辺境領主は銀髪ロリエルフをprprしたい 作:名もなきrlkn
おっはーーー!
起きろー、起きろ雨音ー。まだ夜だけど起きろー。起きたな?よく眠れたかな?眠れてないよな。まだ3時間しか経ってないからな。だが起きろ。そして飯を食え。お前にはこれからしばらく3時間毎に飯を食ってもらう。拒否権は無い。
寝ぼけたまま頭をふらふらさせている雨音にまくしたて身を起させる。ベッドに乗ると雨音の後ろに座り、その膝の上に雨音をのせ背をこちらに預けさせた。雨音のその焦点の合わない目はさらに微睡んでおり、何がおこっているのかよくわかっていないだろう。口が半開きになっているのをいいことに、そこにシチューペーストを少しずつ流し込んでいく。半分寝ているようだが、生理学的反応によってか口の中の物はとりあえず飲み込んでいるようだ。白くてドロドロしたものを半ば意識のない少女に無理やり飲ませる変態いるらしいっすよ、俺なんすけどね。んーエッチ!
アホな事を考えつつも手元はつつがなく動き、持ってきたシチューペーストは見事になくなった。とりあえず同じくらいの量にしておいたが無理した様子はない、問題はないだろう。雨音を再度ベッドに横にして少し頭をなでていると、すぐに寝息が聞こえてきた。まぁ肉体は休養を求めてい
るはずなのでしばらくはこんな感じかもしれんな。
別に嫌がらせでこんな事をしている訳ではない、とにかく雨音に栄養を摂取させるためだ。人間の赤ん坊と一緒だ、赤ん坊は成長のため、雨音は傷を癒すためだが多くのエネルギーを必要としている。しかし一度に摂取できる量が少ないので、その分数を増やすしかない。しかし赤ん坊は空腹になれば泣いて知らせるが、雨音は空腹であることが常態化しすぎて脳が危険であると判断出来ていない可能性すらある。なので少々無理やりにでも食べさせるしかないのだ。雨音お前……赤ん坊にも負けるとか恥ずかしくないの?
眠る雨音のお腹に手を添えて気功を流す。人間の持つ魔力、オドと根源は同じ物だがより生命エネルギーに近いそれは相手に拒否反応を起こさせる事無く流す事ができる。大きな回復効果は期待できないが、体調を整えたり気持ちを落ち着けたり、身体能力を補助したりと便利な面も多い。今回は内臓系を中心に覆い、消化を助ける目的だ。ペースト状でほぼ液体のようなものだとしても、食べ物を消化するのには多少の負担がかかる。流石にそれでどうこうなるとは考えにくいが、やらないよりは良くなるだろう。
それから数度、同じ事を繰り返す。食事はとりあえず簡単に作れるミルクで煮た麦かゆや果物をすり下ろした物も用意した。味覚がほぼ無いとはいえ若干は感じるようで、果物を与えた時は甘味に反応したのか若干嬉しそうにしたように思う。寝ぼけてたので夢の中で美味しく感じられる物でも食べていたのかもしれないが。そうして食事の時以外は手を握ってやりながらお腹に気功を流す。暇なので本でも読みたいのだが、握った手を離して少しすると何かを探すように手を彷徨わせるのだ。しばらく観察しているとだんだんと表情が苦しそうになり、手を握ってやると穏やかになる。そんな事を数回繰り返してどうにも握ってないとダメそうだと諦めた。仕方がないので瞑想して時間を潰す。
気が付けば雨は止んでおり、窓の外に広がる空は少しずつその明るさを増している。まだ早朝と呼ぶにも早い時間だが、本邸ではそろそろ人が動き始める頃だ。誰かに頼んで子供用の服でも手配してもらおう、いつまでも裸のままではロリコンには目の毒だ。やめろォ(建前)ナイスゥ(本音)
ベッドを離れようと立ち上がるが手を引かれる感触に立ち止まる。起きたのかと雨音の方を見てみるがまだぐっすりと寝ている様子。どうやら手だけがっしりと掴まれているようだ。そんな様子に小さく笑いながらその手をはが……はが、れない。なんだお前握力くそ雑魚の癖になんでこんな強く握ってんの?必死か?!
