SEVEN's CODE二次創作小説【オレンジの片割れ】R18短編+マルメロ家二次創作エッセイR18短編 作:大野 紫咲
R18と言いつつ、結構真摯かつ赤裸々にに自分の性への悩みや拘りを綴った内容になっているので、気に入っています。
しぶ→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15616557
7月13日の夜。
ヨハネの誕生祝いを終え、山盛りの料理やらイラストやらを作り上げ、お手製の紫蘇ジュースで数度目の乾杯を終えた私は、苦心したそれに舌鼓を打ちつつ、ふとほろ酔い加減で(とはいえアルコール0なので全く酔ってはいないが)ヨハネに尋ねていた。
「ところでさ、ヨハネさんって今年で幾つになったの?」
「え? えっと……ここでの時間の進み方がよく分かんないんだけど。
もし時空が隔たってるだけで、こっちで過ごす分だけ向こうでも同じ時間が過ぎてるんだとしたら、捕縛解除の時点で19だったから……」
形のよい眉を寄せて、グラスを揺らしながらとんとんと机を指で叩きつつ考えていたヨハネは、ふと気付いたようにその指を止める。
「……そっか。ボク、今年成人だ」
ガラスを透かして遠くを見る目が、心なし感傷の思いを孕む。
捕縛の時でさえ、一年とは思えないほどの数え切れない出来事があって。その前も、色々あって。
結局は自立を考えて再びSOATに舞い戻り、働き続けてきたヨハネの中には、一種の感慨が巡ったに違いない。
その横顔を見て、ふうっと溜め息を零しながら、私はグラスの中で赤紫の液体を揺らした。
「そっかぁ……。じゃあ、し……」
「し?」
「え?」
心の中だけで言ったつもりのことが、思わず口に出ていたらしい。
不思議そうに聞き返したヨハネに、今気が付いたみたいな返事をしてしまってから、己の失態に気付いた私は、大慌てでばっと口を押えてから、勢いよく立ち上がった。
「ご、ごめん! なんでもない!」
「し? 何なのさ」
「ほんっとに何でもないったら! 私片付けて寝るね! もう眠いし遅いし、シャワー明日の朝にするから!」
「え、ちょ、何なの! 気になるでしょ!?」
バタバタと慌てて後を片付けるヨハネにも構わず、逃げるように寝支度を済ませてから、ちっとも眠れそうもない息切れした状態で布団に潜り込んで、せいぜいヨハネが戻って来るまでの間に落ち着こうと尽力した。
枕に顔を埋め、開口一番脳内を闊歩していたのは、こんな言葉である。
(っぶな~~~~~~! 何私「じゃあ、しても法律上は別に問題ないわけだね」とか言おうとしてんの!!! こっの年中肉欲しか頭にない穢れた悪魔! 尻軽女! 成人を捕まえといて! あほ! ばか! ぶち壊しにもほどがある!)
某ファンタジーに出て来る妖精のように、頭を仕置きがわりに壁へしこたまぶつけたくなったが、なんとか胸中で己を罵倒するだけに留めておいた。
何を
(あのねぇ……たとえそうであっても、もうちょっと雰囲気とかお互いの認識の擦り合わせってもんが先に来るわけでしょ……。
何? 成人した瞬間の夜に誘うとかただの色情魔じゃん私……最低……ソレ目的じゃないのに、ソレ目的にしか見えない奴だよ。一番最低なやつだよ)
いやソレ目的なのか? と半ば呟きながら、電灯の消えた部屋で、ナイトキャップも被らないまま大の字になった。
ここ最近ヨハネさんに口酸っぱくナイトキャップを勧められていたので、どうせ明日の朝洗うからと、微睡みに入る最中も珍しく枕に広げっぱなしだった長髪が、少し鬱陶しい。
どうして、私はしたいのだろう。
と、ちびやヨハネ達の温もりを、横になった体の両脇に感じながら、寝入りしなに私は考えていた。
別に、恋人だからとか夫婦だからという理由で、そういう行為をする必要は、特にないと今は考えている。というか、そもそも恋愛感情自体、必要でもないと思っている。
全くそのへんに意義を見出さなくとも、絆の元に暮らしていく人が多いことを知っているし、自分も現実の夫婦生活ではそうだし、そのへんの欲情と愛情に、何の関連性も、相関関係もないことは理解している。
けれど――ただしたいのだ。そういうことが。
