転生前は人間のオスだったエルフの聖女、婚約者に嵌められ淫魔になり追放されたらしい 作:芥目たぬき
甘き森を抜けて早3日。
機関に暗号化した手紙やら証拠やらを送ったオレは、誘拐した聖女をどうすればいいのか、上からの沙汰を待っていた。
魔術的に強化されている伝書鳩は、おそらく1日もすれば
オレは、見たままを
現状のエルフ国について……聖女が処刑されて混乱している情勢、皇太子がエルフ王の怒りを買った旨、国民達の世論、そして聖女がいなくなってから枯渇し続ける木々の生命力。
聖女の処刑方法について明かされていないのと、王家所属軍が連日秘密裏に甘き森周辺にて
何より、その甘き森で
———全ては、祖国のために。
自分の一存で連れてきた事が吉なのか、はたまた凶なのかはわからない。それでも、
「自分の頭で考えて、行動しろ」というのが、
ただ言われるがままに身体を動かすだけの人形ではなく、状況に応じて都度判断を行える忠実な祖国のしもべとして、オレは作られている。
祖国がとれる選択肢を増やす、それは祖国のためとなるハズだ。
だからこそ、オレはユターシャを連れてきた。
怪我をしないように気を配りつつも、ただ親切心から助けているだけのフリをする。いつかエルフの国に戻れるといいななんて慰めながら、彼女の身体を抱きしめていた。
この聖女が政治に利用できないと判断されれば
その時がいつか来るかもしれないと思いながらも、オレは彼女の身体を抱きしめるのだ。
……あまり情を移してはいけないとわかっていても、毎晩身体を重ねていたら可愛いと思ってしまう。
元はエルフの聖女で、今では自分の体しかしらない淫魔。従順で素直、清楚で淫蕩。はしたない自分を叱責しながらも、快楽には正直になるところが可愛らしい。
そんなだから、いざという時が来るのが不安であった。
情に絆されそうになるだなんて、昔のオレなら考えられなかった。オレはまだ27歳なんだが……やはり、
「はぁ……ままならないな」
「
「何でもねぇよ」
「そうですかぁ……わ、わ! すげぇ、スーパー大道芸人だ!」
そんな事をつゆとも知らないユターシャは、種族の坩堝とも言える大都市に目を輝かせていた。
街を歩くのは獣人、蜥蜴種、妖精、ケンタロス、ハーピー、ゴブリン、オーク、ドワーフなど色々たくさんだ。もちろん、ごく稀に悪魔も道を闊歩している。
エルフの国から出た事がないらしいユターシャは、この人混みに目を白黒させながらも必死に後をついてきていた。
「すごいなぁ……広くなった原宿みたいです」
「あまり上見て歩くなよ。もしかしたら、エルフ族がいるかもしれないんだからな」
ユターシャは有名人なのだから、顔が知られていてもおかしくはない。未だにエルフ国は聖女が死んだと他国に報じていないが、念には念を入れたかった。
聖女が悪魔になったと思う奴はいないだろうが、『聖女の顔をコピーした不敬な悪魔』と思われたら不都合だ。
そうして、オレ達は裏路地にあった小さな呉服屋に入る。老婆が一人ぼんやりと椅子に座っていて、アラクネの女性客と人間の女性客がなにやら盛り上がりながらも服を吟味していた。
こじんまりとした個人店。ここには、いろんな服が置いてあった。
「えぇと、服を買うんですか?」
「いつまでも囚人服なんて着てられないだろ」
今はオレのマントを上から羽織らせているものの、その下にはエルフの国の囚人服が着込まれているのだ。いつまでもそんな服を着ていたら生活に不便だろう。
店内を見渡しているユターシャは、しかしどこに手をつければいいのか困っている様子で。
「聖女サマはこういうの初めてか?」
「せ、聖地しまむらでは、自分の服は自分で見繕っていましたよぉ……」
その『聖地しまむら』とやらは知らないが、おそらくエルフの国にある何らかの呉服屋だろうか。『聖地』の名前から察するに、祭事関係者専用の呉服屋ではないか? となると、こういった多種族専用店には慣れていないのか……
どうすればいいのかわからないといった様子のユターシャは、リザードマン用のレディース服を手に取っている。真っ赤なデザインと、うろこでひっかいても破れなさそうな硬さが特徴的なワンピースだった。
