魔法少女リリカルなのは 愚王シリーズ R-18 作:ヒアデス
とある森の中、そこでは一組の男女が情事にふけっていた。
「はあ……ヴィータ、そろそろ出すぞ」
木に手をついたまま男のモノを受け入れる恋人に、茶髪の男は激しく抽送しながら言葉をかける。
それに対してヴィータも喘ぎながら……
「んんっ――早くしやがれ……こんなところあいつらに見られたら――――あああああっ!!」
ヴィータの求めに応じるように、大量の精が彼女の中に注がれる。
それを感じながら、ヴィータは持たれるように木にしなだりかかり、しばらくの間荒い息をついていた。
それからしばらくして、相手とともに服を整えながらヴィータは口を開く。
「……たく、最近大人しかったと思ったらこんなところで求めてきやがって」
「ごめん、ヴィータと二人きりだと思ったらつい……しばらく忙しくて、してなかったし」
その言い訳にヴィータは顔を赤くしながら「バカ……」とつぶやいた。
「いつの間にこんなスケベになっちまったんだか……“ケイン”も昔は素直だったのに」
ヴィータからの言葉に、ケインという男は顔を赤くしながらうつむく。
兄に比べたら自制しているつもりなのだが……。
彼の名はケイン・
グランダム王国現王の弟で、兄王から与えられた所領を治める公爵である。
彼の隣にいるのは、守護騎士団ヴォルケンリッターの一員である騎士ヴィータ。本来は現王の専属だがケインの兄にあたる現王によって、ケインに貸し出される形で彼に仕えている。
先ほどの様子からわかる通り、ケインとヴィータはただの主と従者ではない……。
「とにかく、あいつらが来る前に済ませられてよかった」
「確かに……いくら兄上やシグナムたちでも、あんなところ見られたくは――」
「なにを見られたくないんだ?」
横からかかってきた声に、「うわっ」と叫びながらケインとヴィータは反射的にそちらを振り向いた。
ケインに声をかけてきたのは、二人の美女を引き連れた金髪の青年だった。彼の眼もケインと同じく金の右眼と緑の左眼の虹彩異色だ。
「――陛下!」
「ケルト……」
ケインとヴィータは口をそろえて彼を呼ぶ。
ケルトと呼ばれた男は片手を軽く上げながら……
「陛下はよせ。堅い式典でもなければ他国の要人と話しているわけでもないんだ。さっきみたいに兄上と呼べばいい。もしくは幼い頃のようにケルトでもいいぞ」
「わかりましたよ兄上。ご厚意に甘えてそう呼ばせていただきます」
いくらか軽い雰囲気になってそう答える弟に、相好を崩しながらケルトはヴィータに顔を向ける。
「久しぶりだなヴィータ。すっかり見違えたぞ。この前会った時よりまたきれいになったじゃないか。ケインが惚れるわけだ」
「そりゃどうも。ケルトの方は変わらねえな。相変わらずその二人をあちこちに連れ回しているみたいじゃねえか」
本来の主に対してもぞんざいな口を利きながら彼の後ろを見やるヴィータ。それに対してケルトの後ろにいる二人の女は――
「な、何言ってるのよ!? 私とシグナムはあくまで騎士として若様についているんだから! そ、そりゃあ出先でも度々若様に求められるし、昨夜もお妃様を交えて何回かしちゃったせいで待ち合わせに寝坊しちゃったけど――」
「ば、馬鹿! シャマル、余計なことは言うな!」
シグナムに言われてシャマルはしまったと言いたげに口をつぐみ、ヴィータは呆れたようにため息をつき、その横では……
「兄上……」
「……お前だって、さっきまでヴィータとしていたんだろう」
ケインに遅れて現れた金髪の青年は、ケルト・
ケインの兄でグランダム王国の現国王である。現在の《夜天の魔導書の主》でもあり、彼の懐には茶表紙の魔導書がしまわれている。
