SEVEN's CODE二次創作小説【オレンジの片割れ】R18短編+マルメロ家二次創作エッセイR18短編 作:大野 紫咲
という、SNSの一隅でだけ言われている噂と体感から、ノリとテンションで生まれてしまった小話。今回はヨハネさんに割とがっつり性転換(?)要素があるので、苦手な方はご注意ください。
でもめっちゃえろかわいくてお気に入りの一作です。
しぶ→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16037390
それは、いつもと同じようにムラサキがセブンスコードの世界へ渡航してきて、ヨハネの部屋で二人で過ごしていた時のこと。
何だかんだ押し掛けては好き勝手に過ごすムラサキに、最初はゴネていたヨハネももう諦めて何も言わなくなり、たまにボードゲームやダーツをしたり、互いの手料理を味わったり、仕事をしている傍で好きに過ごしたりと、何の変哲もない時間を過ごすようになっていた二人だが、この日は何だか、様子が違っていた。
様子、というよりは、体の具合、というべきか。
ふと、広いベッドに寝転んでクッションと戯れていたムラサキは、少し胸元のはだけた袴を正しながら、頬に手を当てた。
(あれれ……。紋の暴走は抑えられてるはずなのに、なんだか今日はムズムズするな)
一緒にいる時の、ヨハネの何気ない笑顔や優しい表情を見た時の胸の苦しさに加え、体の内側がうずうずと疼く。体調が悪い時の疼きではなく、異様にそういう欲求が溜まっている時の疼きだ。
(まさか、二人でいる時にヌくわけにいかないしな……)
欲求不満がMAXになる前に、何か理由をつけて帰った方がいいかもしれない。
というか、紋を共有しているヨハネへの影響は大丈夫なのだろうか。別に今までは、片方がしんどい目に遭っても、片方はけろっとしている事がほとんどだったけれど。
そう、軽い気持ちでちらりとヨハネを見やったムラサキは、さっきまで椅子に座っていたはずのその姿が、ないことに気が付いた。
「ヨ、ハネ……?」
そろり、とソファの後ろから覗き込むと、切なげに眉を寄せたヨハネが、目を閉じて横たわったまま息を吐いているのが見えた。傍目からその褐色肌を見てもわかるほどに、頬が紅潮している。慌ててムラサキは、そのまっすぐな前髪をかき分けると、額に手を当てた。
「ヨハネさっ、大丈夫……!? まってっ、すごい熱……っ」
「違、これ多分……はぁっ……サキ、離れてて……」
「え、なんで……?」
「っ、……ごめん、なんか……すごい、ムラムラする」
そうっと身を起こしたヨハネの華奢な体は、部屋着越しでもわかるほどに、陽炎が揺らめくような色香を纏っていて、ムラサキはどきりとした。クレオパトラを彷彿とさせる、長い睫毛の目元が送る秋波に、心臓が高鳴ってしまう。
泣き出しそうな青の瞳が、拒むように――あるいは、助けを求めて縋り付くように、見つめていた。
自らよりも余裕がないその様子に、驚きながらも戸惑い気味のムラサキが、尋ね返す。
「あ、で、でも、どうして……?」
「待って……っ、ミソラに聞いてみよう。なんか、わかるかも。ここから出るのも、危ないかもしれないし……っ」
震えながらも、冷静に判断したヨハネが端末のダイヤルを押す。
研究室直通の電話にすぐに出たミソラは、状況を聞くなり、ふーむと呻ってムラサキに尋ねてきた。
「特に植能が暴走してるわけでもないのに、淫紋が相乗作用を起こしちゃってる、か……。
ねーサキー、念のため聞くけど、リアルでなんか変わったことなかった?