……服なんて着れればいいとおもうが、それ以前に種族に見合った服を着るのが第一条件である。
「ユターシャ、人型レディース服はあの辺だ。羽と尻尾に関しては服直しの際に切り抜いてもらえる」
「……そういえば、私お金ありませんケド」
「オレが出す」
「えぇー? そんなぁ……なんというか、デートみたいですね? 照れます」
実際のところはデートなんて可愛げのあるものではない。支給品なのだ、これは。
「うーん……どういう服がいいでしょうかね……」
「あまり華美な服は避けて、ある程度周りの環境に合わせられるもので頼む。そうだな、この辺りとかどうだ?」
オレが指したのは、セットになっている服だった。
チェックのネルシャツと、可愛らしいキャラクターが印刷されたTシャツ。青のジーパンは丈夫そうで、アクセサリーとして指空きのグローブがついてるのも実用性に富んでいてポイントが高い。さらにセットでつけられているバンダナは額に巻くのだそうだ。
ユターシャは多くの女性が好むだろうものにあまり興味がないようだが、大抵の女性というのはかわいいものが好きなハズだ。ツインテールの美少女がプリントされているTシャツなら、きっと一般女性の中にうまく紛れ込めるはず。
と、オレの見解を伝えて振り返ると、ユターシャはしわしわの顔でこちらを見つめていた。
「90年代のアキバオタクか? いくらなんでもこれは……」
「? ……嫌なのか?」
「いえ、嫌と言いますか、いにしえのテンプレオタクコスの存在にびっくりといいますかぁ……」
なにが気に食わないのか、ユターシャは首を横に振って拒絶反応を示していた。そうして、おそるおそる女性服のハンガーをかきわけていく。
「んー……んー……おっ!? こ、これいいんじゃないですかぁ!?」
「……ミニスカートか、大丈夫か?」
「いやぁ、これはロマンですよ。すいません、これ試着お願いしまぁす!」
白いレースがたっぷりとついているミニスカートの黒色ワンピース。セットで髪飾りとリボン、そしてエプロンがついているらしい。
確かに女性っぽいデザインだが、オレとしては簡単に怪我しそうな露出度の高さが目に余った。とはいえ、アレが当人の趣味というならばオレが口を出すのも野暮というものだろう。
颯爽と服を持って試着室に飛び込んだユターシャは、3分ほどでカーテンを開けた。
そこには。
「どうでしょう、似合っていますか?」
黒と白が基調となっている、ゴシック調の可愛らしいワンピースに身を包んだユターシャがこちらを見つめていた。たっぷりのレースは可愛らしさを出していて、エルフの顔立ち特有の凛とした美しさにも磨きがかかっている。
お気に召した服に着替えたからか、羽がパサパサと小刻みに揺れ動く。尻尾もうねうねと動いていて、くるりと回るとスカートのレースがふんわりと広がっていた。
「それが気に入ったのか?」
「ふふん、サキュバスといえばメイド服ですからね! 女騎士にくっ殺、巨乳お姉さんにタートルネックと同じ原理でして……」
と、嬉しそうにメイドの服に関してつらつらと語り始めた。
……どうやらオレの知るメイド服とユターシャの言うメイド服には、大きな相違があるらしい。
「〜〜というわけで、サキュバスとメイド服の親和性はかなり高いのです。どぅーゆーあんだすたん?」
「つってもその服はメイド服じゃないだろ」
「む、どっからどう見てもメイド服でしょう? ミニスカメイド服! イェーイクールジャパン!」
どこの世界にこんな裾が短くてひらひらした女中がいるのだろうか。こんなんじゃあ働きにくいだろうに……
「エルフの国の女中文化は知らないが、人間の国では基本
「リアルな話はいらないんですぅー! いえ、シックで本場な清楚メイドを否定するわけではありませんが、それはそれとして安易にえっちでかわいいミニスカサキュバスメイドっていいじゃありませんか! 伊東ライフですよ!」
口を尖らせて抗議をしてくるユターシャを尻目に、オレはさっさと会計を済ませた。ついでにレジ横に売っていたレンズのないフレームだけのメガネも購入して、彼女に無理やりつけさせる。
服についたタグを全部取ってもらって、ユターシャはご機嫌な様子で鏡に向かってメガネをクイクイしながらもポーズをとっていた。
