※この作品はR-18です。

辺境領主は銀髪ロリエルフをprprしたい   作:名もなきrlkn

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閑話 これが私のご主人様

 

 

 

 

 

 

「おや、アマネさん。ちょうど良い所に。クリス様を見ませんでしたか?」

 

「あ、ロイドさん。ご主人様なら先ほどちょっと散歩に行ってくると言って外に行かれましたよ」

 

「おっと、入れ違いになってしまいましたか。仕方ありませんね」

 

「何か御用事ですか?」

 

「ええ、来期の予算の相談を早めにと思ったのですが、まぁ急ぎではありませんので明日にしましょう」

 

 

 

 主人であるクリス様を探して屋敷を歩いていると、その偏愛している奴隷――余りに過保護な様は妾か愛人か――であるアマネさんが歩いていた。

 

 特注の小さなエプロンドレスを着てメイドに混じって働く姿はとても愛らしく、今では屋敷で働く従者全員に妹のようにかわいがられている。業務中を除けばほぼ常にと言って良いほど一緒にいるのだが、その傍らにいつもの姿は見えない。

 

 胸の前で辞書を抱えているのですでに自由時間のようだが、珍しく別行動をしているらしい。

 

 一応と思って声をかけてみれば、探し人は散歩に出かけたとのこと。すでにそれなりに遅い時間なのだが、あの方は関係無しに急にふらりと見えなくなる事がある。探そうにもあの方にとって散歩の範囲は領全域に及ぶので通常の方法ではやるだけ無駄だ。

 

 そもそも領主であるのに護衛も付けずにフラフラするのは止めてほしい。必要の有無ではなく、体裁として必要なことなのだ。そのくせ奴隷であるアマネさんには常に影を数人付けているのだから、全く過保護も極まっている。

 

 さて、こうなってはもう今日中に見つけるのは難しいだろう。やりかけの書類はすっぱり諦め、明日改めて持っていくとしよう。

 

 書類を持って執務室に戻ろうとすると、後ろから服の裾を軽く引っ張られた。振り返ればアマネさんの紅い瞳と目が合う。それをとても綺麗だと思うと同時に、余りにも澄んだその瞳は底の見えない深い深い水面をのぞき込んでいるようで、言いようのない恐怖も感じてしまう。もっともそんな事はおくびにも出さないが。

 

 

 

「どうしましたか?」

 

「えと、引っ張ってしまってごめんなさい。もし時間があれば少しお話を聞かせてほしいの」

 

「お話、ですか」

 

「うん、ご主人様のお話、聞いてみたいの」

 

 

 

 なるほど、たしかにその話をするのなら本人がいない今がちょうど良いだろう。連れて来られてからほとんど一緒に過ごしているだろう少女だが、一緒にいるからこそ不思議に思う事も多いだろう。

 

 あの方は聞けばなんでも答えてくれるが、余りにもそれが当たり前のように荒唐無稽な事をさも当たり前の様に話すので理解の追いつかない事も多い。特に経験の浅い少女にとっては主人が語る話と、最近触れる事の多くなった一般人から聞く話との乖離に混乱することも多いに違いない。

 

 しかもあれだけわかりやすく好意を寄せているのだ、好きな相手をもっとよく知りたいという気持ちもあるのかもしれない。まぁどのような理由があるにせよ、特にそれを断るような理由もない。

 

 

 

「わかりました、いいですよ。それではお茶でも飲みながらお話しましょうか」

 

「はいっ、ありがとうございます」

 

 

 

 花咲くように笑う少女を連れ、近くの談話室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 クリストファー・エディルナ・フォン・ヘルゲン。

 

 私にとって彼がどういう存在であるかを語るのは、酷く難しい。雇用主である主人であり、仕事を教わった上司であり、気の置けない友であり、目を離すと何をしでかすかわからない弟のようであり……やはり私の知る言葉で言い表す事はできそうにない。

 

 深く尊敬しているのに気やすく付き合う事ができる。とても畏れているのに、ともすれば友人といえど不敬になるような事も出来てしまう。矛盾しているような事ができてしまうのは、偏に彼の懐の深さが原因だろう。あるいは、無関心さと言い換えても良いのかもしれない。

 

 高位貴族の魔力量すら比較にならない、人知を超えたと言えるような力を持つ彼は、しかし平民に対してすらとても寛容だ。ふらりと居なくなったと思えば街の酒場で冒険者と酒を飲み交わしていたり、高級娼館に遊びに来ていた商人と直接商談を始てたなんて事もよくあった。

