「〜♪」
何処か機嫌よく鼻歌を口ずさみながら歩くのは、複数の虫の特徴を人型にまとめたような姿をしたヒトデナシ、蟲姫であった。
彼女は虫のヒトデナシの女王とも言える存在で、他のヒトデナシからは畏怖の念を抱かせている。
何よりも強く、冷酷である彼女に逆らおうなどと考える異形は一人もいない。逆らった瞬間に、死を与えられることがわかりきっているからだ。
そんな彼女だが、何も無差別な殺戮者であるわけではない。むしろ、ヒトデナシを増やすことはしても無駄な殺生はしないほうであろう。
配下のヒトデナシで遊ぶことはあるが、まぁともかく。
彼女が機嫌よく、スタスタと歩き回っている時にそれは見つかった。
「おや」
蟲姫の二対の黒い複眼の視線が、一つの対象に注がれる。
それは、カクカクとした動きで蠢いている虫のヒトデナシであった。見たところ、カマキリであろうか。
どうしてそのようなことをしているのか気になった蟲姫は、何の警戒心もなく蠢くカマキリに近づいた。
そしてカマキリの腹がボコボコと膨れ上がり、腹を内側から破った何かが、高速で蟲姫へと襲いかかった。
それを蟲姫は自身の手で捕まえると、それの正体を確かめた。
「これは……ハリガネムシですか」
黒く、細い、しかし縄のように太いそれは、彼女が生み出した覚えのないハリガネムシのヒトデナシであった。
ハリガネムシは、その見た目とカマキリに寄生することで有名な寄生虫だ。しかし、一目見ただけでは虫だとは思えない見た目をしている。
先程まではカマキリに寄生していたのだろうが、そのカマキリが死にそうになったから蟲姫に、ということなのだろう。
激しく暴れまわるハリガネムシを押さえながら、蟲姫は考えた。
「……ふふ。そんなに寄生したいというのなら、させてあげます」
ただしできれば、の話ですが。言外にそう告げた蟲姫は小さく笑い、暴れるハリガネムシの先端を、自身の菊門へと近づけた。
最近刺激が足りないと感じていた蟲姫が、こんなにも珍しく面白そうなものを見過ごすなんてことをするはずがなかった。
他のヒトデナシで試すのも悪くはなかったが、それだとすぐに壊れてしまう可能性がある。
どうせなら、長く楽しみたいと考えた蟲姫は、そのまま持っていくよりも楽しみながら持っていこうと考えたのだ。
どうせこの虫には何もできないと高を括って。
近づけたハリガネムシは蟲姫の菊門に気がつくと、すぐさま菊門を通って腸内へと侵入した。
「んっ」
にゅるりと入り込んだハリガネムシは、その身体を瞬く間に蟲姫の中へと侵入させて、体内で暴れまわる。
一際丈夫である蟲姫の体内は大きなハリガネムシが暴れてもびくともせず、ただ蟲姫に快楽の刺激を与えるだけだった。
スルスルと入り込んでいったハリガネムシは、ついに体全体を蟲姫の中に収めた。これは大きなハリガネムシを入れても問題のない蟲姫がすごいのか、器用に侵入していったハリガネムシが凄いのか……
蟲姫は予想よりも強い刺激に、ボコボコと中から蠢く感触を快楽へと変換し、楽しんでいた。
「ん……これは、少し待ったほうがいいですね……あんっ」
腸内でぶつかり、暴れまわるハリガネムシの抵抗の強さに流石の蟲姫もキツイのか、座り込んでお腹に手を添える。
「ですが、たまにはこういったことも……んっ、悪くないです、ね……」
お腹の中で暴れるハリガネムシの感触に、蟲姫はそう呟く。
しかし蟲姫が余裕を保てたのは、その時までだった。
蟲姫がハリガネムシを体内に収めてから、約数分。
その間に、事態は急変していた。
「あっ、ぐっ、ぁ、ああっ」
蟲姫は地面に倒れ伏し、膝をついてお尻だけを高く上げ、口から言葉にもならない言葉を吐いた。
ハリガネムシを体内に収めた蟲姫だったが、しかしそれを深く考えもせずに行ったことが仇となった。ハリガネムシは体内から蟲姫を侵食していったのだ。
身体を溶かし、体内で吸収させて、蟲姫を意のままに操ろうとした。ヒトデナシであるハリガネムシの、本能のままに。
蟲姫は、本能の強さを見誤ったのだ。
「いっ、あっ、あっ……や、めぇ……ぃやぁ」
ぐちゅぐちゅと、ハリガネムシが蟲姫の身体を侵食していき、身体を支配していく。それに抗おうとした蟲姫だったが、体内からの侵食にどう対抗していいのかわからず、ただ侵食されるのを自覚するしかなかった。
しかもたちの悪いことに、ハリガネムシの侵食は気持ちがいいのだ。体全体から支配される感覚が、快楽をもたらしている。
それは、どうしようもなく抗い難いものだった。
「あっあ……いっ」
そして、時は来た。
びくんと身体を跳ねさせた蟲姫はしばらくビクビクと身体を震わせると、そのまま動きを止めた。
そして、すぐにむくりと蟲姫の身体は起き上がり、ペタペタと自身の身体を触りだした。
「ふ、ふふふ………」
蟲姫の身体は口を震わせ、声を絞り出し、嗤った。
あぁなんて愚かなのであろうと。他のヒトデナシでも使ってやれば、こんなことにはならなかったのに。
けれど、感謝しなくてはならない。愚かであったから、こんなにも簡単に乗っ取れた。
「今日から、私が『蟲姫』」
クスクスと嗤う蟲姫だったものは、ふらりふらりと何処かへ歩き出した。
それから数日後には、雄を誘う淫らな蟲姫の姿が目撃されるようになったという。
そいえば寄生ものって書いてなかったなと思い、書きました。