「もしかしてご主人様……眼鏡萌えでした!?」
「変装用だ。外に出る時はちゃんとつけておけよ」
「あぁそういう」
なんだつまらない、とボヤいたユターシャだが、案外眼鏡は気に入ったようで鏡の前で自分の顔を眺めていた。
「そういえば私、エルフになった当初はバ美肉かと心躍りましたけど、ずっと聖女服しか着てこなかったので自分の容姿のレベルの高さを楽しむ余裕を忘れてましたね……うーん、かわいいのではぁ? でへへぇ」
「よくわからないが、まぁ、似合ってるぞ」
「でしょう、でしょう! なんたってエルフですからね。いえ、今は淫魔ですが……元エルフですから!」
女の子たのしー! と叫びながらぴょんぴょんと跳ねている、無邪気な聖女様を見下ろす。
初めて出会った時よりもずっと素が出ているようで、軽口を叩きながらもオレの周りをくるくると回っている彼女は、本当に楽しそうに見えた。
* * * *
夕方。
「はうぁ〜……天国かな?」
かなり久しぶりになる柔らかなベッドに、ゴロンと転がる。やっぱりフカフカのベッドは居心地が良くて、枕に顔を埋めるとここまでの疲れが一気に吹き飛んでいく気持ちになった。
淫魔になって、国を追放されて、男に助けられて、餓死しかけて、それから人間の国へと向かい続けたここ最近の日々。毎日を数十年繰り返すだけの私に取っては、激動の数日間だった。
最初は命令服従だとか言われて不安だったけれど、彼もそんなめちゃくちゃな事を言ってくることはない。なんだかんだ面倒を見てくれるし、配慮もしてくれている。厳しいように見えて私の事を心配してくれてるらしいし、そして
私はこの数日で、あの男にすっかり絆されていた。契約しているからと呼び始めた『ご主人様』の愛称も、なかなか板についてきた気がする。
「ユターシャ、湯を貰ってきた。身体拭いておけよ」
「んー、動けないでしゅう……」
ベッドの魔力に吸い付かれてしまった私は、起き上がることもできずに羽をパタつかせて返事をする。だってこんなに居心地のいいベッドで横になれるなんて、もう数日ぶりなのだから。
聖女としてはあるまじきだらしなさだけど、今の私は淫魔だし、相手はご主人様だし、いつも厳しい先生もいなければまわりの目だってないわけで……
「
「ウッ……わかりましたぁ」
とはいえ、こうして命令されると体が勝手に動いてしまう。立ち上がって男からバケツを受け取った私は、そそくさと服を脱いでたっぷりと暖かなお湯を吸ったタオルを絞った。
彼はいつのまにか部屋から出ていて、私は1人でゆっくりと身体を拭っていく。数日分の汗や埃が溜まっていると思ったけれど、淫魔特有の自浄作用なのかそんなに汚れていなかった。髪の毛から足先まで丁寧に拭き取って、それをバシャバシャと湯で洗う。
……本当に、柔らかい身体だ。しっとりとした肢体は水を弾くし、とろけそうなほど柔らかな乳は揉めば優しく指が沈んでいった。淫魔になってから、それがより顕著になった気がする。
私の身体は、抱かれることに特化したものになってしまったのだろうか?
「……女の体にも慣れたけど、エッチはなぁ……」
はぁ、とため息をついた。
男の頃だったら考えられなかっただろうに、いまの私は行為に対して悦びを感じているのだ。
腹が満たされていくのと、脳みそが痺れるような快感。あんなの、一度知ったら戻れなくなるかもしれない。
未だにオレだった頃の自分が嫌だ嫌だと叫んでいて、聖女としての私はせめて聖女としての自覚を持てと受け入れている。淫魔の身体は彼をむさぼりたくて、心と身体が追いついていないのが問題であった。
「ま、まぁ生きるためですから。仕方ないですもんね!」
———それに、淫魔になったことをいい方向に考えることも出来る。
本来ならば、私を淫魔へと変えたあの皇太子と5年後には結婚する予定だったのだ。
そして、皇太子と結婚するとなればいずれ子を孕まなくてはならなかっただろうし、そのためには皇太子とも行為に及ばなくてはならなかった。
聖女だった私も、いつかは男に抱かれる運命だったのだ。それが早いか遅いかの違いだ。
あの命運に比べたら、意外と幸せだったりしないか?