 

 これが普通の貴族であればまず絶対にあり得ない事だ。少なくとも私の実家の家族たちがそうする姿はとてもじゃないが思い浮かべられない。高い魔力を持つ者ほど、魔力無しの平民の事など気にも留めなくなるし、少し目障りに思えば殺してしまうなんて事も少なくない。

 

 ましてや酔った上での喧嘩で殴り掛かられたとなれば一族郎党皆殺しの憂き目にあってもおかしくないのに、彼とくれば腰が入ってないなどと言って格闘技の指導を始める始末。後日その殴り掛かった冒険者がランクを上げたというのは笑い話にしていいものか。

 

 とにかく、彼は自分に対する事に関しては本当に寛容で、多少馬鹿にされたようなくらいでは簡単に聞き流す。その調子では他の貴族に舐められてしまうと苦言を呈しても、その程度で侮るような相手なら容易いものだと笑うばかりだった。唯一ウォルダーさん相手には「それを口にしたら……戦争だろうがっ!」と言い争いをしている姿を見た事があるが、あれは一種のじゃれあいだろう。

 

 

 

 怖そうな見た目に反して怒る事など稀な彼だが、自分自身以外の事となると一転して苛烈な姿勢をとる。自らの領地、正確には自分の物だと認識したものだろうか。それに対して危害を加えてくる相手に対しては徹底して容赦がない。

 

 領内が多少潤ってくると傭兵団や他領から流れてきた元農民達が、野盗まがいの行為を働いたと話があれば二日と立たずに殲滅していた。直接見た事はないが殊更残酷に殺して見せ、わざと生き残らせた数名に噂を流させて、一時はヘルゲン領には賊を殺して食べる鬼が住むとまで言われるようになったほどだ。

 

 逆にそんな噂などわざと撒かれたまやかしだと嘯き、他所で名を響かせた悪党共を呼び寄せる事もあったが、それすらも数度同じように処理してやれば一層噂は本当だと恐れられるようになった。どうやら自らの手勢を使ってまでその噂を流していたようで、最終的にはほとんどごろつきの類は寄り付かなくなり、安全性の高くなった街道には護衛を雇う金のない商人達の姿が多くなった。

 

 今では街道のそこかしこに旅の守り神として誰かが作った鬼の像が見受けられ、商人たちがお供え物をしていく姿が見られる。果たしてどこまで考えて行ったのか知らないが、本人は「顔を隠すために被ってたナマハゲの面が祀られてて草生える」と言って笑っていた。今でこそ領内に馴染んでいるうまむす〇達もとい馬人族だが、仮に彼女達が先に略奪を成功させていたならば今の姿を見る事は叶わなかっただろう。

 

 

 

 そんな二面性を持つように見える彼だが、個人として付き合うにはそう難しくなかった。仕事に関しては厳しかったが、それ以外の面では身分差など感じさせないものであったし、雑に扱っても笑ってくれる気安さがあった。

 

 突飛な行動や破天荒な思い付きに付き合わされるのは大変だが、それも普通にしていれば一生見る事も叶わないだろう光景を見られると思えば安いものだ。街を全て焼き尽くすような大火を放ち、そこにある汚物だけを焼き払って見せたり、大地を動かして街の情景を一変させたり、普通は建てるのに数か月はかかるであろう建物をものの数分で作ったり、もうちょっと近いほうが良いなと言って川を近づけてみたり、大魔法どころか神の奇跡とでも言えるような事ばかりだった。

 

 そのくせ本人はそんな事鼻にかけるような様子もなく、こちらを友人のように扱ってくる。遠慮しているとつまらなそうな顔をするが、逆にあけすけな物言いには楽しそうに返してくる。

 

 最初の頃はそれでも身分も実力も比べるべくもないほど高い彼に遠慮する事もあったが、彼の起こす騒動に巻き込まれ続ける内にだんだんと遠慮するような余裕も無くなっていき、そうこうしている内に今のような奇妙な関係が出来上がっていた。

 

 そんな風に彼と接しているのは何も自分だけではない。今館の中のそれぞれの職で中心を担う古参と呼ばれている者たちだ。たかが5年程だというのに古参と呼ばれているメンバーは、そういう嵐のような時期を共に過ごした仲であり、このヘルゲン領を立て直したという強い連帯感がある。

 

 領を立て直していく中で、彼がいなければとっかかりもなく崩れていただろうが、きっと彼だけでもどこかで躓いていただろう。そう考えると、今こうして穏やかに話を出来ている事こそが本当の奇跡の様に思えてくる。それくらい激動の5年間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「とまぁざっくりとですが、私から見たクリス様というのはこのような感じでしょうか」

