エロだけじゃなくて戦ったりすると思います。なのでエロがない話もあります。
今回はプロローグなので短いしエロありません。ちょっとわからなくなったんでぐちゃっとなった部分もあります。
それでもよければどうぞ。
波の音が聞こえる。
山の中で暮らし、育った彼にとってあまり馴染みのない音。忍務で海へ行った経験はある。太陽が落ちた後の暗闇の中で、月明かりに照らされる時間帯に眺めたことが一度きりだが、とても美しいと思わず見惚れたのを覚えている。
またいつか。そう思わなかったわけではない。普段あまり感情を表に出さず、感情の起伏があまりに少ない彼でもそう思い、海へ行く日を望んでいた。
徐々に意識が浮上してくる。眠りから覚めようとしている彼は、聞こえる音に期待を抱くでもなく、不思議がる気持ちを持ちながら至って冷静に目を開けた。
一番最初に飛び込んできたのは澄んだ青。屋敷の中の自分の部屋で寝ていたはずなのに天井がない。どうやら開けたビーチに寝転んでいたようだ。布団に背を預けるわけもなく、意識が覚醒するに従って砂の感触が肌で感じ取れる。
若の呼称で知られる忍の青年はしばし沈黙したまま空を眺めていた。
なぜこんな場所に居るのだろうと思う。外で眠った覚えはない上、海に訪れたことなど人生で一度しかない。この環境が不思議だと、ゆっくり上体を起き上がらせた。
砂浜に座り、海を眺める。
空の色よりも深い青。日の光を浴びて輝き、波によって水面が動くと輝きもつられて動いた。ぼんやりとした表情はいつもと同じだが普段とはどこか違って、らしくもない顔である。驚きは傍目から見てもわかりやすく表れていた。
美しい。口を半開きにして、言葉が出ないほどそう思う。
初めて見るわけではないものの、日の光を浴びる姿は初めてだった。夜に見る姿とは違う。月明りを浴びて放つ輝きとは何かが違い、心底不思議に思ったようだ。手を伸ばせば触れられるほど近くにある美しい風景に見惚れて動き出せなくなる。
若はしばらくそのまま海を眺め続けた。
山の中にある風景とは何もかも違う。木々の間から落ちる日光とは輝きが違っていて、潮の香りが鼻腔をくすぐって気分が落ち着き、見ているだけで不思議な幸福感を得られた。
そうしていると砂を踏みしめる音が聞こえて、そちらを気にしようとせずに波の音を聞いていると、呆れたと言わんばかりにため息をつかれたのがわかる。そのわずかな息遣いで、ふと懐かしさを感じたようだ。
ようやく若は後ろへ振り返って、数メートル離れた位置に立つ人物を見つける。
腰が曲がって、白が混じった灰色の髪。皺が多く見られる顔にはやさしさがにじみ出て口には煙管を銜え、ぷかりと煙を吐きだしている。妙に見覚えのある外見だった。
左腕にある腕章の文字は、生涯現役。
記憶の中にある姿がそこに見えて若の表情が些か変わった。
「おはよう寝坊助。こんなところでもすやすや眠るなんて、あんたは相変わらずだねぇ」
「小百合様……?」
「そうだよ。あんたの後見人の小百合ちゃんさ。やっと目が覚めたかい?」
小百合、というのが彼女の名だった。
生きる場所を探して彷徨っていた若を拾い、面倒を見た女性で、彼にとっては親同然の人物。彼女に教えられたことは多く、自身が住む屋敷を与えたのも小百合だった。
ここ最近は家を離れて旅に出ていたはず。思わぬ場所で出会ったことにより、流石の若も驚きを隠せない様子。言うべき言葉を見失っていた。
呆然とした若を見て珍しいと笑い、小百合は上機嫌に言う。
「色々聞きたいことがあるだろう。でも他にも困ってる子がいるんでねぇ。説明はその子たちにもいっしょにするよ。ついてきてくれるかい」
「はい。わかりました」
「素直な子だねぇ。あんたはもう少し人を疑うことを知った方がいい。もっとも、いちいちあたしのことを疑ってもらっても困るけどね」
小百合に会えたというだけで若はまるで心配することなく立ち上がり、彼女の傍へ立つ。以前は室内に居たためか、普段履く草履もなしに裸足で砂を踏みしめた。
突き刺さるような日の光で温かい。感触は驚くほどやさしくて若は思わず薄く笑みを浮かべる。普段は滅多に見れない彼の些細な表情の変化、珍しい姿だ。
驚いた小百合だが柔らかく微笑み、特別声をかけることなく前を向く。
「さぁ行くよ。みんなが待ってる」