彼が引き連れている二人は、守護騎士にしてケルトの妾でもあるシグナムとシャマル。
ヴィータと違って、二人の姿は20年前から何一つ変わっていない。
ケルトはきょろきょろと辺りを見回しながら口を開いた。
「……父上たちはともかく、クレールもまだ来てないのか。あっちの大きな興行に出るとは言っていたが、今日の昼前には終わる予定だったはずだろう」
「あんな形でも国と国の戦です。時間通りには終わるほうが
ケインがそう言うと、ケルトは納得したように肩をすくめる。
「それもそうか。じゃあ叔母上は? 父上はあの人にも声をかけたらしいが」
「仕事が忙しくて来られないってよ。イクスと一緒だ。ティッタの娘もまだ小さいから、親抜きでここまで来させることはできないそうだ。……まさかティッタがあんなに仕事人間かつ過保護な親になるとはな。昔の奴からは考えられねえ」
「昔の叔母上か。俺たちにとってはそちらの方が信じられないな」
「そうだな。叔母上は私たちが物心ついた時から仕事熱心で厳しい人だったからな、昔は破天荒だったと言われてもとても」
叔母の親友だというヴィータの言葉に、ケインに続いてケルトもそんな風に叔母を評する。
彼らにとって信じられないのは叔母の昔の人物像だけではない。自分たちの叔母とヴィータが友人であることも、彼らにとってあまりに信じられない事だった。
当時のヴィータは7~8歳ごろの少女の姿をしており、精神年齢も高いとは言えず、ケルトたち兄弟にとってヴィータは頼れる姉貴分でもあるが、世話の焼ける幼なじみでもあった。そんなヴィータが厳しい叔母と対等に話している場面はかなり違和感のある光景だった。異様と言ってもいい。
そのヴィータもケインが十くらいになった時にある出来事によって背が伸び始め、彼らと競うように成長し、今では口調こそ荒いままではあるがいっぱしの大人の女性となった。
その一方で数年間も見た目が変わっていない者もおり――。
「おーい! 兄上―!」
頭上から降ってくる女の声に地上にいる一同は顔を上げる。
そこには『ブランシール』という乗用の鳥に乗りながら一同に向けて手を振る小麦色の髪の少女と、褐色肌の大男が浮かんでいた。
空中からケインたちを見下ろす少女は小麦色の髪を後ろに束ね、黄を基調とした服を着て、頭の上にリスのような耳と腰の後ろに大きな尻尾を付けており、ケルトとケインと同様に金色の右眼と緑の左眼の虹彩異色の眼を備えていた。
「クレール!」
自身の名を呼ぶ兄たちに満面の笑みで向けながらクレールは地上に降りてきてブランシールから飛び降り、褐色肌の大男も彼女に続いて大地に足を下ろす。
「ケルト兄上、ただいまなのじゃ! 今回もパスティヤージュの勇者として存分に活躍してきたぞ!」
「そうかそうか。さすがは《英雄姫》と呼ばれたフィー義母上の子だ。クレールの活躍を聞いたら義母上たちもお喜びになるだろう」
「うむ! 褒めるがよい褒めるがよい!」
ケルトは少女を褒めながらその頭を撫で、少女はくすぐったそうに笑う。その姿は15の齢よりあと何歳かは幼く見える。
ケインは苦笑しながら少女の方へ歩み寄った。
「久しぶりだなクレール。元気にしていたか?」
「おおケイン兄上、久しぶりじゃな! 見ての通りうちはとても元気なのじゃ。兄上こそ公爵とやらになって王宮を出て行って以来となるが、問題なくやれておるのか?」
「ああ、今のところは問題ないよ。ヴィータの助けも借りてなんとかやれている。ところでフロニャルドでの興行はどうだったんだ? だいぶ遅くなったようだが」
