それではどうぞ!
『ニンゲン……コロス……』
「クソっ! パンパンに膨れやがって!」
「もうすぐレベル2になるってことか!?」
「タリスマンのバッテリーが切れるぞ!」
「要請した【エクソシスト】はまだか!?」
『コロス……コロス……』
「ま、まずい! タリスマンのバッテリーが切れた!」
「クソ! 逃げろ!」
「おいバカ! 撮影してる場合か!?」
「【AKUMA】の進化なんてレアだから……ぐあぁ!」
「!! そんな!」
「っ! 見ろ! 今のがきっかけで進化し始めたぞ!」
「畜生っ! ――がぁ!?」
「お、おいどうした!?」
『フフフ! 遂二進化出来タ!』
「頭が! 割れ――」
「大丈夫、か――」
『コレガ俺ノ能力カ! コレハ使エルナ! ソウ言エバ、【エクソシスト】ガ来ルト言ッテイタナ! ドレ! チョット遊ニデミヨウカ!』
「はぁ!」
雲一つない満月の夜。避難指示が出され、人っ子一人いない街に響き渡る爆発音と可憐な声。
女性と言うには幼く、まだ年端も行かぬ若い女がいた。
少し緑かかった黒髪に、腰元まで伸びたツインテール。黒いニーソックスにミニスカートを穿いている。
彼女の名前はリナリー・リー。教団の【エクソシスト】で、ダークブーツと呼ばれるイノセントを用いて【AKUMA】と戦っている少女だ。
「この先ね!」
最後の一体を倒したリナリーは、ダークブーツを用いて飛行し、常人の数倍の速さで空を舞い、救難信号の発信源に急いだ。
「はぁ! はぁ!」
現場について最初に目に入ったのは――電源の落ちたタリスマンに、胸部を撃ち抜かれ、子供が通り抜けそうな位に風穴があいた【協力者】の死体。救助に間に合わなかったと悟った彼女は目を閉じて小さく頷き、彼らの冥福を祈った。
『ハハハ! オ前ガ助ケニ来タ【エクソシスト】カ!』
「っ!? お前は……」
暗闇から聞こえたその声にリナリーは素早く反応し、声の主を睨みつける。
人間の声じゃない。機械音が混じっている。という事は……リナリーは考察し、結論を出した。
「【AKUMA】……!」
一歩、二歩と暗闇から姿を現した【AKUMA】は、身長が2mをゆうに超し、頭が異様に大きく、ベットサイドランプの傘のような形をしていた。それに体格も凄い。ヒグマが細身に見える程だ。
「【協力者】をよくも……!」
『【協力者】? ハテ……』
とぼけたように首を傾げる【AKUMA】を前に、リナリーは全身を強ばらせ、震えていた。今すぐにでもあのふざけた頭部を蹴り飛ばしたい。彼女は殺気を孕んだ感情に身を任せ、ダークブーツで【AKUMA】に飛び掛かろうとしていた。
【協力者】達の報告にはレベル1しかいないと言っていたが、目の前にいるのは個体差の無いレベル1ではない。明らかな意思をもって会話をしている。という事は経った今進化したばかりか。レベル2との戦闘経験は充分。能力は未知数だが、苦戦はしないだろう。
そう高を括ったリナリーは、戦闘を開始――瞬間、【AKUMA】は、何かを思い出したかのように左掌を右拳の側面で叩いた。
『【協力者】トハ、アイツラノ事カ!』
「彼らに何をしたの!」
『安心シタロ! 彼ラハ死ンデナイ!』
「……嘘ね。【AKUMA】が人間を生かすなんて考えられない。私を騙そうとしても無駄――」
『来イ! オ前達!』
「!!」
暗闇から現れたのは……【協力者】達だった。作戦開始前の顔合わせで見た人達だ。間違いない。
だが様子が変だ。全員目がうつろで、口からは涎を垂らしている。それに目の前の【AKUMA】を守るように自身との間に立ち、拳銃をこめかみに当てて撃鉄を下ろした。