恋人や、愛情を抱く相手にどんな程度で触れたいと思おうが思うまいが、相手の意志を無視せず公共に迷惑を掛けない限りは、個人の勝手ということになる。
そして私はしたい方の人間で、それが現実世界の誰とも合致しなかっただけの人間だ、と。
私は思いながら、寝返りを打つ。
この考えだけは、どんなに触れていても、隣の存在に伝わらないようにと、慎重に思考をシャットアウトさせながら。
暗闇の中で、考えるともなく思い返す。
成人どころか、物心ついて小学生になる頃には、もうそういう行為があることも、快感を得る術も知っていて、思春期の頃には好奇心と罪悪感ではち切れそうになっていた。
漫画の中でも物語の中でも、そういう風に主人公や登場人物の興味は描写される――けれども、少なくとも私の周辺人物に、自分以上に性への興味を真剣に持った人間が見当たらなかった。
こんな私は頭がおかしいのでしょうかと保健室の先生に不安で泣きつき、保険の教科書を特定のページだけ擦り切れそうなほど読み、夜ごと携帯でせいぜい安全そうな成人向けサイトを漁り、実家であろうと、暇さえあれば風呂場や布団の中で息を殺して自身の体を探索し――尚且つそんな自分を、人前で真摯にオープンにできるような人間が。
(いや、普通いないよね。爛れている……)
自分への呆れで、溜息が出る。
爛れていながらも、爛れた自分をただ嫌いにならず誇れるようになったのは、保健室の先生をはじめ、そんな自分をおかしくないと言ってくれた人が過去にいたおかげだろう。
愛理のような子がいるのも、今の自分があるからだといえる。
けれどまぁ、とにかく、周りの人間が興味を持たない中で、軽率にかつ熱心に、話題を振るわけにもいかない。
みんなが性欲を持て余してギラギラしているなんて、そんなのは多分、どっか東京とか都市圏とか、遠い世界の遠い人達の話だ。危険な誘いを掛ける王子様も、一夏のロマンスも私の生きる世界にないのに、私はなんでこんな人間に生まれてしまったんだろう。
なんで愛し合えば、体を通じても素晴らしい交歓が出来るなんて――甘い幻想を信じる人間に生まれてしまったんだろう。
しかも実際経験してみれば、そんなことは全然なかったのに。
現実で幾らそれを知って幻滅しても、他人の前で幾ら自分が平静を装っていても、性へ感じる魅力と興味が捨て去れない。
それがもう、マルメロのアイデンティティとしての一部だから。
見せないだけで、誰も知らないだけで、愛おしいと思えば尚触れたがり、甘い匂いにのぼせ上って、体は燃え上がるように熱くなる。幾つになってもそんな熱や痺れを毒花のように吸い上げて、得られる快感を糧に生きているような気さえする。
私にできるのはせいぜい、それがただのストレス解消の肉欲なのか、愛情に基づいているのかを踏み分けることと、相手も同じようにそれを望んでいるのかを、推し量るぐらいのものだ。
たとえそれが、妄想の中だけの存在だとしても。
割り切ってしまえば簡単なことで、その日料理でぐったり疲れていた私は、それ以上特に考えることもなく、やすやすと眠りに落ちていた。
[newpage]
次の日の朝のことだ。
珍しい朝。汗でべたつく体と髪を朝食後にさっさと流し落としてしまい、その間に回した洗濯機からシーツを干して、タオルを巻いた頭でぼーっと座椅子に寄り掛かりながら、私は思った。
朝にシャワーをするなんて、いつぶりだろう。
基本的に、一日の汚れはその日のうちに落として布団に入りたいから、よっぽど疲れている日以外は、夜に風呂やシャワーを済ませてしまう。
だから……朝になっても洗い立ての体が、どこを触れても清潔なままの状態が、とてもそういうことに向いている、と思って、髪を乾かしてから私は立ち上がっていた。
「ちょっとお昼寝してくるね」
私はいつもそう言う。
そう声を掛けられたちび達が、リビングで本当に「お昼寝」だと思ってくれているかどうかは怪しいけど、何も言わずに消えるのはちょっと忍びないので。
夏は暑いけれど、やっと半そでで、布団も被らずショーツを脱いで寝っ転がっても、寒くない時期になった、至高だ、と思いながら、布団を撤去したマットレスにタオルケットを敷いてぼふっと飛び込んだ。
