※この作品はR-18です。

人斬り武者の幻想歌   作:紳爾零士

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九十六杯『会』

男性に連れられ、私たちは怪しげな館へと入った。前から見れば、少し奇妙な西洋館だったが、中は外見よりも広く、生活感があるように思えた。玄関のフロアから、客間へと案内され、銀髪のメイドが私と阿求の前に紅茶を持ってきた。

 

「…さて。」

 

先程、助けてくれたであろう男、朱智愈咫郎が間を開けて言葉を発した。

 

「取り敢えず、一時的に案内したのだが…。稗田阿求ほどの人間がこんなところにいるとはな。」

 

…淡々と愈咫郎は言う。阿求も少々、気まずそうにモジモジとしながら私の横に縮こまっている。なんとなく…謎の威圧感がある。

 

「そう言う言い方は…おやめください。」

 

「ふむ。ならなおさらだ。女の子二人で、森散歩とは。格好の的だぞ。」

 

愈咫郎の言い分も理解できる。

だが、彼は少々、私をナメ過ぎだ。それに、阿求も危険なのは重々承知なはずだった。だが、現に私は何もできなかった。

 

「…お前は何故、戦えるんだ。」

 

「鉄砲と刀の違いだろう。吾の刀は妖刀だ。だが、ただの鉛玉では、奴らにとっては拳よりも軽いだろう。」

 

…よう…とう…?

この男の刀は特別…なのか。私のマグナムも、なんとかなるかもしれない。

 

「暫くはお前も人里にいた方がいい。外じゃあ役に立ったろうが、此処じゃあ何にもならないからな。」

 

「…必要ない。」

 

「…なに?」

 

…必要ない。その言葉に愈咫郎は耳をピクっと動かした。彼が悪いわけではない。今の私には…自分を守る手段すら持っていないのだから。

 

「…私は、生まれてこの方一度も…自分以外を信じたことは無い。私が信じられるのは自分だけ。」

 

「…お前…。」

 

だからなんだと笑うなら笑えば良い。…だって、そういう生き方しかしてこなかったのだから。

 

「…シアさん。」

 

「阿求。お前だけでも帰れ。私とお前では住む世界が違う。」

 

「そんなっ。確かに私は…貴女のこと無理やり連れ出しましたけど…ッ!!守ってくれたじゃないですかッ!!」

 

「それは。」

 

…お嬢様の相手は面倒だ。世間知らずで、人の気持ちなんて読まないワガママ少女。言えば全てが自分の思うがままになると思っている。…私とは、全くの真逆。

 

「…それは、アンタを逃せば、面倒ごとにならないと思ったからだ。」

 

「シアさん。」

 

「お荷物だったんだよ。あの状況じゃあ。」

 

悲しくも現実。真だけが口から飛び出る。

彼女の顔は今にも泣きそうで、だが、平然とした顔を保っていた。

 

「…ユタ、どうするの。」

 

「当事者同士の問題だ。吾らが噛み付けば余計…こじれる。」

 

「じゃあ、なんで守ったんですか…。なんで、強引に連れて行った時に…断ってくれなかったんですか。」

 

「…それは。」

 

なんの話をしているのか、わからなくなってきた。ただ、阿求が世間知らずなのか、ワガママなだけなのか。

 

…だって、断る隙がなかったから。

私はそう答えた。

 

「…私を見捨てれば良かったのです。私が、全ての罪を被ればよかったのです。」

 

「…それは、夢見が悪いだろう。」

 

…嘘だ。ここに来て、初めて嘘をついた。

ひとりの少女が死ぬなんて、昔ならばハタハタと振る雪の数くらいには見た光景。今更、何にも思わない。

 

「…一緒に帰りましょう。寝食なら、私がなんとかしますから。」

 

優しげにそう言う阿求。

悪く言うならば、新たな家来を。よく言うならば、新たな友を。野放しにできない彼女なりの優しさというやつだろうか。だが…。

 

「それは出来ない。」

 

「何故…ッ!?」

 

悲痛な笑みを浮かべて、私をみる阿求。

理由は簡単だ。稗田阿求を連れ去った無法者だから。それに尽きない。

 

「…そんな…私が…勝手に…ッ。それで死に掛けただけだと言うのに…っ。」

 

「側から見れば、私は立派な誘拐犯。それどころか、殺しかけた愚か者。人里はもはや私を許さないよ。」

 

…そもそも。私がここに来た理由すらわからないのだ。気がつけば、慣れ親しんだ灰色の都から、緑の村へとワープしていた。帰る場所のある阿求と私では全くもって真逆だ。

 

「…泣いているのですか?」

 

「…え?」

 

「悲しそうな顔です。悲しいのですか?…貴女がそんな顔するなんて会ってから一度もありませんから。」

 

…話が二転三転する。

悲しい…か。もはや、考えたこともなかった。確かにあるのは、不安だ。昔は組織の大人たちが、衣食住を補償してくれた。しかし、今はどうだ?老父には見限られ、里一番の有権者を連れ出した挙句、妖怪に殺されかける。安心して、生きられる場所なんてあるのだろうか。

