※この作品はR-18です。

人斬り武者の幻想歌   作:紳爾零士

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八十三杯『ともにいる喜び』

「お待たせ、待った?」

 

「いいや。今きたところだ。」

 

咲夜が少し足速に吾のところに歩いてきた。今きたところとか言いながら、楽しみで数分前にはここに来て、本を読んでいたのは内緒だ。

 

「ほんと?…じゃ、いきましょっか。」

 

「あぁ。」

 

吾の横に咲夜がいる。何も言わずに吾の手を繋ぎ、咲夜は微笑んだ。彼女の手は華奢で、とても柔らかい。

 

「…まずは何処へ行こうか。」

 

「そうねぇ…。」

 

今日は一日、暇をもらっている。なんでも、咲夜に合わせるつもりだ。顎に手を当てて、咲夜は考える。…ふむ。吾も何か考えなければ。

 

…くぅ…。

 

「ッ!?」

 

…考えようかと思った時に、横からかわいらしい音が吾の思考を阻害した。どうやら、考えるまでもないらしい。横を見れば、咲夜が顔を真っ赤に染めて、お腹を抑えていた。どうやら、聞かれたくないらしい。

 

「…えっと…。」

 

「お腹すいたな。…ご飯でも食べに行こうか。」

 

吾がそう言うと咲夜はほっとしたように息をつき、でも恥ずかしかったのか、こくこくと少し早めに頷いた。…しかし、飯ねぇ。

 

「ねぇねぇ、定食屋『雪国』、だって。ちょうど良いんじゃない?」

 

「あぁ。…だが、初めてのところだぞ?大丈夫か?」

 

せっかくのデートだ。ここで出鼻をくじかれたら、少し残念だ。…そう思っているのが伝わったのか、咲夜が吾の腕に抱きついてくる。

 

「大丈夫。多少美味しくなかったら、またお口直しすれば良いわ。」

 

「それもそうか。」

 

咲夜に背を押され、吾は引き戸を引く。

 

「いらっしゃいませー!!…あっ!!」

 

「え?」

 

扉を開けると少し見慣れた人物がいた。…吾の刀を手がけてくれた鍛冶屋、多々良小傘だ。小傘がいつもとは違う装いで、そこに立っていた。なんというか、咲夜のメイド服に似ている。

 

「おや、朱智さんじゃないですか!!今日は、咲夜さんなんですね。」

 

「あぁ。…約束してたしな。で、小傘はなんで?」

 

「あー、あはは…。その、鍛冶屋だけじゃ少し心もとなくって、そこで店長に無理言ってここにいてもらわしているんです。さーさ、お二人さまですね。此方へどうぞ。」

 

「あぁ。」

 

小傘に連れられて、吾と咲夜は窓側の席に行く。陽光が差していて気持ちいい席だ。小傘は小慣れた手つきで水とお品書きを丁寧に机の上に置き、店内へ戻っていった。

 

さて、何にしようか。洋風の料理が多い。びふてき?…とか、とんかつ…とか、すぱげてぃ?とか。いや、スパゲティは紅魔館で食ったことあるな。まぁ、誰も捨てがたいが、この味噌カツ定食とやらにしよう。…重いかもしれないが。

 

「咲夜、決まったか?」

 

「ええ。すみませーん。」

 

「はーい。」

 

…男の声が聞こえた。小傘じゃないのか。まぁ、小傘一人で運営しているわけじゃないし。

 

「なにかしら。ご注文?」

 

「…え、えぇ…。」

 

…びっくりした。いや、人の装いにケチをつけるわけではないが、逆三角形の男が小傘と同じような服は少し…戸惑った。

 

「えっと…カルボナーラと…ユタは?」

 

「味噌カツ定食で。」

 

「おっけー。わかったわ。味噌カツ定食1、カルボナーラ1っ!!」

 

「はぁい!!」

 

厨房から声が聞こえた。

…まぁ、ゆっくり待つとしよう。

 

「ここは、いつ頃できた店なんだ?」

 