何か着てないと体が冷えるけれど、布団を被ったり腹巻をしたりするのも、鬱陶しいし体が触りにくいし、イマイチ雰囲気に欠けるよな、と口が裂けても言えないことを年中思っている私からすれば、夏の暑さは一人あそびに何よりも向いている。
シーツを洗濯中なので、布団を上げてしまっている分、いつもと寝転がった感触も違う。マットレスに直接敷いた真っ白なタオルケットが、目を閉じるとひんやりと気持ちいい。
うん。気分が変わるのはいい傾向だ。
すとんとショートパンツもショーツも脱ぎ落してしまってから、ころんと転がっていつも通りに触れつつ、さりとて何を思い浮かべようかと考えた。
こういう事をする時に、気分や環境ってすごく大事だ。
当然ながら、子宮や膣は膀胱や腸と隣接しているから、お腹の調子が悪い時にはイマイチ集中できないし、宅急便が来るかもしれないとか何時までに出掛ける予定があるとか、落ち着かない状況でもする気になれない。
掃除の後の埃っぽい体も嫌だし、何の気兼ねもなく触れるように、最低でも体の下半分は水浴びが要る。
暑かったり寒かったりという要素はもちろんのこと、他の人は仕事に出たり起きて活動しているのに私はこんな……という妙に現実味を帯びた罪悪感も、邪魔になってしまう。
それらの厳しい条件を潜り抜けて、気持ち良くなる瞬間に立ち会えるなんて――それはもう奇跡のような巡り合わせじゃないかと、最近の私はそう思ってしまうぐらいだ。
一人でさえ、万全の条件を整えるのはこんなに難しいのだから、二人でするのは如何ほどの難しさかと思う。一人は楽だ。
(やっぱり、レズ風俗のお姉さんかな)
何の良心の呵責も覚えずに欲求を満たす。それには、同じく良心の呵責がない犯罪者に頼むか、専門職の人に頼むのが一番いい。
アブノーマルを望んでいる時は前者でもいいけれど、自分をちゃんと見て欲しい、と思う時には、やっぱり専門の人に架空の相手として出て来てもらうのが安心する。風俗のお姉さんでもお兄さんでも、マッサージ店のお姉さんでもいいけれど。
たとえ乱暴にされたい気分だったとしても、それが顧客との間の合意に基づいたSMプレイの一環だと思えば、安心して合法的に傷付けるのもいい。
いつもは仰向けのまま前だけど、折角そういう気分なのだし、たまには後ろでもいいな。
うつ伏せのまま、お尻の隙間に手を伸ばす。さて、どうやって濡らそう。いつものように指先で濡れる直前まで焦らしてから、趣向を変えて玩具を擦り付けながら気分を高めることにした。
大学生の頃からはるばる愛用しているそれは、形はそれらしいとはいえ、色もけばけばしくなく、大きさもそれなりだから、これで触れられるのは、本物よりも怖くない。快感だけに集中できる。
専門職の人は、きっとこういうのを使うのも上手い。さぁ、これが入るぐらい頑張って濡らしてみましょう、と耳元に囁きながら、手元を動かしてくれる。
……間違ってもヨハネさんなんかをオカズにしないように、と過剰に意識するせいで、普段以上にそのへんを綿密に練ってしまうな。
(愛理ならまぁ、互いに好きだしパートナー含めて合意も取れてるからいいとして……純情な美少年を、私の一存やら欲望やらでこっちの世界に引っ張り込むわけには)
「ボクが何だって?」
そう思ってそろそろ集中しようかと思った瞬間、どこからともなく声を掛けられて心臓が止まりそうになった。
「!!!!! って、ヨハネさ……え、なんで!?」
たまたま今日、うつ伏せにお尻を上げた姿勢だったから見えなかったことが幸いとはいえ、上はTシャツ一枚だし、あられもない格好に違いはない。
部屋の戸口に寄り掛かったヨハネさんの半睨みの瞳から、壁際の布団までばばばっと反射的に距離を取る。羞恥心で頭に血が上りそうだった。
「こ、こっち入って来たらだめって言ったじゃん!!! なんでよ!? なんでよ!?!?」
「あんたがずっと、何か言おうとして言わずに我慢してるから」
「ていうか、さっき、『ボクが何だって?』って聞いた!? 人の心読まないで!」
ていうか、読めるんだったら全部バレバレということでは!?