「ああいや、戦自体はパスティヤージュの圧勝で予定より早く終わったんじゃがな、向こうの公女がもう少しうちと一緒にいたいと言って聞かなくての。領主殿や夫殿から昼食を勧められたこともあってなかなか戻れなかったのじゃ。この集まりがなかったらあと数日は向こうに滞在しておったかもしれん。
それより、今度はパスティヤージュとガレットで戦を行う予定があっての! 勇者がいるパスティヤージュに対抗して、ガレットの領主も久しぶりに勇者召喚を行うそうなのじゃが、その勇者とはうちらのお父上のことらしくてな。それが実現すれば勇者同士、しかも親子同士で戦うことになると、フロニャルド中で話題になっておるのじゃ! お父上にもそのことを話しておきたいのじゃが――」
意気揚々とフロニャルドでの出来事について話すクレールに、彼女の話に耳を傾けるケルトとケイン。
彼らのそばではクレールの後ろに控えていた大男が他の守護騎士たちと合流しており、守護騎士のまとめ役としてシグナムが大男に声をかける。
「ご苦労だったなザフィーラ。妹君のお付きはどうだった? お前の事だから手抜かりはないと思うが」
「ああ。いつも通り私が姫君の側についているが、興行と呼ばれる戦いに関してはあの方のお好きなようにさせている。フロニャ
「クレール様のお傍で戦っているのなら、あの方の護衛を果たしていると言えるのではないかしら。それより奥様の方は大丈夫? 奥様を置いてクレール様と二人きりで異世界になんて、寂しい思いをさせてしまっているのではないかしら?」
シャマルの問いにザフィーラは険しい顔をしながら答えた。
「できる限り帰るようにはしているが、時折寂しそうな顔をする時はある。……そろそろ養子でも探してみるべきかもしれんな」
ケルトに続いて現れたのはクレール・E・プリムス。先王と妾の一人との間に出来た子供で、庶子ではあるが当時の国王の意向により王族として扱われている。当時の王妃もクレールを王女として育てることは認めており、王妃の子であるケルトやケインとの仲も極めて良好だ。
クレールのそばに控えていたのは守護騎士の最後の一人、ザフィーラ。彼も本来はケルト直属の騎士ではあるが、彼の身柄も現在はクレールに貸与されていてもっぱら彼女と行動を共にしている。ヴィータたちと違って主従以上の関係ではないが。
◆
ケルトたち三兄弟は物心ついた時から、守護騎士やこの場にいないイクスやティッタと常に行動を共にしていた。
しかし、それからしばらくしてイクスは医者として独立して王宮を離れ、ティッタも守護騎士を引退してリヴォルタ領の運営に専念するようになり、兄弟や守護騎士の前に姿を現すことが少なくなっていった。
その中でヴォルケンリッターに属する四人の守護騎士たちは、兄弟から離れることなく常にその側にあった。
シグナムは兄弟たち、特にケルトやケインに剣術を教え、ヴィータは兄弟たちの稽古相手となったり幼なじみとしてともに遊び、シャマルは遊びや稽古の最中に怪我をした兄弟たちの治療をしたり年長者として相談に乗ったり、ザフィーラは人間の姿と狼の姿を使い分けながら兄弟たちを守ったりなど、彼女たち守護騎士はそれぞれのやり方で兄弟たちと絆を深めていった。
そんな守護騎士たちは兄弟たちにとって何より近しく、大切な存在だった。
そんな中でケルトは姉のような存在だったシグナムとシャマルに、ケインは幼なじみとも言えるヴィータに恋心を抱いた。
しかし、彼女らと過ごしていくうちに違和感も覚えた。
日々成長している自分たちと違って、守護騎士たちはまったく変わっていない。特にヴィータの不変ぶりは異様で、ケルトやケインが大きくなっていくのに対し彼女の背は十年間変わらないままだった。
そんな彼女を見てケインはこう思った。
もしヴィータが今のままだったら、俺はヴィータと結婚することができないのではないか?
