魔法少女リリカルなのは 愚王シリーズ R-18 作:ヒアデス
戦前と変わらず曇天に覆われている聖大陸に、日の光が完全に届かなくなってから数刻もの時が過ぎ、大陸に住む人々のほとんどが一日の活動を終え眠りについている時間帯。
グランダム城でも一部の使用人と不寝番の衛兵以外は、すでに床に着いているか束の間の休息を満喫しており、俺も政務からの解放感に酔いしれながら寝室で過ごしていた。
今夜はリヒトやエリザを抱く予定もない。寂しい気もするが、こんな風に何もせずベッドに横たわる日も必要だろう。
そう思っていると、ふいに扉の向こうからコンコンという音がした。
「……誰だ?」
俺が尋ねてしばらく経っても返事が返ってこない。
……いたずらか? 俺の部屋にいたずらでノックを仕掛けてくる者などこの城には……ヴィータとティッタくらいしかいない。
「誰だ? 疲れてるからいたずらに付き合っている暇はないんだが」
「――あっ! ク、クラリフィエです。ちょっとお時間を頂けないでしょうか?」
クラリフィエ……フィーだと? てっきりあの二人のどちらかかと思いきや意外な奴が来たものだ。
「開いているぞ。入ってくれ」
「し、失礼します」
入室を許可するとフィーは扉を開き、おずおずと部屋に入ってくる。
騎士としての務めも終わっていたため、フィーが着ているのは鎧も装飾もない簡素な私服だった。
「どうしたこんな時間に? 何か悩んでいることでもあるのか?」
「い、いえ。皆さん良くして頂いてるおかげで日々健やかに過ごせています。今夜遅くにお邪魔したのは、ケント様にして差し上げたいことがあって……」
「してやりたいことだと?」
怪訝な声で問いかける俺に、フィーは小さく「はい」と答えて顔を伏せる。その顔はなぜか少し赤い。
フィーは赤くなったままの顔を上げて続ける。
「あのケント様、お仕事の方はどうですか? 結構お忙しいと聞いていますけど」
「ああ。平和になっても争い事は絶えないし、今は南ベルカ共栄圏の盟主として各国を取りまとめる仕事もあるからな。正直平和になる前より忙しいよ」
「ああ、分かります。やっと平和になったのに事あるごとに戦いを起こそうとする人や国が出てくるんですよね。私やアデルもそれを未然に防ぐのにだいぶ苦労しました」
パスティヤージュ王国の元国王であり、『大陸協定委員会』の責任者でもあったフィーはしみじみとうなずく。彼女や彼女の跡を継いだアデルも同じような問題を処理したことがあったのだろう。
しかし、そこでフィーははっとした顔になって――。
「――あっ! そ、それでですね、政務に追われていたケント様のお疲れを癒やすために私がひ、
「
俺が問うと、フィーは腰の後ろにある彼女のトレードマークとも言えるリスの尻尾を向けてきた。
「この尻尾、自分ではそれほど気にしていなかったんですけど。一緒の部屋に住んでいる同僚が言うには私の尻尾をモフ――撫でると、一日の疲れが取れるくらい癒やされるそうなのです。だからケント様も私の尻尾を撫でると、お仕事の疲れが癒やされるかなって……」
フィーの言葉に俺は思わずまなじりを下げた。
フィーの尻尾はふさふさした毛が生えそろっていて柔らかそうで、一度触ってみたいと密かに思っていた。とはいえ、フィーに向かって尻尾を触らせてくれなんて言うことができず、ほとんど諦めていたのだ。まさかフィーが自分から尻尾を触らせてくれると言ってくるなんて。
「フィーがそう言うのならお言葉に甘えて触らせてもらおうかな。……もちろん少しでも嫌だと思うのなら今からでも拒否しても構わないが」
「い、いえ、嫌だなんて思うわけありません。私の尻尾でよかったら好きなだけ触ってください!(うそ!? 尻尾を触らせるって言ったら本当に乗ってきました。アデルにも何度か触らせてほしいと言われたことがありますが、そんなに触りたいものなんでしょうか?)」
◆
フィーの尻尾を触るため俺とフィーはある場所に上がる。と言っても俺とフィーが落ち着いた態勢を取りながら尻尾を触れる場所なんて、この城で最も広く豪奢なこの寝室でもベッドの上くらいしかない。
二人だけでベッドに上がっているこの状況に、尻尾を触る以上のことはしないつもりにも関わらず、俺もフィーもドキドキしてしまう。
フィーは俺に背を向け、ふかふかで柔らかそうな尻尾を差し出すように俺に向けた。
「……ど、どうぞ」
「ああ……じゃ、じゃあいくぞ」
俺はそう告げてフィーの尻尾に手を伸ばす。まるで体を重ねる前のような掛け合いだがそれはきっとこの状況のせいだ、と思う。
「……んっ」
フィーの尻尾に触れ掴んでみると柔らかい感触が伝わってきた。ほどよく生え揃った毛がモフモフしていて心地いい。まるで毛皮でできた服のようだ。
「はぁっ……ケント様、どうですか? 私の尻尾の触り心地は」
「ああ。ふかふかしていい触り心地だよ。本当に仕事の疲れなんて忘れてしまいそうだ」
尻尾を触られながら尋ねてくるフィーに俺は素直な感想を告げる。しかし俺たちが口にする言葉は、あれの最中に交わす掛け合いのようだ。たまにフィーの口から漏れるあえぎといい妙にエロい。言葉だけ聞いたらほとんどの奴が勘違いするのではないだろうか。
「そうですか、嬉しいです。こんな尻尾なんかでケント様を癒すことができて。……じゃあ、尻尾とは違う場所も触ってもいいって言ったらどうします?」
「えっ?」
リヒトが不意に言った言葉に、聞き間違いだと思ってそんな声を漏らす。
