リッチなネクロフィリアン 作:ルーフェ
「やってしまった」
リオンは、割と後悔していた。
自らの欲を満たすために二度射精してしまったがために、またもう一度自分の体を洗いなおす必要が出てきたほか、死体がさらに不衛生になってしまった。
欲を満たした後の無欲な状態になってから、自分の行為が間違っていたことに気付くのは意志ある者の特権だが、人間はよりたちが悪い。
問題が増えてしまった以上、先ほどの順序…死体問題をリオンは優先的に片づけることにした。
その次にリオン自らの体だ。今回、リオンは死体ではないため、優先順位としては体を洗うのは後回しとなる。
リオンは死体を腐らせずに保存する方法を考えていた。
リオンの頭の中にはいくつか方法が浮かんでいた。
1つ目は、死体保存液を作って漬けてしまうこと。
2つ目は、死体をちゃんと戻せる方法で石化させること。
3つ目は、復活魔法で魂なき生者を作り出すこと。
1つ目はまずはないだろうとリオンは考える、何しろ手の届く場所に水源がない。水源があれば一考の価値はあるだろう。
3つ目はどうだろうか…リオンには少し違和感があった。例えば、リオン自身が手を滑らせて薬品をこぼしてしまえば、その種類によっては死体がまるっきりダメになる。これでは保存としたところで不安もある。他にも獣や自分のような
リオンにとっては2つ目の手段、死体を石化させてしまった方が楽だと考えた。確かに試薬によっては石にも影響を与えかねないが、肉よりは石のほうが薬品に対する耐性が高いのは明らかである。一介の獣に死体を食べられる危険はないし、死体愛好家でも石を運ぶのは簡単ではないうえにそもそも興味を示さない可能性が高い。
すると…これからも死体を石化させて保存することになると思われたので、多少なりとも広い保存場所が必要になる。
リオンは洞窟の掘削作業を再開することにした。
そして、途中で掘削作業を切り上げて死体を運び込み、石に変えるつもりだ。
しばらくたって、リオンは洞窟を予定の範囲まで削ることができた。但し書き付きで。
それは、空洞を掘り当てた挙句、水源を引き当てたことである。
しかも5分掘れば出てくるほど近かったようだ。
「…あの時、死体で欲を満たすのではなく掘削していれば、水源は手に入ったのか…」
リオンはさらに後悔した。
そして、気を取り直して丁寧に採掘し続けた後、質素な保管部屋と水浴び場が誕生した。
その後、リオンは3人の死体を運び込んでから並べた後、石化させて保存することができた。
ついでに女の石像に付いていた精液もふき取っておく。
そして、リオンは体についた精液を洗い流すために、改めて新設した水浴び場で体を洗うことにした。
「ふぅ…」
最初に体を洗う時には感じえなかった、冷たい水を体に浴びせるという感覚はとても心地よい感覚であったと、リオンは思っていた。
同時に冷たすぎるとも思ったが…そこは洞窟暮らしの身の上に贅沢だとこの考えを抑え込んだ。
しかしリオンは思った。次にすべきことはなんだろうか…そう言えば、魔物を地上に出てから見ていない。
魔なる生物、魔物は初代魔王の力で作り出された後に人間との戦争に用いられ、その残り香として野生化し何千年と生き残ってきた。とリオンは知識として知っていた。
そしてリオンがリッチになる前までは、地上世界には魔物が跋扈し魔王優勢だったはずであると記憶している。
「…うーむ。やはり魔王は地上世界には存在しなくなってしまったのか…? 地図には他の地方があるらしき記述がある…いつかこの地方を一時的に出ることを考えねば」
流石に長い時が経ってしまえば優勢劣勢は変わるものであり、もしかしたら魔王もろとも魔物は根絶やしにされたのかもしれないと考えることもできたが、しかし魔物は大量にいるうえゴブリンなどしぶとく執念深いタフな種族もいたはずなので、
同時にリオンはこうも考えている。たまたまリオンがいる地域には魔物はいない…別の地方に行けば魔物がいるかもしれないとも。
「…地図には大まかな情報しかない、これに追記することで周辺の情報はより確かになるだろうが…」
どちらにせよそうなると、リオンは俄然地上の世界を探検してみたくなったが、作りかけの研究室などの問題もリオンにとって心残りである。
とりあえず、次の目標を決めなければならない。一先ずリオンはやりたいことをもう一度上げなおしてみることにした。
とりあえずリオンの課題として残っているのは3つ。
1つ目は作りかけの研究室…これは、早く手を付けないといけない。今更何を研究するのだとは思うが、実験もリオンにとっては今の地上世界を把握するために必須なのだ。