そう考えた瞬間ケインはいてもたってもいられず、ケルトとともに守護騎士について調べ、そして知った。
守護騎士、そして自分たちが母と呼んでいる女性の一人、リヒトは夜天の魔導書が生み出した人ならぬ存在であることを。
自分たちが見初めた女性が人間でないことを知って、ケルトもケインは悩んだ。特にヴィータに想いを寄せているケインにとっては深刻だ。
このままではヴィータはずっと子供の姿のままで、彼女と結婚することなどできない。
ケインは悩みに悩んだ末に、夜天の魔導書の主である父と夜天の魔導書の化身リヒトに相談した。ヴィータを成長させる方法はないのかと
父とリヒトはケインの問いに答えず難しい顔をしながら彼を退出させた。それから扉の向こうで父とリヒトは何やら相談していたようだが、分厚い扉に耳を澄ませてもケインには二人が何を話しているかを聞き取ることはできなかった。
しかしそれから一月後、グランダム城に長く下ろした黒髪の女が訪れた。女が着ている服は
黒髪の女は衛兵と偶然居合わせたケインにテスタロッサという名を告げ、それからしばらく経って、王である父が直々に彼女を出迎え応接室まで案内した。リヒトとヴィータを伴い、茶表紙の魔導書をその手に持ったまま。
その後のことはケインには知る由もない。
一刻ぐらいしてから女はそれ以上のもてなしを受けることなく城を後にし、女と対面した衛兵も話を聞いた城の者たちも、彼女と王は何をしていたのだと首をかしげるばかりだった。中には王の新しい妾ではと言う者もいた。
だが、それからしばらくしてヴィータの身長が伸び始めたのがわかった。
ヴィータの背はどんどん伸びてシャマルを追い越し、現在ではシグナムに迫ろうというところまで成長している。
それを見てケインは確信した。あのテスタロッサという魔導師と父が夜天の魔導書を使って何かをしたのだ。そうでなければ、十年以上子供の姿のままだったヴィータが成長するようになる理由がわからない。
そして二年前、ケインはヴィータが人ならぬ身であることを承知の上で、ヴィータに十年以上も抱いていた想いを告げ将来を約束した。正妻にすることはできなくても、他に正妻となる女性を迎えようと、ヴィータの事を生涯愛し幸せにすると。
それに対してヴィータは複雑そうな顔をしながら返事を保留し、一週間後にケインの告白に応じ、彼の愛妾となった。
なおケルトの方は守護騎士が人間でないことなどとうに割り切り、適齢期を過ぎてすぐにシグナムとシャマルに告白して二人を同時に妾にした。
胸の大きい美女を二人いっぺんに我がものにするケルトを見て、多くの者がケルトに若かりし頃の先王の姿を重ね、血は争えないなと思ったものだ。
なお、ケルトの方はシグナムとシャマルの他に正妻となる妃もおり、妻の数まで父と同じである。
◆
「……さて、これで私たち兄弟と守護騎士は全員揃ったが」
「父上と母上たちがまだですね」
「うちらをここに呼んだ当の本人がまだ来ていないとはの……」
いまだに現れない両親たちに、ケルトたち兄弟はそれぞれ呆れた仕草をする。
数年前までグランダム王国の国王だったケント・α・F・プリムス。
彼は数年前に突然第一王子ケルトに王位と夜天の魔導書を譲ると告げ、止めようとしたり真意を問いただそうとする臣下を振り切って、半ば強引に玉座を降りた。そしてケルトの戴冠を見届けることもなく、三人の妻と一組の使用人夫婦を連れて王宮を去り、そのまま王都から姿を消したのである。
彼らがその後自国をも後にし他国を転々としているらしいことは、シュトゥラやダールグリュン帝国などいくつかの同盟国から遣わされる使者からの報告で知ったことだ。
そして、つい昨日彼は……
「まったく、四十にもならないうちに私に王位を押し付けて、母上たちと他国を転々としていると思ったら」
「突然、超距離通話で『西方の植林地帯まで来い』ですからね」