別段強い力という訳ではない、しかし力を入れて剝がそうとすると雨音の手を怪我させてしまいそうでそれも中々できずに対応に困る。どうにか傷つけないように手を引き抜き、今度は苦笑いを浮かべる。まくれてしまっていた布団をかけなおして俺は寝室を後にした。
本邸ではやはり、すでに使用人達が働き始めているようだ。あちこちでその気配を感じる事ができる。本邸は同時に領主館を兼任しており、他領からの来客、街や村からの嘆願や依頼等を対応する役割を担っている。住居スペースは離れているが、建物自体はつながっていてその維持管理も使用人の仕事に含まれる。
現在は外からの客などが来ることはまず無いため人員は少ないまま運用しているが、領地経営も軌道に乗り始めた今この後も発展していくためには他領とのやり取りも必要になってくるだろう。対応のためにもそろそろ本格的に人員の補充と教育を指示していかなくてはなるまい。ついでに貴族外交も気は進まないが再開していかなくてはならないだろう。実務は出来る奴に投げればいいが、貴族同士のやり取りはどうしたって必要になってくる。あぁ考えただけでめんどくさい。やっぱりそこらへんのおっさん捕まえて来て変わってもらおうかな……
せんの無い事を考えながらも本邸に足を踏み入れ、とりあえず誰か呼ぼうと声を上げようとした時だった。すぐ右手の壁からぬるりとウォルダーが抜け出てくる。
「おかえりなさいませ、ぼっちゃま」
ぬぉ、ウォルダーお前周りに人が居ないからって壁とかすり抜けてぬるっと出てくるのやめろよ。居るのわかってても絵面がインパクトありすぎてビビるわ
「ほっほこの老骨、近頃はぼっちゃまを驚かすのだけが生きがいでしてな」
これはアドバイスなんだけどもうちょっとマシな生き甲斐見つけた方がいいと思うよ?
昔から謎の多い存在だったウォルダーだったが、一度問い詰めてみた所実は魔族の一人だったらしい。
人族のなかでも特に強い種族である魔族は、その能力の高さに反比例して繁殖能力に乏しい。もしくは能力が高いが故に個体数を増やす必要がなかったのかもしれないが。比較的良く見かける他の種族に比べ、見かける事は本当に稀だ。
そんな魔族であるウォルダーがなぜ家令などやっているのかといえば、どうやら昔初代領主に敗れその配下として下る事になったらしい。そもそも初代が辺境とはいえでかい土地を任され、辺境伯なんて物に叙任されたのはこのウォルダー討伐の功績を認められてのものだ。
当時暇だったウォルダーは近くで拡大していた人間族のコミュニティ、つまり王国に色々ちょっかいをかけていたらしい。それに対処するために様々な貴族が挑みかかり、ようやく倒す事に成功したのが初代様だった。初代様は打倒したウォルダーになんでこんな事をしたのかと問い、その暇だったからという理由を聞いてならば私に仕えよと臣従させたらしい。初代様ちょっと器がばがばすぎんよー。
ウォルダーもそれに面白がって、ならばその一族、つまりエディルナ家が滅びるまで暇つぶしに観察してやろうという事で契約するに至った。先代であるパッパを見て、これは早々に滅びそうだけど最後に面白いものが見られそうだと思っていたら、俺がどうにか立て直してしまったのを見て内心面白がっていたそうだ。歴代当主には折を見てその正体を明かしていたらしく、パッパがウォルダーを遠ざけていたのもそこらへんが理由なんだろうか。
ウォルダーはいつもの胡散臭い笑みを張り付けたまま手にした荷物を俺に渡してきた。
「子供用の服と肌着を幾つか見繕っておきましたので、ご利用ください」
色々と言いたい事はあるが礼は言っておこう、ありがとう
「ほっほ、なんのこれしき。坊ちゃまに仕える者として当然の事ですぞ」
人を覗き魔の親玉みたいに言うの止めてくれない?
まだ何も伝えていないのにこの手回しの良さ、大方昨日の街でのやり取りを覗いていたのだろう。
どうもこの魔族、趣味の一環として王国各地に使い魔――正確には本人の能力の一部らしいが――を放っており、それによって様々な情報を入手している。主に誰かの弱みになる事に偏っているように感じられるが。
当然アルトの街にも放たれており、奴隷商の近くにも居たようだ。今更の事であるしその情報網に助けられる事も多いので責める気にもならない。最近は俺の手勢の隠密集団ONIWABANも順調に育ってきており、多方面から情報を手に入れその確度を上げている。やはり忍者はロマン。情報を制する者は世界を制す、いつか世界を裏で牛耳るフィクサーごっこをしたいのでこちらも組織の拡充を進めていきたい。閑話休題。
ともあれ人を使う手間が省けたのはありがたい。ついでにロイドへの伝言やこの後の指示もいくつか出しておこう。しばらくは雨音にかかりきりになるだろうし、重要度の高いもの以外は適宜処理してもらえればありがたい。
「かしこまりました。とある商家から年端もいかぬ少女を金を出して無理やり連れ帰り別邸にていかがわしい事を行っていて忙しいので顔を出せないと、家の者たちには確かに伝えておきましょう」
すみませんその悪意しか感じられない言い方やめて頂けませんかねぇ!
