「…おや。」
ほんと、人里を散歩していると色んな人間に出会うな。今もほら、見覚えのあるウサギ耳と何やら奇天烈な服装の少女が見える。確か…うどん…。
「ん?」
「よぉ。」
「んひゃぁぁあッ!!食べないでぇ〜ッ!!」
…見るなりダッシュで逃げられてしまった。
そういえば、永遠亭に行ったときもおんなじようなこと言ってたな。アレは幽香がすんごい顔で睨みつけたのも理由の一つにありそうだが…。
「…とりあえず追いかけてみるか。」
運動がてら、逃げるウサミミ少女の後ろを走って追いかけてみる。…よくよく考えなくても酷い絵面だ。人に見られないように路地裏を走るのを心がけているが…。
「はぁ…はぁ…。」
「おい。」
「んひぃっ!?」
流石に観念したのか、肩に手を置くなりビクビクと震えながら、しゃがむものの逃げることはしないウサミミ少女。吾を獅子か何かと勘違いしているのではないかと少々大袈裟なのではとは思うが…。
「ひぇぇっ…!!お、お金ならありますからぁ…!!」
「…人を山賊かなにかと勘違いしちゃいねえか?嬢ちゃん。別にとって食いやしねえよ。」
「うぇっ…?ほ、ほんとですか…?」
「あぁ。ほんと、ほんと。」
…ふぅ。やっと吾の方を見てくれた。
少し目に涙を溜めるウサミミ少女。目は赤い…いや、泣いていたからではなく。…まぁ、この状況は吾の方が不味いのだが…。
「ふいっと。…えっと、久しぶり…だな?」
とりあえず、腰を下ろして目線を合わせる。上から見ているとどんな動物も威圧感を感じるもんだ。
「…。」
「…えっと、うどん…?」
「…うどんですか?」
「そうじゃなくて…うどん…。」
…ダメだ。ボケちまったかな?
名前が覚え出せない。彼女を指差して、そう連呼する。また食べられるとか思われちまうかな…。
「あ、あぁ。もしかしなくても…私の名前ですか?」
「す、すまん…。名前が覚え出せなくて…。」
「はい。改めて、私は鈴仙・優曇華院・イナバと申します。朱智愈咫郎さん。」
「…あっ、そうか、鈴仙だ。」
…なんとも恥ずかしい。人の名前ぐらい覚えておけってんだ。そんなことを思っていると鈴仙がクスッと笑った。
「ぷっ!!あはははっ!!」
「…ん?どうした?」
「いえいえっ。…なんだか、安心しました。愈咫郎さんも人間だったんだなぁって。」
…逆になんだと思われてたんだ、吾は。肩を震わせて、クスクスと笑う鈴仙。年齢としては随分と上…だろうが、なんとなく早苗に姿を重ねていた。
「そういえば、鈴仙はなんで人里に?」
「あぁ。薬の歩き売りですよ。ほら、永遠亭って迷いの竹林があって気軽に来れないでしょ?だから…。」
「…なるほど。」
それで飛脚のように笠と籠を背負ってたわけだ。
確かに丸薬がいくつか包まれたものが中に入れられている。
「とはいえ、もう終わったんですけどね。これから帰る途中でした。」
「…そんな中、吾と出会い、脱兎の如く走り逃げた…と?」
「うぇぇ…お、お気に障りましたか…?すいませんッ!!すいませんッ!!だから食べないでくださいッ!!」
「…食べねえよ。」
…何が悲しくて人肉なんて食わなきゃならん。吾は不死身でも妖怪ではないのだからな。と、耳を押さえて半泣きで叫ぶ鈴仙を見た。
「ふ、ふぇぇ…よ、よかったぁ…。」
「全く、怯えすぎだ。」
「す、すみません…。そ、そういえば、普段、愈咫郎さんはどちらに?やはり、あの緑髪の女性と共に過ごしてらっしゃるんですか?」
…思い出したかのように話を変える鈴仙。
「…まぁ、普段じゃないが時折。最近は一週間にいっぺんでいいって言うからそのぐらいの頻度で顔を出してるかな?アイツには花たちがいるから。」
「そうなんですか。…太夫さんに聞いたんですけど、愈咫郎さんって節操なしなんですか?」
「ぶっ…!!」
キョトンとしたような顔で聞いてくる鈴仙。思わず吹いてしまった。…なんともまぁ、答え難い質問だな。太夫の奴め、何でもかんでも吹き込んだらいいって問題じゃあねえのに…。
「…ま、まぁ、そうかな…。」
「す、すみませんッ!!答えにくい質問を…。」
「いや、いいさ。」
…純粋というかなんというか…。
まぁ、鈴仙が悪いわけじゃなしにな。そんなことを考えていると、くぅ〜っと可愛らしい音が隣から聞こえた。その方向を見るとお腹を押さえて、鈴仙が顔を真っ赤にして、唸っていた。
「…そういえば、昼時か。」
「うぅ〜…!!」
まずいな。羞恥心で泣きそうになってやがる。
「よし、何処か食いに行こう。奢るよ。」
取り敢えず、取り繕うようにそう言う吾。鈴仙は一瞬、ぱぁっと明るい笑みを見せたが、直ぐに顔をぶんぶんとふり、横を向いた。
「い、良いですよ。…そ、そんな…。」
「いや、吾が足止めしたんだ。ここは黙って奢られてくれ。」
「…そ、それなら…。」
やっぱり腹が空いていたのだろうな。直ぐに吾の方へキラキラとしたような目を向けてきた。
「…さて、何を食べたい?」
そう言って吾と鈴仙は人里をまた闊歩し始めた。どこがいい?などと話し合いながら、鈴仙と昼飯を共にした。どこか打ち解けたような気がする。その後、吾と鈴仙は別れを告げ、吾は紅魔館へと戻っていったのだった。
というわけで鈴仙ですね。
…よくよく考えたら、バレンタインもあるんよな。どうしようかね。では次回。ではでは。