「あら。雪国をご存じない?…まぁ、最近できたお店ですけれど。それで、お兄さん方は何?カップル?それとも夫婦?」

 

「えっ…いや、あのぉ…。」

 

「夫婦だ。」

 

「ちょっ!?ユタぁっ!?」

 

店主の質問に素直に答えただけなのだが。

咲夜が顔を真っ赤に染めて、びっくりしたかのように声を上げた。店主はその様子を見て、ニコニコと微笑んでいた。

 

「良いわぁ、若いって。私なんて、今年でいくつか…。」

 

「店主は、人間なのか?」

 

「うふふ。気になる?…私はねぇ。どっちもよ。半分人間、半分妖怪。私ね。父方が天狗なの。白狼天狗。山のド腐れ外道どもが嫌で、下に降りてきたってわけ。…失礼。名乗ってなかったわね。私、定食屋雪国の店主、寿って言います。よろしくね。」

 

そう言いながら、店主…寿はウィンクをしてきた。…なんというか、とっつきにくい感じがする。咲夜の方を見ると、咲夜も苦笑いをしていた。

 

「それでぇ?お二人のお話を聞かせてくれないかしら。いつ、ご結婚なさったの?」

 

「うぇっ!?…けっ、結婚はぁ…そのぉ…。」

 

「5日前くらいだ。」

 

「へぇ!!新婚さんっ!!ラブラブじゃあないのぉッ!!」

 

掌を合わせて、嬉々としてそう言う寿。…ら、らぶらぶ?なんだそれ。仲がいいってことか。

 

「で?で?何方から、告白なさったの?」

 

「えっと…ゆ、ユタぁ…。」

 

「吾だ。…ただ、付き合い始めるきっかけは彼女から。」

 

「あらやだっ!!そうなのっ。いいわねぇ…。私なんて産まれてこの方、100と50を数えた手前、そんな人なんて指で数えられるほどでしか…およよよ…。」

 

…泣き真似…。

というか、咲夜がそろそろ限界を迎えている。羞恥心ゆえ、此方を睨んでる始末だ。涙目で。だんだんと不憫になってきた…。

 

「でも、いいのかしら?そんなこと、私みたいな初めて会った人に言っちゃって。」

 

「…別に恥ずかしいことじゃないだろう。吾は咲夜を愛していて、咲夜は吾を愛している。それだけだ。」

 

「ぁ…あ…。」

 

「あらあらあら。良かったわね。咲夜チャン。あら?お耳まで真っ赤でどうなさったの?」

 

咲夜の顔が茹蛸みたいに真っ赤になっている。顔を見られたくないのか、恥ずかしさで此方を見たくないのか、手で隠して指の隙間から此方を見ている。

 

「いいわねぇ。男一人、女一人。ゾッコンの新婚さん、羨ましいわぁ。」

 

「…女一人?…まぁ、嫁は一人か。」

 

「ん?…ま・さ・か。お侍さん、こぉんな可愛い子がいて、浮気してるっていうのかしら?」

 

…ぐっ…。

寿から少しの殺気がもれている。…正直に言えば後はないかもしれない。追い出される程度で済めばいいが…。

 

「…浮気…か。そう見えるならそうなのだろうな。吾は、一人の嫁と5人の恋人がいる。…それだけというには、大きすぎる問題だが、みな平等に愛している。」

 

「…へぇ。咲夜チャンはいいの?なんなら、一発。オネェさんがゲンコツして差し上げましょうか?」

 

「い、いえっ!!…良いんです。ユタは私にとってかけがえのない人です。彼女が何人出来ようが、お嫁さんが何人出来ようが、私が一番最初にお嫁さんになった事実は変わりません。…それだけで幸せなんです。ユタは真っ直ぐだから、素直だから、女の子を泣かせたくないだけなんです。助けたいだけなんです。…私はユタを信じてるので。」

 

…咲夜はぱぁっと花開いたような優しげな笑顔で寿と吾に向かってそう言った。…なんというか、瞼の奥が暖かくなる。

 

「…お侍さんはどうなのよ。そんなに、女の子を愛せるって言うの?」

 

