「…ほぉ。」
今日は花見の下見で、妖怪の山へと足を運んだ。少々、早い時期ではあるが、長い目で見てももうすぐ満開になるだろう。まばらについているのは花ではなく、葉の方で。それでも、感嘆の声が漏れるくらいには色づいている。
「…また来たんですか…?」
ぴょんっと後ろの木から何者かが降りてきた。
…この声は。まぁ、妖怪の山に来たのだからいるのは当然だ。後ろを振り向くと、胸の前で腕を組み、ジトーっとした目で吾を見る犬走椛の姿があった。
「嫁と花見の約束を。その、下見にな。」
「そうですか。」
…興味ないか。
まぁ、興味あるのなんてブン屋ぐらいしかいないわな。
「呼びましたっ?」
「「うわっ。」」
吾と椛はほぼ同タイミングで、嫌そうに言った。
そんな出会いは求めていない。当の本人は少し悲しそうに泣き真似をしながら、空を浮きつつ隣にいた。…すぐに嘘泣きとわかる大根芝居で。
「文さん。嘘泣きはやめてください。」
「およよよ…。あれ?バレました?いやぁ、ネタ集めしてたら、何やら面白い様子が見えまして…。」
えへへと笑う射命丸文。
椛はその様子をジト目で睨んでいる。文と関わるとろくなことがない。幻想郷の住人の共通認識である。
「いやはや、やっぱり何かあるんですよね?お二人さん。」
「…何かって?」
「ほら、あの朝も…。」
そういや、見られてたんだっけ。しかも、文にとってはしゃったーちゃんす?とかいうタイミングで。
文が思い出したかのように言うと、椛の顔がリンゴのように真っ赤になった。瞼にうっすらと涙を溜めている。
「しかも、愈咫郎さんには目を瞑ってもらって。椛もそういうの、初めてですからねぇ。」
可愛いでしょ?と耳打ちで言ってくる文。
吐息がわかるほど、耳に近い。
「うぅ〜…!!文さんのせいですからねッ!?あの後、白狼天狗の仲間たちから揶揄いに揶揄われたんですからッ!!」
「えぇ?だったら、やらなかったらよかったんじゃないですか?」
「うっ…そ、それは…。」
文の一言に椛は狼狽えてしまった。
…まぁ、極論そうだが…。ちょっと椛が不憫である。
「その辺にしておきなさいな。」
「それもそうですね、で?本日は何故、お二人で?」
文が首を軽く傾げて、聞いてきた。
吾は先程の一部始終を文に話した。文は軽く相槌を打って、メモ帳か何かに軽くメモを取っていた。
「ふむふむ、お嫁さん…と言いますと十六夜咲夜さんですか?」
「ま、まぁな。」
「愛されてますねえ。…でも、椛とお二人で桜巡りを?それはもはや…デートなのでは?」
「は?で、でー?」
…ただの散歩だ。その気はない。椛も少々顔を赤く染めて、下を見ている。うわ言のようにデート…?えっ…みたいな風に呟いているし。ここは面倒なことになる前に訂正しとくか。
「ただの散歩途中に会っただけだ。そういう、アレではない。」
今日会ったのはたまたまだ。例の件の埋め合わせはまた今度…。
「あやや。そうですか。」
「あぁ。…だろ?椛。」
「…そうですね。」
…ん?なんだ?
少し声のトーンが下がったような…。
「じゃあ、私と何処かいきます?」
「ふぇっ!?」「ん?」
文が誘うように、少し囁く感じでそう言ってくる。まぁ、確かに暇はしている。文ほどの美人からの誘い、魅力的ではある。
「お前、そう言いつつ質問漬けにする気ではないな?」
「ええー?なんでですか?椛は良くて私はダメなんですかぁ?」
…中々にグイグイ来るな。
文の豊かな双乳が、吾の腕にあたる。そのぐらい引っ付いている。文の黒髪の艶が見て取れた。良い匂いがする…。シャンプーの匂いだろう。
「…っ!!」
「…お、おい。」
な、なんだ?
