リアルが忙しくて…というのは、もう聞かないかな?まぁ、ホントなんですが…。後は、導入をどうするか迷ってました。というわけで地霊殿です。極力は原作通りで行きます。が、今回はダブル主人公…いや、トリプル主人公かな?では、本編、どぞ。
「…んん…あぁ?」
…頭が痛い。寺院の鐘のようにぼぉんと鈍い音が頭の中で低く響いている。後頭部にじんわりと焼けるような…そんな痛みが走る。
「…此処は。」
周囲を見渡しても、夜の繁華街のようで。
こんな場所が幻想郷にあったのかと、少し驚愕である。明るいが、吉原遊廓のような感じではなく、地下にあるもう一つの人里。周囲からはやけに、空腹に訴えかけるような香りが漂っている。
…何で此処に。あぁ、そうか。
確か、あの娘を…シアの問題を解決した後、各地から…。
霊夢達はまだ来てないか。
無様な話だ。偵察に来たはいいが、足を滑らし落っこちるとは。
「…?橋…。」
赤い。混濁とした川を渡す、真っ赤な橋。朧げな光に照らされていたその橋を渡っていく。ギリギリと木の音が周りに響く。
こんな地下に川が…。やはり、何か住んでいるようだ。独自の文化を感じる。
「…貴方、何者?」
「おっと、失礼。」
周りばかり気にしすぎて、前を見ていなかった。
…全く、修行が足らんな。そう思って、前を見ると、幻想郷の少女の例に漏れず、眉目秀麗な女性がそこに立っていた。
「…すまぬ。吾は朱智愈咫郎。人を探し、此処まで来た。」
「へぇ。…別に聞いてないけど。」
そう言い、橋の欄干に肘をつき、少しボーッとする少女。金髪と明るい緑の瞳がある意味でこの場に浮いていた。妖力を感じるに、妖怪かなんらかの類であるのには変わりないが。
「…なに?じろじろ、見ないでくれる?」
「…すまぬ。」
「謝るならさっさと消えてよ。…妬ましい。」
…気の強い女性だ。此処までのものは実際、初めてと言っていい。機嫌が悪い時の霊夢に酷似しているが…。
流石に見過ぎだな。さて、そろそろ出よう。
「…アンタ、どこ行く気?」
「ん?」
女性を通り過ぎようと、足を進めると彼女に言い止められた。…どういう風の吹き回しだろうか。切長の目が、厳しく見える。
「この先には鬼がいるわ。…アンタみたいな人間じゃ、無事に帰れないわよ。」
…ふむ、鬼か。
彼女の慌て様も気になるっちゃ気になるが、鬼とやらも気になる。霊夢たちが来るまでに鍛錬を積むのも役得ではあるが、ここはグッと堪えて…。
「…とはいえ、此方にも理由がある。」
「命を落とすかもしれないわよッ!?」
「大丈夫だ。吾は死んでも死に切れぬ。」
嫁も彼女もいるのだ。それに、何れは産まれてくる我が子にだって会いたい。こんなところで死んでたまるか。元々、死ねぬ定めではあるが。
「…そんなに…。一体、誰を探しているの。」
「おや、聞いていないのではなかったのか?」
「き、興味ないけど。…一応聞いといてあげる。」
…目を逸らして、そう言う彼女。ツンッととんがった耳がぴくっぴくっと僅かに動く。
「…腐れ縁の馬鹿野郎さ。…此処らで派手な着物のざんばら男を見なかったか?」
「…見てないわ。」
「そうか。」
…腐れ縁の馬鹿野郎、千石三太夫は数日前、永遠亭を後にした。勿論、訃報が来ただとか、そんな話ではなく、ただ何の前触れもなくふっと立ち去ったやつを永遠亭の住人は危惧していた。
それと同時に、博麗神社の奥から間欠泉と共に温泉が湧き上がってきた。霊夢はこれに歓喜していたが、温泉ともども厄介なものまでやってきたそうで。霊夢たちも向かっていると話は聞いている。つまり、今回、吾と霊夢たちは実質的な別行動となっているわけだ。
…見てないとあればもしかすると此処には来ていないのだろうか。確証はないが、此処にいる感じがした。…まぁ、出来過ぎと言われればあれだが。
「…あ、もしかして。」
「…?」
「貴方の他にもう一人落ちてきたの。顔をしっかり覚えてないからもしかするとその人かも…。」
…それだ。
「その男、派手な着物を着てはいなかったか。」
「え?…そういえば…。着てたような…着てなかったような…?」
女性は首を捻り、思い出そうと必死だった。一縷の望みとはよく言ったものだ、縋るしか道はあるまい。
「ちょ、ちょっと!?どこ行くのよ!?」
「決まってる。探し人を探しに来たのだ。進むしかあるまい。」