「当たり前だ。吾が愛すと決めたのだから。誰にも後悔はさせん。」

 

「…なるほどね。これが理由か。…いいわっ!!私、貴方達、応援しちゃうっ!!」

 

寿は吾と咲夜の腕を一人ずつ取るとぶんぶんと上下に振った。吾と咲夜は顔を見合わせると、二人ともふっと笑い合った。

 

「で、で?もっと聞かせてちょうだいよぉ。咲夜チャンは、お侍さんのこと、どう思ってるの?」

 

「うぇっ!?い、いきなり何言って…。」

 

「お熱いレスポンス期待してるわよ?」

 

「…うっ…ううぅ…。」

 

…寿の言葉責めはまだ続く。

咲夜は顔を真っ赤に染めて、吾の方をチラッ…チラッ…と見ている。どこか、小動物みたいだ。

 

「だ…大好き…です…。」

 

「…ん?なになに?」

 

「大好きですッ!!」

 

…目をつぶって、店内にはっきり聞こえるように叫ぶ咲夜。はっきり言って胸が高鳴る。ただ、吾が嬉しいだけだ。ただ咲夜にとっては荷が重かったようで、手で顔を隠して、俯いてしまった。

 

「う、うぅぅう…!!」

 

「…お侍さん、この子、お持ち帰りして良いかしら。」

 

「ダメに決まっておろう。…吾の嫁だ。誰にもやらん。」

 

何故、良いと思ったのか。

寿は残念そうに笑うと、カウンターから料理を運んできた。

 

「ほら、雪国のカルボナーラと味噌カツ定食よ。たぁんとお上がりなさいなっ!!…それと、まだまだ聞くわよぉ?」

 

「…ゆっくり食べさせてくれよ。」

 

その切実な願いは叶わず、寿による質問攻めは鬼のように続いた。もう、咲夜が小さな声でもうやめてぇ…と言うまでは。飯に関しては咲夜のには遠く及ばないが、危惧していたよりも数十倍美味かった。味噌も濃厚で、カツはサクッとしていて、付け合わせのキャベツもシャキッとしていて美味かった。

 

「じゃ、またご贔屓に。咲夜チャンもいつでもいらっしゃいな。オネェさんが相談に乗ってあげるわ。」

 

「あ…あはは…。た、助かります…。」

 

満面の笑みの寿に対して、苦笑いをする咲夜。数十分は言葉責めを食らっていたからなぁ…。まぁ、少々吾も疲れたが…。

 

「それじゃ。」

 

そう言って吾と咲夜は雪国を去った。

 

「…なんか、すっごく疲れたわ…。」

 

肩を落として、若干困り気味に笑う咲夜。まぁ、相当な言われようだったからなぁ。聞いてるこっちも参る程度には。

 

「でも、美味しかったから次もまた行きましょ。二人で。」

 

「いいのか?また根掘り葉掘り聞かれるぞ?」

 

「うっ…。でも、寿さん。良い人だから。それに、次は対策するもの。」

 

…そこじゃないだろう。こういう、少し天然混じりなところも咲夜の可愛らしいところだが。微笑みながらそういう咲夜に少し安堵し、彼女の手を軽く握った。

 

「ね、ね。次はお団子いきましょっ!!」

 

「おいおい…。食べたばっかだぞぉ?」

 

「むっ。いいもんっ。別腹だから。」

 

少し頬を膨らませ、睨む咲夜に吾はそれもそうかと笑いながら一緒に例の団子屋へ行った。隣で満足そうに甘味を食べる咲夜を見て、吾は少し幸せな気分になりながら、煎茶を啜った。




寿さん。天狗と人間のハーフで、所謂オネェさんです。髪の色は若干、黒みがかった白で耳もちゃんと生えてます。因みに、ムキムキのウェートレス姿が基本です。そして、超イケメンです。…いるかな、この情報。

メリークリスマス回も勿論、書きます。どんな感じにしよっかなぁ…。楽しみ。では次回。ではではぁ。
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