新年初投稿です。
今回は予告通りセリア先生の閑話をお送りします。
セリアが何故白銀の花嫁になったかをご覧下さい。
私──セリア・クレールはアリアの淹れてくれた紅茶で喉を潤し、スポンサーであるリーゼロッテ・クレティア嬢と学院の応接室で談笑していた。
「セリア様の発明した魔道具はお客様に大変評判も良く、お陰で我がリッカ商会の売り上げは前年比30%もアップしました。本当に感謝しておりますわ」
「こちらこそ。リーゼロッテ様の資金援助のお陰で長年の研究が完成しましたから」
「あら、では私達は理想的なビジネスパートナーと言えますわね」
「あはは、そうですね。今後ともよしなに」
リーゼロッテ嬢との出会いから早1年、彼女の資金援助を得て研究は飛躍的に進み、先日遂に完成した。
人の魔力量を正確に測定する魔道具──魔力測定器の完成により、私の魔道士としての評価は大きく上がり、より上位の
更に国王陛下から直接お褒めの言葉をいただき、その時かつて教え子であったクリスティーナ第一王女殿下とフローラ第二王女殿下とも再会出来た。お二人共より美しく、より女性らしく成長していて、身体的に全く成長していない私からすれば羨ましい限りだ。うぅ、せめてあと5cm背が伸びたらなぁ・・・・・・
「セリア様? どうかしましたか?」
「! あ、いえ、失礼しました。つい考え事を・・・・・」
リーゼロッテ嬢に声をかけられ我に返った私は思わず笑って誤魔化した。いけない、来客中なのに・・・・・
「構いません・・・・・それにしても以前来た時より何やら王都中がピリピリしていますね。やはりプロキシア帝国の侵攻が原因でしょうか。心中お察しします」
心配そうにリーゼロッテ嬢が洩らす。確かにその事は懸念の一つだ。
近年北の大国プロキシア帝国が国境に軍を進めて来た。
プロキシア帝国は大小様々な国を武力で征服し、版図を広げ大国と呼ばれるに到った国だ。当然ベルトラム王国は侵攻を食い止めようと軍を差し向け、国境付近では小競り合いが続いてるという。
ベルトラム王国有数の魔導師である私の父、クレール伯爵も王命により従軍する事が決まったと先日届いた手紙に書いてあった。あのお父様の事だから大丈夫だと思うが、戦場では何が起きるか分からないし、やはり心配だ。
宮廷では一度は失脚したアルボー公爵が息を吹き返し、今宮廷ではアルボー公爵派とユグノー公爵派、そして国王派の3派に分かれ政争を繰り広げている。因みに私の実家クレール伯爵家は国王派に属していた。
「セリア様、もしもの時はアマンドへ避難して下さい」
「リーゼロッテ様、それは───」
「貴女の才はくだらない政争などで失うにはあまりにも惜しい。貴女を守る為なら私は実家に働きかける事もいといません」
彼女の実家クレティア公爵家は大国ガルアーク王国の重鎮。つまり彼女はガルアーク王国を動かすつもりもあると言ってるのだ。でも、
「ありがとうございますリーゼロッテ様。ですが私も貴族の端くれ。まだ情勢も定まらぬ内に他国へ逃げては笑い者になりましょう。お言葉だけありがたくいただいておきます」
彼女の気持ちは嬉しいが、他国の貴族である彼女にこれ以上甘える訳にはいかない。私はにっこりと微笑んだ。
「セリア様・・・・・・分かりました。確かに些か急な話でしたね。ですが万が一の時はご一報下さい。必ず力になりますから」
「ありがとうございます、リーゼロッテ様」
差し出された手を握り返し、私達は別れた。
「ねぇアリア、頼みがあるの」
アマンドへ帰った私──リーゼロッテは傍らに控えるアリアに話しかける。
「セリアの件、ですね?」
流石は我がメイド長。私の考えを良く分かってるわ。