生理の周期が乱れてたとか、過度なストレス受けてたーとか」
「ん……そういえば、今月は少し早かったかな……? でも誤差の範囲内……」
そこまで語ってムラサキは、ふと思い出したように口を開く。
「……そういえば、関係あるかはわからないけど、ワクチンっていうのを受けたよ」
「ん? ワクチン? 何の?」
ムラサキは、ミソラとヨハネに説明した。ムラサキの時代で流行っている、大規模なウイルス感染のこと。そのワクチンが国民の希望者に接種され始め、先日ムラサキに、一度目の接種の番が回ってきたということを。
「でも、一回目だから副反応は大したことなくて。腕が痛いってくらいだけど、怪我したわけじゃないから、セブンスコードに来てる間はあんま関係ないみたいだし……」
「ふーむ。案外そのワクチンが原因かもしんないよん?」
「えっ」
含み笑いで答えたミソラの声に、ムラサキとヨハネが同時に反応した。
髭があったら引っ張りそうなほど得意げな顔で、ミソラはビデオ通話の向こう側からカタカタとキーボードを鳴らして言う。
「あっるんだよねー。人によってだけど、なぜか接種後に官能を司る感情値が上がっちゃうーって事例。それがホルモンによるものなのか、接種と因果関係があるのか、まだよく解明されてないんだけどさぁ」
「ええっ……じゃ、私がワクチン打ったせいで、ヨハネまでおかしくなっちゃったってこと!?!?」
「そゆことぉ。ヨハっちは、もうムラサキの淫紋と、いわばその淫紋が張り付いてる殻と、相互作用を受けるくらいに融合してるってことでしょ?
ログインする時の体感数値データの変換で、多分血中にあるサキの体に性的興奮を分泌させる成分も、移植されちゃったんだよぉ。
だとしたら、一時的な媚薬みたいなもんだから、効果が薄れたら元通りになると思うけど……」
「じゃ、じゃあ、切れるまでは、まさかこのまま……」
愕然としたムラサキ達に、困ったような顔を一瞬したミソラだが、すぐに眉を下げたまま笑顔でウインクした。
「まー、大丈夫だいじょうぶっ! 命に別状ないから! ただ単にエッチしたくなっちゃうだけだよ!」
「大問題だろうがッ! ボクとサキ、今同じ屋根の下にいるんだよ!? そんな不安定な状態で、外出るわけにいかないし……っ」
「だったらなおさら好都合じゃ~ん。自分以外の誰とも分かんない相手に盛るなんて、ヤでしょ?
見知ってる相手でよかったと思おうよぉ。ましてや、大事なパートナーなんだしっ。
まっ、その間二人の植能とかホルモンの影響が周囲に及ばないように、部屋はロックしてガードしとくから安心してねん!」
「はァ!? ここボクの部屋なんだけど! どうやって……」
「ちちちちち。あたしには、になちゃんという心強いはとこがいる事を忘れたのかい。あの子に頼めばハッキングのひとつやふたつ、ちょちょいのちょいさね。
とゆーわけで、何も気にせず二人はごゆっくり! これっていわゆる、『〇〇しないと出られない部屋』ってやつ? にひひひっ」
一人楽しそうな笑い声を残して、ぷつっと通話が切れた。
と同時に、ぷしゅうと玄関先の自動ドアから響く排気音が、このマンションの個室がロックされたことを伝えてきた。
はあぁっ、とがっくり頭を垂れたヨハネが、ソファで俯く。
「終わった……詰んだ……」
「ま、まあまあ……元々、出たら危ないって話だったんだし。なんとかやり過ごせば……」
「あんたと同じ部屋で?」
横で体育座りしたヨハネが、ちらりと見上げてくる。切れ長の青い目に、どきりとしながらムラサキは視線を逸らした。低い低音が、囁き掛けてくるように感じられる。
「……見られただけでその顔じゃ、あんたももちそうにないね」
「ちがっ、これは……! うう、私お風呂場とかトイレとか行こっか……?」
「ずっとそこに居るわけにもいかないでしょ。それに、万が一あんたにそこでナニかされるって思ったら……」
そこまで口にして、はっとしたように口を噤むヨハネ。ムラサキは、同時にわたわたと手を振った。
「あ、ご、ごめん! そうだよね、気持ち悪いよね……!」
「違うッ、別に気持ち悪いって思ったわけじゃ!」