「おや、いかがわしい事はなさらないので?」
ハハハオマエハナニヲイッテルンダ
いや、するけどさ。そのうちするけどさいかがわしい事。でもまだしてないからセーフ、セーフじゃない?だめ?そっかぁ……
とりあえず表面上はごまかして逃げるようにその場を後にする。ウォルダーの奴本当に言いふらしたりしないだろうな、冗談めかした口調ではあったがあいつなら本当にやりかねない怖さがある。しっかり釘を刺さなかった事を少し悔やむ。もし使用人たちにこのことがバレたら……いや、あんまり問題ないなこれ。使用人たちにはビビられててまともに会話できるのも少数だし、元から低い好感度が下がった所で今更だ。そもそも見た目が厳ついとはいえ年頃でしかも貴族の俺が、ちょっと街で女をひっかけてきたとして何の問題があるだろうか。それが金で買った奴隷ならばなおさらだ。ちょっと幼いだけで。いまいちこの世界の倫理観を把握できていないが、そう酷い醜聞になる事ではないはずだ。ならないよね。
雨音を衝動的に連れ帰ってしまった時はたいして気にしていなかったが、落ち着いて考えられるようになると今の状況はとても美味しい状況と言える。前世では特殊な立場だった事もあり、色々と我慢する事が多かった。そんなロリコンの手元に自由にできる少女が転がり込んできたのだ、これはもういっそ据え膳と言っても過言ではないのではなかろうか。下半身からほとばしるリビドーに悶える日々ともさよならできるかもしれない。
とはいえそれもこれもまずは雨音が回復してからだ。まさか助けようとした少女と無理やり行為に及ぼうとして死なせてしまったなんて事になれば笑い話にもならない。(僕はロリコンだけどネクロフィリアとかそういう性癖は)ないです。
だがこれ雨音の立場からすると、地獄のような状況から抜け出す事が出来たと思ったら顔の怖い偉丈夫に手籠めにされてしまう訳で、地獄に比べれば煉獄のほうがマシだよねって状況になるだけではないだろうか。そんな事心配するならそもそも手を出すなという話であるのだが、すでに俺は雨音の事を気に入ってしまった。どうにも昔から自分は執着心が強いようで、一度自分の物だと認識するとそれを手放す事に強い拒否感を覚える。気に入ったものであれば尚更その傾向は顕著になる。大して興味のないものならぽいぽい捨てられるんだけどね。
別邸に帰り着き一息つく。そろそろ時間なので飯の準備でもしようかと思った所で、寝室のほうからボスンと鈍い音が聞こえた。寝返りを打った雨音がベッドから落ちたんだろうか。床にはふかふかの絨毯があるし、念のため周りにクッションを敷き詰めておいたのでケガするような事はないと思うのだが。まぁ万が一があっても困るので先に様子を見に行くとしよう。
気持ち速足で寝室に向かい扉を開けると、雨音は足をぷるぷる震わせながら立ち上がった所だった。音で気付いたのかこちらに歩き出そうとし、足元のクッションに躓いて顔面ダイブしそうになるのを慌てて支える。おいおいバイタリティに溢れるのはいいが無茶すんなよ、今のお前はワンミスが命取りであるのを忘れるな。
ついでにそのまま抱きかかえると首元にヒシとしがみ付いてきた。声をかけてみるが反応する余裕もないようで、まるで迷子になった幼子がようやく親を見つけ離すまいとするような必死さを感じさせる。恐らく目が覚めた時に周囲にいなかったので不安だったとかそういう感じだろう。でも君いくらなんでも会って1日経ってない奴に警戒心無さ過ぎじゃない?都合が良すぎておじさん逆に心配になってくるよ。
もう少し落ち着くまで待ってやりたい気持ちもあるが、今の雨音はすっぽんぽんである。さっさと服を着せてしまおう。残念ながら今は理性と性欲のチキンレースを楽しんでいる場合ではない。
おはよう、雨音
「……はい、おはようございますご主人様」
挨拶をしてやれば少し落ち着いたのか返事が返ってくる。そうして一瞬気を緩めた所で一気にその体を引き離す。ふふ、抵抗などさせぬわ。