文が抱きついてきたと思えば、次は椛まで。文とは違う方の腕にギュッと抱きついている。椛の方も、たわわに実ったものが押し付けられて、悪くはない。ただ、何故いきなりという…戸惑いもある。
そんな椛に対し、文はニヤリと笑うと抱きつくのをやめて、吾の手を握ってきた。指と指の間に指を絡める…いわゆる、恋人繋ぎとかいうやつである。
「…文?」
「あやや。お気になさらず?」
不敵な笑みが何処か怖い。何故か、椛に見せびらかせるように握られた手を少し上へと掲げた。
椛はぷくっと軽く口元を膨らませると、文と同じように恋人繋ぎをしてみせた。…だんだんと自分が何をやらされているのか、わからなくなってきた。いや、役得では…あるのだが。
「…何をしてるんだ?二人とも?」
「…文さんが悪いんですからね。私を煽るから。」
「おやおや。何もしてませんが?真似っこはやめましょうよ。」
不敵に笑う文とそれを睨みつける椛。
…意外と険悪なのか?助け出したときとかはそんな感じは感じなかったが…。
「良いじゃないですか。椛はたっぷり”お礼”したんですよね?私は何も出来ていない。ならば、次は私の番では?」
「それは可笑しいです。それも、後から出てきてひょいひょいと。まるっきり尻軽女じゃないですかッ!!」
「しりが…ッ!?貴女ねぇッ!!貴女だって、この前、一緒に寝てたじゃないッ!!それを差し置いて、尻軽だなんて…!!」
「は、はぁッ!?アレはし、仕方なくですねッ!!」
…二人とも顔を真っ赤にして言いたい放題言っている。これはあれだ。止めた方がいい。
「やめろ。」
「「…ッ。」」
二人は何かまだ言いたそうだったが、口を閉じてやめた。流石に言い過ぎたと思ったのだろうか。二人の顔には少し申し訳なさそうな表情が見て取れた。喧嘩するのは勝手だが、吾を挟んではやめて頂きたい。
「それに、お礼だとかなんだとかは必要ない。吾はやりたくて暴れた。それだけだ。」
「…ま、まぁ、そういうのなら。…あっ。では、今度、ウチにいらして下さい。」
「…文の家に?」
「ええ。じっくり…ゆっくりと、お話聞かせてくださいね?」
そう言ってニコッと笑った文は空へと旅立った。
…かく言う吾も男だ。美人に誘われて、悪い気はしていない。しかし、文の家か。興味深いものが色々とありそうだ。
気まずい空気がなんとなく流れている。
「…あっ。」
そう言い、椛が手を離す。
ちょっと下を見て、顔を赤く染めている。自身の左手を触りながら、何かうわ言のように呟いている。
「…そういや、あの後大丈夫だったか?」
「…そうですね、大変でした。私と貴方、まるで恋人みたいに思われてて。」
「ハハッ。そりゃ、さぞかし迷惑だったろうに。」
文々。新聞は面倒なことに幻想郷中にばら撒かれている。吾もだいぶと弄られたからな。…今度から、少し言っておかないと…。
「…別に…迷惑とかじゃ…。」
「そうなのか?」
「ふぇっ!?き、聞こえて…いや、そのっ…。」
そのときだった。
くぅぅ…と隣から可愛らしい音が聞こえたのは。そういえば、もう昼ごろか。懐に入れていた懐中時計で、そう思った。
「〜〜っ!!」
…今日見た中で一番顔が真っ赤になっている。
「…ご飯、食べに行こうか。」
そう言うと椛は無言でこっくりと頷いた。
そろそろネタがなくなって参ります。
復活したかと思えばまたです。はい。異変はある程度考えてありますが、もう少し引っ張りたい感あるので。