一体どうやって締め出そうかと、頭が大混乱する。
まさか覗きをするような子とは思わなかったけど、その様子からして覗きって感じではないし、私を気にして声を掛けてくれたのだろうが、時と場合ってものが……
「っていうか、慌ててないね……?」
「それなりに覚悟して声掛けたんだから、慌ててるわけないでしょ……。全部は無理とはいえ、あんだけ隣で念じられたら、うすうすあんたが何考えてるかぐらいわかるよ」
つっけんどんに言いながらも、こっちの寝床には寄って来るから体が固くなってしまう。
え、何。何何何。
「それで? ここに来たのがボクの答えって聞いたら、あんたはどうするの?」
「……。……っ、いやいやいや! ダメダメ! まっ、まだ未成年だよ!?」
「それは作中の話で、ボクは成人したんだって昨日あんたがボクに言わせたばっかりでしょッ!?」
「いや、怒ってる何で……や、怒ってるってことは、えーーっと……? ま、まって、ちょっとまって」
半ば苛立たし気に、どさりとマットレスの上に引っ張り込まれて心臓が止まる。さっきまでなかった熱が、いつも添い寝するのと同じ距離で、すぐ目の前にある。
するりと、素足の脚が向かい合ったままで絡んだ。
表情は、いつもと同じように不機嫌そうに睨んでるから、わからない。わからないけど、何をするのかされるのか、知らないわけじゃないようだ。
自分でここまで散々欲求を押し付けておいて何だが、何とか私は説得を試みようとした。
「……や、あの、あのね。成人とか成人じゃないとか、そういうの関係なく、だから。だって、私が勝手に思ってるだけで、勝手に気持ち良くなりたいだけで、それを人に押し付けるのは……」
「あんたはボクのこと、欲求不満解消用の玩具か何かとでも思ってるわけ?」
「っ、そんなわけない……けど」
思わず、傍に転がったピンク色のバイブを見た。これだって大事にはしてるけれど、一緒にいてくれる子達の魂は、それ以上にはるかに勝るに決まっている。
解消用の道具だなんて、そんなわけない。そんなはずないから、なおさらだ。
そういう目で見られたがらない人間が、そういう目で見られることをどれほど不快に思うかを、私は知っている。
こちらを見る、落ち着いた青い瞳を、ふと覗き込んだ。
女性の裸を見ただけで失神するほどだったヨハネさんは、私の傍にいることで添い寝が平気になり、目を合わせなければ一緒に風呂に入るのも平気になり、キスもするようになって――
だから、それ以上はなくて構わない、求めてないっていう、私の気持ちは本当だ。
期待をしても、それを綺麗に隠し通して手さえ出さなければ、かつての自分のように気が急くまま求めることをしなければ、その「愛情」は本物になるような気がしていた。
でも――
「本当に押し付けだって思うなら、ボクに聞いてみてから考えればいい」
「……」
「いい? あんたがしたいと望むことを、他人に強いたくないのと同じように、ボクがあんたに応えるかどうかは、ボクが決められる。
あんたの思ってることじゃなくて――ボクにも気持ちがある。それを最初から聞きもしないで、どうしてあんたが決めるのさ?」
「……でも」
最初から決めてかかっていたのは、聞くのが怖かったからだ。
答えに傷付くくらいならば、何も聞かず、望まずにいた方がいい。
今いる幸せ以上に、望みを持つ必要なんてない。
たとえどれだけうちだけのヨハネさんなのだと主張しても、皆が作り上げた「櫟夜翰」を壊すことなど、私はしたくなかった。
伸ばした片手が、さらりとした頬に触れた。
「……本当に、いいの?」
「あんたが安心できるまで、何回でも言ってあげるよ。あんたが望むなら、ボクはそれでいい」
「あんまり消極的な答えを返されると、それはそれで、本当にいいのかこっちは悩んじゃうんだけど……」
「ふーん? ……じゃあ、ボクの方からしたいんだって言って襲った方が、そっちにとっては得策ってこと?」
「ばっ……!」
冗談だよ、と寝転がったまま小さくくすくす肩を震わす姿を見て、恨みがましさがこみあげて来る。冗談でとんでもないことを言わないでほしい。