セリア・クレールの発明した女性用魔道具(前世のままにローター、バイブレーターと命名)は予想通り貴族のご婦人方の間で大ヒットした。当然モノがモノだけに誰がどんな商品を買ったかは秘密を厳守しており、それにより我がリッカ商会の評判は更に高まった。
これは全てセリア様のお陰と言っても過言では無い。この1年、彼女と交流する内にどんどん親しくなり、どんどん惹かれていった。今ではアリアと同様年上の友人だと思ってる。だから商品開発の為だとか魔道士としての才能以前に、大切な友人である彼女を私は失いたくない。
「ええ。もしもの時の為にセリア様を救出する手筈を整えておいてちょうだい。───例え彼女の意志に反するとしてもよ」
「承知しました」
一礼してアリアは執務室を出て行く。それを見送り、私はふと窓の外を眺めた。
「───風が強くなって来たわね・・・・・」
私にはその風が何か不穏なものを運んで来るような気がして仕方がなかった。
それから間もなくしてプロキシア帝国との小競り合いは本格的な紛争に発展、そしてベルトラム王国は大敗を喫した。帝国軍はそのまま王国領内へ侵攻、国内は大混乱に陥った。
その混乱を鎮めたのはアルボー公爵だった。彼の仲介によりプロキシア帝国とベルトラム王国は和睦、紛争は終結した。
紛争が終結してめでたしめでたし、とはいかなかった。
プロキシア帝国からは当然の如く多額の賠償金を請求され、事実上敗戦国である我が国は従わざるを得なかった。
ユグノー公爵はアルボー公爵から敗戦の責任を追求され失脚、公爵は王都を逐われ、宮廷からユグノー公爵派は一掃された。
ユグノー公爵派に宮廷を牛耳られて来た国王派はこの機会に政権を握りろうとするも敗戦によりただでさえ低かった発言力が更に低下、紛争を鎮めた功績を盾にアルボー公爵派が政権を握るのを黙って見ているしかなかった。
国王派の勢力が衰退したのは残念だけど、幸いお父様は大きな怪我も無く帰って来たし、私──セリア自身に影響は無いと思っていた矢先、私の元にとんでもない厄災が舞い込んで来た。
「け、結婚、ですか!?」
「そうだよセリア君。是非君を私──シャルル・アルボーの7人目の妻に迎えたい」
突然研究室にやって来たシャルル・アルボーが私に
(
「あの・・・・ありがたいお話ですが私は今、研究に打ち込んでいますのでこのお話はお断り致します」
正直この人の意図が読めない。私は困惑しながらもはっきり返事して、深々と頭を下げた。
「ほぉ~~、この私の求婚を断ると。訊くが本当によろしいのかな?」
頭を上げた私の目に映ったのは、シャルルのイヤらしい笑みだった。
「どういう意味です?」
「いやぁ~~、君も先の紛争を治めたのが我がアルボー公爵家だと知ってるだろう? その功績もあって私はこの度近衛騎士団長になった」
「近衛騎士団長はエマール卿の筈では?」
「奴は紛争で大敗した責任をとって降格したよ。クク、全く無様だよねぇ」
シャルルは“王の剣”であるアルフレッド・エマール卿を敵視していたから、直接紛争に参加していない彼に責任を被せ、近衛騎士団長に返り咲いたらしい。
・・・・・ちょっと待って、それじゃあまさか───!?
私が表情を変えた事に気付いたシャルルはソファーから立ち上がり、私の隣にどっかと腰を下ろした。
「気付いたかい? 紛争に参加していないアルフレッドすら罰を受けたんだ。実際に参加したクレール伯爵も罰を受けるのが当然ではないかな?」
(この男何を───!!)
思わず激昂しそうになるのを堪えて言葉を続ける。
「でも父の魔術があったから、大勢の兵士が退却する事が出来たと聞きましたが?」
そう、お父様は敗走の混乱の中、魔術で敵を足止めして味方の退却を助けたと聞いた。お父様のお陰で大勢の兵士が救われたのなら、お父様に責任は───!
