「ど、どうぞ。お召し上がりください。」
…机の上に置かれているのは箸置きに置かれる箸、小さめの茶碗に汲まれた白米と具材たっぷりの豚汁、それと秋刀魚の塩焼きと沢庵と柴漬け。以上、五品が食欲をそそるように湯気を立ち上がらせ、程よく空いた腹を突っついてくる。
早苗は身体を少し縮こませ、心配そうにチラチラと此方をみている。
「いただきます。」
手を合わせて、感謝の気持ちを伝える。食べ物へ、作ってくれた早苗へ。
沢庵を湯気たつ白飯に置き、それを白飯ごと箸で掴む。
「…美味い。」
「っ…!!」
…程よい塩っぱさがさらに食欲を促進させる。洋食とは違い、和食は良いものをたらふく食ってきたが、結局、家庭の味とやらにいきつく。ここに来て、肥えていた舌がだいぶと戻ってきた。嬉しい限りだ。
そんなことを思いながら、吾は味噌汁を喉に通す。ネギと豆腐のよくある味噌汁であるが、出汁の味をよく感じるほど優しい味だ。濃くない。秋刀魚の塩焼きも箸がスッと入って柔らかい。口に入れるとほろほろと崩れ、すぐになくなるが、程よい塩加減が舌の上で主張する。…これもまたクセになる。
「さて、さっきの話の続きだが。」
神奈子が話を切り出した。
「器と言っても完全に神と同化するわけじゃない。ってことはわかってるな?」
「あぁ。」
…人が神になろうなど吾の知る範疇ではあり得ない。幻想郷では知らないが、外では神は恐れ、信仰の対象。そんなものに人が土足で踏み抜こうなどと、ただの冗談である。
「だから、私たちはすべての力を君に貸すことはできない。…だが、人が使える程度ならば、貸すことが出来る。…例えば、雷を扱う神ならば、君のその刀や拳に雷を纏う程度…とかね。」
「私たちの場合だったら、能力的に少しだけ天候を操れるとか、地面を隆起させるとか?…ちょっとわからないけれどね。ただ、必ず愈咫郎くんの助けにはなれると思うわ。」
「…ふむ。」
規模だとか、威力とか…そのような回りくどいことは考えないようにしよう。神のわからぬことを人が考えるだけ無駄だ。
「…ご馳走様。」
そうこう言ってる間に食べ終わってしまった。
「あら?もう行くの?」
「あぁ。…紅魔館には恐らく、飯を食うで通っているはずだ。長居はしない。」
「そう。いつでもいらっしゃい。愈咫郎くんなら大歓迎よ?」
そう言って、はにかむように笑う諏訪子。吾はそれに対して、ふっと笑いかける。…さて、着てきた少し厚木の羽織に袖を通し、マフラーを巻く。元来、寒さというものには強い方だが、咲夜が用意してくれたものだ。無碍にするのも違うだろう。
「それじゃ。世話になった。」
「…あっ。」
吾が立ち去ろうとした時、後ろで早苗が声を漏らした。何か言いたいことでもあるのだろうか。早苗を見る2人の目が父母のそれである。見ていて微笑ましいが、何か物欲しそうな顔で此方を見る早苗を助けてやってほしい。少し顔が赤くなっている。
「えっと…あの…。そ、外…もう暗いですし…。お、送ってぇ…いきましょうか…?ふ、麓まで…。」
「…それは助かるが、いいのか?」
…もじもじとしながら、顔をほのかに赤く染め、此方を見る早苗。しかし、この季節、外はだいぶと冷える。しかも、この時間帯だ。いくら、まだ道筋がわからないとはいえ、女性をこの中でついてきてもらうっていうのは…。
「だ、大丈夫ですっ!!…ほ、ほら、ちゃんとマフラー、巻いてきますので…。」
マフラーだけで緩和できるのかどうかは知らないが…。此処まで言ってくれているんだ。これ以上、断るのも気が引ける。
「…じゃあ、お言葉に…甘えようかな?」
「わかり…ました。では、諏訪子様、神奈子様。行って参ります。」
「ええ。気をつけなさいよ?早苗。」
「はいっ!!」
…ぱぁっと花ひらいたような笑みを浮かべる早苗。吾は笠を被り、2人に会釈して、早苗と共に守矢神社を出た。空はもう真っ暗で周りはかろうじてしか見えない。吐く息は白く染まり、吹く風が肌を刺すような感覚がする。
「大丈夫か。早苗。」
「ええ。す、少し寒いですけど…このくらいなら。」
…少し困ったような笑みを浮かべる早苗。早苗が来ているのはあれだ。脇が露出した、巫女服。吾よりも布地が少ない。