「……ありゃ、お湯冷めちゃいましたね……」
男が持ってきたバケツのお湯は、すっかり冷めていた。先を譲ってくれた男も後で使うだろうから、もう一度温めたお湯をもらってこなくてはならないだろう。
一通り身体を磨き上げたところで、今日買ってもらったばかりのメイド服を着込む。
可愛すぎませんか私。
知ってました、だってエルフだもん。
「ごーしゅじんさまぁ、清拭いただきましたよぉ。お時間長くなっちゃってすいませ……あれ?」
バケツをえっちらおっちらと運びながらも、廊下に出る。しかし見える場所にご主人様はいなくて、私は重たいバケツを運びながらもロビーへと向かった。お湯もすっかり冷めてしまったので、つぎ足してもらったほうがいいだろう。
そうして、ロビーの共用テーブルで静かに新聞を読んでいる男をみつける。
「ごしゅじんさまっ、お待たせしました!」
「長かったな……まて、バケツを置け。こぼしたらどうするんだ」
あわてて駆け寄ってくるご主人様に、胸を張ってバケツを持ち上げる。
「だいぶ冷めてしまいましたので、お湯継ぎ足してきますね!」
「重いだろ、オレがやるから……新聞を戻してきてもらえるか?」
「私だってこのくらい持ちあげれますよ!」
と言ったもののフラつく私の手からバケツを奪い取った彼は、その代わりにと新聞を押しつけてきた。
「こぼしたら宿に迷惑がかかるだろ。オレがやるから、これをロビーに戻しておいてくれ」
「むぅ、わかりました……」
そうして、手渡されたのは1枚の新聞紙。
エルフ国と人間国の言葉は共通しているため、私でもそれを読むことはできた。
さて、いま人間の中で話題になっているのはどんなことだろう……なんて、ワクワクしながらも新聞を開くと。
———森林の急速な栄養失調
———北部から徐々に広まる原因不明の病原体か?
そこに写るのは元気のなくなった森林の写真。葉は抜けて、どこか萎えて元気のなさそうな木々。
「あぁ……あー、そっかぁ……そういえばそうですよねぇ……」
……せっかく、重責を忘れていたというのに。
こうも大々的に、
人間の国から見て、エルフの国は北部にあたる。明らかに、エルフの国が原因として森林の枯渇が始まっていた。
「どうしたんだい悪魔さん、怖い顔しちゃって」
「ヒェッ!? な、なななんでもないです! あ、新聞ありがとうございました!」
受付のおばあちゃんに声をかけられて、あわてて持っていた新聞を返す。彼以外の人間と喋ることが珍しくて、思わずキョドってしまったのが恥ずかしかった。
———まぁ、考えても仕方ない。
いつもの聖女スマイルで愛想良く『いえ、なんでもありませんよ』と言うべきだった……なんて自己嫌悪しながらも、小走りで部屋に戻って行く。
嫌な新聞のニュースも見てしまったし、こんな日はぬくぬくおふとんでゆっくり惰眠を貪るに限るのだ。
そうして私は、少しブルーな気持ちで扉を開ける。
「戻りました。はぁ、聞いてくださいよ……あの新聞の記事なのですが……」
「ノックくらいしてくれ」
「むきゃっ!?」
そこには、半裸のご主人様が。
今から清拭しようとしていたのだろう。脱いだ服は横にかけられていて、最後は下着一枚だけ。それに手をかけた状態で止まっている彼は、こちらをじっとりと睨みつけていた。
バケツに入るお湯からは湯気が立っていて、その熱さが伺える。
私は慌てて部屋から出た。
目線が、出ていけと訴えていた気がしたのだ。
「失礼しましたぁ……」
そして、扉に背を当てて深呼吸を一つ。
……私は再度ドアノブに手をかけた。
ほんの少しだけ扉を開けて、中の様子を伺う。バレないように、ほんの少し……ちょっとだけドアを開けて……
「覗くな」
「の、の、覗いてませんよぉ!」
男だった頃の自分が、何をやっているんだと叱責する。聖女の心を持った自分が、なんてはしたないんだと声を荒げている。
だけど身体は正直で、ドアを閉めることができなかった。欲望に耐えきれず、思わず中を盗み見てしまう。
昼間は服で隠されている体も、脱げばなかなか逞しい。やたらめったら古傷があるのは、冒険者として若い頃から活動しているからだそうだ。
「ふーっ……ふーっ……♡」
「だぁから、覗くなって!」
「ごめんなさいごめんなさい、あと10秒だけ……いや30秒……い、1分だけ! 1分だけ見せてください!」
普段は服を着込んでいる男の、ほぼ全裸だ。
鍛えられた身体は魅力的で、思わずごくりと喉が鳴る。
扉を隔てた向こう側に押し入りたいのを無理やり耐えて、耐えて……
