『サテト! 顔ヲ上ゲロ!』
「はい……」
リナリーは土下座の体勢から背中をそらせながら顔を上げた。上目遣い……と言えば聞こえがいいが、その眼にはまだ闘志が宿っており、今にも飛び掛かりそうな程だった。
『ナンダァ? ソノ眼ハ? マダ立場ガ分カッテナイヨウダナ?』
その言葉と同時に【協力者】は持っている銃を一層こめかみに押し当て始める。
もはや選択の余地はない。今はこの【AKUMA】のいう事を聞くしかないと判断したリナリーは、再び頭を地面に擦り付けた。
「も、申し訳ありませんご主人様……」
『フン! マァ良イ。オ前、名前ハ?』
「……リナリー・リーと言います」
『リナリーダナ? ヨシ、リナリー。ソレジャ立テ』
リナリーは頭を上げ、四つん這いから立膝に、そしてゆっくりと立ち上がり、【AKUMA】の次の言葉を待った。
『脱ゲ』
「え?」
何とも間の抜けた返答だった。思考しないで出た単語の意味は、その【AKUMA】の言葉に対して率直に抱いた感想だった。
『服ヲ脱グンダ! 全部ダ!』
「ふ、服を……ですか?」
『アア! 性奴隷ノ分際デ服ナンカ着テルンジャネェ! 脱ゲ!』
無言のまま頷いたリナリーは、【AKUMA】の指示通り行動した。
まずは中心よりやや右目についているボタンを一つ一つ外していった。怪しまれない程度に時間をかけ、何か打開策でもないかと思考を巡らせたが、何一つ思いつかず、逆に【AKUMA】を焦らすだけの行為になってしまった。
『イイナァ! ユックリ脱グトハ、俺ノ趣味ヲ良ク分カッテイルジャナイカ!』
乾いた拍手が鳴り響く中、リナリーは教団の上着を地面に落とした。
次に彼女はスカートに手を掛けた。右の腰元についているチャックをゆっくりと下ろし、自然落下するスカートを左手で抑えた。
彼女の左手は震えていた。
だが迷っている時間は無かった。
左手の握力を緩め、スカートを重力に任せ足元に落とした。
パサッという乾いた音がやけに大きく聞こえる。
そしてリナリーはTシャツにも手をかけ、勢いよく脱いだ。
『オオ! 上下黒ノ下着トハ! 中々エロイ下着ダナ!』
寒くもないのに体をもじもじさせ、恥じらいを見せるが、それは【AKUMA】を昂らせるスパイスにしかならない。
『ソラ! 次ハ下着ダ! ブラジャーカラ外セ!』
「っ……!」
リナリーは少し前かがみになりながら背中に手を回し、ブラジャーのホックを指で外した。
肩ひもを右、左と下ろし、両手でカップを抑え、【AKUMA】を睨みつける。
そんなリナリーの態度などもはやどうでも良い【AKUMA】は、あえて突っかかる事も、命令することもせず、彼女にタイミングをゆだねた。
もうやるしかない。
そう覚悟を決めるも、実際に行動に移すには躊躇があった。
睨んでいた視線を外し、目を瞑って、下唇を噛み、大きく息を吸い込んで息を止めた。
そして――
「っ!」
『ウヒョー!!』
ブラジャーという障害を飛び出し、小気味よく揺れて柔らかさを主張してきた彼女の乳房は、様々な『美しさ』を持っていた。
まずは大きさ。小さすぎず、大きすぎず。手の平に収まらず、かといって手の平からあふれ出ると言ったわけでもない。手の平に吸いつく大きさであり、『貧乳』でも『巨乳』でもない、『美乳』がそこにあった。
次に形だ。重力に負けて垂れているといった不覚は取っておらず、程よく逆らい、彫刻のようなバランスを誇っている。
最後に乳首だ。まだ黒ずみを知らない、しかし白いままではないサーモンピンク色を誇っており、赤子が吸いつきやすく、口の中にフィットする大きさだ。
色も形も大きさも『完璧』という評価を得られたリナリーの乳房。
本来なら人間の……それも心を許し、好意を寄せた異性に見せたかった胸を、こんな形で……よりにもよって【AKUMA】に見せることになってしまったリナリーは、屈辱と悲しみの中、『ご主人様』の下賤な笑い声に耐えるしかなかった。
『タマンネェ! 良イモン持ッテルナァ! 【エクソシスト】ニシテオクノガ勿体ネェゼ!』
「………………」
『オイオイ! ゴ主人様ガ褒メテンダゼ? 「アリガトウゴザイマス」ノ一言モ言エナイノカ?』
「あ、ありがとうございます、ご主人様……」
軽く頭を下げ、言いたくもない礼の言葉を述べるリナリーだったが、当然この地獄はここで終わらない。【AKUMA】は更なる命令を下した。
『次ハパンツダ』
「……っ!」
この展開が予測できなかったわけではない。むしろ想像通りの言葉だった。リナリーはショーツの両サイドに手をかけて――
『ン? ドウシタ?』
「…………」
それ以上動かすことができなかった。
まだニーソがあるが、これは【イノセンス】と一体化しているため脱ぐことができない。
実質最後の砦であるこのショーツ……パンツという名の砦を脱いだ時、正真正銘の全裸になってしまう。
まだ家族の者以外に見せたことのない裸を【AKUMA】に見せる――。そんな辱めは耐えられなかった。
『ドウシタ?』
「…………」
『ナゼ脱ガナイ?』
「…………」
沈黙がリナリーと【AKUMA】の間に流れた。聞こえるのはリナリーの乱れた呼吸のみ。
それから数十秒の時が流れた。
そして、沈黙を破ったのは――
――一発の銃声だった。
「ああ!」
警告も予告も、忠告も無しにいきなりだった。
乾いた無機質な銃声が街に鳴り響く。
【協力者】の一人が銃の引き金を引いたのだ。
原因はわかっている。
私が命令を聞かなかったからだ。
【AKUMA】は何も言わない。いや、言う必要が無いと分かっているのだ。こうしたら彼女はどういう態度を取るのか。自分が言うよりも効果的だと分かっているのだ。
そして、それは効果てきめんだった。
『オオ! イイゾ! イイゾォ!!』
リナリーはショーツを脱ぎ捨て、地面に落とした。
遂に――リナリーは全裸になったのだ。
陰部に生える陰毛は多くなく、微かに肌が見える程度に蓄えられている。
戦闘訓練に明け暮れ、いつも任務ばかりでこういった処理を殆どしていないのだが、それでも彼女の陰毛の形は整っており、美しいの一言に尽きた。
リナリーはこれ以上【協力者】の命を奪う事を避けたいが為に、胸も陰部も隠そうとせず、手を後ろに回して包み隠さず【AKUMA】に自分の裸体をさらけ出した。
『ギャハハハハハ!! イイゾ! 隠サナイノハ良イ判断ダ! 隠シテタラマタ死人ガ出テタカラナ!』
「…………っ!」
『マァソレハドウデモイイ! ソレヨリモダ! オ前ハ本当ニ良イ体ヲシテイルナ!』
「ありがとうございます……」
『事実ダ! オッパイモマンコモ一級品ダ! ヘヘヘ……』
声のトーンが変わった。
先程までは小ばかにしたような甲高い声質だったが、音域が下がり、凄みのある低い声になった。
これからだ。リナリーは確信した。
そしてその勘は当たっていた。
ここまではただの準備段階。
これからが悪夢の時間本番である――