SEVEN's CODE二次創作小説【オレンジの片割れ】R18短編+マルメロ家二次創作エッセイR18短編 作:大野 紫咲
前話を読んでいただけたら分かるかもしれませんが、獣姦的要素がありますのでご注意ください。
その日、夢ともうつつともつかない、不可思議な状況に私はいた。
いや、おそらく夢なのだろう、と思う。半分願望混じりの。
いつもの通り、寝静まった皆の隣で布団にいて、ふさふさと首筋に触れる毛の感触で目が覚めた。
意識は浮上したものの、まだ頭はぼんやりとしている。
(そういえば、昨日は直生くんと一緒に寝て……?)
だとしたら、これは直生くんだろうか。当の本人が、もぞもぞとこっちに身体を擦り寄せてくる。
催促するように押し付けながらふんふんと鼻息を鳴らす湿っぽい鼻と、滑らかな頭の毛が、くすぐったいような気持ちいいような。心なしか、人間の時のそれより毛質が柔らかい気がする。
私より高い体温がすぐ間近にあって、布団を半分ひっぺがされていてもほこほこと温かい。
ついこの間の前例もあったので、甘えさせるがままにして、私は睡眠欲求のまま不満げな声を上げた。
「う〜ん、やだ。まだ寝させてよぉ」
「……」
しばしの間、ぴたりと相手の動きが止まる気配がする。相手にしてもらえないと悟って、どうするか考えているのだろうか。
遊んであげたいのはやまやまだが、今は夜半も夜半だ。多分まだ明け方と言っていいのか怪しい程度の時間帯。これ以上眠るのにうだうだしていたら、窓の外が明るくなって寝付けなくなってしまう。
直生くんには悪いけど、犬でも人間でもいいから大人しく隣で眠っていて欲しい。起きたら遊ぶから。起きてまだ犬化が解けてなかったらの話だけど。
……と思っていたら。
ふと、首筋で様子を伺っていた吐息の気配が、一段階変わった。
まるで美味しそうなものを前に食べようとしているかのような、あるいは蠱惑的に囁くかのような……言葉にならない呼気を耳元に吹きかけられて、びくっと体が跳ねる。
どうやら徹底的に私を起こしたいらしい。
ダメだよこんな朝方からちょっかいは……と半開きの口で言いかけて、のしかかってきた気配に違和感を覚える。
大きい……いや、確かに直生くんは大きいのだが、組み敷いた時にこんな熱い体温を全身に感じるほど、いい体格をしていただろうか。首筋だけではなく、パジャマの裾が捲れて露わになったふくらはぎや足先にまで感じるほど、長い毛だっただろうか。
まるで、全身毛布に覆われているような心地よさだ。そうぼんやり寝ぼけ眼で考えていると、首元に生暖かい息と歯の感触が当たって、私は今度こそちゃんと、というかややはっきりと覚醒した。
(え、……っ!?)
いつも甘噛みされる時のような、生やさしい感じではない。
獰猛な牙を突き付けられているかのような緊張感に心臓を縮み上がらせている間、喉を震わす低い唸り声が聞こえる。
というか、これは牙だ。うつぶせで前を向いているせいで全く見えないけど、人間の歯なんていう可愛らしいものではなくて、皮膚を食い破って肉ごと食い千切ってしまいそうな、ぞろりと並んだ鋭い牙が、辛うじてそうならない危うさで触れているのがわかった。
微かに獣の匂いを感じる吐息は、じゃあきっと、鰐みたいにばっくり上下に開く口の隙間から、漏れているものだ。
ぐるるる、という唸り声と、先ほどまでのじゃれあいで興奮していたのとはまた違う色を孕んだ吐息に、ごくりと喉が鳴った。
でも、何故だろう。食べられるとは思わなかった。
顔すら見えていないのに、この犬のような狼のような獣が、直生くんだということに、私は疑いを抱かなかったから。
甘噛みだけで断ち切ってしまいそうなほど、大きな口で首筋を弄んだその獣は、私を背後から押し倒したまま、ぬらりと舌で肩から首をひと撫でした。
「!! ひゃ!?!?」
くふっ、と面白がるような吐息が彼から漏れる。