「え……?」
「ていうか、一人でするのは否定しないんだ……」
「ううう、だってぇ……!」
こんな、ヨハネの匂いが家中に溢れた場所でどう我慢しろというのか、とムラサキは泣きそうになる。今や、シャンプーやタオルの匂いさえ、劇薬になりそうだというのに。
ぎゅ、と袴の襞を握り締めたムラサキは、一人でベッドの方に歩いて行ってから、その上でこっそりと、袴の紐と帯だけを緩めた。幸いこの下は、今日は着物だから、一重と襦袢を脱がされるまでは見られずに済む。けれど、もしそこまで脱がされてしまったら……
肌に這わせられる指を想像して、ムラサキはぞくっとした。やばい。十八は超えているとはいえ、未成年と一線を越える予感しかない。腰の奥がぞくぞくとして、ひたすらに中へ導くための何かを求めている。
(だめ、我慢できない……)
大好きな人の匂いでいっぱいの布団に倒れ込むと、丁度その隣へ、口に運んだ水で唇を潤したばかりのヨハネが、横たわるところだった。なんとか距離は取ったままで、けれどこちらへ近づきたい体を抑えるように両腕で抱きながら、視線で訴えてくる。
「床じゃ硬いし、別にここにいていいけど……あんたはできるだけ、端の方にいて……」
「ヨハネさん、そんなに、ひどいの……?」
「っは……平気……。ただ、あんた相手にこんな気持ちに、なるんだなって。別に、具合が悪いわけじゃないから」
「でも、さっき、苦しそうだったよ……?」
「それは、そーゆーのと……ちがくて」
きゅ、とシーツを握るヨハネの方へ、ムラサキは脱皮するように一重の衣を残し、薄い襦袢姿のままころんと寝返りを打った。
「っ、バカ……っ!」
「だって、熱いんだもん。体……」
「だからってっ……! あんたボクの話聞いてた!?」
「聞いてるよ。でも、ミソラがさっき言ったでしょ。信頼できる相手の前で、まだよかったって。
私もそう思ってるよ。……ヨハネさんの前じゃなかったら、イヤだもん。
もし、ヨハネさんがイヤじゃないんだったら……いっしょに、しんどくなろうよ」
黒の奥で仄かに桜桃色に染まった瞳が、熱っぽく、けれど真剣に、ヨハネを見つめた。
褐色の掌を握ったムラサキの五指が、するりと指の間に入り込んで、擦るように絡み合う。耐えかねたヨハネが、その体を引き寄せたかと思うと、ぎゅっと抱きすくめた。
「っ……」
「サキ……サキ……っ」
涙目を浮かべた瞳は、怯えているようにも、耐えているようにも、あるいは悦んでいるようにも見える。
ふわ、と甘い匂いがする。いつもよりずっと甘く、くらくらするくらい心地良く感じられる、ヨハネの香り。
ヨハネの腕にすっぽりと収まったまま、ムラサキは胸元に顔を埋めて、疼く全身を感じながらも、すん、と鼻を鳴らした。
甘えたような仕草に、つと顎を持ち上げて近くまで顔を寄せたヨハネが、我に返ったように首を振る。とさっとムラサキを柔らかなシーツの上へ押し倒しながら、真摯な瞳が熱っぽく見つめ返す。濃い色の首筋へ、つうっと綺麗な汗が流れた。
「ダメ、だってば……。今あんまり煽られたら、ボク多分、あんたのこと……」
「ヨハネ……」
はあっ、と吐き出す吐息が、切なくて甘い。
こんなに余裕がなくて、苦しそうな表情、戦闘中でも見たことない。
けれどそんな顔さえ、愛おしさのあまりどきどきと苦しいぐらい心臓が鳴って、たまらない気持ちになってしまうのは、多分ワクチンなんかのせいではない、とムラサキは思った。
力が抜けて倒れ込んだ体をベッドの上で受け止めながら、ムラサキが囁く。
「私……いいよ? ヨハネさんだったら……」
「! だから! 今そういうこと言うなって……ッ」
苛立ち紛れの、息が苦しくなるような口付け。
触れ合う唇が普段以上に柔らかくて、頭の底から脳内麻薬が止まらない感じがする。
(気持ちいいな……気持ちいい)
自らヨハネの肩を引き寄せて、ちゅっ、とキスを続けていたムラサキは、はたと気が付く。
自分の腰というかお腹の辺りに、ぐいぐいと押し付けられて徐々に存在を主張する何かが……
(……え。あ、あれ? これって、ちょっと待って、勃っ……???)