しかし、フィーが次にとった行為はもっと驚くべきものだった。
「フィー、一体何を?」
俺がいるにもかかわらずフィーは突然自らを包んでいる服に手をかけ、それを脱いでいく。俺はそれを止めようととっさに彼女の肩を掴むが、俺が尻尾を触っている間にもいくつかボタンをはずしていたようで、脱衣を止めるどころか体を揺さぶった拍子に服はずり落ち、フィーは下着姿になってこちらを振り向き俺は慌てて彼女の身体から視線を外す。
「――す、すまない。そんなつもりじゃなくて――」
片やフィーは体を隠すようなそぶりも見せずじっとしながら言った。横目でちらりと見えたその顔は羞恥で赤くなっていたが。
「謝らないでください。ケント様に見てほしくて脱いでるんですから。だからこっちを向いて、私を見てください。ケント様」
「フィー、君はまさか……」
彼女の体を見ないように気を付けながら顔を戻す俺にフィーは、
「はい。今夜ケント様のもとを訪れた本当の理由はケント様と一夜を共にしたかったからです。もちろんお仕事で疲れたケント様を癒して差し上げたかったのも本当ですが……ですからケント様、私にお情けを頂けないでしょうか。私の尻尾も体も好きにしていただいて構いません。ですから……」
「ま、待て待て! 冷静になれ! まずは落ち着こう!」
下着姿のままにじり寄ってくるフィーを両手で制しながら、落ち着けと繰り返す。もう目をそらしている余裕もなく下着姿のフィーがもろに見えてしまった。服の上からわかる通り、ふくらみがほとんどないささやかな胸だ。
「……ケント様、やっぱり私の体なんて抱く気にはなれませんか?」
フィーはそう言って悲しげに目を伏せる。俺は慌てながら、
「い、いや、抱く気になれるかなれないとかじゃなく、俺にはエリザやリヒトという妻たちがいてな。お前もそれは知っているだろう! 彼女たちを差し置いて他の
「今夜のことはエリザ様やリヒトさん、それ以外の方にも一切口外しないと約束します。ですからどうか私にお情けをください!」
「そういう訳にはいかないだろう!」
俺が一喝するとフィーは涙目になって顔を伏せる。
「ケント様、そんなに私を抱きたくないんですか? エリザ様たちに比べて貧相な私の体じゃ抱く気になんて……」
「そういう問題じゃない。そういう問題じゃないんだ。……なあフィー、一体どうしたんだ? 突然そんなことを言い出したりして。俺たちの事情くらいわかっているはずだが」
諭すように問いかけると、フィーは一回だけ首を縦に振り、
「……わかっています。ケント様が闇雲に女性を抱くような方ではないということや、そんなケント様がエリザ様とリヒトさんのお二人を奥方にしている理由もすべて存じています。それでも私はケント様に抱かれたいんです」
「抱かれたいってそりゃまたなんで?」
俺の問いにフィーは顔を真っ赤にしながら口を開く。
「……実は数日前にあるものを見てしまって。それがきっかけで体の調子がおかしくなって……」
「数日前に見たものが? 一体何を見たっていうんだ?」
思わぬことを明かされ心配になって再び問いかけると、フィーはさらに顔を赤くして目まで泳がせながら問いに答える。言いづらそうに話を始めるフィーは挙動不審ではあるが、とても体に不調を抱えているようには見えない。
「……一週間近く前のことです。お城の中の見回りをしていた時に談話室からエリザ様とリヒトさんの声が聞こえてきて。ケント様もあそこにいたようなので気になってついこっそりと談話室の中を覗いてみたら……見てしまったんです。ケント様たちがあの部屋の中で……しているところを」
…………。
フィーが打ち明けたことに俺はぽかんと口を開ける。
間違いなくあの時の事だ。あの時以外に談話室でやったことはない。それも初めて三人でやった日のことだ、忘れられるはずがない。
そうか、あの時、扉がかすかに開いていたのが気になってはいたが、あれはフィーが覗いていたからだったのか。……まさかあれを見られていたとは。
しかし、それがどうフィーの体の不調に繋がるというんだ?
「もちろんあの時見たことは口外してはいませんし、今後も私の胸の中にとどめておくつもりです。でもあれ以来妙に体がうずいてしまうようになってしまって……率直に言うと、ケント様のあれが欲しくて欲しくて仕方がないんです」
……まじか、あれを見たのがきっかけでフィーが欲情するようになるなんて。そんな話官能小説の中だと思っていたが。
「……他の男じゃ駄目なのか? ザフィーラとかジェフとか」
「ケント様のじゃないと駄目です! いくらしたくてたまらないと言ってもケント様以外の男性に抱かれるつもりはありません!」
頭が痛い。あれがきっかけでこんなことになるとは。
しかしフィーがこうなったのは俺にも責任がある。あの酒で自制心をなくしていたとはいえあんなところで二人を抱いた俺のせいだ。
リヒトやエリザには悪いが、このままフィーを放っておくのも薄情だと思う。
悩みに悩んだ末に俺は……
「…………なら相手を頼めるか? 正直に言うとこんな状況で誘惑されたせいかさっきからムラムラして仕方ないんだ。ぶっちゃけると俺もフィーを抱きたい」
頬を掻きながら打ち明け最低な事を言う俺に、フィーはくすりと笑いながら言った。
「ええ。ケント様の思うがままに抱いてください。そうしていただくために私は来たんですから」
すまない、リヒト、エリザ。
これが最後だ。妻が増えるのは。
そう心に決めながら俺はフィーと顔を近づけ、唇を重ねた。