恐る恐る、それでもなんとか覚悟は決めて、私は恥ずかしさでぽすっと柔らかい胸の内側に顔を埋めた。
「だって、ヨハネさん全然、私のことは好きって言わないから」
「アイリとかは違うかもしんないけど、ボク、一番大事なことは口に出さないって決めてるタイプなんだよね」
観念して黙って顔を上げると、瞳を覗く前に今度は唇を塞がれる。
「どうしたらいい?」
「……うしろ、が、いい」
顔が見えない方が、多分お互い恥ずかしくない。
辛うじてそう伝えたら、さっきと同じようにうつ伏せの私に覆いかぶさったまま、滑らかな肌が背中に、柔らかな唇が今度は耳元に当たって、あとは夢のようにぼんやりとしていた。
[newpage]
する方とされる方とどっちがいい? なんて事前の話し合いがあったわけでもないのに、触る方に回ってくれたのは、それも心を読んでくれていたからなのかもしれない。
でも、初めてなのに他人にあられもない姿をさせるよりは、私がみっともなく全てを晒した方がずっと気が楽だから、それでいい。
一人で面倒な時はさっさと済ませてしまいがちだけれど、私は本当は、毎日後ろから抱き締めて寝てもらうぐらいには、後ろが好きなのだ。背中があったかいと安心して、でも抱かれる時には相手の顔が見えないように貫かれる方が、獣の交尾みたいで興奮する。
その性癖はしっかり愛理に反映されてしまっているので、多分あの子に聞いても同じことを答えると思うけれど。
別に、私は特段スタイルがいいわけでも、美人ってわけでもない。
きっと人からこんな場所を見られたら、ただ顔を歪めるほどに醜悪なのに違いない。
それでも誰かが触れてくれるのは、その人が私を愛おしんでくれるからで――その瞬間私は恥も外聞も気にせず、その人の手に掛かっている間だけは、その人が本気で私を愛おしいと思ってくれている間だけは、世界で一番の美女になれると思う。
ぼこぼこの肋骨を、褐色の指先が滑る度。
細い腕が、あの細さには到底及びもしないような腰を抱く度。
尿道からも膣壁からも、耐え難く蜜の零れる股下を、ここぞとばかりに擦られて、甘い指先に拭われる度。
現実の男とならば嫌なそれも、この子が相手だから、怯えずに済んでいる。もっともっとと、吐き出される欲望が火にくべられて強くなっていく。
絶対に、気持ちがよくなるって分かっていた。
手放したくなくなるって、分かっていた。
だから、私の思い通りになんか、したくなかったのに。
「もう少し、脚開ける?」
「っ、あ……」
うつ伏せでも、お尻を見せてるだけで恥ずかしいのに、これ以上って。
そっと、少しだけ膝を立てて見えるように股を開くと、ぬるついた指先がいともあっさり割り入ってしまいそうなほど、奥の奥まで濡れているのが、触られた感触でわかる。
「ねえ。もう入っちゃいそうなぐらい濡れてるんだけど。さっきまで、あんなに乾いてたのに」
「っ、うぅ……」
「ほら、ここなんかすっごい音」
ぬち、と吸盤のように張り付いた指と外性器がこすれ合って、ものすごい音がする。
嫌じゃないのかと思ったけど、目の前で起こり来る変化を楽しんでいるような声音だった。
するん、とぬめりを楽しむように当てられた玩具が、肛門に近いところまで滑るのを感じて、その度に心臓がひやりとなる。
頼む。さすがにそこまではバレないで欲しい。
「……ひょっとして、ここ弱い?」
「……っ、い、言わないで! 正直そっちの方が弱いけど、だってほらそこは! 指とか入れたら汚いし、お腹痛くなるし、汚しちゃうかもしれないから……っ、さすがに」
「ふぅん? ……別に、ボクがあんたの性癖にどうこう言う筋合いはないから、指くらい突っ込んでみてもいいけどさ。今が嫌なら、今度ってことにしてあげてもいいよ」
愛理にしかバレてないはずのことが、速攻でバレた。
……せいぜい人の指か綿棒くらいでしか経験のない場所だけれど、多分マニアックな方に入るから、できればバレないで欲しかった。
もう合わせる顔もない気持ちで撃沈しながら、それでも時折、面白がるようにお尻の付近をつつき回して、びくっと私の肩が跳ねるのを、ヨハネさんは楽しんでいるらしい。
(そういえば……「[[rb:どっち > ・・・]]」……?)