正体にうすうす勘づいたムラサキの顔が、かあっと熱くなった。
抱き締め合うと、身体構造上どうしても密着してしまう、アレ。
え、でも、さっきまで女の子だったよね? と赤面しつつぱちくりと目を瞬かせると、ムラサキの恥じらった表情に気付いたヨハネが、投げ出すような勢いで身を引いた。
「っ!!!!! ごっ、ごめ……!!!」
「あ、ううん、気にしないで……っ、ていうか、その、ヨハネさんてもしかしてその、こっちでも、ついてる……?」
「違……っ、普段はそんなことないッ! ……なくて……ないはずなんだけど、限界超えて昂ると、なんか勝手に……」
「そっか。もしかして、精神状態に合わせて顕現しちゃう的なあれなのかな……?」
「わかんない……っ」
ぶわ、と混乱のあまり涙するヨハネを見て呆気に取られたムラサキは、安心させるように微笑んでから、さっきのヨハネの様子を思い出した。
「そっか、それで苦しそうだったのか」
押し付けられているだけでわかった。
自分にはついているものではないから分からないが、あんなにはち切れそうに張っていたら、それはまあ苦しいはずだ。
隣に横になりながら、ムラサキが手を伸ばして優しく見つめ返す。
「……私のこと、そういう風に見てくれたんだ?」
「くれたって、おかしいだろ。ボクは、あんたの体で、勝手に……ッ」
「ヨハネさんが、教えてくれたんだよ。あなたは私の体だけ、見てる訳じゃないでしょ?」
そう言うムラサキに、ヨハネは尚も鼻を啜りながら、頭を振ってみせた。
「いやだっ、ボクは……っ、自分の欲望で、あんたを穢すのはイヤだ!
あんたに、怖い思いさせたくない……あんたが嫌ってる男の体で、嫌われたくなんかない……!
こんな理由で流されてするんじゃなくて、ボクはちゃんと……っ、あんたの気持ちと、ボクの気持ちが、ぴったり揃った時じゃなきゃ……ッ! だから……っ」
震える声で喘ぐように訴えるヨハネの言葉を聞き、ムラサキは瞳を見開いたまま、心を打たれた。
(私の気持ち、考えてくれたんだ……だから、こんなに嫌って言ってたんだね)
けれど、ヨハネにそういう対象として見られるのは、不愉快どころか嬉しい気持ちになるのは、なぜだろう。
きゅっ、と胸の奥底が切なく、暖かくなる。
自分もほんの少し涙を湛えた潤んだ瞳で、ムラサキはヨハネを照れたように見つめた。
「ごめんね、ヨハネさん。ありがとう。そんな風に思ってくれて。でも心配しないで」
そっと重ねた枕に横たえ、上半身だけ起こすようにしてヨハネを楽にベッドに寝かせたムラサキは、優しく唇にキスをして髪を撫でた。
涙の粒がくっついた睫毛で、掠れ声のヨハネがムラサキを見つめる。
「サキ……」
「大丈夫。私これでも耐性あるから、ヨハネさんに軽率に抱かれたり挿れられたりしない。
平気よ。私、男の子だからとか女の子だからとかじゃなくて、ヨハネさんだから好きなんだもん」
「でも……」
「確かに、旦那とはちょっと苦手だけどね。けど、お互い全くそういう雰囲気にならないからってだけで。
使ってる心の領分が違うだけなんだよ。だから、
するり、と柔らかくもいきり立つ其処へ、ムラサキが手を添える。
布に滲んだ先走りを溢れさせる先端を、ショーツの上から痛すぎない程度に指先でそっと擦ると、ぴくんっと竿全体が跳ねた。ぎゅっ、とヨハネが身を竦めながら目を閉じた拍子に、涙の雫が零れる。
けれど、身を寄せたムラサキにはぴったりとくっついていて、嫌がっているような気配はない。
「っ……」
「一人で、やってみたことある?」
「……ったまに。少しだけ……」
「触ってみるから、痛かったら言って? 気持ちいいとこあったら教えてね」
ショーツの紐を引っ張り、緩んだ内側へ滑り込ませた手で、ぬるついた全長を握りながら往復させる。女性の性器よりは鈍感と聞いていたものの、やはり怖くて最初はおっかなびっくり握っていたが、少し強めに扱く度、んっ、と小さく甘い声が上がる。