「あーもうっ!!どうなっても知らないからねッ!!鬼って強いんだからッ!!私は止めたわよッ!!止めたからねッ!!」
後ろでそう言う彼女に対して、吾は左掌をあげて、礼とさよならを済まし、そのまま前へと進んでいく。…しかしまぁ、異様な景色だ。歓楽街とはよく言ったもので、鼻につくのは酒の匂いと…厄介ごとの匂い。
「おー?…兄さん…なにもんだぁ…?」
「…?」
着物を着崩している、顔をあからさまに赤らめた男。それが、吾の肩に手を置き、呂律の回らない声でそう言った。明らかに酔っている。酔っ払いなら其れ相応の立ち振る舞いができたろうに。厄介だったのはそれが人ではなかったということだ。
額に一角、見えるだけで2、3匹。肌は人間に近いものの、生傷がひどく残っている。…まぁ、後者は吾も他人のことを言えぬが。
「ここはぁ〜おれらぁのぉ〜シマだぞぉ〜…。へへっ…入るならぁ〜金でも置いてきなぁ〜。」
「…。」
ほのかに笑いそう言う酔っ払い。
なるほど。絡み上戸ということか。確か、橋の女性が鬼には気をつけろと言っていたが。こういうことか。まるで、地上げ屋のような感じかな。
「無視してんじゃ〜ねぇよぉ〜ッ!!」
「…いきなりか。」
何が気に障ったのか、酔っ払いの剛腕が吾の腹を目がけて上がってくる。
吾はそれを右手で受け止める。
「っ!?」
「いきなりご挨拶だな。それとも此処の挨拶はそれが主流なのか?」
「…ッ!!テメェッ!!やる気かぁ…!?俺は鬼だぞッ!!人間が敵うもんかよッ!!」
「鬼?鬼か…ならッ!!」
「ぬ、ぬぉぉおッ!?」
吾はそのまま腕を使って、鬼を前方へ投げ飛ばした。
鬼とやらは頭から地面に激突。そこから砂煙が上がった。
「いでで…。なにしやがるんだッ!!」
「いい酔い覚ましだろ?」
吾がそう笑ってやるとみるみるうちに顔が赤くなっていくのがわかった。どうやら、我慢強くは無いらしい。
「人間に腕っ節で負けるかよッ!!ぬぉりゃぁッ!!」
「…おいおい。行き当たりばったりかよ。」
前から来る直線的な拳。それを横に上体を逸らし、避ける。
その後、鬼の顎に掌底をかました。
「ぐ、ぐぅぅ…!?」
「死にやしない。脳が揺れるだけさ。」
…えらく時間を食った。野次馬も増えてきたことだし、吾はここいらで退散…。
「おい。兄さん。アンタやるな?」
「…。」
…何がと言わんが色々とでかい。そんな女性が吾の前に立ちはだかった。金髪に額に一角。極め付けはその鍛え抜かれた身体だ。その笑みからはとてつもない威圧感を感じる。
「そこの鬼は酔ってたとはいえ、鬼は鬼。人間の掌底ごときで伸びちまうやつじゃあない。例え、的確に急所を射抜いたとしてもね。」
「…何者だ?」
自然と臨戦体制に入る。
というか、そうでもしなきゃ、簡単に殺されてしまう。まさに蛇に睨まれた蛙である。
「アタシかい?アタシは星熊勇儀。此処の呑んだくれどもの姉貴分さ。止めに入ろうとしたら、観光しにきた人間が簡単にのしちまうもんだから、ちょっと気になってねえ。兄さんもその気のようだし…。」
「…。」
「…行くよッ!!」
先手は勇儀とやら。凄まじい踏み込みとともに腹に焼け焦げたのような衝撃と痛みが走った。
「…ぐはっ!?」
「やっぱ凄い。常人なら今ので立っていられないくらいだよ。…兄さん、急所をずらしたね。」
「…チッ!!」
ならば次は吾だ。
勇儀とやらの間合いにわざと入り、その顎を掌で押し上げる。
が、涼しい顔をして受けられてしまった。
「…そんなもんかい?」
「丸腰の相手に刀は握らん性分なのでな。」
「その余裕、命取りになる…よッ!!」
続いて眼前に来る拳。上等だ。吾はそれを…。
「ふんッ!!」
「…おっ?」
額で受け止めた。
勿論、避ける選択肢もあった。だが、隙を作るにゃこれしかない。額からたらりと血が流れる。
「やるじゃないかッ!!」
「…無刀…一心ッ!!」
これで仕留めなきゃ、吾が先に終わる。
吾は渾身の一撃を至近距離にあった、勇儀の腹へ突き出した。
「くっ。今のは、痺れた。…だけど。アンタ、身体の使い方がなっちゃいないね?」
「なっ!?ぐあっ!?」
なんと、鍛え抜かれた腹筋を鋼鉄のように固めて、受け止めやがった。そして、再び勇儀の拳を顔面に…詳しくは頬に喰らい、吾は隣の民家を壊して、意識を失った。