ベッドに座らせると足から子供用おぱんちゅ――パンツやショーツではない、おぱんちゅだ――を履かせ、上は肌触りの良いシルクの肌着を着せる。その上から着脱のしやすいよう病院に入院する際に着る検査衣のようなものを羽織らせ腰ひもで結んでやる。若干サイズが大きいようだが問題ないだろう。ざっと全体を確認すると改めて抱き上げてやる。
急に引きはがされたのが不満だったのかなんとなく非難めいた視線を感じる。表情の変化に乏しい奴だと思っていたのだが、案外感情の起伏は大きい方なのかもしれない。今までの境遇がそれを押さえつけていたというのはいかにもありそうだ。まぁそこらへんも含めてリハビリしていけばいい。再び首元に抱き着いたのを確認し、ずり落ちないように支える。とはいえあまりにも軽すぎて片手で余裕なのだが。今度は剥がされまいとしがみ付く雨音をそのままに部屋を出た。
やはりというべきか、食事を作るからと言っても離れようとしない雨音に手をやきつつどうにか片手で用意した。軽く食事を済ませると、雨音に魔力を流し検査を行う。たった一晩ではあるが栄養をしっかり摂取したおかげか昨日よりも多少状態は良くなっているようだ。雨音自身の肉体の影響も大きいのだろうが、これなら危険な状態はすぐに脱するだろう。
夜に食べさせてやっていた事は覚えているか聞いてみれば、やはり殆ど覚えておらず夢だと思っていたようだ。まぁ食べられさえすれば良いのだし構わないのだが、一応どうしてそうするのかも伝えておく。胃の大きさも戻すために食事一回毎にスプーン一杯程度ずつ増やしているのだが、こちらも順調だ。食べ過ぎて戻してしまう可能性も考えていたが、気功で胃の動きを補助してやってのも良かったのかもしれない。
食事を終えて一息ついていると、雨音はすぐにウトウトしだした。しばらくはこうして食事と睡眠を繰り返す事になるだろう、変に緊張して眠れないというような事がなくて一安心した。
そんな日々を3日ほど過ごした。雨音の回復力は予想をはるかに超えて高く、すでに流動食だけでなく固形物も少しずつ食べられるようになっている。こうなれば摂取できるエネルギー量も増えるので更に回復力は増していくだろう。当初はポーションの使用に耐えられるようになるまで2ヶ月程度はかかるだろうと見ていたのだが、この様子ならもっと早くても大丈夫かもしれない。
回復に伴い少しずつリハビリも行う。と言っても急に運動するわけではない。凝り固まった筋や筋肉をマッサージで解すのがメインだ。それでもそれなりにエネルギーを消費するので本当にゆっくりとだが。
だんだんと一日の睡眠時間も短くなり、起きている時間が増えると俺は雨音にこれまでの話を聞くことにした。心情的にはしんどいのがわかっているので聞きたくないのだが、これから一緒に暮らそうというのだからそれなりに相手の事を知る必要はあるだろうと考えたのだ。
とは言えあまり話したい内容でもないだろうから無理にとは言わないが、と断りを入れたのだが、雨音は特に悩む素振りもなくいえ構いませんと話し始めた。あ、そっすか、はい聞きます。
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彼女が生まれたのは山林にある、とあるエルフの集落だったそうだ。主にエルフとダークエルフが集まっており、他種族はたまに外からくる者を見かける程度だったらしい。
エルフとダークエルフは見た目が対照的なため呼び名を区別されているが、種族としてはそこに差異はほぼない。エルフはほんの少し魔力の扱いに長け、ダークエルフはほんの少し肉体的に優れる程度で、そこに優劣はない。
多少排他的であったりしきたりにうるさかったりするが、何かを求めて争うような事はない平和な所だったようだ。当然双方に隔意などなく、エルフとダークエルフの夫婦など珍しくもなかった。ハーフエルフの忌子に関する言い伝えも知ってはいたが、長寿である彼らでさえ見た事はなく、しきたりを重んじる長老たちであってさえただのおとぎ話であると考えていたほどだ。そう、雨音が生まれるまでは。
