「…98、99、100っ!!…ハァ…ハァ…。」
「ふむ。流石だな。一刀一刀に全くのブレがない。」
素振りは基本中の基本だ。どれだけの力があろうが、鉄の棒と真剣を振るうのは全くもって意味が違う。妖夢は真面目な娘だ。素振りに使っているのは木刀ではあるが、ここまで数日の間、ついてきてくれた。もう数ヶ月もすれば、雨粒を切るくらいのことは出来よう。
「…ハァ…ありがとうございますっ!!」
そう言ってバッと頭を下げる妖夢。冬ももう終わりそうというのに、冷ややかな冥界でこのように大きな粒の汗をかくのは彼女の真剣さを窺えさせた。
「ふむ。今日はこのくらいにしておこう。…少し良いだろうか。」
「はい?」
「今日は幽々子が居ないであろう?だから、誠に身勝手だが…。」
吾は持ってきた小袋から竹皮に包まれたものを縁側へ取り出した。キョトンとしたような妖夢の前でその竹皮をゆっくりと剥がす。
「…厨房を借りた。不恰好な塩握りであるが…。」
「…わぁぁ…。」
艶やかな米粒が三角形…とは言い難い歪な形の塩握りがそこに乗っていた。吾が先程、妖夢の素振り中に米を炊き、それを握り、塩をかけただけの粗末なものである。…そんなにキラキラとした目で見ないで欲しいな。少し小っ恥ずかしい。
「…その…粗末なもので悪いな。何か、毎日頑張っているお前を労ってあげられたら…と。」
「…いえっ。すっごく嬉しいですっ!!」
…一際輝いた笑顔で吾を見る妖夢。素直だ。素直で純粋すぎる。…まぁ、これが見たくて、握ったのだが…。
「…ふっ。」
「あのっ…頂いてもよろしいですか…?」
「ん?あぁ。どうぞ?」
そのために作ったのだから。
ワクワクとしているような目で手に吾の握り拳ほどの握り飯を両手で持ち、頭からがぶっと頬張った。
「ん〜っ!!」
頬に目一杯米を詰めて、小さく口元を膨らませてモキュモキュと食べる妖夢。満足そうな声を上げて、目をキラキラと輝かせている。ほんと、小動物みたいな娘だ。ごくっと妖夢は口に頬張ったものを飲み込んだ。
「…どうだ?その、お味は。」
「はいっ!!とっても美味しいですっ!!ちょっとお塩が強いですけど…何処か甘くて、暖かくって…。」
「…ふ。そっか。」
普段がっつくことのない妖夢が一口、また一口と歪な米の塊を食らって行く。咲夜や妖夢が美味しいと言ってもらえ、嬉しいという気持ちがよく伝わってきた。なんというか、心の奥がポカポカと暖かい。…自然と口元が緩む。
「あっ…。」
「…ん?」
「すいません…。あまりに美味しくって…。」
がっついたことが少し恥ずかしいのだろうな。妖夢は顔をほのかに赤く染め、少し下の方を向いた。
「次はユタさんも食べませんか?…一緒に。」
「わ、吾もか?」
「はい。…ダメ…ですか?」
…上目遣いで目を潤ませながら、吾を見る妖夢。吾はそんな彼女にふっと微笑み、頭に手をポンっと置いた。
「お安い御用だ。」
ちょうど残りの握り飯も2個あるし、昼ももうすぐだが、入らないほどではない。吾は片方の握り飯を左手で持ち、右手で彼女にもう一つの握り飯を渡した。妖夢はそれを受け取ると、吾の横に座り、ニコッと微笑んだ。
「いただきます。」
吾はそう言い、乱暴にがぶりと握り飯に食らいついた。…ふむ。なんとも塩辛い。口に入れた瞬間にわかる塩味。飯の甘さなどわからない。素人が作ったにしても酷い味だ。…だが。
「…ん〜っ!!」
「ふっ。」
「ん?」
妖夢は満足そうに食べてくれている。今もキョトンとした顔で吾を見ている。…くりくりっとした目に吾が映っている。ほんと、優しいな。
「…おや。ご飯粒がついているよ。」
「うぇっ…?…ど、どこで…。」
吾の指摘に妖夢は顔をプニプニと触って、確かめる。…見事に外れてるな。まぁいいや。吾は人差し指でその口元を拭い、ご飯粒をとって、食べる。
「…ふふ。」
「…ふぇ…。」
隣の妖夢に微笑んでやると妖夢の顔が真っ赤になった。何が起こったか分かってはいないが、やられたことはわかっているらしい。放心状態だ。
…ふむ。吾は人差し指で妖夢の頬をぷにっと押す。
「んっ…。な、なんですか?」
「…柔らかい。」
これはクセになりそうだ。ぷにぷにと指で突っつくと凹んだ瞬間、妖夢が目を閉じる。それがかなり可愛らしい。
「むぅ。遊ばないでくださいよぉ。」
「ふふ。」
「それなら、私も。…えいっ。」
「おっ?」
仕返しだと言わんばかりに妖夢が吾の頬を指でぷにっと突っついた。…いや、ぷにっじゃないな。妖夢よりもだいぶと硬いわけだし…。
「…あっ。意外と…。」
「お、おい。」
ぷにぷにぷにぷに…。
ずっと吾の頬を突っつく妖夢。…なんだか、恥ずかしくなってきた。
「こらこら。大人をあんまり揶揄うんじゃない。」
「うふふ。だって…ユタさんから先にやったんじゃないですか。それで照れてるなんて…かっわいい。」
「…っ。…全く。どこでそんなの覚えたんだか。」
悪戯っ子のようにはにかむように笑う妖夢。吾は少し呆れながらも、微笑みながらそう言った。
「あらぁ。何してるのかしら?」
「っ!?」「うぇっ!?ゆ、幽々子さま!?」
今日は紫姉さんのところでお茶会をしてくる…などと言っていたが…。急に現れた幽々子に妖夢もだいぶとびっくりしたような声を上げた。
「ふふ。気にせずどうぞ。続けて?」
「き、気になりますよッ!!…というか、もう少し遅くなるはずでは…。」
「ふふふ。今日はちょっと早くなってね。帰ってきたら、面白いことしてるじゃない?」
笑顔でそういう幽々子。妖夢の顔が次第にカァッと真っ赤になっていくのが見てとれる。吾も平常心を気取ってはいるが顔が熱くなっていくのを感じた。
「ご、ご飯にしましょうか…っ。」
「そ、そうだな…。」
「ええー?もう終わり〜?」
逃げるように中へと入る吾らと不満を垂れる幽々子。取り敢えず、少し早めの昼ご飯を食べることにした。…その後、幽々子に根掘り葉掘り聞かれて完全に疲れ切ってしまった吾であった。