魔法少女リリカルなのは 愚王シリーズ R-18 作:ヒアデス
「やっぱり裸にリボンでしょ♪ 部屋に戻ったら見たこともない大きな箱が置かれてあってね。試しに開けてみたら、中には体中にリボンを巻き付けた王様が入ってて、その中から王様が『アレル君、いつもお仕事お疲れ様。ご褒美に今夜は私を好きにして♡』って言うの。これならあの朴念仁に王様の想いが伝わるうえに、向こうから手を出してくるように仕向けられるって寸法よ!」
「…………」
得意げな表情と、その前に人差し指まで立てながらイリスは言い終える。それに対して他の三人は半ばまで閉じた眼を彼女に向けた。
イリスはそれを前にして……
「な、なによ? それだけやれば、あの騎士バカ犬でもディアーチェの想いに気付くでしょう! 『好きにして』って言ってるだけだから、命令されてヤルわけでもないし」
「確かにそんな方法もあるけど……」
憮然とまくしたてるイリスに対してエレノアは同意するような言葉を漏らす。しかし、その表情からは肯定の色は見えない。ユーリもひきつった笑いを浮かべ、
「ディアーチェにはちょっと難しいんじゃないでしょうか。そもそも、ディアーチェのそんな姿をアレルが目にしたら手を出す以前に……」
「とち狂ったと思われて、明日を待たず病院に連れていかれるのが目に見えとるわ!!」
ディアーチェは部屋中に響くような声で叫ぶ。
そして一同ははっとしながらグランツがいる上の方を見るも、彼が声をかけてきたり部屋から降りてくる様子はなかった。リビングから移動したのが幸いして、彼には聞こえていなかったらしい。
夫にこのような話を聞かれず、ほっと胸を撫で下ろしてからエレノアは口を開く。
「まあ、イリスの案は行き過ぎだけど、誘惑っていうのは捨てがたい手だと思うわ。今の様子だと、ディアーチェが行動しない限り進展しそうにないもの。それに……」
「あんまりぐずぐずしていたら、他の異性に見惚れてその子の方に向かっていってしまうかもしれませんね(ケントがまさにそうでしたし)」
「ならん!! 今さらアレルを他の女になど渡せるものか!!」
ユーリの言葉にディアーチェは鼻息荒く憤慨する。そこでまたイリスが口を開いた。
「じゃあ、やっぱりディアーチェの方から告白するか誘惑するしかないでしょう。でも単に告白するだけじゃ、あのバカ犬、義務的にエッチや結婚に応じるだけになるかもしれないんでしょう。それを考えるとやっぱり誘惑しかないんじゃない。ディアーチェに好意があるなら、それなりの反応はするでしょうし」
「……うむぅ」
ディアーチェは悔しげなうめき声を漏らす。実際告白が駄目となるともうそれしかない。裸にリボンは絶対却下だが。
「お風呂に誘うのはどうでしょう? お互い裸になっていっしょに湯船に浸かってるうちに、恥ずかしさから意識してくれるようになるかも――」
「それならもうやった。お互いタオルを巻いた状態だがな。日頃の礼も兼ねてあやつの背中を洗ってやって……そこでレヴィとシュテルが乱入してきて終いとなった」
混浴にもかかわらず色気をまったく感じさせないオチを聞いて、「そうですか」とユーリは提案を引っ込める。
なお、ユーリは知らないことだが、ディアーチェたちとアレルは実体化した時に真っ裸で対面しており、その状態のまま平然と会話していた。実体化直後と本来の正体ゆえだが、露出程度では効果が薄いだろう。
もっと直接的に“体を許す”という意味を込めたもので、なおかつ正気を疑われない程度の慎ましさを残したもの……。
(……やっぱり、
なおもあれこれ言い続けるイリスたちを横目に、エレノアは腕を組みながら秘かに答えを出す。
彼女の夫、グランツもかなりの堅物で、幼なじみとして長く付き合っていたにもかかわらず、結婚に至ったのはお互い20を越えた時である――人口が著しく少なくなった当時のエルトリア本星では十代後半での結婚が奨励されていた――。さらに結婚後もお互いにきっかけが掴めないまま、二ヶ月間は性行為やキスどころか手を握る事すら稀だったのだ。
それを崩したのが……。
「ねえ、私に一つ考えがあるのだけど……」
エレノアが言った瞬間、三人は話を止めて彼女に顔を向ける。
エレノアは顔を赤くしながら、『絶対にここだけの話』として上述の話をし、
◇
日が落ちてきた頃、ようやく己に任された敷地の地ならしを終える。
空はもう暗みがかっており、それぞれ住処に戻る時間だ。
他の皆と合流して農具を片付けてから、研究所に帰る姉妹と別れ、己もレヴィとシュテルらとともに『城』に戻る。
己らが住むこの一帯には『フローリアン研究所』の他に、王と我らとイリスとユーリが住む『城』、数百体の《群体イリス》が控えている『待機所』、といった三つの施設がある。
己らが住む『城』は研究所とほぼ変わらない二階建ての家で、多数の《イリス》たちがいる『待機所』に比べたらはるかに小さい。だが地球のことわざで『住めば都』という言葉があるように、王や我らにとって自分たちの力で築き上げた、立派な『城』に違いない。
己らは『城』に帰参してすぐ、王が手ずから作った夕食を摂り、そして風呂に入る。その後は各自自室で休息をとる予定だ。そんな一日を思い返して……。
――今日もこれまでと変わらない日だったな。
そう思いながら湯に浸かっていると――
《アレル、少しいいか》
《王、いかがした?》
《う、うむ……お主、今何をしておるところだ?》
そう問い返されて、己は思わず首をひねりながら……
《風呂に入っているところだが、すぐに出た方がいいか?》
《――い、いや、まだ出なくていい! ……ええとだな、ちょっと用事があるのだが、お主の部屋で待っていていいか?》
《用事? ならばやはりすぐ風呂から出て――》
そう聞いて、バスタブから上がりかけると――
《い、いや、まだ大丈夫だ! むしろゆっくり入っていろ! 我にも心の準備があるからな。それと体はよく洗っておくのだぞ……お主が汚いと言ってるわけではないが、こういうのはお互い綺麗な体の方がよいからな》
《……?》
要領を得ない返答に己はまた首をひねる。とりあえず、もう少し入っていた方がよさそうだ。
それからしばらくして風呂を出て、水を飲むためにリビングへと立ち寄り、そこで話をしていたイリスとユーリと鉢合わせた。その際イリスからはニヤついた笑みを向けられ、ユーリからは「がんばって」という言葉をかけられた。
こやつらも関係しているのか?