集落でも若い夫婦であった二人。妻であったエルフは初産でもあり多くの人の助けを受けながら出産に挑んだ。そして、陣痛が始まりいよいよ出産が始まろうとしたとき、その赤子は母親の胎を裂いて生れ出た。その赤子はエルフの白い肌を持ちながら、ダークエルフの銀色の産毛と紅い瞳を持った、生まれるはずのないハーフエルフだった。伝承の忌子であるハーフエルフの産声が響く中、母親は息を引き取った。
これは俺の予想だが、恐らく雨音が魔力を無意識に封じている原因がこの出産だろう。出産は母子ともに大きな負担をかける。広がるとはいえ狭い産道を通るのだ、意識の曖昧な赤子といえど痛みを感じるだろう。そして初めて感じる痛みに驚き魔力を放出しそうになるが、防衛本能でそれを留める。しかしそのほんの一瞬漏れ出ただけの魔力に、母親は耐える事が出来なかったのではないだろうか。
当然集落は荒れた。すぐに赤子を殺すべきだという者もいれば、伝承が本当だとすれば殺せば更なる災いが訪れるからダメだと言う者もいた。しかし双方ともに排斥の意思は同じだった。しかしこれに一人だけ反対の意思を持つ物もいた。夫であり父親であるダークエルフだ。彼は妻であるエルフを凄惨に殺した相手であると知りながら、それでも私の子供であるとかばったのだ。そうして彼は一人で赤子を育てはじめた。
しかしその数年後、彼は狩りの途中に事故に会い、家の中で独り待つ子供を残しこの世を去った。
この時雨音はまだ物心つくかどうかという頃だったらしく、父親の事もあまり覚えていないそうだ。ただたまに、何かを我慢するようにじっと彼女を見つめている姿だけがやけに印象に残っているという。
早々に両親を亡くした雨音は、その後集落で育てられる事になった。内容を聞く限りでは、それは育てるというよりも飼うと言ったほうが適切であるような話であったが。
集落のエルフ達が雨音を放逐しなかったのは、忌子を殺すというのがどの範囲かわかりかねたためだろうか。直接的な事だけなのか、間接的にでも関われば呪われるのではないか、そんな考えがあったのだろう。他には雨音が弱い存在だった事も関係しそうだ。肉体的に頑強であるとはいえ、雨音はエルフの集落のなかで唯一魔力を持たない存在であった。忌子だ悪魔だと恐れつつも、明確に自分たちよりも劣る存在。何をしても許される存在として価値があったのかもしれない。
そうして同じ子供たちからはいじめられ、周りの大人たちからは蔑まれながら数年、転機が訪れた。
集落に怪しげな男が現れた。その男は人買いだった。寂れた村落を周って口減らしをしたい者がいれば話を持ち掛ける。対象は主に子供であり、奴隷契約を交わして本来その本人が受け取るべき報酬を親に渡す。王国において特別珍しくもない存在。
本来ならば男はすぐに集落から蹴りだされていただろう。エルフは寿命が長い代わりに子供は少なく、その子供を売ろうなどという者はまずいない。男もそれを承知しており、集落によったのはたまたま近くを通ったからだった。
エルフの奴隷は高く売れるがそれは希少なためだ。人の都市に住むエルフは強者であり、自らを売って奴隷になるような者はいない。無理やり攫おうとして返り討ちにあうなんてのは酒場での定番のネタだ。男もあわよくばとは思っていたが、話を持ち掛けても一蹴されるのが落ちだろうと考えていた。それでもわざわざ立ち寄ったのは、万が一があった時のリターンがそれだけ大きかったからだ。
果たして、男は思わぬ幸運を得る事になる。集落にいた忌子と呼ばれるハーフエルフを安く買うことが出来たのだ。男もエルフの忌子の言い伝えを聞いたことはあったが、そんなものを信じてはいなかった。人とのハーフでは価値が下がるが、エルフ同士のハーフであるならばむしろ好事家に高く売れそうだと小躍りした。
こうして売り払われる事になった雨音だが、集落のエルフ達は更に追い打ちをかけた。エルフの種族的な象徴とも言える耳をちぎり、安易に治らないよう傷を焼いたのだ。誇りやアイデンティティといったものを理解できていない雨音だが、この時は酷いショックと強い喪失感を味わったという。今よりも更に幼い時期だ、単純に片耳を失ったというだけでもその衝撃は計り知れない。