自分の中から溢れるとろついた水が、陰核の先端へ滴るのを、まるで快楽の証明のように指先で弄ばれながら、ぼんやりした頭で考えた。
そう……女の子の体をしているけれど、リアルにいるヨハネさんは、多分男の子のはず。
精神的な性別がどうであろうと、今触れている体は女性のもので。
だから私は、この内側に触れるのが指先であろうと、それとも男性の体についているそれであろうと、一向に構わないと――
そう、思っていたら。
望みを読んだかのように、ぐっ、と固い感触が、襞の入口に当たって息が止まりそうになった。
いや、実際に持たれているのは、私の玩具なんだろうけど。これじゃまるで。あの子のそれを、穿たれているみたいで。
「っあ、ちょ……」
「こっちじゃなかった?」
「っ、で、でもそれ、気に……っ、私がそういう風に想像したら、ヨハネは、や、っなんじゃ……っし、だし、さすがにっ、」
「はぁ……。あんただけでしょ? あんただけがそう思ってるなら、別にそれでいい」
「っ、でも、指……」
「……本当はこっちがいいって、思ったでしょ? 」
思わず、固まる。
囁いた優しい声には、図星だから頷けなかった。
確かに、心の奥の奥では、そう想像してしまうことも確かだった。
どうでもいい男にストレス解消で犯させる以外は、基本的にはペニスは嫌いだ。女の人の指じゃなきゃ嫌だったのに、絶対に嫌だったのに。
どうしてか、ヨハネさんの正体を知ってしまったら、ヨハネさんの時だけ、[[rb:あれ > ・・]]が欲しいと望んでしまう自分も嫌だったから、涙が溢れた。
せめてペニバン使ってましたとか、そういう理屈がないと、女の体には合わないのでは? そこまで私のご都合主義に、めちゃくちゃに付き合わせるわけにはいかない。
うつ伏せのまま目の涙を拭ったら、頬にキスをされた。
「ボクは、嫌じゃないよ。何回も言ってるけど」
「……」
「いたずらにあんたがこれを望んでるわけじゃないって、知ってるから。あんたが、本当の性別に何の拘りもないってことも、知ってるから。
ボクをボクとして見てくれるあんたになら、いくらでもあげる。……だから、我慢しないでいいんだよ」
「っ……」
後ろから、男性に生えている向きと同じそれで、ずりずりと入り込まれるのは随分と久しぶりのことだった。囁かれた言葉と一緒に、震えが背筋を駆け抜ける。
びりっと裂け目が破けそうな感触を伴いながら、無理矢理押し入ってくる痛みも、後ろから抱き着かれた時に聞こえる息遣いも、それが実体を持った人でなければ――私が愛おしいと思える存在であれば、何よりも甘美な快感に変わる。
「っ、きっつ……」
自分のが緩いか狭いかは知らないけれど、ほんの少しだけ、余裕なさそうな声が耳元で苦し気に囁いた。
相手を押し出してしまいそうなぐらい、内側がぎゅうっと変化するのがわかる。抵抗するところを、少しずつにじり寄るように押し割られるのがたまらなくて、私は目をつむったままでシーツを握り締める。
――どうして、こんなに痛くて、努力なしでは大して気持ちよくもなれない事が好きなのかって?
昨晩自分に問い掛けた問いが、頭にリフレインする。
そんなの、知るわけない。
馬鹿馬鹿しいけど、やめられない。
ただひとつ言えるとするならば、本当に心の底から信頼を置ける相手に、無理矢理心の奥ごとこじ開けられるのが気持ちいいって思う私は、真正のドMだってことぐらいだ。
歩み寄ってくれる相手に、こんな自分を見てほしい気持ちと、絶対に死んでも見せたくない気持ちが、いつもせめぎ合っている。
そしてヨハネさんは、――そうしてもいいって思えるぐらい、私が安らげる相手なんだ。
単調な動きを繰り返すのでも、ただ闇雲にうろたえて探るのでもなく、中で私が落ち着くまではじっとしていてくれる、そのやさしさと慎重さが愛おしい。
こういう時間だ。こういう時間が欲しい、と思う。快感を得るために右往左往して動き回るのでも身構えるのでもなく、ただお互いに与え合って、好きなだけ触れ合うことに満足しているだけの時間が、私は欲しかった。
動くのなんて、物足りなくなってきた時でいい。
……けど、あくまでそれは私の視点だから、相手にはもしかして、物足りないって思われたりしているのかな?
それでも、速さや深さに頼るのではなく、ただ柔らかな肉棒の先で、とんとん、とノックするように、あるいは、一歩一歩石橋を叩いて渡るように、動くなんて言葉では控えめなほどそっと、触れる気配がした。
「なんか、めちゃくちゃ……ねぇ、キツいんだけど……」
「っ、う、ごめ……っ、う、後ろ向きって正面よりも締まるって言うから……し、知らんけど! あんまりやったことないからわかんないけど!」
「ところでこれ、気持ちいいの? まだよくわかんない、って感じ?」
「ん……なんか、ここ……じゃないような……。も、ちょっとだけ手前……っ、ひゃっ」
ずるずると、狭い場所を引き摺られるように動かされるのが好き。
そう言うと、ちょっとだけ早めてくれる。
「あんまり速いのは、ダメだよ? 傷んだりするから」
「んっ……。わ、わかってる、けど」
そうだよね。乱暴になんて絶対にしない。