そんな彼らの行動を見てリナリーは突撃をやめ、【AKUMA】の出方を待ちつつ、問いかける。
「彼らに何をしたの!?」
『フフフ! 少シバカリ頭ヲ弄ッタダケサ!』
「何!?」
『コレハ俺ノ能力ダ! 俺ノ頭カラ出ル光ヲ見タ人間ハ、全員俺ノ言イナリニナル!』
「まさか……! その能力で……!」
『ゴ名答!』
表情はわからないが声の高揚感で目の前の【AKUMA】が笑みを浮かべているのがわかる。リナリーは歯ぎしりをしながら睨むことしかできなかった。
彼女の出方次第で【協力者】が死ぬ。いくら速さをウリにしているとはいえ、ああ囲んでいては手を出せない。
苦悶の表情を浮かべるリナリーを見てすっかり上機嫌となった【AKUMA】はこんなことを言い出した。
『オ前、ヨク見ルト中々可愛イ顔ヲシテイルナ!』
「……それが何?」
『ドウダ! 俺ト取引シナイカ?』
「取引?」
「そうだ」と言って間を開けた後、【AKUMA】は話しを続けた。
『今カラ俺ノ言ウ事ヲ何デモ聞ケ! 俺ノ言イナリニナル奴隷ニナレ!』
「なっ!?」
耳を疑った。【エクソシスト】は【AKUMA】と敵対関係にあり、見つけたら問答無用で撃破する存在。勿論相容れないし、対話すらしようと思った事も無かった彼女に、目の前の【AKUMA】は言いなりになれと言って来たのだ。
『ドウダ?』
「誰がそんな条件飲むものですか!」
『ソウカ』
【AKUMA】が指をならすと、【協力者】の一人が一歩前に出てリナリーに近づき、銃の引き金を引いて、自分の頭を撃ち抜いた。
「ああ!」
糸の切れた人形のように地面に倒れこみ、鈍い音を立てながら顔面を叩きつける【協力者】に思わず目を背けたリナリーに対して、【AKUMA】は再び聞き返して来た。
『モウ一度言ウゾ? 俺ノ言イナリニナルカ?』
「なぜこんなことを!? あなたの能力で私を操ればいいじゃない!」
『ソレデハツマラナイ! 自分ノ意志デ俺ニ服従シ、命令ニ従ウ姿ガ見タインダ! ハハハハハ!』
もはや余地はなかった。リナリーは発動していたイノセンスの起動を解き、蚊の飛翔音のような声量でささやいた。
「……言う通りにします……」
『ン? 聞コエナイナ! モット大キナ声デ言ウンダ!』
「あ、あなたの言いなりになります!」
無人の街に鳴り響く可憐な声。何度も木霊し、言った本人の耳に何度も鳴り響いた。【AKUMA】は勝ち誇ったように両手を広げると、更に拍車をかける。
『ハハハ! イイゾ! ダガ1ツ気ニ入ラナイナ!』
「え?」
『奴隷ノ癖ニ頭ガ高イ! ソコニ跪ケ! 土下座シロ! ソシテ言ウンダ! 「ゴ主人様ノ性奴隷ニナリマス」トナ!』
「うぅ……!」
リナリーはゆっくりと膝を曲げ始めた。まだ心のどこかに残っているプライドが抵抗している。
しかし、【協力者】を助けたいという気持ちが勝った。
リナリーは冷たい地面に手を付き、額を地べたに擦り付けて言い放った。
「ご主人様の性奴隷になります!」
『ギャハハハハ! イイゾ!』
【AKUMA】はリナリーに近づき、その頭を足の裏でぐりぐりと踏みつけた。
リナリーは震えていた。
これは怒り。唇から滴る血に、屈辱的な事を言わされ、【AKUMA】に土下座をするという、死んだ方がマシとも思える状況だからだ。
しかし、それだけではなかった。
【AKUMA】に対してこれから自分の身を捧げるという恐怖。
リナリーはその体勢のまま動けないでいた。
そして――悪夢の夜が幕を開けた。
ここまでお読みくださりありがとうございます!
ただいま複数連載しており、執筆が遅いですが、これからどんどん書いていきます!
またよろしくお願いいたします!