魔法少女リリカルなのは 愚王シリーズ R-18 作:ヒアデス
これはいくつもの幸運と奇跡が重なった未来か、それとも死したケントが魔導書の中で見ている夢か。
これはケントが《夜天の魔導書》の暴走を止めることができた世界。
我々が知る未来にも、ケントが海鳴で転生する未来にも繋がらない世界。
闇の書とその主である俺を葬らんとオリヴィエが搭乗する《聖王のゆりかご》がグランダム王都に迫ったあの日、俺はリヒトや守護騎士たちとともに《聖王のゆりかご》とオリヴィエに戦いを挑み、勝利した。いつ訪れるかわからない危機の芽を摘むより、友を救うことを選んだのだ。
固有技能や守護騎士たちとユニゾンしたリヒトの助けに加え、今までに覚えたあらゆる魔法を駆使した熾烈な戦いの末に俺はオリヴィエをねじ伏せ、意識を失った彼女を抱えてゆりかごを脱出した。
主を失ったゆりかごは俺から逃げるように上空に向けて上昇を始めたものの、上昇したゆりかごがコントゥアを過ぎたところで、俺はフィンブルによる攻撃をかけ、ゆりかごを撃破。かの巨船は無人の荒野へと落下し大破した。
《聖王のゆりかご》を失った聖王連合はその日のうちに“モニター”と呼ばれる枠を通して俺に連絡を取り、即時停戦と講和、捕虜となったオリヴィエの身柄の返還を打診してきた。それに対して俺は即時停戦については合意を示しながら、講和とオリヴィエの返還については検討するとしか言わずにおいた。
講和とオリヴィエの返還について答えを濁したのは戦後処理を有利に進めるためだが、後者に関してはもう一つ理由がある。ゆりかごのように聖王の力によって動く兵器が他にもあるかもしれなかったからだ。
それから一月、我が国は連合と何度も交渉しつつ、使者という形でこちらの人間を聖王国やその近隣国に送り込み、ゆりかごのような兵器がないかを調べさせた。
その結果、ゆりかごを隠していたゼーゲブレヒト城の前にある広場のように、大型の古代兵器を隠せるような場所は聖王国内に存在しない事が分かったことで、また一歩終戦に向けて前進した。
またこの頃になるとオリヴィエとの戦いで重傷を負っていたクラウスの体も回復し、国王の名代として我が国に何度も使者を送り、オリヴィエを解放するように迫ってきた。ゆりかごを失ったことと闇の書の力を見せつけられたことですっかり弱腰になった聖王家や中枢王家より、あちらの方がはるかに厄介だ。
クラウスはオリヴィエの身が掛かっているとなれば、闇の書を相手にしても退かない男だ。それに今後は力を失った聖王家に代わって、シュトゥラが連合を動かす国になるだろう。彼らと事を構えることは避けるべきだ。それに何より、クラウスは今もなお俺にとってかけがえのない無二の親友だ。あいつと戦いたくはない。
しかし戦後処理の主導権を握るために、オリヴィエにはもうしばらくの間グランダムにいてもらいたい。
そこで俺はクラウスのもとに使者を送り、我が国への訪問とオリヴィエとの面会を提案した。
クラウスはそれに応じるとの返事を出して、数日後にキオネル騎士団を率いて国を発ち、さらに一週間後、クラウス率いるキオネル騎士団は我が国の土を踏んだ。
王都に入るや、クラウスは俺とオリヴィエがいるグランダム城の門を叩き、城内に足を踏み入れた。この時のクラウスは殺意に満ちた雰囲気を醸し出しており、謁見の間で俺の姿を見るや殴り殺さんばかりの勢いで迫ってきて、俺とクラウスの間に割って入ってきたシグナムによって何とか事なきを得た。他の兵や高官たちはクラウスを止めようとすることもできずにその場に立ちすくんでいた。中にはその場から逃げ出そうとする者までいたぐらいだ。
その後、俺との謁見を早々と済ませたクラウスは城内の応接室にてオリヴィエとの再会を果たし、ようやく落ち着きを取り戻した。
二人は長い沈黙をはさみながら気まずそうにぽつぽつと言葉を交わし、やがてクラウスはオリヴィエにまた会いに来ると告げて部屋を出て、謁見の間での非礼の謝罪と俺宛てにまた日を改めて話がしたいとの伝言を残して、城からも去っていった。
クラウスとの和解から数週間後、我がグランダム王国と聖王連合は講和条約を結び、戦は聖王連合の敗北に等しい形で終戦を迎えた。