こうして売られた雨音だが、男の元にいる時間は短かった。高値に吊り上げようと考えていた男だったが、雨音を買ってからいくつもの小さな不幸が重なった。普段なら少し運が悪かったですませるようなそれも、エルフの忌子を買った男には何かの祟りであるように感じられた。やがてある街の往来で馬車に轢かれそうになると、このままでは呪い殺されるのではと考え始め、殆ど利益の出ないような値段で雨音を手放した。
新しく雨音を買ったのは神父だった。だがそれは、聖職者として奴隷に落ちた少女を救うため、なんて理由ではなかった。神父は雨音を教会の地下室に連れていくと、そこに監禁した。手かせと足かせを付けられ動くこともままならない。そして神父は雨音を悪魔と呼び、様々な責め苦を行った。
神父はただ嗜虐心を満たすために拷問を行った訳ではないようだった。毎日、それこそ勤勉にと言えるほど雨音を罵倒し、責め続けた。それと同時に神父は雨音に言葉を教え、聖書を読み聞かせた。言葉を知らぬ者は獣と同じであり、獣のままでは神に救われる事は出来ぬと言われたそうだ。
雨音が境遇の割に言葉遣いがやけに上手いのはこれが原因だろう。少しでも間違えれば躾と称して責め苦は更に酷くなり、必死で覚える事になったという。
雨音には理解できなかったが、神父にとって雨音は悪魔であり、生まれた時から大きな穢れを持つ悪魔は死んでもその穢れを保持したまま生まれ変わりまた悪魔となってしまう。それを正し、悪魔ではなく人として生まれ変わるため、生きている内にあらゆる責め苦を負って罪を贖い穢れを禊ぐ必要があるのだと言われていたそうだ。正しく狂人の言だ。
だが神父にとってはそれは何よりも正しい真実であり、彼の前に忌子が現れたのはその魂を救済せよとの神の思し召し、使命であると感じたのだろう。雨音の子宮が特に酷い状態だったのも、万が一手元から逃がしてしまった場合を考えての事か。あるいは、悪魔の子など産まれる者が居ないようにという彼なりの慈悲ですらあったのかもしれない。
こうして毎日酷い責め苦を味わい、時に魔法で強制的に回復され、地獄の日々は続いた。
しかし、ある日を境に急に神父が現れなくなると、少しして別の誰かに連れ出された。その後はよくわからぬまま連れ回されて、最終的にここにたどり着いたそうだ。
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喋りつかれたのだろう、今はまた腕の中で静かに寝息を立てる雨音をそっと撫でる。
話が、重い。身構えていたにも関わらずこの衝撃、こやつ浸透勁の使い手か……?
何が一番きついって、その壮絶な内容を実に淡々となんの感情も乗せることなく喋るのだ。悲しみも、苦しみも感じさせず、ただありのままの事実を話すだけ。そんな情緒が育っていないという事もあるだろうし、俯瞰的に見ることで精神を守ろうとする防衛本能もあったに違いない。今こうして正気を保てているのは奇跡以外の何物でもない。
俺はこの少女に何が出来るのか、何をするべきなのか。様々な思いや考えが浮かんでは消える。
自分がこの少女を幸せにする、などと傲慢な事は言えない。人に押し付けられた幸せなど意味はなく、件の神父ですらある意味では悪魔という枷から解き放ち少女を幸せにしようという行いと言える。
ならばこそ、何か特別な行いをする必要はない。この先の日常の中で、少女が自らの幸せを見つけるのを見守ろう。降り注ぐ痛みや恐怖から守る傘であろう。いつの日かそんな昔の事は忘れたと誰かと笑えるような未来を作ろう。
彼女のご主人様として、その程度の権利はあるはずだと、誰にともなく呟いた。
感想、評価、お気に入り登録ありがとうございます。
数に限りのある10評価を入れて下さる方もいて、うれしさのあまり小躍りしてしまいました。
感想に関しても今までにない反応を頂き驚きました。やっぱみなさん濡れ場が好きなんすねぇ……すみません、嘘です。やはりヒロインがまともに描写されたおかげでしょうか。いやほんと登場が遅くなり申し訳ありませんでした。
とりあえず今回でだいたい書き出せたと思うので、ヒロインの重い話はもうほぼないと思います。