…秋風が木々を撫で、流石に肌寒くなってきた。物悲しさを感じさせる秋。考えなくとも余計なことを考えてしまうのが、この季節である。さて、今日は妖怪の山に来ている。というのも、あの5番試合での話…確か、『加護』だったろうか。あの言葉の真意を聞きに来た。今世の世界では、神の悪戯という言葉もある。
「なるほど。それで妖怪の山に来たと。」
「毎度毎度、すまぬな。椛。」
「…いえ、これが仕事なので。」
…まだ山道には慣れていない。なので、椛にいつも道案内を頼んでいる。…が、何処かツンケンしているような気がする。この前の屋台の一件が絡んでいるのか。こっちを見ちゃくれない。
「どうした?腹でも減ってるのか?」
「…どうしてそうなるんです?…全く…。」
…キィっと睨まれてしまった。
「えらく不機嫌だなと思って。…どうしたんだ?」
「べ、別に不機嫌じゃないですよーだ。…ただ、会えて嬉しいのと会いに来てくれたわけではなく道案内を頼まれたことに…動揺しているというか…。なんなのよ…この気持ちは…。」
「おい。」
「なんですか。別に機嫌なんて悪く…。」
「おいッ!!」
「へっ?」
…吾は咄嗟に椛の腕を引き、吾の胸まで持ってきて抱き抱える。…危なかった。急に道なき道を歩き出したと思えば、次は崖か。そのまま落ちれば、流石に天狗とは言え、無傷じゃない。…というか、なぜ、急に注意散漫になったんだ…?
「…危なかった。大丈夫か?椛。」
吾は胸に押し付けるように庇う椛に聞く。
椛は顔を赤く染め、耳と尻尾をピンッと立て、固まっていた。
「は、はいっ!?す、すみましぇんッ!!」
「…ん?」
バッと離れ、顔を真っ赤にしてうずくまる椛。尻尾があちらこちらと動いている。…振っている?に近い。
「どうした?やっぱり何処か…具合でも悪いのか?」
「い、いえ、大丈夫ですッ!!ほ、ほら、行きましょッ!!」
「お、おう…。」
…次ははにかむように笑う椛。心なしか、先ほどよりも上機嫌である。尻尾をぶんぶんと振り、まさに犬のようだ。
「…だが、またさっきみたいになっても困る。手は繋がせてもらうぞ。」
「ええ。どうぞ?」
そう言い、吾は椛に手を差し出す。
椛はゆっくり…恐る恐ると吾の手にその手を重ねる。…ふむ。なんというか、他の娘とは違う感覚だ。鍛えられているが、細い。
「う、くぅ…。」
「…ん?」
「そ、そんなに…見ないでください…。は、恥ずかしいです…っ…。」
…やっと此方を見てくれるようになったようになったと思えば、次は顔が茹蛸のように真っ赤になっている。
「…ふふ。行くぞ。」
「むっ。何笑ってるんですか。」
むすっとして此方を見る椛。
…なんというか、こうウブなのは新鮮だ。
「そういえば、あれから大丈夫か?天狗間で仲違いとか…。」
「大丈夫です。天魔様が白狼天狗と鴉天狗の間の壁を撤廃してくれて…。少しの間はまだいざこざがありましたけど、今は大丈夫です。」
「そうか。」
…それなら良かった。
関係ないわけでもないし、自分から首を突っ込んでいった問題でもある。それの行く末がわかっただけで儲けもんだ。…だが。
「今度、どっかに食べに行こうか。」
「えっ…?」
椛がキョトンとした顔で此方を見る。
「いや、何…。今日の礼もしたいしな。今度は吾が奢ろう。」
「えっ…えっ…。」
「もしかして…嫌か?」
…それなら無理強いはしない。少し残念ではあるが…。椛の方を見ると椛は顔を横にふるふると振る。…こう言っちゃあ失礼だが、犬の身震いに似ている。濡れた時のアレだ。
「えっと…それは…。」
「…ん?」
「い、いつ頃の…こ、ことでしょうか…?」
…ふむ。先程、ほぼ出まかせで言ったようなもんだ。日時も何も決めたもんじゃない。
「ん?別に、いつでも。合わせるよ。お前に。」
「…あ、あのっ!!私も…いつでも…。愈咫郎さんの、ご都合に合わせます。」
「そうか?…んー。」
…別に最近の予定はないな。…とも思ったが、咲夜と先に紅葉を見にいくっていうのがあった。話は変わるが、今日はその下見にも来ていた。これはまた…見事なものだと思った。
「それなら、1週間後の今日なんてのはどうだ?」
「1週間後…ですね。わかりました。開けておきます。」
日時の予定を決めたのは初めてかもな。貰ったかれんだー?とやらもなかなか使わないし…。まぁ、印くらいは打っとくかな。
「うふふ。楽しみにしておきますね。」
そう言って微笑む椛。
烏滸がましいと怒られるかもしれないが、こんな美人も手を繋いで紅葉の山道を歩いているなんてな。年甲斐もなく、嬉しく思っちまう。
「…?どうか、なさったんです?」
「いいや。…綺麗だな。
「ふぇっ!?」
覗き込むように吾を見る椛。その言葉を聞いて、顔が真っ赤に染まる。
「な、ななな…何を言うんですかッ!!いきなりッ!!」
「ん?綺麗だろ?ほら。」
「へっ…。モミジって…木の方?」
「あぁ。」
…これなら、咲夜も満足してくれるだろう。それだけじゃない。妖夢や妹紅なんてのも似合いそうだ。
「な、なんだぁ…。そ、そっか…。そうですよね…。」
「…ん?もしかして…。」
「うわぁーあーッ!!言わないで、言わないでくださいッ!!」
「…耳元で叫ぶな。」
顔をゆでだこのように真っ赤にして、大声で叫ぶ椛。…少し楽しいが、耳が痛い。
「なんで、平然とそういうこと言えるんですか…!!まったく…。」
「…ふふ。」
「おや、椛とユタローさんじゃありませんか。どうしました?こんなところで。」
…おや。椛と談笑しながら歩いていたら、どうやら目的の守矢神社に着いていたようで…いや、正しく言えば階段を登れば守矢神社の境内だが…。その前に飛んできたであろう文が立っていた。
「あやややや…。ほお?ユタローさんと椛って…もうそこまで進んでたんですか?」
「ん?」「ふぇっ…?」
…バッと吾の左手から椛が手を引っ込める。なるほどな。手を繋いでいたから、文が勘違いしたと。しかし、進んだってのはどういう…。
「ち…違いますッ!!違いますからッ!!」
「うふふ、まだ何も言ってませんよ?何勘違いしてるんですか?」
「ッ…!?文さんの馬鹿ッ!!もう知らないッ!!し、失礼しますッ!!」
…顔を真っ赤にして、嵐のように去ってしまった。
「あやや…怒らせてしまいましたね。」
「お前のせいだぞ。」
「ふふ。弄り甲斐があるんですよ。あの子。…そう言えば、ユタローさんは何用で此方に?」
「ん?少し、此処の神様に用があってな。」
…吾がそう言うと文がニヤッと笑う。
「ほっほー。着いていったら面白そうですね。」
「別に面白くはないだろう。」
「私の記者魂が疼いてくるんですッ!!絶対、大スクープ間違いなしですよ〜!!」
…椛の次は文か。まぁ、旅は道連れとも言うしな。…吾は着いてくる文とともに境内へ続く階段を登ることにした。