オリヴィエは聖王家に引き渡され使者とともに聖王都へ帰還したものの、ゆりかごを失った聖王家や連合にとって彼女を玉座につける価値はなきに等しく、また彼女も玉座に留まることを望まなかった。それから一週間後にオリヴィエの兄であるオスカーが聖王位につき、オリヴィエは侍女たちやエレミアとともに再びシュトゥラに戻ることになった。
しかし、反連合との戦で消耗し切り札だった聖王のゆりかごを失った聖王家に連合を動かす力はもはやなく、『聖王連合』という名はまだ残ったままとなっているものの、連合の中でもっとも国力が強いシュトゥラが事実上の連合の盟主となった。
聖王家の凋落を機に、反連合を掲げる国々は連合への攻撃再開を企図。その手始めに我が国に使者を送り、同盟の締結と連合との戦の再開に際する協力を提案してきた。俺に反連合の盟主にならないかと言ってきたのだ。
しかもほとんどの国の使者は、十代後半から二十代前後までの豊満な肢体を持つ美女を何人も連れてきており、しばらくの間彼女たちを俺の下で仕えさせたいとか宮廷での礼儀を学ばせたいと言ってきた。彼女たちの体を使って俺を釣りあげようとしているのは明白だ。
俺はしばらくの間考えを巡らせ、彼らに対して連合との戦争再開については明確に否定する一方で、同盟の締結に関しては積極的な態度を取った。
連合とはもう戦わない、だが我が国の属国になりたいならそうしてやろう。そう言ってやったのだ。
それに対して、使者たちは唖然としながら連合との戦いの再開を勧めたり、連合と戦わないのであれば同盟を結ぶのはと渋い顔を見せたりしていたが、聖王のゆりかごを凌ぐ闇の書と呼ばれる魔導書の力は彼らも彼らの主も目の当たりにしており、ここで我が国に敵対する愚をおかすほど愚かではなかった。
それからほどなく彼らは再び俺のもとを訪れ、ほとんど無条件でグランダムの傘下に下りたいと言ってきた。
俺は彼らに対して
なお、使者たちは引き連れていた美女たちをこの城へ出仕させることを何度も願い出ていたが、丁重に断って連れて帰ってもらった。行儀見習いとして城に置いてまっとうに働かせるのもありなのだが、連合との戦が終わったことで住民は王都に戻ってきて、城で働いている使用人も不足していない。ようするに、来てもらったところで彼女たちに与える仕事がないのだ。遊ばせてばかりいる侍女に賃金を払えるほど王宮の財政はまだ潤っていない。
それからさらに我が国は、反連合だった国々以外にも連合や帝国に属していない国々と同盟を結んでいき、連合と帝国に引けを取らない国家連合を作った。
聖王連合、ダールグリュン帝国に続く第三の連合体『南ベルカ共栄圏』の発足だ。
一方、そんな中でもダールグリュン帝国を統べるゼノヴィア皇帝は、虎視眈々とグランダムとの戦いを起こす機会をうかがっていた。聖王家や中枢王家の面々と違ってゼノヴィアは闇の書を恐れるような人物ではない。むしろ闇の書が完成したらしいと知って、これまで以上に戦意を燃やしていた。
しかし、帝国の重臣や属国は皇帝と違って、闇の書を持つ王がいるグランダムと事を構えたいとは思っておらず、戦乱が収まったことを機会にこれ以上の戦いを忌避するようになった。いかに雷帝と呼ばれるゼノヴィアでも彼女一人だけでは戦を起こすことはできない。
それに加えて、皇族に連なる家の令嬢はグランダムの王と婚約の契りを結び、かの王に嫁ぐことになっている。
それらを差し引いても、ゼノヴィアや令嬢がグランダム王から買い取った債権は巨額だ。それは半年ごとに彼女たちにとっても少なくない金利をもたらすものであり、十年後にはその年の金利とともにそのまま彼女たちのもとに戻ってくる。しかし、もしここでグランダム王を討ち取ってしまえば貸した金は戻ってこないどころか、俺が負っている債務を自分たちが肩代わりする羽目になる。
どう考えてもグランダムと事を構えるべきではないことを悟り、ゼノヴィアはついに闇の書の主との戦いを諦め、愛弟子でもある令嬢をグランダムへと送り出すことにした。
それまでの間も、俺はリヒトとともに夜天の魔導書の暴走を止める方法を考え続けていたのだが、サニーが連れてきたミッドチルダの魔導師がそれを解決してくれた。
