※この作品はR-18です。

SEVEN's CODE二次創作小説【オレンジの片割れ】R18短編+マルメロ家二次創作エッセイR18短編   作:大野 紫咲

7 / 8
タマミツネの青雨ことセイと、紫咲の添い寝の話。
※タマミツネだけど人型に化けてます
※前話(「獣の王」・R18)の流れを汲んでいるため、こちらのシリーズに分類しておりますが、エロの程度としては温いというかほぼないです。


青の王

 

「紫咲、おやすみ」

「おやすみなさーい」

「はぁい。ヨルくんもエリくんもおやすみ」

 

 いつものように、隣へ並べた布団へ眠そうな目を擦って仲良く横になる、魔法使いの双子くん達と共に、私もかけ布団の下へ潜り込む。今年も猛暑の夏、夜の間も冷房は切れないとはいえ、そのままでは著しく体が冷えてしまうので、長袖のカーディガンを羽織った上から、さらにタオルケットを引っ張り出して被っていると、ごそごそと背中のあたりで動く気配がした。ヨルくん達が寝転んでいるのとは反対側だ。

 

「セイ? 一緒に寝る?」

「……」

 

 返事の代わりに、ふぁさふぁさと尻尾を振る音だけ聞こえてくる。

 むぎゅっと大きな体が後ろから私を抱き竦めてぴすぴす鼻を鳴らすのを、肯定の返事と取った私は、くすりと笑って目を閉じた。

 セイこと青雨(セイウ)は、最近うちの本丸に来たタマミツネだ。私の体調があまりに追い付かないので、そのへんの経緯と記録は全然媒体に残せていないが、とにかくモンハン世界から三日月おじいちゃんが連れ帰って来て後、本丸の敷地内にある山奥の綺麗な池に住んでいる。

 そんなセイが、泡狐竜から人の姿に変身して、本丸に遊びに来るようになったのは最近のことだ。本来の姿のままでは大きすぎて本丸には入れないというのを学習したのか、ある日美青年の姿で耳を生やしたセイが、ずったかと本丸の廊下を水浸しにしながら歩いていたのを見つけた時には度肝を抜かれた。よく考えれば、刀剣が人の姿で顕現している本丸なので、タマミツネが人として顕現していても何らおかしくはないのだが、そこまでして私や皆の元に遊びに来たかったのだなぁと思うと、普段のツンツンした態度からは想像のつかないいじらしさが、可愛らしくて仕方ない。

 更に言えば、今私が寝ているここは本丸ではなく自宅なのだが、夜羽(ヨルハ)くんや恵李朱(エリス)くんと同じように、セイは勝手に時空を渡ってこっちに出入りできるようになってしまったらしい。妖力を節約できるよう、小さく化ける術をヨルくん達から教わったセイは、ヨルくん達より更に小さな子供姿で、時々この家に現れ過ごしている。今は大人姿だけど。

 

「……」

 

 セイは人の言葉を喋れないけど、ひんやりした肌にくっついて目を閉じていると、その身体からは水の鼓動が聴こえてくる。

 水に縁のある神様らしいセイは、日によって違う音を聴かせてくれる。サイダーの泡がコップの奥の氷に触れて弾けていく音。温泉のような場所でお湯がいっぱいに湛えられ、水面が揺れている音。ちょろちょろと流れる小川の清流。水中に潜っている時の音。波のさざめき。

 どうしてそんなに沢山の世界を知っているのかはわからないけど、触れた身体から聴こえてくる心地良い水音が、私にとってはセイの言葉に思えた。何も言わなくても、長く体調を崩していた私を案じてくれているのがわかる。

 タマミツネのセイは、いつも人間より低い体温をしていて、夏場は抱きつくと心地よいけれど、不思議とこちらが寒くなるような冷たさではない。包み込むような尻尾のふさふさを、安心させるように体中すっぽりと被せられて、私の意識はうとうとと水面を彷徨っていった。

 

 それから——かなり長く眠って、明け方頃のことだろうか。

 カーテンの向こうがほんのり明るくなっているのがわかるが、まだ起きるには早い。喉が渇いて時計を眺めると五時半だった。私はコップのお茶で喉を潤してから、まだ皆が寝息を立てる布団に潜り込み、うつらと目を閉じた。

 うつ伏せになった体の上から、誰かがのそりとのし掛かってくる。そういえば、昨日はセイと一緒だったんだっけ。おかげでよく眠れたな……と思いながら、後ろでぐらららと嬉しそうに喉を鳴らす音を聞いていた私は、ころりと寝返りを打って、大きな体躯をぎゅっと抱き締めた。

 ひんやりしたおでこを、セイが擦り付けてくる。その心地よさを味わいながら、うっすら瞳を開けると、翡翠色の目が合った。この子はこんな綺麗な目をしているのか。手を伸ばして絹糸のような長い髪を撫でると、不意にちゅっと、唇にゼリーのような感触が触れた。

 

(……うん?)

 

 ちゅ、ちゅっと続けて嬉しそうに口付けられて、私もそれをすんなりと受け止めてしまっていたけど、いいのか? という思いに駆られる。セイが意外と人懐っこく、私にはべったりなのは最近察していたけれど、そこまでしていいのか? 色々と人真似はしているようだし、人の習俗を知らないわけではないだろうけど、この愛情表現がだいぶ深い意味を持つことを、セイはわかってしているのだろうか……?