「そうかも知れないが所詮負けは負けさ。誰かが責任を取らなきゃいけない。そしてクレール伯爵が責任を取る立場にあるのは事実だからねぇ」
私は悔しくて拳を握り締める。
「・・・・・・父をどうするつもりですか?」
私が尋ねるとシャルルはイヤらしい笑みを浮かべ、断りも無く私の髪を一房手に取った。
「あの紛争に参加した指揮官はほとんど死んで、帰還した者ではクレール伯爵が最上位だからねぇ。下手すれば極刑───」
「──────!!」
「でも妻の父親を処分するのは私も忍びない。後は・・・・分かるだろう?」
「・・・・・・・・・・・はい」
シャルルは髪の匂いを嗅いで、そのまま口づけた。あまりの気色悪さに鳥肌が立つ。振り払いたいけど怒らせる訳にはいかない。嫌悪感を顔に出さないよう精神力を総動員して精一杯堪える。
「あの・・・・・・父とも相談しなければいけませんし、返事は少し待っていただきたいのですが・・・・・」
「フム、まぁいいだろう。聡明な君の事だ。間違った選択はしないと信じているよ、セリア」
そう言ってシャルルは再び髪に口づけると席を立ち、扉へと向かった。そして、
「あぁ、それと私はあまり気が長い方じゃない。分かるね?」
きっちり釘を刺して、今度こそシャルルは退室した。
「私に敗戦の責任を取れ、という声があるのは事実だ。だからってあんな奴と結婚する必要は無いんだよ、セリアちゃん」
「お父様・・・・・・」
シャルルの来訪から数日後、私の父──ローラン・クレール伯爵が私の元を訪れた。
私はお父様の処分を撤回したいなら結婚しろとシャルルに迫られ、もとい脅迫された事を素直に話した。お父様の所にもアルボー公爵自身が現れ、同じ内容を伝えたそうだ。お父様は当然の如く怒り、拒否したそうだけど───
「ですがそれではお父様が───」
「私の事はいい。セリアちゃんは自分の幸せだけを考えなさい。好きな男がいるんだろう?」
「はい・・・・・・・」
お父様は私に念を押すと急ぎ帰って行った。
お父様はもう覚悟してるように見える。でも私が逃げてお父様が処分されれば我が家に仕えている使用人や領民はどうなるだろう。そう思うと私が、私一人犠牲になりさえすれば───そんな考えが頭から離れない。
「私どうしたらいいんだろう。ねぇリオ、教えてよ・・・・・・」
私の呟きに記憶の中のリオは答えてくれなかった。
「ククク、もうすぐだ。もうすぐあのセリア・クレールが私のものになる」
私──シャルル・アルボーは勝利の美酒に酔いしれ、グラスを傾けた。
あの紛争はプロキシア帝国とアルボー公爵家が結託して起こしたものだ。王国軍の情報を洩らし帝国軍が勝てるよう仕向け、国内が混乱に陥った所でアルボー公爵家が仲介し、紛争を終結させた。その功績を盾にユグノー公爵を失脚させ、王家の力を削いだ。そして遂にアルボー公爵家が実権を握る事に成功した。これも全て───
「貴方のお陰ですな、レイス殿」
「恐縮です」
そう、全てはプロキシア帝国の大使であるこの男──レイス殿が計画した事だった。
父上がいつからプロキシア帝国と通じていたのか知らないが、私が近衛騎士団に入った頃に紹介され、それからは私の良き相談相手になっている。やや胡散臭い所もあるが、権謀術数に長け、その知識や能力は申し分ない。今回の計略も彼が立案し、見事に成功させた。
「全て貴方の計画通り進むとは・・・・・つくづく怖ろしい方だ」
「いえいえ、上手く行ってホッとしていますよ」
「それにクレール伯爵をわざと生かしておく案も見事でした。お陰で私はセリアを手に入れられる」
「セリア・クレール──天才魔道士と呼ばれ、その美しさはクリスティーナ、フローラ両王女に勝るとも劣らないとか・・・・そう言えばクレール伯爵の子はセリア嬢だけでしたな。確か王国法では結婚後クレール伯爵の身にもしもの事があれば、伯爵家の財産は彼女の夫である貴方が相続するんでしたか」
「その通り。彼女は若く美しいだけじゃなく、富と名誉まで私に齎してくれる。彼女こそ私の花嫁に相応しい」
「いやはや羨ましい限りですな」
「ククク、結婚式は我が家の権力を示す為、盛大に行います。是非ご参加下さい」
「ええ。楽しみにしています」
レイス殿とグラスを合わせ、一気に杯を呷る。もうすぐだ。もうすぐあの美しい娘が俺のものになる。あぁ、彼女の柔肌はどんな感触なのだろう。抱いたらどんな声で啼くのだろう。全く、今から楽しみで仕方無いわ、ククク・・・・
読んでいただきありがとうございます。
次回は里帰りと四人娘とのイチャラブをお送りする予定です。