2つ目は荷物の処分。リオンは冒険者パーティの全ての荷物と馬車をどうにか処分するしかないと考えていた。荷物とゾンビ馬に関しては保管部屋に遺品として押し込めばいいが、表にある馬車は洞窟には入らない故に勝手が違う。どこかに隠さねばならない.幸いながら人通りが少ないのか、馬車があるのを見てリオンのいる洞窟に迷い込む人間はいないようだが。
3つ目は周辺の詳細な探索。これは、できるだけ最後にするべきだと考えた。研究室などが荒らされる危険性を冒してまで、外を入念に探索する必要があるかどうかについては今のリオンには否と答えることができる。唯一外出すべきなのは今のところ水が必要になった時だが、水源は既に確保されているために緊急的に探索する必要性が感じられなかった。
とりあえず、リオンは作りかけの研究室を完成させることにした。この場所で研究ができないのはリッチの名に廃ると考えたからだ。
リオンは洞窟のメインルームである、研究室を完成させた。
とは言え、それですら簡易的なもので火を使った実験は今のところ不可能だろう…
しかし水の供給があるのと、圧搾処理などがリオンの魔法で可能であるため、これで充分である。
「…何とかなったな。次は…」
次は馬車を処分しなければならない…とリオンが思うと、リオンの耳に何か足音が聞こえる。それも
リオンは少し頭を抱えた。
「…」(今日は誰も侵入してこないと考えたが、それは全くの早計だった…失策)
まだ足音は遠い…しかし、リオンは思った。この洞窟を見られたからにはただでは帰さない。
もしもそれがリオンの審美眼にかなえば、途端に招かれざる客がただの獲物に成り下がる…
リオンにとっては、招かれざる客なら契約を吹っかけて命だけは見逃してやる事として、獲物なら自身の情報を持って帰られるよりは、実益を兼ねて殺した方がいい、と判断したが…それがいい手かはわからない。
しかしながら侵入者を撃退するのは家主の務めであるとリオンは考えていた。
リオンは目をつむり足音のする方を向きつつも、黒のローブのフード部分を目深く被って、どうか自分よりも実力が高くないことを祈りながら…侵入者を待ち受けることにした。
入ってきた侵入者たちは、部屋の中でこちらを見ている目深くローブを被った男に驚いた。
人はいるだろうと、外に馬車があることから察していたが…まさか入ってすぐに人に鉢合わせるとは思わなかったらしい。
「…誰!?」
そう言ったのは、戦乙女のような姿の赤髪黄目の女性であった。
リオンから見て、赤髪の女性の後ろには槍使いらしき青髪黒目の女性と魔法使いらしき緑髪茶目の女性がいた。
いきなり出くわしたリオンに3人は警戒心を強めているらしく、目に力が入っている。
3人とも麗しい容姿を持つそのパーティは、どのようにしてリオンにたどり着いたのかは定かではないが…
1つだけ言えるなら、リオンの嗜虐心に火が付いたのは間違いない。そしてそのパーティに向かってリオンはこう言った。
「私はリオン。ごく最近、ここに来た者だ…」
「そうなの…」
心底怪しむように青髪の女が言った。
リオンは割と確かに怪しいよな…と心の中で思ったが嘘は言っていないと考えた。
「そんなわけないじゃない! こんな洞窟に来る人間なんていないでしょ!?」
そう赤髪の女が叫ぶが、緑髪の女が直ぐに窘める。
「…いきなり叫ばないで…! それに…いきなり出会った人を、悪い人って決めつけるのはどうかしてるよ…?」
すかさず赤髪の女が、喚き返す。
女が喚いてる間リオンは別のことを考えていた。あの燃えるような赤髪の女の容姿についてである。
赤髪の女のあの気が強そうな凛々しい顔も、いっそ清々しいまでのショートカットにしているのも良い。さぞかし眠っているときは美しいのだろうとリオンは夢想してしまう。
そして白い肌の腕に浮かぶ、活力あふれる肉の隆起をリオンは見逃すつもりはなかった。
リオンは自らの体のことを思い出し、自らは筋肉に底知れぬ魅力を感じながら、その死を願い、2度とその体の主によって使われなくなる未来を見るとたまらなく興奮してしまう、変態性があると考えていた。
そしてはたから見てもその自己分析はあながち間違いではないように見える。
「いつもそう言ってるから! この間も知らない奴に連れていかれて、奴隷の首輪嵌められそうになるのよ!」
「う…ごめん、でもね。直ぐに判断したら、駄目だと思う…」
「あんたも本当に学ばないわね! 人に関することはすぐ決めるの! そんなんだからいつまで経っても…」
赤髪の女が緑髪の女を怒鳴りつけていると、青髪の女が赤髪の女を止めにかかる。