 

「ご主人様は、なんていうか……昔からご主人様だったんですね」

 

「えぇ、初めて会った時からあんな感じでしたよ。もっとも、今の方がずっと楽しそうにしていますけどね」

 

「そうなんですか?」

 

「えぇ、それはもう」

 

 

 

 貴女に出会ってから、とは口にすることが出来なかった。それはなんというか些細なプライドというか、率直に言えば嫉妬なのだろう。私は目の前の少女に対して嫉妬を抱いている事を、自覚していた。もっともそれ以上に感謝しているのだが。

 

 

 

 主人であるクリス様は、表情豊かな方だ。喜怒哀楽ははっきりとしているし、おどけたような言い回しも多い。それが素なのか作っているのかは判断がつかないが、その奥にはとても冷めた感情がある事を知っている。ふとした言葉の陰に、笑った表情の裏に、普通なら感じられる熱のようなものがない。

 

 まるで世の中の全てが無価値な物であるかのように、もしも明日世界が滅びてもそれは残念だと一言で済ませてしまいそうな、そんな危うさを感じさせる。その原因はわからないが、付き合いの長い者ほどその陰に気付いていた。古参メンバーの中でも付き合いの濃かった私は、特に。

 

 そしてそんな陰に気付きながらも何もすることの出来ない無力感にさいなまれていた。そうにかその感情を動かそうと大げさな事をすることもあったが、彼は表面的には驚き嘆くことはあっても、やはりその内面を揺らすことはなかった。

 

 

 そう、この少女を連れてくるまでは。

 

 

 初めウォルダーさんに話を聞いた時は半信半疑であったが、実際に少女を連れてきたクリス様を見た時は本当に驚いた。少女を見るまなざしが、気遣う仕草が、そこに込められた感情が、何もかもが違っていた。

 

 私は表面を必至に取り繕って見せたものの、咄嗟にお嬢様と呼んでしまったのは主人を変えた少女に思わず感情を高ぶらせてしまったからだろうか。

 

 仮にもしも今、世界が滅びそうになったならば、きっとクリス様はこの少女のためだけに世界を救ってみせるだろう。

 

 どんな出会いが、切欠があったのかはわからない。しかし自分たちが数年かかっても成しえなかった事を、たった数日で成し遂げてしまった少女に私を含め古参メンバーは大小あるが嫉妬してしまった。

 

 そしてそれ以上に、主人をより良い方向へと変化させてくれた少女に感謝している。

 

 もやもやとした嫉妬心も、実際にこの少女と過ごすうちに小さくなっているのがわかる。この少女に、アマネさんになら主人を任せても大丈夫だと思えるのだ。きっと私以外のメンバーも同じ気持ちだろう。少しだけ聞く事になったその辛い過去を知り、この子自身にも幸せになってほしいという気持ちもある。

 

 

 

 お茶を口にしてそんな内心の葛藤を隠していると、アマネさんが突然立ち上がった。

 

 

 

「ロイドさんごめんなさい、ご主人様が帰ってきたみたいなので雨音は帰ります。お話聞かせてくれてありがとうございました」

 

「いえ、構いませんよ。ではアマネさんお気をつけて」

 

 

 

 私には全くわからないが、この少女には何か感じられるものがあるようだ。勢いよく頭を下げて礼を言うと扉から駆け出そうとし、思い出したように早歩きに変えて部屋から出ていく。どうやら見えない所でもメイド長の教えを律儀に守っているらしい。本当にこういうところが可愛らしくてとてもじゃないが憎めない。

 

 

 

 さて、昔話をしたらなんだかもっと語りたくなってきた。久しぶりにメンバーで集まって酒を飲むのも良いだろう。確か書斎にクリス様が隠していた秘蔵の酒があったはずだ。彼と少女の話をつまみに飲めば、きっと格別に美味いに違いない。

 

 私はカップに残った僅かな茶を飲み干すと誰から声をかけようかと考えながら部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価ありがとうございます。

前回の後書きで感想と評価いっぱい下さいって書いたら本当にたくさんもらえました。ありがとうございます!もっと早く言えばよかった(ボソッ)


今回はロイド君から見た主人公の話。
本編は主人公の一人称なので中々掘り下げる機会がないので、たまにこういった閑話で語っていきたい。そして主人公が自覚する前からヒロインの事好き好きしてたのが周りにバレバレだったという話になっていた。
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