 

「…?」

 

…ふと、柔らかい感触が手に当たる。

阿求だ。阿求が私の手をキュッと挟み込むように持っている。

 

「大丈夫です。私がなんとかします。もう友達ですから。」

 

「…とも…だち…。」

 

悪くない響きだ。ここなら、私は…普通の女の子として生きられるのかもしれない。

 

「話はまとまったか?」

 

前を見ると、困ったような優しげな笑みを浮かべる朱智愈咫郎がいた。そもそも、なんの話だったか。色々話しすぎて、わからなくなった。

 

「…取り敢えず。」

 

「それはよかった。…で、本題なんだが…。お前…何者だ?」

 

「…。」

 

名乗ってすらいなかったか。そういえば。

 

「…シア…シア・ロックスハート。」

 

「名前だけじゃない。お前、ただの人間じゃあないだろ?」

 

その瞬間、疑心からか、愈咫郎から鋭く邪悪なものが溢れ出る。私はそれをよく知っている。阿求も今朝方に感じたものだ。…それは純粋な殺気。言わなければ殺す。…というよりかは、私を試しているのだろう。そんなものに臆する私ではない。

 

相手が誰であろうと関係ない。

私も彼を睨み返す。上等だ。殺す気ならば、恩人であろうと…立ち向かう。

 

「…ユタ…これって…。」

 

「ふっ…。まるで、大蛇だな。喉元に噛み付いてきやがる。」

 

…何故だ。彼は急に…私への殺気をふっと和らげて、穏やかな笑みを浮かべた。

 

「シアちゃん。君は…何人殺した?」

 

流石にわかるか。同業か足を洗ったかの二択だが、彼も私と同様…いや、私以上に人を殺している。そんな目をしている。

 

「…数えたことはない。だが、ここで殺す気はない。」

 

「ふむ。まぁ、それならばいいが…。」

 

…死ぬほど都合のいい解釈するならば、人を殺した罪を清算する。そういう機会を天から貰った。…みたいな、そんなものが許されるわけがない。だってそうだろう?

 

クレイジーな殺し屋が生きた人間の前で、我関せずと生きるなんて…人喰いザメに市民プールでただ泳げと言っているよう。私にそれが出来るかどうか…。

 

「これからは、何の為に生きたらいいのだろう…。」

 

「…これからやり直せばいい。此処はそういうとこだ。」

 

「…妖怪退治…とかか?」

 

「コラコラ。遊びじゃあねえんだぞ?」

 

…なるほど。彼は私が遊びで言っていると思っているのか。口元、表情は柔らかだが、目は本気だ。

 

「遊びのつもりなどない。これしか、生き方を知らないだけだ。」

 

「それはそれで…どうかとも思うが…。だったら其れ相応の覚悟がいるな。」

 

やっと諦めがついたのか、ふっと一息吐くと少し険しそうな顔で私を見る。

 

「わかった。吾が知り合いに駆け寄ってやろう。」

 

「...っ。助かる。」

 

ふっと柔らかに笑う愈咫郎。雰囲気もふっと和らいでいた。

 

「さて、問題は住む所だな。」

 

…確かに。何度も言うが、人里から見れば私は領主を誘拐まがいなことをした、お尋ね者。快く、住居など提供してくれるわけがない。

 

「大丈夫ですっ!!」

 

突然、阿求が大きな声でさけびだした。

急にどうしたのか、と横を見れば阿求が目を少し輝かせながら私の方を向いていた。

 

「私の家で、一緒に過ごせば良いんですっ!!そうすれば、私は妖怪の研究を続けられるし、シアさんだって妖怪退治も出来ます。一石二鳥ってやつですっ!!…どうですか?」

 

…どう、と言われても。

全く懲りていない。悪くは無いが、現に阿求は死にかけたというに…。

 

「…はぁ。」

 

とはいえ、断れば雨晒しだ。

いつ、死ぬかわからないここで家無しは自殺行為だろう。

 

「説得してくれるんだな。」

 

「はいっ!!文句を言う人はねじ伏せます。」

 

「…ねじ伏せるって。」

 

突然、心配になってきた。

 

「話はまとまったな。」

 

全然纏まってないという私の心の声を他所に、愈咫郎がそう言った。何の因果かはわからないが、これもまた仕方のないこと…と腹を決めるしかない。

 

「ええ。ねっ?」

 

そう言う阿求の笑顔は晴れやかでキラキラしていて…。

 

「…あぁ。」

 

肯定するしかなかった。




シアさんは、レギュラー枠ですね。
この前、ネームドはこの子限りと言いましたけど、もしかすると御庭番集関連で何人か出すかもです。ご了承の程よろしくお願いします。まぁ、基本は原作通りに行きますけど。
…次は地霊殿ですか。あっためてたんでしっかり出せたらなと。ひっさびさにあの人も出ますのでね。ではでは〜。
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