「しかも、うちらを呼んでおきながらお父上たちはいまだに姿を現さぬ。一体何を考えておるのじゃ」
兄弟たちに続いて守護騎士たちも……
「そもそもあいつら、一体何のためにあたしらをこんなところまで呼んだんだよ? 国内にいるなら自分から王宮に来たほうが早いだろうに」
「でもあの方が帰ってきたら大騒ぎにはなるわよ。あれでもなんだかんだ言ってベルカの救世主なんだから。それを避けた上で、若様たちや私たちに伝えたいことがあるんじゃないかしら?」
シャマルの推測にケルトはむむっと考えこみ。
「騒ぎを避けて私たちに伝えたいことか……もしやとは思うが、退位した今になってまた子供が生まれたとかではないだろうな」
「うむ、それはありえるかもしれんな。お父上とお母上たちはいつまでも経っても新婚夫婦のような仲睦まじさじゃったからの。子供がうちら三人だけじゃったのが不思議なくらいじゃ」
「いや、それならまだいい方だ。もしかしたら各国を回ってる間に、父上が新しい奥方を迎えられたのかも」
「ああ、その可能性も大いにありえるな。あんななりで結構モテるからなあいつ……そういやユーリの奴も今はケントたちと一緒にいるんだろう。もしかしてユーリまであいつの毒牙にかかって……」
まさかと思いヴィータは青ざめる。そんな彼女の横でシグナムは……
「その可能性も否定できんが……しかし、そのような事を伝えるのならこんな場所は選ばんだろう」
そう言って木々を見回すシグナムに続いて、他の騎士もケルトたちも視線を上げて辺りを見渡す。
「そうね。考えてみれば先代様だってそこまで無神経じゃないわよね」
「まっ、それもそうだな」
木々を見上げながら呟きを漏らすシャマルにヴィータも同意の声を上げた。
ここはかつてグランダム軍とディーノ軍が戦った森だった場所、ディーノ軍が使用した腐敗兵器によって黒く枯れた木々が散乱していた地であり、
辛い記憶もあれど、ケントとヴォルケンリッターにとってここは忘れられない思い出の場所だった。だからこそケントは私費を投じてまで、この地の植林を始めたのだろう。その成果が自分たちのまわりで生い茂っている木々だった。
そんな場所で妻を増やしたなんてことを守護騎士たちに伝えるとは思えない。
一同はケントに恨み言を言うのをやめて、20年もの歳月を重ねて成長した木々を見上げる。
ベルカはゆっくりと、だが確実に元の姿を取り戻している。この木々を通して皆がそれを実感するも、こうも思ってしまう。後は自分たちの頭上を覆う暗い暗雲が晴れてくれればいいのにと。
そんな時だった。空を覆う暗雲の真下に突然、紺色に輝く巨大な三角の魔法陣を浮かび上がったのは。
「――えっ!?」
空に浮かぶ巨大な魔法陣を見てヴィータは思わず声を上げ、他の者も一斉に目を見張る。
暗雲の真下に敷かれたように浮かぶ魔法陣は瞬く間に増えていき、その一つ一つがそれぞれ違った色をしていた。
それを見ながらシャマルはぽつりとつぶやきを漏らした。
「あの魔法陣は一体……それにあの魔力光……あれはまさか――!」
そして次の瞬間、一帯の空を覆っていた暗雲は魔法陣とともに瞬く間に霧散し消滅した。地上に太陽の光が注がれ、子供たちも騎士たちも手で顔をかばいながら初めて見る青空に目を奪われる。
「暗雲が晴れた……ではまさか、あれが」
「あれが空ですか……なんと広く、そしてまばゆい」
「これがベルカの空なのか……フロニャルドと違って青い色をしておる」
眩しさで顔をしかめながら、それでも青空から目を離そうとしない兄弟たちの横で、守護騎士もぽかんと空を見上げていた。
「ベルカを包む暗雲が晴れただと……?」
「あの魔法陣によるものか? でもあの魔法陣は……」
「まさか、あの方たちが……」
その時、後ろから――
「やりました! 成功です! 成功しましたよケント!」