「小百合様、お怪我や御病気もなくお元気そうでよかったです」
「あぁありがとう。あんたも元気そうで安心したよ。あの子たちとは仲良くやってるだろうね。まぁこんなこと聞くのはどうかと思うけど、あっちの方も」
「はい。皆には世話になっています。問題ありません」
「そうかい。大きな問題がないなら何も言わないよ。あんたも、あたしの言うことばかり聞いてないでたまには自分の好きにしな。忍務だけが人生じゃないんだよ」
「わかりました」
「やれやれ、本当にわかってるのかねぇ」
先を小百合が歩き、後から若がついてくる。まるで生まれたばかりの雛鳥のようで、思わずくすりと笑ってしまう。何年経っても彼の姿というのはあまり変わっていなかった。
ひどく美しい風景の中を歩く。
若が住んでいた山とは何もかもが違う。広大な海、熱い砂浜。見慣れたはずの空や木々の色まで違っているように見える。それに匂いが違っていた。
不思議そうに、ただ表情は浮かべずゆっくり辺りを見回しながら。
二人は言葉を交わすでもなくどこかへと向かっていた。
*
辿り着いたその先には、見慣れた顔がすべて揃っていた。
以前から付き合いがある顔も、つい最近出会った顔も間違えずによく見える。すべて少女の物だ。それも美少女と呼んで差し支えないほど可憐な、或いは美しい女性ばかり居る。
ビーチにずらりと並んで、燦々と輝く太陽の光を受け。風景と相まって美しさはますます向上するようにも見える。海をバックに立つ彼女たちから目を離せば、近くにはリゾート地に見られるような巨大なホテルが設けられていた。傍らにはプールの存在も認識できる。
若にとっては見たことのない風景。覚えはない。
並びに少女たちも同じだったようで、戸惑いを隠しきれていないのが表情から伝わる。
小百合に連れられた若は彼女たちの姿を見回し、相手も気付いたようだ。
一番先に声を発したのは若に気付き、パッと笑みを浮かべて、しかしそれよりも気になる相手が居たようで表情を変えると大声を上げた飛鳥だった。目を真ん丸に開いて見つめるのは前を歩く小百合であり、周りも気にせず、とても親しげに彼女を呼ぶ。
「ば、ばっちゃん!? どうしたの、こんなところで」
「おぉ飛鳥、元気そうだね。そろそろ若のやや子は孕んだかい?」
「ええっ!? い、いきなり何言い出すのっ」
「ふえっふえっふえっ。男が出来てもまだまだ愛いのう」
小百合は、彼女の祖母である。祖父との仲は良かったのにずいぶん前に家を出て、時折連絡はあったものの、顔を合わせることはここ数年なかった身内の人物。
余裕を感じさせる小百合とは裏腹に、突然の再会に驚きを隠せない。
飛鳥は驚いて大口を開けているが小百合はあまり取り合わず、それよりも気になることがある様子。笑みを見せるだけでなぜ再会することとなったか、あまり多くは語らなかった。
立ち並ぶ少女たちは総勢二十名。皆が小百合と若に注目している。
整列するわけでもなくバラバラと立つ少女たち。その前に立って小百合は教師のように顔を見渡す。全員が注目していることがわかってわずかに頷き、彼女が話し始める。
自然とその場の全員が集中し、惹きつけられた。
「若き忍たち。ようこそ、カグラ千年祭へ。歓迎するよ」
「カグラ……千年祭?」
一番前に立った飛鳥が呟く。首を傾げればポニーテールの髪がふわりと揺れた。
彼女を始め、少女たちは皆自身が所属する学校の制服か、或いは学校に所属していない者は私服姿で立っている。どこか所在なさげで、中には警戒心を露わに武器を持っている者もいた。些か物々しい雰囲気が感じられる。
飛鳥の隣まで一人の少女が進み出た。
白いTシャツに青いジーンズを履き、飛鳥よりも長い黒髪のポニーテールを持つ少女、焔だ。警戒心をはっきりと露わに、小百合を睨むような目つきで見ている。
目覚めれば見知らぬビーチだった。この状況に納得がいかないらしく、些か怒りを感じさせる声。年長者である小百合に食ってかかるように発言した。血気盛んな様子に小百合の頬が緩む。
存外、見込みがある人物のようだ。密かにそう思って目を合わせる。
「いきなり呼び出しておいて、ずいぶん身勝手な言い分だな。一体ここはどこだ。どうやって私たちを呼び出した。今から何をしようとしている」
「質問が多いのう。せめて一つずつにして欲しいもんじゃが」