テスタロッサという黒髪の女性は、リヒトが見せた魔導書のプログラムを解析してからほんの数日で修正プログラムを作り出し、俺たちを魔法生物しかいない無人世界へ連れ出してそこで頁を埋めさせて闇の書を完成させてから、テスタロッサはプログラムの修正ができる魔導書の真の主となった俺を介して修正プログラムを割り込ませ、魔導書の暴走を抑えることに成功した。
こうして闇の書と呼ばれていた夜天の魔導書が主や世界を滅ぼすことはなくなり、それを知った途端リヒトはその場に崩れ落ちてわんわん泣き喚き、俺はそんな彼女を抱きしめ背中をさすり続け、テスタロッサはそんな俺たちを暖かく見守っていてくれた。
かくしてベルカは夜天の魔導書の暴走による滅亡の危機から免れ、その中心地であり戦乱が続く激戦区でもあった聖大陸も三つの国家連合によって分割され、ベルカとそこに住む人々はようやく平穏な日々を取り戻した。
聖大陸全土に及ぶ不作も、一部の地が夜天の魔導書の力によって回復の兆しを見せたことで希望の芽が出てきた。リヒトによればこれはシステムU-Dこと『ユーリ・エーべルヴァイン』が使う力で、大地や植物に活力を与えることによってなしえることらしい。そうだとすればユーリという子には感謝しないといけないな。もしユーリが魔導書から現れる日が来たら俺に出来ることは何だってしてやりたい。
ただし、夜天の魔導書のバグは深部にまで及んでおり、テスタロッサの技量をもってしても危険なプログラムをいくつか除去したり修正しただけなので、魔導書の力を濫用すればまた新たなバグが発生しかねないとのことで、そう何度もこの力を使うことはできないらしい。
ベルカをかつての姿に戻すには、やはりそれ相応の努力が必要だということだろう。それが大地を汚す戦を続けてきた俺たちへの罰なのかもしれない。
世界や国々の情勢についてはこんな所だ。ここからは個人個人の話に移ろう。
まずはシュトゥラにいるクラウスたち。
先述の通り、オリヴィエは聖王位を放棄してシュトゥラへと戻され、クラウスからしばらくの静養を言い渡されてからは、剣や筆を取ることなく部屋で大人しくしていたが、徐々に本来の調子を取り戻しつつあり、城のまわりを散歩したりすることも増えてきているとのことだ。
オリヴィエや彼女の侍女たちとともにシュトゥラ城に戻ったエレミアは、しばらくの間クラウスとぎくしゃくしていた時期が続いていたが、ある式典でドレスを着て現れたエレミアの姿にクラウスが仰天したのがきっかけで、再び話をすることが増えたようだ。もっとも、それ以降はエレミアが何度誘っても、クラウスが彼女と手合わせをすることはなかったそうだが。
シュトゥラ王はそれからほどなくお亡くなりになり、クラウスが正式にその後を継いだ。
王は亡くなる直前に俺との面会を望み、余命わずかな王の心にかかる負担を考えると、連合と敵対していた俺が王の前に出るのは憚られるものがあったが、再三の要請とクラウスからの頼みもあって俺はシュトゥラ王に会いに行くことにした。
自室のベッドで横になっていた王の顔は血色がなく蒼白で、留学時代に会った時と比べて別人のようにやつれていた。
そんな王に俺は連合やオリヴィエと敵対した経緯、闇の書のことを事細かく伝えた。
もはや起き上がることもできない王にとって、話を聞くだけでも相当堪えることだったと思うが、王は俺の話にしっかりと耳を傾け、最後は笑みを浮かべながら「これからもクラウスとよくしてやってくれ。あれは王としてはそなたの後輩にあたる。だから、どうか頼む」と言って眠りについた。
あの時の無理が王の余命に影響を与えたのは間違いない。それを思うと心苦しいものがあるが、王の最後の言葉を聞いて会いに来てよかったとも思っている。
そして父に代わってシュトゥラ王となったクラウスが直面したのは、やはり婚姻の問題だ。
彼を知る者にとっては今更な話だが、クラウスはオリヴィエに好意を抱いており、王に即位して王妃を迎えなければならない局面に差し掛かった今、クラウスはオリヴィエを自身の妃にするつもりでいる。
オリヴィエは末姫ながら聖王家の王女で、血縁上はシュトゥラ王の妃として申し分ない。当初は誰しも快く賛同し婚姻の準備を進めたとのことだ。
しかしそれからすぐ、クラウスにオリヴィエから打ち明けられたある事実がその話にヒビを入れることになる。