「はぁ…。」
よく見ると足元が少し震えている。まだ、守矢神社を出てそこまで経ってないが…致し方あるまい。吾は自身の着ていた羽織を脱ぎ、早苗に肩からかけた。
「ひゃっ…!!」
「あっ。すまない。びっくりしたか。」
「だ、大丈夫です…けど。いいんですか?愈咫郎さんが寒く…。」
「…お前よりはマシだ。それに風邪引かれても夢見が悪いしな。」
…善意で来てくれているわけで、そこで風邪なんか引かしたら諏訪子達に面目が立たない。
「で、でも…。」
「いいから。来てろ。せめて、歩いている間くらいは。帰るときは咲夜に頼んで何かしら、貸してもらうから。」
「…す、すみません。」
少し早苗の顔色が暗くなった。なんというか、ここまで来て真面目で優しい子…という印象がとても強くなった。
「早苗は、今、楽しいか?この幻想郷に来て。」
「…楽しい、です。天狗の皆さんもあの後、謝ってくださって…。それに、妖怪の皆さんも色々話しかけてくれるようになりました。…全部、愈咫郎さんのおかげです。」
「早苗の人望の賜物さ。」
…何か特別なことをしたわけではない。ただ、イラっときたから声を上げた。普通ならば、子どもっぽいと罵られるところだ。褒められたことはしていない。
「…愈咫郎さん。一つ、聞いてもいいですか?」
「ん?」
隣の早苗がなにやら思い詰めたような顔をしている。頬は寒さのせいからか、少し赤い。
「…私、気になる殿方がいるんです。その人は困ったときに助けてくださって…。日夜、その方のことが頭から離れないんです。次第に、その人のことが好きだということに気付きました。」
「…。」
…月光が眩しい。早苗の顔はなにやら決心したかのように真面目で、吾はただ彼女の言葉を聞くしかなかった。
「しかし、その方の隣にはもう何人も女性がいます。私よりも大人で、経験豊富で…家事もできて…。それに、信頼関係もできている。天秤にかけるまでもなく、私の方が劣っています。」
「…ふむ。吾にそんなことを言われてもなにも言えないぞ?」
「…でも、教えてください。私はどうしたらいいのでしょうか。」
…思い詰めた顔でまた此方を見る早苗。考えすぎだ…。そうとも思ったが、彼女にとってはとても大事なことなのだろうな。
「早苗が…いったい誰のことを言っているかは知らないが…。」
彼女は外の世界も見ている。自分だと少しでも思った吾が烏滸がましい。年甲斐もなく、少し顔が熱いのはこの寒さのせいだろう。
「その人も早苗の気持ちを貫いていれば、早苗の気持ちに真摯に答えてくれるよ。きっと。」
「…そ、そうでしょうか。」
「あぁ。…早苗は自分を過小評価しすぎだ。もっと自信を持ちなさい。その人だって、そんな早苗を見たいはずだよ。」
「…。」
ふっと笑いかける。早苗は少し此方をみて、何か吹っ切れたように笑った。…この子は本当に笑顔が似合う子だ。綺麗じゃなくて…可愛らしいというやつだろうな。
「ありがとうございますっ。…その人にも、きっと伝わりますよね。」
「あぁ。」
「自信を持って…ですね。」
「…ん?」
早苗の方を見る。また覚悟を決めたような顔で此方を見ていた。
「…私、世間知らずでなにも知らないので、これが正解かどうか…。もっといろんなものを一緒に見て決めた方が良いのかもしれません。ですけど、ここで逃げたらもう二度と言えない気がします。…だから。」
「…早苗?」
「決めてたんです。私、愈咫郎さんと次に会った時にお礼と一緒に言おうって。」
早苗の顔が近くなる。
右の手のひらを早苗が両手で掴んで、吾を見る。
「…愈咫郎さん。私とも、お付き合いして…くれませんか?」
…もうすぐ雪が降り始めるであろう季節のこと。少し肌寒い風を感じ、年甲斐もなく、心臓の音がうるさくなる。そんな彼女に吾は静かに…笑った。
会ってすぐお付き合いはボリュームが足りないかもね。と思いながら、今回ですよ。早苗ちゃんだからこういうのもアリかなって感じです。何かご意見あれば参考にさせて頂きます。
因みにもみちゃんはもう少し経ってからですね。年跨いでるかも…。では次回。ではでは。