「…。」
…隣の団子をつまみながら、本を捲る。つらつらと墨で書かれた読本ではある。…他国語の本ばかり読んでいたせいか、こんな本は久方ぶりでとても良い。…とはいえ、このような待ち時間に読み進めるには長すぎるか…。
「…やぁ。ユタくん。」
…もう一本、注文しようかとでも思った時、吾の待ち人が姿を現した。その娘はいつもの服に身を包み、人ではない反り立つ耳をピンっと立て、立派な9本の尾を広げる。だが、その姿は見し者全てを魅了する。立てば芍薬、座れば牡丹とはよく言ったものだ。
「…待たせたね…。ちょっと、手を焼いていて…遅れちゃったよ。」
「…どうした?」
そんな彼女とのデートの日。…しかし、今日の彼女は少し妙だ。前髪は少し乱れ、何処か焦っているようだ。
「いやっ…ちょっと…!!」
「ワンッ!!」
「ひゃあっ!?」
…その刹那、藍は吾の後ろにすっと隠れた。本当に僅か一瞬のこと。…幻想郷を代表する大妖怪、八雲藍が震え上がっている。吾の肩に手を当て、吾を盾にするような感じだ。…しかし、今、人通りがあまり無くて良かったな…。
「…お前、そんなに何を怖がって…。」
「あ、あれ…っ!!」
「…ん?」
震えながら前を指さす。
…そこには…。
「…犬?」
「オオカミだよッ!?お・お・か・みッ!!…あれだけはダメなんだ。昔っから…!!」
…なるほど。
立派な白い毛並み。ツンッと立つ耳に凛々しい金の瞳。…見たことはないが、これがオオカミか。
「クゥゥン…。」
…藍が離れてしょぼくれているように見えるが…。耳を垂らして、少し残念そうに此方を見ている。
「…おい。なんだか、残念そうに見ているが?」
「ああ言う奴なんだッ!!可愛い見てくれに騙されてはいけない。頭からガブリといかれるぞ!?」
「…んな大袈裟なぁ…。」
…ブルブルと震える藍。目には少し涙を浮かべている。
「あれだけはダメなんだぁ…。何度見ても、身体の芯からブルブルと…。情けないのはわかってる、でもッ!!あれだけはぁ〜ッ!!」
「わかった、わかったからッ!!なんとかしてやるからッ!!」
…なんというか。恋人になった途端に、甘えるようになった気がする。現に今も泣きそうな顔で吾の服を握って離さない。…このままでは皺ができてしまう。
吾はとりあえず、その狼に近寄る。
狼自身も吾を警戒しているのか、少し後退りをして吾に向かって唸り声をあげる。
「ガルルル…ッ!!」
「…ほら、大丈夫だ。な?」
吾は声色を柔らげ、手を伸ばす。狼は吾と吾の手、そして、藍の顔を見比べた。…信用して良いものか。考えているのだろうな。
「ね、ねぇ…。あ、危ないから…。」
「…ほら。大丈夫。怖くない。な?」
「…バウッ!!」
「あっ!?」
…くっ…。
狼が吾の手に噛み付く。…狼の口元から血が滴り落ちる。
「…くっ。こいつ…!!」
「…待て…。藍。」
「でも、ユタくんの手を…ッ!!」
…此処で下手に刺激しては逆効果だ。このまま指ごと食いちぎられかねない。吾は良いが、人の肉の味を覚えてしまえばコイツに逆効果だ。吾はもう一方の手で狼の頭を撫でる。
「グルルル……!!くぅぅぅん…。」
噛み付いたままだった狼。…だが、吾が敵ではないとわかってくれたのか、また悲しげな声を上げ、ペロペロと噛み付いた手を舐め始めた。…こうなったら、可愛いもんだ。少しこしょばゆい。
「ふふ…くくっ…。よしよし。良い子だ。」
「…凄いな。狼が…懐いてる。」
「…元々、お前にも懐いてたさ。…じゃなきゃ、こうやって此処までついてきちゃいない。怖がりすぎた…ってやつだ。」
「…。」
…それを聞いてか、藍も恐る恐るではあるが、手を伸ばす。狼は待ってましたと言わんばかりに、尻尾をブンブンと振っている。…なんだろうか。藍や椛に似た感覚だ。…あの子なら一緒にしないでっ!!と起こりそうではあるが…。
藍の手が狼へと触れる。
「…。」
「…どうだ。可愛いじゃねえか。」
目を細める狼。藍は先ほどまでとは一変、ゆっくりと優しく撫で回している。
「…ふふ。確かに。なんでこんな子が怖かったのだろう。」
「まぁ、狐の天敵は狼とも言うしな。本能的なものじゃあねえか?」
「むっ。私をそこいらの狐と同じにしないでくれよ。…全く。なぁ?」
「ワンッ!!」
ぷくっと頬を膨らます藍。かと思えば、先ほどまで怖がっていた狼に向かって、撫でながら問いかける。…吾の目の前にはモフモフが二つ見える。これが眼福というやつか…。
「…で?どうするんだ?コイツ。飼うのか?」
「むむっ…。そう言われると難しいなぁ…。手放してもいいが、ここまで懐かれていると…名残惜しいというか…なんというか…。」
…とはいえ、生き物を飼うのに生半可な覚悟ではいけない。元々、野生だった生き物だ。人に慣れさせていかないと、妖怪に殺されてしまったり、人に撃たれたりしてしまうかもなぁ…。
「キャゥゥン?」
「くっ…そんな目で見るな…。わかった。私が飼おう。」
「…大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。紫様はああ見えて群を抜く動物好きだぞ?それに、橙もいるし、散歩は私が買い物ついでにしてあげれば良い。…ただそうなると名前だよなぁ…。」
…どうやら、真剣に飼うつもりらしい。まぁ、藍なら大丈夫だろう。吾も時折、手伝ってやろう。
「…名前…。藍、橙、紫だから…
「ほう。…そうだな。それでいこう。…白。」
「ワンッ!!」
心なしか、狼…白はかなり喜んでいるように見えた。藍もあの様子とは打って変わり、橙を見ているかのような…そういう感じの優しい母性に満ちた表情をしていた。
「…で?この後、デートはどうするんだ?」
「あっ…。…マヨヒガに白を置いてくる。ちょっと待っててくれ…。」
…少し決まりの悪そうな顔をする藍。よほど楽しみにしてくれていたのだろう。少し嬉しい。
「いや、吾も行こう。どこに行くか、一緒に決めるついでだ。」
「ふふっ。そうか。ありがとう。」
輝く笑みの中、白が太陽へと吠えた。
…藍は白の美しい毛並みをゆっくりと撫でた。…ちなみにマヨヒガに行った時、紫姉さんと会ったが白の存在に対して、一つ返事で了承してくれた。理由はモフモフしてるから…だとか。
まぁ、九尾の狐だから、狼なんて怖くないやろ…ってのは無しで。次は藍様とデートか、他の子達を出すか…。そろそろ、もこたんとかフランちゃんとか、あとは永遠亭組ともかませたいね。なんか、リクエストあったら是非ください。では次回。ではでは。