オリヴィエは幼い頃に魔導事故に遭い両腕を失っている。それは彼女と会った者なら誰しも周知のことだが、オリヴィエが負った傷の後遺症は彼女の体内にあった主要な臓器におよんでおり、その中には子供を産むために必要な器官までもが含まれていたとのこと。
つまり、オリヴィエは子供を産むことができないということだ。
これは王族や貴族では致命的な事であり、平民でも子供が産めない女性はよほどのことがない限り忌避される。ましてやクラウスはシュトゥラ王。王位を継ぐ世継ぎが必要だ。世継ぎを産めない王妃など望まれるはずがない。これはあくまで俺の勝手な憶測だが、オリヴィエが自ら聖王に志願し、ゆりかごに乗ろうとしたのはそれが関係しているのかもしれない。
当然ながらまわりの臣下たちはクラウスとオリヴィエの婚姻を認めず、他の王女との結婚を勧めた。今や大陸を三分する連合の盟主となったシュトゥラ王との婚姻を拒む国などどこにもいない。連合の内外問わず、どの国もシュトゥラ王との縁談を諸手を挙げて歓迎するだろう。
しかしクラウスはそれを一蹴してあくまでオリヴィエとの婚姻を望み、王位については王家に近い縁戚から養子を取り、その子に継がせると言ったのだ。
それに臣下たちは猛反発した。それでは代々受け継がれてきたベルカ王族の証である
しかしクラウスは引き下がらなかった。「戦がなくなった今、固有技能が使える王など必要ない。正当性がないというのなら他家に王位を譲るか王政そのものを廃止すればいい」と言ってのけた挙句、「オリヴィエとの婚姻を認めないのなら自分は誰とも結婚しない」とまで言い出した。
これに慌てふためいた家臣たちは、オリヴィエを妾にすることを認めると言ったのだが、クラウスは「オリヴィエを妾にすることなどできない」と言い。それに対して家臣たちは「子供が産めないことを伏せてオリヴィエ様を妃としたうえで、妾との間に生まれた子供を王妃との実子ということにしてはどうか」と言ったが、クラウスは「妾などとらないし、母親から子供を取り上げる真似も他者との子供をオリヴィエに押し付けることもできない」と言った。
それでも家臣たちは諦めることはできず、オリヴィエのもとを訪れて上記の案を話し、オリヴィエの方からもクラウスを説得するように求めた。
オリヴィエはその話を聞いてからしばらくの間を空けて、ゆっくりと首を縦に振った。オリヴィエは遠からずこのような事が起こるだろうと予測しており、この時にはすでに自分がクラウスの妾になるか、クラウスが他の女性を妾に取ることを受け入れていたのだ。
だが、それを知ったクラウスはついに激怒。執務室に置手紙を残してからオリヴィエやエレミアと二人の侍女とともに城を出奔し、他国に居を構えるという事実上の亡命行為をしでかした。
家臣たちは各国に捜索隊を出してどうにかクラウスの行方を探り当て、オリヴィエを王妃とすることと養子への王位継承を認めると宣言したことで、王政存続の危機にまで陥ったシュトゥラのお家騒動は幕を閉じた。
……ちなみにクラウスが亡命した国は
現在クラウスとオリヴィエはシュトゥラに戻って婚約の契りを交わし、オリヴィエの体調の回復と王位継承者となる養子の選定を進めながら婚姻の準備をしているらしい。
相変わらず真面目な奴だ。俺だったら妾の話が出てきた時点で折れる。現に俺は……。
次は我が国グランダムに住む者たち。
守護騎士たちは再び俺の直属の騎士となり、前と同じ職務に戻っている。彼女たちの忠義を裏切って王都から追い出すような真似をしたせいで、最近までシグナムやザフィーラから必要最小限の返事しかしてもらえなかったり、ヴィータやシャマルとティッタから口をきいてもらえなかったりしていたが、最近はまたあの中庭でみんな揃って話したりと元の関係に戻りつつある。
彼女たちにはもう夜天の魔導書の真実を伝えてあり、当時俺が置かれていた状況をわかってくれたことと、もう理不尽な主のもとで不毛な頁集めをしなくていいという安堵感が大きいのかもしれない。……もちろんこれで償いが済んだとは思っていないが。
イクスも相変わらず医師見習いとして、シャマルを助けながら怪我人のもとへ飛んだり城中を駆け回っている。『ガレア王』という肩書も今の彼女にはない。国力と財政が落ち着いたことで我が国はガレアと呼ばれていた村を正式に領土として併合し、それによってイクスはガレア王国の王ではなくなったからだ。