「ああ。君の言った通りだ。よくやったユーリ。そして君たちも」
隣に立つ金髪の少女の頭を撫でながら、男は側にいる女たちに声をかける。
「当然です。天候魔法の大家たるダールグリュン家に生まれた私にとって、あの程度の暗雲を払うなど容易い事です」
「エリザ様ったらまたそんなこと言って……でもうまくいってよかったのです。数年かけて新型昌術と聖霊結晶を作った甲斐がありました」
「そうだな。本当に大したものだ。ユーリの助力があったとはいえ夜天の魔導書抜きで、私たちだけでここまでやれるとは」
次々に耳に届いてくる声に一同はもしやと思い、視線を下げて、
「母上!」
思わずといったように子どもたちの中からそんな声が上がる。
そんな彼らに母たちは笑みを向けた。
さらにその後ろには――
「待たせたなみんな。ちょっと準備に手間取ってしまった。だが、おかげでいいもの見れただろう?」
少女の頭から手を離しながら、茶髪の男はそんなことを言う。
子どもたちと同じ色の虹彩異色を持ち、先王という立場にありながら軽い調子で話しかけてくる壮年の男。
彼こそ皆が待ちわびていた……
「父上!」
思わず彼を呼ぶケインに続き、他の二人も次々に口を開く。
「お父上、今の魔法陣は? あれはお父上とお母上たちが……?」
「まさか、父上が俺に王位を譲って国を空けていたのは、あの暗雲を払うためだったのですか?」
ケントは二人の問いに答えず、ただ得意げににやりと笑うだけだった。返事としてはそれだけで十分だった。
◇
3人の子供たちと後ろにいる守護騎士たちは、一斉に視線を目を向けながら俺たちを迎える。
ある者は呆れたようにため息をついて、ある者は苦笑いを浮かべ、ある者は無邪気に俺たちとの再会を喜び、妻たちやユーリは温かい眼差しと笑みで俺たちを見守っていた。
俺は久しぶりに会う子供たちや騎士たちに向けて――
――っ!
子供たちに歩み寄ろうとした瞬間、急に視界がぶれた。
今まで鮮明に見えていたはずの子供たちの顔が急にぼやけ、瞬く間に守護騎士たちや妻たちの顔はおろか周りの景色まで霞み、闇に飲み込まれていく。
……みんな。
皆に向かって手を伸ばす。しかし、誰もこの手を取ろうとはしない。
……リヒト。
視界のほとんどが黒く染まっていく中で最後に見たのは、申し訳なさそうに、あるいは寂しそうに笑うリヒトの顔だった。その顔を見て俺はようやく気付いた。
そうか……もう。
もう目覚める時がやって来たのか。
まったくいいところで起こしてくれる。あと少しで、存在したかもしれない我が子たちと話をすることができるところだったのに。
とはいえ再び眠るわけにもいかないか。
ここで再び眠ったら、俺はもう二度と魔導書が見せる夢から覚めることができないだろう。
俺はぎゅっと強く目を閉じ、“
ここで目を開ければ夢とは違う、新しい世界が俺の前に広がっているだろう。
そこで俺は夜天の魔導書を縛る呪いに挑む。そして必ずヴォルケンリッターとリヒトを闇の書なんかから救い出してみせる!
そう決意を新たにしながら俺はゆっくりと目を開いていった。
そして、完全に目を開いた俺の前に飛び込んできたのは、二人の若い夫婦と目の前に横たわっている赤ん坊、そして鎖が巻かれた茶表紙の本だった。
ご愛読ありがとうございました。
第一部グランダムの愚王はこれで完全に終わりです。
余談ですが、If編ではベルカが滅びていないため、ミッドチルダが他世界を平定するに至らず『時空管理局』も設立されないため、原作の『リリカルおもちゃ箱』に近い未来になっていくという設定があります。
ここからは全年齢版で告知した通り、愚王シリーズ第二部となる『愚王の魂を持つ者』に続きます。
海鳴に転生したケントがなのはやはやて、そしてフェイトを始めとするキャラクターたちとともに戦う話になりますので、よければぜひ読んでください。