「止めて。ここで怒鳴っても何も変わらない…それに、彼が敵だったらもう私たち死んでたわ」
リオンは赤髪の女が騒いだせいで頭痛を覚えていたが、青髪の女が言ったことに関してはその通りだと思った。
次にリオンは、流れるような青髪の女について考えた。
そう、清楚な女性という言葉がぴったり合う女性だとリオンは感じた。青いロングヘアーと穏やかそうで抜け目ない瞳が見栄えが良い。
槍使いなこともあって、絶妙に引き締まった体と胸の大きさにリオンは魅惑の感情を覚える。
筋肉が無いのは少し残念だったとリオンは少し思ったが…ないものをねだってもしょうがない。
「あ、あぁ…そうね。そうよね…私が悪かったわ。そこのお前も…うるさくして悪かったわね」
「…ありがとう、お姉ちゃん…」
青髪の女が言ったことには素直に従うようで、赤髪の女は直ぐに言葉の矛を納めた。
そして緑髪の女が言ったことからリオンは、このパーティは本当の姉妹が組んだものであると推測を立てた。
最後に見たのは緑髪の女…このパーティの中で気弱そうではある…しかし、顔がとてもかわいらしいとリオンは感じた。体に関しては特筆すべきことはなく、平凡である。
かわいいというのは強者にとっては汚したくなってしまう…歴史に残る残虐な事件はそこから起きるのだろう。
それはリオンにとっても例外ではない…彼女はほかの人からは愛されていたのかもしれないが、リオンにとってはもはや肉欲の対象である…
「あ…あぁ、そうだな。大きな声を出されると…困るな。確かに」
推測を交えながらこのパーティに関して考えつつも、赤髪の女のすんなりと引く姿勢に割と感銘を受ける。
最初の語気からはむしろリオンに直ぐ襲い掛かってきてもおかしくなかった故に、面食らっていたのも含めると赤髪の女は行動が少し極端なのだろうかと考える。
しかしその容姿から溢れる中身のオーラは、リオンにとっては死体を彩るエピソードという名の一種のスパイスでしかない。
(闘技場に出かければ、つい殺したくなる奴もいるかもしれないな…)
「…えっと…リオンさんでしたっけ…? …あれ、誰かに似てる…」
「!」
リオンが少し闘技場に思いをはせている間に、緑髪の女はリオンの容姿に気づいた様子だ。
それもそのはず、ローレンスという名の貴族の男から体をそのまま拝借して、顔すらも変えていないのだからリオンは誰かにこの容姿の正体に気づかれはするだろうと考えた。
さすがのリオンも二日三日程度で、ローレンスにあったことのある人物に出会ってしまうとは思わなかった。
だからこそ…リオンは決して生きて返すつもりがなくなった。
リオンのほんのわずかにこのまま殺しても良いのだろうかと逡巡したが…やはり狂った欲望を満たすことが先決された。
決まったならば、そうするまで。
リオンは麻痺の魔法をこのパーティにまとめて掛けた。
「えっと…名前は…ローレ…」
すると緑髪の女が、リオンの体の持ち主の名前を言いかけたところで、体が動かなくなったようだ。
「まぁ私に対して敵意はないだろうが…その名前を出さずにいれば。もう少し共存できていたのに…そうは思わないか?」
そうリオンが言い放つと、一瞬で空気が凍りつく。
「ふふ。まぁいろいろお前たちの醜態が見たくなってきた…そしてその後死んでもらう」
パーティの全員は麻痺で動けない代わりに、心の中で絶叫した。
突然、自らの死が確定したからである。
リオンは女たちを引きずって、部屋に並べることにした。
並べ終わるとリオンは、女たちの装備や武器を取り払っていく。
抵抗するような激しい息遣いは赤髪の女のものか…そしてその後、女たちのギルドカードを見て名前を把握した。
赤髪の女はガネットという名前、青髪の女はアマリという名前、緑髪の女はリドットという名前。それで最初に挙げたガネットから順に長女、次女、三女と続くということが分かった。
ギルドカードを見る限り、歴戦というわけでもなく中堅どころらしい…
リオンは、やっぱり生きて返さないというのも悪手な気もしてきた。しかし、
「さて、誰から殺すか?」
その問いが口からついて出る。
リオンは、これから起きる処刑に胸が躍るような心持ちになっていた。
それを聞いていた三姉妹は震えながらその時を待っていた。
リオンは、三人に順々に指をさしていく。先ずは誰が死ぬか…それをリオンの指先に託している。
順々に次第に早めたり、遅くしたり…リオンは、その三姉妹の震えをしばらく楽しんだ後…一人の女に決めたようだ。
その運命の指先は、ガネットを指し示した…
「最初はお前かな…?」