「これ、きもちい?」
「は……っ、や、腰……っ、勝手にっ、」
「んふ。気持ちよかったら好きに動かしていいよ。
先も、弱いんだもんね。舐めてあげる」
身も蓋もない話だが、筋肉の少ない体でずっと手だけを使っているのは、かなり疲れる。ずっと同じペースで気持ち良くしてあげられる自信もないので、そういう時は口も使うのだと、ムラサキは本やネットで見て知っていた。
先っちょに唇を付け、しょっぱい汁を溢れさせる出口だけを、舌先で舐め回す。片方の手は竿に添え、片方はヨハネとそっと繋ぎ合わせた掌を握りしめながら、口の中はいくら舌先で拭っても溢れてきて、蜜蜂になった気分だった。
割れた綺麗な腹筋と、華奢な肩口が、時折ぴくっと波打つような震えを繰り返す。
押し殺したような甘えた声が、淡い息の合間に押し出される。
「っ……、きもちい」
「よかった……」
(なんかこんな顔されると、私まで気持ち良くなっちゃうな)
精神的な、満足感というか。
もうとっくに下はドロドロになっているんだろうな、と思いながら、ムラサキは息を吐き出す。
(男の人の平均的な大きさなんて知らないけど……ヨハネさんのは控えめに感じられるし、バーチャルの世界だったら上手くいくのかもしれない)
リアルではろくすっぽ上手くいった試しはないけれど、と思いながら、ムラサキはふっと一息ついたヨハネの一物を、両手で大事に包むように捧げ持った。
その掌に顔を隠すようにしながら、全長をすっぽりと、喉に届くまで口の中に収めてしまう。
「……! サキ! そんなことまで、しなくていい……っ」
無理をさせるのでは、と慌ててヨハネが止めようとするが、大丈夫、とムラサキは視線で訴える。
(やっぱり。こっちの世界だからか、ヨハネさん相手だからなのか、あんまり苦しくない。リアルだったら絶対吐いちゃう状態だよ、これ)
いつもだったら、唇の端も筋肉も痛くて、泣きそうなぐらい酷い目に遭うのに。
それでも、ビデオのような激しい動かし方はしないまま、ムラサキはただ舌を使って口の中を蠕動させ、先の突き当たる喉の奥を軽く震わせた。歌を歌うように。
こくんっ、ぢゅっ、と音が鳴る度、知らない快感に見舞われたヨハネが、眉を歪める。
「う……あ……!」
「んく……、っ、はぁ、大丈夫? 痛い? しんどい?」
「しんどいはしんどいけど……色んな意味で。ちょっと待って、これやばいって……」
本格的に、声と表情から余裕がなくなる。
気を良くしたムラサキが、笑うように喉を鳴らすと、それだけでヨハネの全身にぴりっと刺激が走った。
肌の表面にぴりぴりと、炭酸の泡が弾けるような刺激が騒ついて、抑え切れない何かがせり上がってくる、あの感じ。
「あ……、……って、サキ、も、ッむり……っ」
涙目になったヨハネが、ぐっ、と腰を引いた時だった。
細かな律動を伝えながら、震えた竿先から放たれたそれが、とぷっ、とムラサキの口内に溢れた。
僅かに目を見開いてその味を感じたムラサキが、遠慮がちに吐き出される精を、こくりと飲み下していく。
足先から脳天まで伝わる余韻に、未だ囚われて痺れたまま動けなくなっていたヨハネは、ムラサキが飲んでしまったことに気付いて、慌てて彼女の頭へ触れながら声を掛けた。
「ッバカ! なんで飲み込むの! 汚いでしょ……!」
「別に汚くはないよ。ヨハネさんのなんだし。
……まあ、美味しいとは言わないけど」
「当たり前だろ。信じらんない……」
そう言って、呆れと泣きそうな感情を織り交ぜた表情になったヨハネは、何も言えなくなると、背後から抱きしめるように、座ったままムラサキの体を引き寄せた。
「……ごめん」
「ごめんじゃなくて、ありがとうでしょ。いけないことしたわけじゃないんだから。
体、少し楽になった?」