互いにぎこちなさが多少残る動きでも、頭がふわふわする。これだったら、奥を突かれても気持ちいいって思うかもしれない。滅多に気持ちいいって思わない場所だけど、この触られ方だったら。
「あ、あの……」
「うん?」
「ぜ、ったいに、どんどんって、突いたりしない?」
「……約束する」
結果的に、激しくして欲しいと強請るほど先に我慢が出来なくなったのは、私の方だった。
絶対に、傷付けるようなことをしないってわかっているから、逆に安心して。安心したら、どんどん気持ちよくなって。
震わせるような振動だけじゃ、物足りなくなって。
弱いお尻の奥にまで当たるように、とんとんって軽く押されるだけで、何回も頭が飛んでしまった。
自分より8つ以上も年が下の子にこんなことをさせているって呵責が、多少は遠慮させはしたけれど。それでも確かに飛んでしまったことに、変わりはなかった。
「うっわ……すっごいべたべた……っていうか、血が出てるけど平気なの!?」
「大丈夫、生理終わったばかりだっただけ……」
いつも自分でする前に用意しておくティッシュで、べたべただった指とその場所を拭いてもらうと、見せてもらうまでもなくべったり濡れているのがよくわかった。
……多分、これでしばらくは大丈夫だろう。
でも、ヨハネを巻き込んでしまうつもりはなかったので、申し訳なさと恥ずかしさで俯きながら、隣に寝っ転がる腕に私は抱き着いていた。
気にしなくていいのに、と言わんばかりの掌が、ぽふんっと頭の上に乗った。
「……ねえ。まさかと思うけど、あんた後悔したりしてないよね?」
「しっ……そりゃあ、ある意味ではしてるに決まってる、けどさぁ……う、嬉しいけど、でも……ほんとによかったのかな、って」
それは、昨日考えていたことにも繋がってくる。
どうして、私は自分に都合よく世界を歪めてさえ、こんなことがしたいのか、と。
「別に、好きならそれでよくない……?」
「へっ……私、口に出してた?」
「いいや? ただあんまり、あんたが自分のこと、理屈で難しく考えるから。誰にも迷惑掛けてないなら、それでいいでしょ。あんたがそうしたくて、ボクがイヤじゃないのに、それ以上何か考える必要ある?」
抱き締めてくれた肩があたたかくて、ぴたり、と汗ばんで笑った頬が、頬にくっつく。
いいのかな、わからなくても。
ただ、したいっていう、それだけでも。
「少なくとも、ボクはそれでいいと思うけど。[[rb:この > ・・]]ボクには、合意取ってくれてるわけだしね?」
「……」
うとうとしながら、もぞりと身じろぎをすれば抱き返してくれる腕。
その腕が、不意にするんっと後ろから回されて、胃下垂気味の飛び出た下腹部にぺたぺたと触れた。
「どうしたの……?」
「いや。さっきまでここに、いたんだなぁって、思って」
「……っ、なんか恥ずかしいね」
「こっちだって恥ずかしいから」
「いた」って。身体の一部が埋まっていたことをそんな風に表現されるのは、なんだか下品過ぎず甘酸っぱくて、嬉しくて、でもまざまざと事実を見せつけられるのが、面映ゆくくすぐったい。
繋いだ手を握ると、黙っていても、どくんと心臓が熱く速くなる。
どうしよう。物凄く眠いのに、物凄く疲れたはずなのに。普段はこれで満足する、はずなのに。
赦されているのだと思ったら、欲張ってよいのだと思ったら、私は。
「……」
「……ま、待ってよ、今終わったばっかなんだから、触らないで! せっかく拭いたんだから、駄目でしょ!?」
「まだ午前中は残ってるよ?」
「じ……かんは、その、予定はない、けど……っちょ、ほんとに、ダメだったら、ねぇっ」
声が焦る。そんなにしつこく触られて、全部快感に身を委ねたくなってしまったらどうする気だ。
私の焦りには取り合わず、悪戯っぽい瞳が少しばかり緩む。
「何がそんなに『駄目』なわけ? ボクが触っても、取り合わなきゃいいだけでしょ」
「……む、無理に決まってるでしょ」
「だから、どうして」
「そんな触り方っ、折角綺麗にしたのに、また濡れちゃうじゃん……っ、意味ない……っ」
必死に手を押し退けようとしても、本気で抵抗する気がないのを分かってるみたいに、強引に割り込まれる。
呼吸が浅くなって、顔を見られないよう埋めたままで、私は縋りついた。
「別に濡れたって、あんたが気持ち良くなることで困ることなんかないだろ?」
「あ、あるよ」
「?」
「もっかい、したくなるの、我慢できなくなるにきまってるじゃん……」
[newpage]
勇気を振り絞って言ったのに、生意気にも分かっていたというように、ふわりと微笑む気配がする。
雪崩れ込むような二度目は、もう歯止めなんて効かなかった。
もう自分から求める事すら止められずに、首の後ろ側へ両腕を回したまま、貪るように何度もキスをして。
同じように後ろから貫かれた時は、入っただけでも一度目よりずっと快感が深かった。
重力に従って、壁のように床へ押し付けられながら、とん、とん、と背後から揺すり上げられる。
「ど……して……っ、や、っ、ずりずりしたら、ら、めぇ……っ、待って、まって!」
「ダメ。待ってあげない」
「やっ、だってそこっ、擦っただけで変になるんだってばぁ……っ!
