「私とも…お付き合い…してくれませんか…?」
上目遣いでそう言う早苗。顔が近いからか、彼女の顔がこの暗闇でもよく見えた。…彼女の意思を尊重したい。とも思うが、別に彼女を持ち、また、彼女よりも先に外の女性と肉体関係を持った屑男の言葉など、もはや誰にも響かんだろう。…ただ、今回は今までとは違う。早苗は外の人間の倫理観を持っている。しかも、吾のような老ぼれとは違い、現代っ子というやつだ。
「…吾はお前が思っているほど、出来た人間じゃないぞ。」
…問いかけも、判断も委ねまい。
ただ、何もできない自身が不甲斐ない。
「…そんなことありません。愈咫郎さんは、私にとって…ヒーローでしたから。」
「…ひーろー…?英雄…か。」
柔和な笑みを浮かべる早苗。彼女独特のポカポカとした雰囲気が漂ってくる。しかし、ヒーローか。
「ふふ。人殺しが、ヒーロー扱いとは…面白いこともあるものだな。」
前世…いや、外の世界では、人を殺して怖がられていた立場の人間が、1人の少女のヒーローになった…とは。なんという英雄譚だろうか。本当、世界で一番ヒーローなんて言葉は吾には似合わない。
「…本気、みたいだな。」
改めて彼女を見る。彼女の目は何よりも真っ直ぐで…透き通って見えた。こんな目で見られちゃ、断るにも断れない。いや、まぁ、今更お前が何を言っていると…誰かに言われている気もしないでもないが。ぐずぐず言っても仕方ない。…腹を決めるしかないな。
「ふっ。こんな吾をヒーローだなんてな。ただ、誰も言う奴が居なかったから、吾がその役割を全うしただけのこと。」
「それでも、私にとって貴方はヒーローだったんです。…私、自分がどこまで出来るか、わかってなくて…。ただ、ひたむきに頑張ってたら、誰でも褒めてくれると思ってました。…だから、あの場所が怖かったんです。愈咫郎さんに受け止めてもらって…。だから、ヒーローなんです。」
屈託のない笑顔で吾を見る早苗。月明かりに照らされて、キラキラと輝いていた。
「…早苗はこんな吾でいいのか?」
「何度も言わせないでください。…私は愈咫郎さんが好きなんです。女の子にそんなに問いすぎちゃ…ダメですよ。」
「…むっ。そうか。」
…足を進ませながら、そんな話をしていく。
「…逆に、愈咫郎さんは私じゃダメなんですか…?」
「そんなことない。」
少し顔が暗くなる早苗。吾は立ち止まってそんな早苗を見て、ふっと口元を和らげる。
「早苗には言ったことなかったかもだが、吾は外の世界の住人で…しかも、昔は全くと言っていいほど、女性との縁は無かった。」
「…ええ。」
「情けない話だが、吾も世間知らずだ。この歳になって、美人に告白されて年甲斐もなく、ドキドキしている。」
「…。」
「…だから、吾も知りたい。早苗の思っている恋ってやつを。」
「…えっ…。」
早苗の顔がゆっくりと上がってくる。
…ただもっと本当の早苗を見てみたい。そんな私利私欲ではあるが、早苗の気持ちも無碍にはしたくない。ただ…それだけだ。
「もっと素の早苗を見てみたい。だから…吾の方こそ頼むよ。」
目を細めて笑う。
早苗は少し唖然としていた。…長々としすぎたが、先ほども言ったように早苗に言われて、嬉しくなかったわけじゃない。たった数日しか会っていない吾をそんな風に想ってくれるなんて…嬉しくないわけない。だったら、さっさと答えたらいいものを…。ただ、怖かったのだ。簡単に答えて、この子は吾にも言えずにその時の反応を嘆いて、苦しむかもしれない。…そんな早苗は見たくない。だから…詰まってしまった。最近、余計なことを考えてしまうな…。これからは控えよう。
「ッ…!!」
「うおっ…。」
そんなことを思っていると、吾に早苗が飛びついてきた。彼女の立派なものが吾の胸に当たって潰れている。腕先から感じる感覚は微かな震え。
「ど、どうした…?早苗?」
「んえぇぇ…ッ!!だってぇ…!!嬉しくてぇッ…!!」
「…ふっ。」
大泣きしていると思ったら、そんなことか。
綺麗な顔が涙に濡れている。吾はそんな彼女の頭を優しく撫でた。…泣き止むまで少し立ち止まることにしよう。
「…落ち着いたかい?」
「うんっ!!」
あの後、少し経ち、泣き止んだ早苗。抱擁を終え、また帰路に着く。さっきとは違って、早苗は吾の手を自分から握ってくれる。…根は少し甘えん坊なのかもしれない。
「ふふ。だいぶとラフになったじゃないか。」
「だって、こっちが本当の東風谷早苗なんですもの。それとも、愈咫郎さんは前みたいに敬語の私の方がいいのかしら?」
「…どっちでも。好きな方でいいさ。」
…なんというか、改めて歳下の女性と交友関係を持ったということがわかった。まるで、娘でも持ったかのように。咲夜や幽香、妹紅や藍と言った大人な感じとも違う、妖夢に似た感覚だ。綺麗よりも可愛らしいが勝つ感覚。
「どう?現役の女子高校生と…もう違うけど。付き合った感想は?」
「…じ、じょしこうこうせい?」
「あっ。わかんないか。…まぁいいわ。私、愈咫郎さんとお付き合いできて、ほんとに嬉しい。これからよろしくね?愈咫郎さん。」
ニコッと笑うその笑顔は先程のような柔和なものじゃなくて、心からの煌びやかな笑顔だった。
「…まぁ、それでもいいが…。」
「ん?」
「愈咫郎…じゃなくて、ユタって呼んでくれないか。」
「うんっ!!ユタさん。」
…ニコッと笑う早苗。本当に笑みがよく似合う子だ。不思議なことに彼女が笑うと此方もつられて、笑みが溢れる。
「じゃあ、私もサナちゃん…とかでいいよ?」
「…それは流石に。」
似合わないだろうな。吾には。
思わず苦笑いしてしまう。
「むぅ…。2人っきりの時ぐらい、いいじゃない。私もあだ名で呼ぶんだからっ。」
「…くっ。」
「ほらほら。サナちゃんって呼んで欲しいなぁ?」
「…サナ…ちゃん」
…顔がとても熱い。羞恥心からか、顔に熱を持っている。早苗が笑顔で此方を見ている。
「まっ。それでも許してあげるわ。ユタさんの可愛いところ…見れたし。」
「…年上をあまり揶揄うなよ。早苗。」
「サ・ナ・ちゃんっ。」
「…さ、サナちゃん。」
…はぁ。全く。今日はなんで日だよ…。
そんなこんな揶揄われながら、なんとか麓までやってこれた。紅魔館についたのは、少し夜遅くになってしまっていた…。
てなわけで早苗ログインです。
多分、彼女勢の中では一番歳下設定なので、甘えん坊に書いてみることに…。愈咫郎に自分のことをあだ名で言わせるのは太夫と早苗の2人だけですね。…まぁ、例外として紫様がいますが…。
さて、次回はどうしましょうか。そろそろ異変だなぁ…なんて。クリスマスまでに短編の異変をやろうかしら。では次回。ではでは。