「そもそもおまえは誰だ。ただの忍じゃないようだな」
「あ、焔ちゃん。あの人はね――」
「飛鳥の祖母じゃよ。小百合ちゃんと呼んでもいいぞ」
右手を上げてピースをする小百合を見て、焔はげんなりと肩を落とす。
ライバルである飛鳥の祖母。別段想像したこともなかったが、思った以上に似ていないし、立っているだけで妙な力強さを感じる。やはり一流の忍ということだろう。
煙管を手に持ち、煙を吐きつつ、さらに小百合が言葉を重ねる。
「では一つずつ説明を始めるとしようかの。まず、カグラ千年祭とは」
「ねぇばっちゃん、若様も居るけどどうして――」
「ええい、質問したなら最後まで聞かんか。物事には順序があるんだよ」
「ご、ごめんなさい……」
「カグラ千年祭とは。死んだ忍の魂を成仏させるための祭りじゃ」
一同は首をかしげる。
説明をするとは言うが、聞かされた言葉はすぐに信じることも納得することもできない。死んだ忍の魂を成仏させる。そう聞かされて、一体どんな反応を見せればいいというのか。
「死んだ忍の、魂? それってひょっとして、幽霊ってこと?」
「なんだ飛鳥、まさか幽霊が怖いのか?」
「だ、だって幽霊だよ。焔ちゃんは怖くないの」
「フン。ただちょっと体が透けてるだけの人間だろう。怖がる理由はない」
「こらこら。人の話はきちんと最後まで聞くもんだよ。まだ説明は終わっていない。現状を理解するのはちゃんと最後まで聞いてからにしな」
「あ、うん」
再び煙管を銜えて小百合が笑う。孫に対する声は幾分柔らかく、叱っているように聞こえながら本気で怒っているようには思えない。飛鳥はすぐに口を噤み、少し緊張した面持ちで耳を傾ける。
「この世界はあたしたち千年祭執行委員が作った巨大で複雑な忍結界。この中には死んでも尚未練を捨てきれない忍たちの魂が集まり、死者が蘇る。死者と出会い、最後の言葉を聞いて見送ってやるのじゃ。それがカグラ千年祭。しかしおまえたちにやってもらいたいことは別にある」
「なんだ? お経でも唱えればいいのか」
「それよりも簡単じゃ。特別なヤグラを用意した。これを使う」
小百合が指を鳴らせば、彼女の近くに音を立てて煙が発生した。
何処からともなく現れたのは木材で組まれた小さなヤグラ。装飾も最低限、一見しただけでは何の変哲もない、ただの木の固まりだ。不思議に思って一同は不審な表情を浮かべる。
それに対し、小百合は不敵に笑った。
「半蔵、月閃、蛇女、紅蓮隊、そして千年祭執行委員と、各勢力ごとにヤグラを五つずつ用意しておる。全部で二十五個になる。互いにこれを破壊し合ってくれ。その名も忍の盆踊りと言う」
「忍の盆踊り? どうしてそんなことするの」
「さぁて、どうしてだろうねぇ。ふえっふえっふえっ」
いまいち要領を得ていない様子で、一同は疑念を隠しきれてはいなかった。
あまりに唐突過ぎる。一つの世界を作ってしまうほどの特別な忍結界に加え、死んだ者が蘇る世界。簡単に信じられる話ではなく、何から何まで疑問が残る。
小百合もそれは承知のようで、敢えて歯痒さを感じる説明をしているらしい。
やりきれない感覚を抱き、疑念を持つ少女たちは違和感を取り除くために質問せずにはいられない様子。その代表が飛鳥や焔、或いは選抜メンバーを束ねる雪泉や雅緋であった。
これまで沈黙を保っていた雪泉や雅緋も意見を口にし始めていた。
「小百合様、と仰いましたね。今の説明では納得できない部分があります。互いにヤグラを壊し合う、これに何の意味があるのでしょうか。ひょっとして、私たちにまだ伝えていないことがあるのではありませんか?」
「察しがいいね。確かにそんな気もする」
「理解に苦しむな。そもそもなぜ私たちがそんなことをしなければならない。これほど大規模な忍結界を作れるのなら私たちの力なんて必要ないだろう。おまえたちで勝手にやっていればいい」
「さて、そう思うかね」
「ああ。この話、今一つ信用できない。悪いが帰らせてもらう」
そう言って雅緋は小百合に背を向けて歩き出そうとした。
すぐさま足を止めようと声がかけられる。
「そうは言うけどねぇ、あいにく千年祭が終わるまでこの島から出ることはできん。元の世界に戻るにはカグラ千年祭をやり終え、祭りを終わらせる必要がある。さて何日かかることか」
