっっ!!」
早苗の顔はカァーッと赤くなる。
それと同時に、バッ…と何処かへと走り去ってしまった。アリスの顔を見ると苦笑い、霊夢は呆れていた。吾と魔理沙は顔を見合わせて、首を傾げた。
「あはは…。」
「…全く…。あれは、外の世界のセイフクってやつなんだって。学校ってやつにいく為の服。セーラー服…ってやつ。早苗があんたに見せたくて着たんだってさー。」
「ふむ。なるほど。」
…だから、見たことないわけだ。
「まぁ、また今度、直に話してみるさ。それじゃ、楽しんで。」
それだけ言うと吾はそこから去った。
…しかし、セーラー服か。確かにドレスよりは簡素でパーティにくる衣装では決してないが、どこかそそられるような…そんな魅力的な服だ。
「は、恥ずかしいですよぉ〜ッ!!幽々子様ぁ〜ッ!!」
「うふふ。大丈夫、大丈夫。似合ってるわよ。」
「…ん?」
…なにやら、聞いたことある声が…。間違いない。妖夢だ。
「あっ!!ユタさんッ!!」
「こんにちは。愈咫郎くん。」
「あぁ。…ほお。」
…これは。いつもの何処か服装とは異なって、所謂、和服美人の大和撫子。緑の布地に白い花弁があしらわれている。
「ね、愈咫郎くん。どう?ウチの妖夢ちゃんは。」
「…あぁ。綺麗だ。」
なんというか、普段の服装とは打って変わり、少女らしさというよりはまさに女性らしさが窺える。女は化けるというが…これは想像以上だ。生唾を飲むほど言葉を失ってしまっている。
「そ、そんなに見ないでください…。は、恥ずかしいです…。」
「何故だ?これほど似合うのに…。」
「う、あう…そ、その…。き、着慣れていない…ものですからぁ…。」
…顔を真っ赤に染め上げ、吾を見る妖夢。
「…そうか。」
なんとなく、吾も気恥ずかしくなる。
「…そうだ。ハロウィーン…ですよね。だから、その…。と、トリックオアトリートッ!!」
「ん?」
き、急にどうしたんだ?と思ったが、昼のレミリア嬢の話を思い出した。確か、お菓子くれなきゃ悪戯するぞ…だったか。しかし、生憎、お菓子なんてものは持ち合わせていない。
「残念ながら、お菓子なんて持ってないぞ?…悪戯って何をするんだ?」
「え?えっと…。」
…こりゃ、何も考えて無かったな…。
「め、目、瞑ってて貰っていいですか…?」
「ん?…こうか?」
吾は言われるがまま、瞳を閉じる。
…すると頬のあたりに一瞬、柔らかい感触があった。瞳を閉じると頬を真っ赤に染め、はにかむ妖夢の姿があった。
「い、悪戯…です…。」
「…ははっ。」
なんとも可愛らしい悪戯だ。…が、妖夢らしいとも言えよう。
「じゃあな。妖夢。幽々子。また白玉楼へは必ず行くよ。」
「ええ。」
「はい。ユタさん。それでは。」
楽しんでくれるとありがたいな。
吾はその場から離れ、咲夜の元へと歩いていく。
「咲夜。」
「ユタ。…お嬢様は適当に楽しむから、私も適当に楽しんできなさいって。」
「あぁ、そうか。」
シャンデリアの灯に照らされて、彼女のいつもとは違う服装が際立っている。黒いドレスに薔薇の紋章があしらわれているスカート。少し化粧をした咲夜の顔はいつもより大人びて見えた。
「…でもいいのかしら。これじゃあ、ハロウィーンの仮装パーティじゃなくて、ただのパーティよね。」
「…まぁ、気にしなくてもいいんじゃないか?楽しむだけ楽しんだもん勝ちだろ。こんなもの。」
「ふふ。そうね。ユタならそう言うと思ったわ。」
いつものように微笑む咲夜。
服装も相まって、いつも通りなのにいつも通りではない…そんな感じがする。服装と…化粧以外は変わらないのだが、それでも何処か色っぽく、なんというか変な感じがする。
「ふふっ。どうしたのっ?顔が真っ赤よ?」
「…むっ。」
口元に手をやり笑う咲夜。
…知らず知らずのうちに顔が赤くなっていたようだ。
「…お前がっ。…綺麗なのが悪い。」
「もうっ。拗ねないでよ。意地悪したの悪かったから。」
「拗ねてなどいない。」
…コロコロと表情が変わる。
パッと花ひらいたような笑みを浮かべたかと思えば、少し悪戯に微笑む咲夜。手のひらで弄ばれているような…なにものにも言い難い感覚を覚えた。
「ねぇ、ユタ?」
「ん?」
「trick or treat。…お菓子くれなきゃ、悪戯しちゃうぞ?」
ウインクをして、甘えたかのように言う咲夜。
先ほども言ったように持ち合わせなどない。
「…残念。持ってないようだな。」
「え〜?…ふふ。じゃあ、なにしよっかなぁ…。…今日の夜、ベッドで…ね?」
「…全く。」
…子どもの行事なのに。咲夜もある意味で毒されてしまったようだ。…だが、そんなところが可愛らしい。
「あぁ。いいよ。」
「んふふ。ありがとっ。」
そう言って、咲夜は吾の唇に唇を重ねた。仄かにベリー類の香りがふわっと香った。
では次回。…次は未定です。ではでは〜。…そろそろ異変も視野に入れねば。