俺はそのことについてイクスに詫び頭を下げたことがあるが、イクスは「頭を上げてください。あの時処刑されても文句は言えないはずだった私を助けてくれたばかりか、こうして人を助けるお仕事を用意してくれたケント様に感謝こそすれ、恨みなんてするはずがないじゃないですか」と言ってくれた。
そして、もう何人かこの城に住むことになった者たちがいる。
一人はかつて俺たちが行ったことがある異世界の大陸、フロニャルドから来た元パスティヤージュ王クラリフィエ・エインズ・パスティヤージュ。愛称はフィー。
夜天の魔導書が完成した後、ブル閣下からもらった
俺はフィーに再会して間も開けずに夜天の魔導書によるフィーの病の治療を試み、夜天の魔導書の膨大な力で編み出された治療魔法によって、フィーの体に巣くっていた病魔や毒は払われ彼女は健康を取り戻した。
健康体を取り戻した以上フィーが王位を退く必要はなくなったはずだが、アデルに国を託すという彼女の意思は変わらず、フィーはアデルに王位を譲り、自身が住んでいたエッシェンバッハ城を去った。
そしてなんと驚くべきことに、フィーは国をも離れ、俺たちとともにベルカに行きたいと言ってきたのだ。
若くして王位を退いてしまった以上あの国にはいづらくなったから自分も連れて行ってくれないか、と彼女は笑いながら言っていたが、多分理由は他にあるだろうな。王位を退いて城から去った理由もおそらくは……。
二人目はエリザヴェータ・ダールグリュン。数日後にグランダム王国の王妃――俺の正妻となる予定の女性で、すでに何人かの執事を連れてこの城に住んでいる。
やはりというべきか、俺はエリザと婚約し彼女を妃として迎えることにした。いまだに好戦的なゼノヴィア皇帝がいる帝国との戦いを防ぐには帝国の貴族と結婚するのが有効な手だし、俺が妃に出来る身分の女性の中で打算抜きで俺を好きだと言ってくれたのは彼女だけだ。それにエリザは色事とは無縁だった俺に初めて愛情を向けてくれた
こうして一緒に暮らしているうちに俺の中で彼女の存在が日々大きくなっているのが分かる。この前まではリヒトの次くらいだったのが、今ではリヒトと同じくらいになるくらいに。だからといってリヒトの事を捨てられるわけがないが。
エリザが連れてきた、ジェフを始めとする執事たちのほとんどは省いてもいいだろう。皆懸命にエリザに尽くしている。
その中でジェフの妹にして紅一点の女性執事ロープだが、彼女は今もザフィーラのことを想っているようで、ことあるごとに彼に話しかけたり食事を共にしたりしている。ザフィーラの方は彼女に対しても他の兵や使用人同様友人の一人として接しているが、リヒトのようにザフィーラも色に目覚める時がくるのかもしれない。そうなったら面白そうなので俺は密かにロープの事を応援している。
そして俺の最愛の女性リヒト。
彼女は今も従者兼恋人として俺のそばにいてくれる。エリザという妻を迎えようという今も彼女を手放す気にはなれない。
すでに俺とリヒトの関係は城や城下町にいる者なら誰もが知っており王都でも噂になっているほどだが、結婚前とはいえエリザが城に住んでいる頃になってもいまだに愛人を城に住まわせていることに憂慮を示す者は少なくなく、離宮を建ててリヒトをそちらに住まわせるべきだという意見が彼らから出たことがある。
でも俺はどうしてもリヒトといっしょに暮らしたかった。
だから俺は家臣たちに羞恥心を押し殺しながらエリザのこともリヒトと同じくらい愛しているのだと訴えた。正直めちゃくちゃ恥ずかしかった。大勢の前で
一方で家臣たちは密かにエリザの方にも接触していた。彼女にそれとなくリヒトについてどう思っているか探りを入れていたのである。エリザはリヒトの事をかけがえのない友人であり、ともにケント様を支えるパートナーだと思っていると語り、リヒトが同じ城で暮らすこともすでに承知していると言ってのけた。ずっと前にリヒトの事をエリザに相談しておいてよかったとつくづく思う。
そして最終的に、リヒトは『
ともあれこれが今のベルカ、そして俺たちの状況だ。
数日後、俺はエリザと結婚し、さらにリヒトを公妾にする。
これから話す話はその生活のほんの一部分だ。
二人の妻と俺に思いを寄せてくれるもう一人の女性との愛にあふれた夢のような生活。
……そう、本当に夢かもしれない生活の。