「なんだとっ」
「あぁでも心配はいらないよ。ここは外の世界と隔絶されて時間の概念が変わり、何日間過ごそうが外の時間は止まっておる。急用があっても外へ戻った暁には十分間に合う」
「時間を、だと。なんて異常な空間だ」
時間の流れすら変えてしまう忍結界に驚きが隠せず、一同は驚愕した。
その中には喜んでいる様子の者も居て、おそらくは南の島でバカンスが楽しめると考えたのだろう。嬉々として海を眺める者も少なくはなく、小百合の言葉を正しく受け取っているのか、怪しいものだ。緊張感はさほど感じられない。
気にせず、にかっと笑った小百合が言い切る。
「まぁそう言わずに付き合っておくれよ。悪いようにはしないさ」
「ばっちゃん、どうして私たちにこんなことを? それに家を出たまんま帰って来ないし、ずっと心配してたんだよ。せっかくまた会えたのにこんな状況だなんて……ちょっと話が急過ぎるよ」
「面倒かけてすまないね。だが必要なことなんだ。わかっておくれ」
「ええい、まどろっこしい! 要は派手なケンカをおっぱじめようってことだよ!」
突然小百合のものではない声が聞こえて、一同は辺りを見回した。
小百合の背後にあった木々の間から影が三つ飛び出してくる。見紛うまでもない、人の物だ。軽やかに跳んだ三人は空中でくるりと回って小百合の目の前に着地し、ずらりと横に並んで、困惑する一同に対し胸を張って対峙する。
白と赤の布、まるで巫女のような服装だ。
三者三様、それぞれ違っているが容姿は似ており、おそらく姉妹なのだろうということがわかる。先程勇ましい声を出したのは、中央に立つ薄い茶色の長髪を持つ少女のようだ。
凛とした様子で一同を眺めており、腰に手を当て胸を張って得意気な様子。
一斉に向けられる不審そうな眼差しを受け、笑みを浮かべる。ひどく堂々とした姿だ。
全員の注目を集めて、蓮華という少女が皆に対して言った。
「こんなに面白そうな勝負はねぇだろ! さぁ、私と戦うのは一体誰だい!」
「だ、誰?」
「
太鼓を打つ撥を両手に持ち、大声で蓮華が叫んだ。
男勝りな姿には開いた口が塞がらず、返答となる声は誰も出さない。
やれやれと小百合が首を振り、いまだ信じようとしない一同を見て嘆息した。
証拠が必要、ということか。
ならばと彼女は考えを変える。どうやら会わせなければいけない人間が居るようだ。背を向けたままで首だけ振り返る雅緋と視線を合わせ、やさしい声色でゆっくり伝えた。
「今でも信用できないかい?」
「ああ。くだらない与太話に付き合う気はないんだ」
「ここでは死者が蘇る。もし死んだあんたの知り合いに会えれば、考えは変わるかね」
「バカな。あり得ない。死者が蘇るなんて、禁忌の忍術でも不可能なことだ」
「それがあり得る。さぁ、こっちへおいで」
後ろへ振り返って呼びかければ、林から一人の女性が歩み出てくる。
静かにゆっくりと足を運んで、優雅な仕草から美しさが滲み出ていた。
小百合の隣で足を止める彼女を見つめ、雅緋は目を見開き、驚く。確かに彼女の知り合いだった。忘れることなどできない、彼女の最期だって雅緋の脳裏に焼き付いている。
ふわりと微笑む笑顔は雅緋に向けられて、それがかつてと同じもので、思わず絶句した。
「久しぶり、雅緋ちゃん」
「ば、バカなっ。おまえ、りょう――」
「お姉ちゃん!」
彼女が現れた途端、二人の少女が走り出して人垣の前までやって来る。
群れを掻き分け、女性の前に立ったのは姉妹である両備と両奈だ。今にも泣き出しそうな顔で、目にはいっぱいの涙を溜めて彼女を見れば、辛いのか感動しているのか、あまりに大き過ぎる驚きのせいで些か混乱しているらしい。
長い黒髪、白いワンピースの女性は二人の顔を見て、幸せそうに微笑む。
「両備ちゃん、両奈ちゃん」
聞こえる声は確かに二人が知るもの。
彼女は、死んだ二人の姉である。生きているかの状態で笑顔を向けられればもはや感情が抑えられず、ぐっと唇を噛んで、涙が一筋頬を伝った。
「お姉ちゃん、生き返っちゃいました」
ごく一部の者だが息を飲む音が聞こえた。
小百合は笑みを浮かべたまま目を閉じ、傍らに立つ若は何の感慨も見せずに無表情。しかし初めて見る彼女たちの様子に何か想うところがあったのか、決して声をかけることはなく、じっと二人の少女を見つめていた。