そう訝しみながらも、己は階段を上がり二階の自室へ向かう。
ここでまた余談だが、この『城』は、ユーリとイリスが一階の一部屋、王と二人の臣下が一階のもう一部屋、己には二階の一室を割り当てられている。
臣たる己が王より上の階に住まうことに迷いはあるが、レヴィが階段を駆け下りる音が耳に障るのと、寝起きなどの様子を己に見られたくない、という理由でこのような部屋振りになっているらしい。
ついに部屋の前に着き、己はコンコンと軽くドアを叩き、中に向かって声をかけた。
「王、いらっしゃるか? アレルだ。中に入ってもいいか」
「――う、うむ! わ、我ならここにいる。だが、まだ少し待ってくれ。じゅ、十秒ぐらいしたら入ってもいい!」
「……?」
それを聞いて、己はまた首をひねりそうになる。やはり要領を得ない。具合でも悪くしているのだろうか。
そう思いつつきっかり十秒待って、己はついにドアのノブを握る。
「十秒経ったぞ。王、そろそろ失礼す……」
「る」という最後の一文字は出てこなかった。なぜなら――
王……ディアーチェは己の前に立ちながら、スカートをつまみ上げていた。
水色の下着が否応なく目に飛び込んできて、己は思わず――
「す、すまない! 己はすぐに――」
「ま――待て!!」
己は思わず謝り、ここから出ようとする。なぜ己の部屋であんな真似しているのか訊くことすら頭になかった。だが、王は右手を伸ばして己の腕を掴んで引き留める。片方の手は変わらずスカートをめくり上げたままだった。
「……こ、これぐらいなんでもないはずだぞ。そなたと我は少し前に一緒に湯に入り、七年前にこの体を得た時は一糸まとわぬ姿で会話していたのだからな……」
そう言いながらも王は顔を赤くし、己から目をそらす。そして己にも、彼女の羞恥がそのまま伝わったように顔が熱くなった。
「確かにそうだが……しかし王、なぜ今そのような真似を……」
王から顔をそむけたまま問いを発する。すると王は己からわずかに視線を落としながら言った。
「我の
自らを奮い立たせるように言葉を吐き出す
「おもい……とは?」
心の内ではわかっていながら、半ば無意識に彼女に尋ねる。その問いに王はまた視線をそらしかけるも、懸命に己を見返して言った。
「我がそなたに抱いてる
「王が己を……しかし、己は王に仕える臣で、なにより王と己は違う種ぞ――」
「違う! “この体”を得た今、そなたも我も同じ人間だ! まして主従など、この想いを妨げる理由にもならん!!」
「――!」
確かにそうかもしれない。
七年前に八神はやてたちや御神健斗を模した肉体を得て、ほとんどの時を“この体”で過ごすようになった今、己らはもうほぼ人間と変わらない。それに思わず口にしてしまったが、王と臣下が結ばれてはならないなんて決まりなど己らにはない。
「だ、だから、重要なのはアレルがどう思っているかだ。我の事を好いてくれているのか、触れてみたいと思っているのか……強制はせぬ、正直に答えてくれないか」
そう言って、王は碧色の瞳で己をじっと見る。
それを前にして、己は目を閉じ彼女との日々を思い返した。四十年前、喰うか喰われるかから始まった出会い、イリスとユーリに拾われてともに育ててもらった日々、それまでの記憶を失っているにもかかわらず初対面同様の己を騎士にしてくれた時の事などを。
「…………」
「……ごくっ」
短くない沈黙の末にディアーチェの喉が鳴る。ちょうどその時、己はようやく目と口を開いた。
「己は……己も、王のことを意識していた気がする。主君とは別に、シュテルやレヴィとも違う特別な
「アレル……じゃあ」
王は期待の色を含んだ声を漏らす。己は彼女にこくりとうなずいた。すると王は破顔して……
「ならば、今から我のことを『ディア』と呼んでくれ。シュテルもレヴィも使っておらぬ略称だ。そう呼んでくれれば、今から我のことを好きにしてくれて構わぬ」
言いながら、彼女はスカートをさらにめくり上げる。もう目をそらす必要はない。
「他の者たちがいない時ならいくらでも呼ぼう。ディア、今から君の体に触れさせてほしい……いいか?」
ディアはこくりとうなずく。
それを確かめた瞬間、己は彼女の口に吸い付くように自身の口を当てて、開いた口の中に己の舌を入れた。
人間同士がするように、熱く、激しく。