ぺろ、なんていう可愛らしいものではない。牙が大きければ舌も大きいのだから、べろり、みたいな感じだ。
つやつやとした唾液で、首筋が一気に冷える。舌が纏っている透明な粘液に、不思議と嫌悪感はない。獲物を一飲みできる舌とあって、人間の何倍も分厚いし長いし大きい。リアルの犬や狼でも、ここまで長くはないんじゃないだろうかという気がする。
私が固まっていると、彼はその舌を器用に操りながら、親愛の情を示すかのように、全身を舐め回してくる。うつぶせの私を仰向けにひっくり返しても、尚のし掛かって1分たりとも離れまいというくっつきようだった。
でもこれは……ちょっとやり過ぎだ。鎖骨も首周りも、脇の下までべろべろにされているし、もっと言えばいつの間にか服を剥ぎ取られて、腹にも胸にも、全身がおかしくなるような刺激を与えられていた。
「あ……っ、あっ、んんっ」
触手に攻められたことなんてついぞないが、触手責めというのがもし実在するのだとしたらこんな感じなのだろうか。
股の下や胸の敏感な頭頂部を、蛇のように這いずる舌が生々しい。
ちょっと待ってなんでこんな状況になってるの、と問おうにも口から溢れるのはぼやけた吐息ばかりで、霞んだ視界の先にいる獣の頭は、はなから答える気がないのか、はたまた人語を喋れないのか、どちらにしろ教えてくれる気はなさそうだった。
それに、私自身がもう理由などどうでもよくなってきていた。
この、どこか必死すぎる性急さで私を弄んでいる獣は直生くんで、彼に望まれているなら私は応えたい。
すっかり一糸纏わぬ姿になってしまう私の腕を優しく、けれど抵抗できぬ程度に効率よく押さえつける手は、完全に直生くんの手つきだった。よく見たら手首から下がふわふわの獣の毛と肉球になっていた。
(に、にくきゅう……)
どうやらこの直生くん、半人半獣みたいな感じらしい。
ピンク色のぷにぷにした肉球の手で、どうやって私の手や腕を上手い具合に掴んでいるのかさっぱり分からないが、そのおかげで、快感に体が跳ねようが喘ごうが、全然身動きできない。可愛さに反して、ただただ人を追い上げていくだけの獣だ。
私が良くなっているのを察したのか、嬉しそうに喉を鳴らしながら首筋に触れる吐息が、台風みたいな勢いを帯びる。そういえば半獣だったら、あそこの方はどうなっているのだろう……なんて考える間もなく、四つん這いで組み敷かれた私の背後から、屹立が当たった。
(……!)
動物のだろうけど、人間のそれと同じくらいの大きさはありそうな一物が、背後にぎゅう、と押しつけられる。
切実さを帯びたそれで、何をしたがっているのか、言葉がなくとも分かってしまった。
でもそれは——人間の私を相手にして、本当にいいものなのか?
交合を待ち侘びるそれを擦り付けられた私の股下も、もうしとどに濡れている。
器用に持ち上げた前脚で、優しく下腹を摩られて吐息を漏らした時、掠れた声が耳元で囁いた。
「……サキ」
「……!」
「サキ。欲しい。……たのむ」
切っ先を押し付けられた蕾が、覚えのある切ない声色にきゅうっと縮む。
今私に囁くこの瞬間だけは、不思議と獣の耳が生えた人の頭に戻っていた。
どうぞ、と答える暇もなく押し入ってくる性器の圧に、肉壁が悲鳴を上げる。そしてその締め付けに、耳元からもぐっとくぐもった声が漏れた。
「……っあ! うう……」
耐え切れずに腰を振る彼から搾り出される声が、普段耳にするより大きく、苦しげに聞こえた。セクシーなことに変わりはないけれど、余裕のなさが目立つそれが、若くて愛おしくて、私は目を閉じた。頼りない身体に打ち込まれる衝撃が、楽しむ余裕もない程度に激しい。
あっけなく訪れた終わりと共に、脈打った彼の根本から、どくっという感触が次々と走る。その放精は人間のそれよりも、果てしなく長く続いているように感じた。
*****
「……っ!?」
とんでもない夢を見た気がして飛び起きれば、そこはいつも通りの朝だった。