「ん……だいぶ。あんたのおかげかな」
自分ばっかり、という引け目を感じたヨハネは、少し落ち着いて余裕を取り戻すと、長く綺麗な髪をかき上げて、こめかみに自然とキスを落としながら、腕の中に座るムラサキを見下ろした。
「あんたは? 大丈夫?」
「ん……まあね」
「でも、見てるだけだったじゃん。サキにとっては迷惑千万っていうか……」
「別にそんな事ないよ。好きな人が感じてる姿って、感じるもの」
小さく笑って答えるムラサキに訝しんでヨハネが首を傾げると、彼女は振り返って体の向きを変え、恥ずかしそうに俯きながら、小さな声でこう告白した。
「本当は、さっきヨハネさんのこと触ってる間に、股の間にクッション挟んだまんま3回くらいイッちゃった」
「っえ。い、いつの間に」
「ふふ、私みたいになるとこういう芸当もできるようになるの。なんちゃって。
両手は塞がってたからさ。圧掛かってるだけでも、結構気持ちいいから。……だって、あんな気持ちよさそうな姿見せられながら、ずっと生殺しなんだよ? 朝からずっと、したくてしたくて仕方ないのに。我慢出来るわけないでしょ」
あけすけに言って、ぺろ、と小さく舌を出してみせるムラサキの素顔が、ヨハネの目には異様に可愛く映る。
その衝動のまま、ヨハネが腕を引っ張って倒れ込んできた体を抱き締めると、ムラサキが驚いたように声を上げた。
「わぁ」
「ありがと。……次はあんたのこと、手伝ってもいい?」
「ん……いいけど、また今度ね。今日はもう疲れちゃった」
「あんた、男より賢者モードに突入するの早くない!?」
「よく言われる。あはは、体力ないからしょうがないんだよ。フェラとか手コキなんて、体感何年やってないか分からないくらい久しぶりだから、もうへろへろ」
名称としてはいわゆるそういうことをやってたのか、と把握したヨハネがまた赤面しそうになったが、ごそっと腰を浮かせて身じろぎしたムラサキが、あ、と声を上げて固まるのを聞き、再びそちらを見た。
「どうした?」
「……ご、ごめん。ヨハネさんのクッション、べたべたになっちゃった……」
「!?!?!?!?」
「ごごごめん! ほんとごめん! もしかしてこれ高い奴!? 高い奴だよね!? だってベッドも調度品もいい奴だもん! やばどうしよう、私のゴールドで弁償できたりする!?」
「別に、買い直したりはしなくていいよ……元はと言えば、ボクのせいなんだし」
「や、でもヨハネさんが変になっちゃったのは、私のせいだからさぁ」
「一心同体になった以上は、覚悟してたことでしょ」
さすがに見せるのは憚られたのか、染みのついた場所をしっかり胸元に抱えて、おろおろするムラサキ。
どれほどひどい事になっていたのか、と想像しつつ、動く度にはだける胸元へ目をやらないようにしながら、ヨハネはふと考えついてしまった。普段ならば、魔の差さない限り、絶対に口にも出さないであろうことを。
「……その代わり、それ取っておいてもいい?」
「へ?」
「……」
「……。 っ! へ、変態っ!」
珍しく、耳の先までぶわわあっと真っ赤になるほど取り乱したムラサキが、無事な方のクッションをヨハネの顔面へぶん投げた。ぼふぅっ、と見事な音がしてクッションが直撃する。
「あ、あのなあ!」
「や、もう、何!? 人の痕跡を深夜のオカズにでも使おうっていうの!?!? べ、別にいいけど! 別によくないけど! あ、ああもうだめ、自分でもどんな気持ちなのかよくわかんない……っ」
「洗わないなんて一言も言ってないだろッ!」
「何? じゃー洗うの?」
「……」
「バカ正直に黙んないでよぉっ! もう、バカ! ヨハネさんの馬鹿!」
バカバカと口に出しながら、ぐしゃぐしゃにした布団の中に潜り込んでくる。突進する勢いのムラサキを受け止めながら、正気に戻っても尚、ヨハネは複雑な面持ちで件のクッションを眺め続けていたのだった。