「あぁ、お慈悲をください……せめて見るのだけ許してください。焼肉屋の匂いを嗅いで白米食べるような感じで行きますから、どうか……」
提案したのは、イマジナリー焼肉ご飯ならぬイマジナリーザー○ンである。
「そんなに腹減ってるのか?」
「あ、貴方が魅力的だからいけないんですよ。そんな無遠慮に裸になんてなって、わ、私が淫魔だってわかってらっしゃるんですか……?!」
本来なら、我慢できるのだ。普段のように服を着込んでいるご主人様なら、別になんともない。
だけど、全裸はダメだ。
アレは身体が、
そういえば、ここ数日間の長旅の中で彼が全裸になっていたのは私が飢餓状態で死にかけていた時だけだった。それ以外は基本服を着込んでいたし、行為の時だって互いにほぼ服を脱ぐことがなくて……
あぁ、彼の裸が、こんなに美味しそうに見えるだなんて。
「悪いクセでもついちまったのかね」
「クセ……ですか?」
「まぁいい、もう入れよ。そんなとこにいたら他の客の迷惑になるだろ」
「う、ううう……」
私は、ゆっくりと扉を開けた。
何故だろうか、彼がいつもよりずっと魅力的に感じるのだ。おいしそうでおいしそうで、空腹で死にかけた時を思い出す。
「し、し、失礼しましゅ」
後ろ手にしっかりとロックをかけて、いそいそと男に近づいて行く。
自分が発情しきっているのがバレていて、それなのに我慢できず男に近付いていってしまう。それが酷く無様で、そして抗えなかった。
なんとか襲いかかるなと、自分の頭で制限をかける。そうでもしなければ今すぐに押し倒してしまいそうだった。
「まぁ多分アレだろ、最初にヤった時のが鮮烈すぎて、男の裸に特に反応しやすくなったとか……そういうことじゃないのか?」
「そ、そうですか……そういうものでしょうか?」
彼に触れられる距離まで近づいて、許可も得ずにぴとりとその腹に指を這わせる。つつ、と上に撫で上げると、男は不愉快そうにピクリと眉を動かした。
耐えなきゃいけない、と思いながらも彼の体に触れたくて仕方がない。
いつの間にか呼吸を荒げながらも、私は彼の身体にぺたぺたと触れていた。
「ごめんなさい……もう、もう手を離しますから」
「……いい。元はと言えばオレが餓死寸前まで追い込んだのが悪いんだろ」
身体拭くまで我慢できるか? と彼が聞く。私は、それになんとか首肯を返した。
「……すいません……」
「謝らなくてもいい。オレの配慮が足らなかった」
むしろ、他の淫魔よりもずっと理性的だろ。と、男はそう言いながらも髪の毛を湯に浸らせている。じゃぶじゃぶと、頭皮を荒々しく洗うその様を私はじっと見つめていた。
髪の毛から水気をきって、それからタオルを水に沈める。濡らしたそれを絞り、身体をゴシゴシと拭き始める。
「あの、手伝っても……?」
「わかった。
私は背中から彼の体に抱きついて、指先から温かなタオルで丹念に磨いて行く。彼の首筋に鼻を押し当てながらも、ゆっくりと身体に触れていった。
「アンタは淫魔にしては理性的な方だろ。淫魔族の知り合いがいるわけじゃないから詳しくはわからないが、噂よりもずっと落ち着いてる」
「ふーっ……♡ そ、そうですか……? あ、腕をあげていただいても……♡」
彼の話が耳から通り抜けて、少しも頭に残らない。
今考えられることは、目の前にある肉を貪り喰らうことだけだ。
「まぁ、ちゃんとした淫魔は生まれながらに理性を持つ必要がない種族だからかもしれないが……基本、一日中ヤってるような種族だって聞いたことがある。それに比べたら随分我慢できてる方だろ?」
「フーッ♡ フーッ♡ ……そ、そうですね♡ んちゅぅっ……♡」
いよいよ我慢できなくなり、正面から胸板に舌を這わせて吸いついても男は平然としていた。着ているメイド服のボタンをくつろげて、そこからたぷんと現れた大きな白肉に手を誘導する。
「……ま、その分抑制されてるのかね。こんなに淫香垂れ流すとは思わなかった。……とはいえ、前回よりはずっとマシか」
「んふぅー♡ は♡ は♡ ご主人様ぁ……♡」
未だに下着をつけているその上から撫で上げながらも、私は彼の唇にむしゃぶりつく。尻尾までも彼に巻きつけて、私は彼の身体を抱き寄せながらも味わって行く。オス臭い匂いが鼻腔を充満して、脳髄までもが満たされていくような気分になった。
理性なんか、もはや溶けている。
エルフの時よりも伸びたらしい舌は彼の口膣を蹂躙して、ねっとりと熱い唾液を無理矢理飲み込ませて行くのだ。……彼には淫魔の毒が効かないらしいけれど、それでも本能がそうしろと言ってくる。
歯列をなぞり、舌の裏まで舐め上げて、濃厚なキスは口が離れても銀色に光る糸が繋がっていた。