おはよう、と既に起きたヨルくんとエリくんが布団の中でおしゃべりしていて、私はそろそろと、隣で寝ていたはずの直生くんを振り返った。
「くかー……」
いつも通りの派手な寝相で、朝日の中で寝息を立てる直生くんは、当然獣の耳が生えているはずも、獣の口であるはずもなく、普通の人間姿だった。
ほっとしたものの、だとしたら私が見たあの夢は何だということになる。よかったのか悪かったのか。
「……サキ、どうしたの?」
なんとも言えない顔をしている私を気遣ってくれた二人に、私は朝ごはんを食べながら、夢の話をした。
幼いのは見た目だけの二人で助かった。おいそれと他人に公言するのは憚られる内容だし。
ヨルくんは、可愛らしい顔で難しそうに口を結びながら、う〜んと腕を組んだ。
「それ、ボク達の魔法の後遺症だったのかなぁ……?」
「えー。でも後を引くタイプの魔法じゃないよ( ˙꒳˙)あんなの、お遊びの一種だし」
「今まで、サキの願望が顕現したことはあったよね。ボク達みたいに」
「う、うん。まあ、それはこの世界だから、普通だね……」
「だったら、サキの願いや直生くんの強い想いが、夢になって出てきたのかも」
私は言ってみれば直生くんの作者でもあるから、反映されているのは私だけの願いとも限らないらしい。
先日のデレモードといい、これは急激な歩み寄りを期待していいのだろうか……と思っていると、エリくんがふわっと髪を揺らして私を見上げた。
「ねー、直生くんってどんな動物だったの? 百獣の王って感じ? 狼? ライオン?」
「う〜ん、それが私にもよく分かんなくって……私も直生くんも、決め切れてないのかも。犬のような、オオカミのような……
この間の時は垂れ耳だったけど、今回は耳が立ってたような気がするし」
「なるほどぉ」
「ていうか、私直生くんが雄なのに違和感なかったけど、よく考えたら現実世界の彼は女じゃん……自然だったからあっさり受け入れてたけど、本当はそういう行為中は男になりたいっていう願望があるってこと?」
直生くんは犬にしたらゴールデンとかレトリバーとかボルゾイっぽいと思うけど、どれも垂れ耳の品種だ。
赤らんだ顔を押さえながら、これは作者の願望にしろ直生くんの願望にしろ、優柔不断さが垣間見えるなと思っていたら、何かを考えていたエリスくんは、ふと悪戯っぽく笑みを浮かべた。
「それ、もしかしたら、直生くんの甘えたい願望が、サキの力や魔法の名残で反映されたのとは、違うのかも」
「どういうこと?」
「直生くんが犬に変化したんじゃなくって、獣の世界にいる直生くんが夢を通してサキのところに来た、っていう風に考えられない?」
「そ、それはつまり、別の世界軸にいるもう一人の直生くんが、私の夢に現れたってこと……?」
そしてその彼は初めから雄で獣人なのだとしたら、全ての説明がつく。
説明はつけられるが……
「な、なんのために……?」
「そりゃー、直生くんって王子様っぽいから、その世界でも王子様なんじゃないの?( ˙꒳˙)だったらお嫁さん探して赤ちゃん産んでもらうためn「わーーわーーわーーーーーーーー!」
見た目は子供とはいえ、とんでもないことを言い出すエリスくんの話を慌てて遮る。
ヨルくんは話が分かっているのかいないのか、相変わらずのんびりぽややんとした反応だ。
「えー、いいなあ。サキ、王子様と結婚したら玉の輿だね」
「そういう問題 !? ていうかこれ以上結婚相手は増えなくていいよぉ!?」
夢女属性は自分が望んで自分に付けたものだけど、普段でさえ愛おしい存在を抱えすぎているのだ。
結局真相は闇の中だったけれど、あの子が直生くんの何がしかの潜在意識が具現化したものなのか、魔法的な何かで直生くんが獣に変異したものなのか、それとも全く別の存在なのか、だとしたらその意図は何なのか、わくわくするようなハラハラするような気持ちが尽きない私だった。