ばかばかっ、イったばっかのとこ奥こんこんしたら、またすぐイっ……」
「……ふぅん? そうかそうか」
「っ、やあぁっ、そんなに激しく動いたらダメだってばぁ……っ! もう無理、またイっちゃう、またイっちゃう……!」
もう、私の反応にも取り繕うような余裕はなかった。
だって、こんなに気を許しきっているのに、一度目で慣れた体が二度目の快感に耐えられるはずない。
耐えられるどころか、入れただけ、動いただけ、擦っただけで、即座に変になる。ちょっとした刺激が、倍々になって体の内側にピンポン玉みたいに跳ね返る。
敏感で死にそうなのに、何回今イったと言っても、悲鳴を上げても、意地悪だからやめてはくれない。
必死で枕を噛んでも、普段よりずっと、声を堪えるのが大変だった。
しばらく愛理の家出の件で気が休まらなかったり、生理中でしてなかったからっていうのもあるけど、それにしてもこれは。
久しぶりに、痺れるほど頭がぐらぐらした。
ずっとずっと我慢していた何かを、甘く解かれて、解放されるような。全部をやさしく抱き止められて、泣き出したくなるような。
息が切れてぼーっとした頭が、不意にばちんっ、とどこかへ繋がった。
たまにある、ラジオを聞いてる最中に無線の電波が紛れて乱入してくるような、あれ。
リビングにいるちび愛理達に、繋がってしまったらしい。こっちの姿はもちろん見えないけれど、ちび達の会話している姿が、後ろから犯されながらもぼんやりと見える。
『うっうー?』
ちび愛理の方が、カラーボックスの棚のいつもの席へ陣取りながら、後ろの扉を振り返ってぶんぶん腕を振っていた。
どうやら私たちがなかなか帰って来ないから、隣の小翰さんに、何をしているのか聞きたいらしい。
……いや、ちょっと待って、聞こえてないよね?
隣の部屋だけど、聞こえるほど大声で叫んではいないはず。そもそも子供の情操教育によろしくなさすぎるので、キス以上にいちゃつく場面は、私はちび達に見せないようにしている。はずなのだが。
『ああ、メロの奴? あれはね……』
小翰さんの方も、何やら考え込みながら律儀に答えようとしているので、頭を抱えそうになる。
なんて言おうとしてるんだろう。いやいや待って、それ絶対に知ってちゃいけないやつ……と考えかけて、ふと大事なことに私は気付く。
ちび達は、不思議な生き物。見た目は小さい「ぬいぐるみ」だけれど、「子供」ではないということだ。
たまに、小さいからこれは知らないのかと思う一方で、こちらがびっくりするほど大人の言葉を分かっていることもある。繋がっている方の魂が、とっくに大人だからだと思うんだけど。
だから……うん。百万歩譲って、何をしているのかはバレてても仕方ないんだとしても、あんまりそれを見も蓋もない感じで表現されたくはないなぁ、というところに願いは絞られる。
そう考えていたら、小翰さんはちび愛理をなでなでしながら、口を開いた。
『二人はね、すっごい仲良ししてる』
『……うー?』
『そう。めちゃくちゃ仲がいいんだ。これ以上ないくらい。
だから、絶対に離れないように、大好きだぞーって、仲良ししてる』
『あう! あーぅ!』
「そうそう。ボクたちみたいにね」
満足そうに胸を張って笑う小翰さんと、楽しそうにきゃっきゃと笑うちび愛理を見たら、ふわりと肩の力が抜けていく気がした。
(……そっか。それだけのことなんだ)
見たことをヨハネさんに伝えて、振り返り越しにそっと口づけを交わしながら、思わず笑みが漏れてしまった。
ちび達から見たら、仲良しの二人が、ずっとずっと仲良しだよって、そう互いに伝え合って愛し合っているだけのこと。
そう思ったら、胸の奥の変な制約が取っ払われて、もっと素直に、身と心を開ける気がした。
多分、これからも迷うだろう。私が私で、うちの子がうちの子で、ヨハネさんがヨハネさんである限り。
それでも、出来たら触れ合える距離で、ずっとずっと一緒がいい。
君が居てくれると、涙が滲んでくるほどに、うれしいから。
ヨハネの誕生日だったのに、なんだか自分の方が一段と大きな贈り物をもらったみたい。
そう思いながら、私はやさしい余韻と温もりに抱かれたままで目を閉じた。