 と、流されつつ私が混乱しているうちに、口付けは何気なく、深いものに変わっていた。ひんやりした水のような舌が、私の舌先を絡め取って、それから喉の奥へと流れ込んでいく。涼やかな水の触手が口から伝って喉を冷やし、喉元や胸にくるくると巻き付いて、心地よさをもたらしていくという、現実ではあり得ない不思議な感触。身体の表面を流れていく水は冷たいのに、薄い皮膚をそろそろとなぞっていく感覚は甘く擽ったくて、ふわりとした感覚と共に、微かに呼び起こされた官能が疼く。

 

「セ……イ……? んっ、あの……っ」

「ムラサキ。紫咲。これ、気持ちい?」

 

 初めて、人の言葉でセイの声が耳朶を打った。人の姿での生活が短いからか、思ったよりもその声音も言い方も幼い。

 それでも、私が快く感じていることを確信しているかのような様子で、ぐるぐる喉を鳴らして、耳元に吐息を投げかける。その獣じみた吐息で、ふと何の前触れもなく私は気が付いた。

 前にも、同じようなことがあった。去年の秋ぐらいの話だ。そう、あの時は……たしか、耳を生やして獣の姿になった直生(なお)くんが、ぞろりとした牙を剥いて私を甘噛みしながら、身体を貫いてきて——あの時、私は大口の感触やふわふわの毛の感触から、何らかの願望で、犬か狼の姿をした直生くんが夢の中に現れたのだと思っていた。でも、あれはもしかして。

 無邪気に身を寄せてくるセイに、私は聞いた。

 

「セイ。ねえ、セイ。化け狐は、色んな姿に化けようと思えば化けられるよね。一年くらい前に、もしかして私に会いに来てくれた? 直生くんの体に……化けたのか、借りたのか、わからないけど」

「うん」

 

 子供のように頷いて、セイはぎゅっと私を抱き締める。鱗のついた大きな尻尾が、モップの毛のような部分で、ぽふぽふと私を撫でた。

 

「直生と、一緒 いた。でも セイ、痛いの しないよ。

セイ、紫咲 すき。だから、紫咲のこと 守る。」

「セイ……」

 

 身体を気持ち良くさせる不思議な水はいつの間にか引いていて、セイは大きな掌で、私の頭を何度も優しく撫でてくれていた。

 

「だい、じょーぶ。だいじょーぶ」

 

 それは、私が寝る前によく、セイやヨルくん達に掛けていた言葉と同じだった。ぎこちない言葉でそう告げながら、セイは早く目覚め過ぎてしまった私をもう一度安らかな眠りに誘うかのように、横抱きにした私の肩をとんとん摩る。

 

「いいこ、いいこ」

「……いいこなのは、セイの方だよ」

 

 あまりの健気さに、声に涙が滲んでしまった。

 どうしてこんなにも、無条件に私を信頼して、労わろうとしてくれるのだろう。

 私は、青雨のことを本当はまだよくは知らない。モンスターも自由に住める本丸にしたいから、望寧ちゃん達やみんなと、狩りのことを少しずつ勉強して、こうやって触れ合って、ほんの少しずつ一歩ずつ、わかってきたところだと思う。

 きっと青雨自身も、過去に酷い目に遭って保護されてきたかもしれないのに。この子は、こんなにも優しい。ずっと私を、私がその存在すら知らない過去の世界から、待ってくれていた。夜羽くんや望寧ちゃんと同じように。

 

 静かに昇り始める朝の日の中で、穏やかな時間を過ごしたその後。

 私は、子供の姿に戻って眠たげに目を擦るセイの隣で、ヨルくん達にあったことを話してみた。

 パジャマ姿のまま、綺麗な目を擦ったヨルくんは、キラキラと藍色の瞳を輝かせながら、話に耳を傾けていた。

 

「へえ! そんな事あるんだねぇ。でも納得かな。セイは、サキのこと大好きだもんね」

「なるほどねぇ。獣人直生くんが夢に現れた時は、サキといっぱい仲良くしたい直生くんの意識もそこにあったと思うけど、変化に関してはセイの影響も受けてたんじゃないかな。二人の意識が混ざり合って、あんな感じの夢になってたのかも」

 

 そう教えてくれた恵李朱くんの説明に頷いている私の隣で、ヨルくんはセイが喋ったという私の話を聞き、それを再現しようと必死になっているようだ。

 

「セイ。おはようって言ってごらん」

「……」

「おーはーよーう!」

「……」

「うーん。全然喋ってくれないや」

「夜羽、サキが会ったセイが夢の中の存在だったら、多分それ意味ないよ。まだセイは現実世界での口調を決めてないから、だから夢の中でだけ喋れたんじゃないの?」

「あ、そっか」

 

 つーんと顔を背けてツンデレに戻ってしまったセイの頭を、ヨルくんが優しく撫でている。

 セイは、行動に出る表現以外であまり顔に出る表情が豊かではない方だけど、それでも見ているととてもわかりやすい。何かと世話を焼いてくれるヨルくんとエリくんのことは、お兄ちゃんみたいに思って懐いているようだ。

 

「さ。みんなで朝ごはん食べよっか」

 

 ぽんぽん、と順番に皆の頭に手を載せて、ついでにちびぬい達も起こしてから、私は家人が既に活動を始めているリビングへと立つ。

 開けた窓から入り込む新しい風が、一日の始まりを運んで知らせるように、部屋に残った冷房の冷気を吹き散らしていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。