しばしの仮眠を取った後、二人はまた繋がっていた。
ベッドの上、マチを四つん這いにさせた青年は後方へ陣取り、ペニスを膣へ突っ込んでいる。硬くなったペニスが奥を叩く度、すっかり甘くなった声が吐き出されていた。
尻を掴む青年は非常に上機嫌だった。
何度も抱いた経験を持つ体だがやはり良い。肌が合うと言うのか、この体だけは何度抱いても飽きることがなく、足りないと思う瞬間さえ多い。
頬を緩ませて、しっとり汗を掻いて濡れる裸体を見下ろす。
そんな瞬間も彼にとっては至福の一時だった。
「やっぱ、いいケツしてるなぁ。しかも久しぶりだったからすげぇ乱れてるし。なぁマチ、必死になって探すくらいオレとしたかったのか?」
「はぁ、あんっ、うるさいっ!」
「怒るなよ。オレは嬉しいんだぜ。そんな状態で浮気もせずにオレんとこ来てくれたことが」
「んはぁ、あっ、だれが、あんたなんかに……!」
「でも実際オレに抱かれてるじゃん。ま、いつものことだけどさ」
彼女がどこで気を良くするか知っている。
青年の細かな動きは的確にマチの弱点を突き、余裕を奪っていった。
強がって見せても些細な仕草や声色から変化は確実。終いには腕の力が入らずに突っ張れなくなり、へなへなと崩れ落ちて膝だけをつき、尻を掲げた状態になっている。
もう何度気をやっているか、数えきれない状態だろう。
それはそれでいいと青年はさらに叩きつけた。
「んはぁっ!」
「あぁーいいな。イクぞ、そろそろ出る……」
「うんっ、んんっ、んんっ!」
震える背に覆いかぶさって肌を合わせた。いよいよという時、右手で彼女の顔の向きを変えてやり、舌を絡ませるキスをして、左手は股へ伸びてクリトリスを摘まむ。
それだけでぎゅっと締め付けられた。
青年は射精し、再び膣の奥まで注ぎ込む。
二度目となるが今度も我慢した後だったため勢いは強い。子宮へ届くほど勢いよく飛ぶ。
マチはがくがく震えながらそれを受け止めていて、ぎゅっと目を瞑る姿が可愛らしい。
すべて膣へ納めると、ぐったり倒れ込んだマチを見て微笑み、青年は縁に腰掛ける。ベッドの脇にあったティッシュを取ってペニスを拭い、丸めてゴミ箱へ投げ捨てた。
うつ伏せに寝てぼんやりそれを見ていたマチが声をかける。
達した疲労感からか、声に普段の力はない。妙に気の抜けた姿である。
こんな姿の彼女を知るのも青年だけに違いなかった。
独特の満足感を得つつ、彼はマチの髪を撫でる。
「はぁ、ん……人を犯しといてごめんもありがとうもなし?」
「バカ言え。オレを犯すって言ったのはおまえだろが」
「今のはあんたが一方的に動いてた」
「許可取った後だから合意の上ですぅ」
立ち上がった青年は服を着ようとクローゼットを開ける。
前に脱ぎ捨てた物ではなく、新しい服を取り出した。
これから会う人間のためにおしゃれなどする必要はないが、現在地から移動すればそれなりの距離もある。清潔な服装でなければ怪しまれる瞬間もあるのだろう。
取り出したそれをテキパキ身に着けていく。
下着を履いた後に、白いシャツに黒いズボン。ベルトを巻いて、上着に着るのは薄手の黒いコートだ。ファーがついたフードがあって、その位置を正せば気分は一新する。
そそくさと着替えた彼を見ながらマチは冷静になって声をかける。
あっさりしたものだ。それなりに苦労して見つけ出してもすぐに去ってしまう。
これだから割に合わないと、彼女は不満を持っていたらしい。それを正直に告げることなく、あくまで仲間の一人としての質問をぶつける。
「行くの? 団長のとこ」
「ああ。こっからだと移動もあるしな」
「ふぅん……」
「なんだ、寂しいか?」
「バカ。そんなわけないだろ」
拗ねた顔で背中を向けたマチはそう言って目を逸らしてしまう。
その時、青年は苦笑して靴を履きながら呟いた。
「そうだよな。オレが居なくても寂しくはないだろ」
「……え?」
いつもの軽口が返ってくると思っていた。しかし予想とは違って、驚くほど落ち着いた声色ながら、何か奇妙だと思える言葉が返ってくる。
パクノダが口にしていた言葉が一斉に脳裏へ思い浮かんだ。
マチは振り返って彼の背中を見つめる。
青年は彼女に背を向けており、もう振り向こうとしていない。
「なぁ、オレのことどんな奴だと思ってる?」
「急に何? 死ぬ予定でもできた?」
「そうじゃねぇけどさ。たまにはセンチメンタルになる時だってあるだろ」
「あんたには似合わないよ、そういうの」
「言ってくれるねぇ。オレだって人間だぜ」
出かける準備を終えた青年はいつも通りの笑顔で振り返り、ベッドへ戻ってくる。裸で寝そべるマチを見ながら縁へ座ると、下ろされた彼女の桃色の髪へやさしい手つきで触れた。
何か奇妙だと思った。だが何がとは言えない。
よくわからないが気持ちの悪い感覚があって言葉にできないのがもどかしい。
あぁ、これかと。呆けた思考でそれだけが思える。
難しい顔をしたマチは彼の顔を真剣に見上げる。
嫌な予感がしていた。勘が当たると評判の彼女が、言葉にできないほどの何か、嫌だと思う何かを感じ取っている。
それに気付かず彼はやさしく微笑んでいた。
「オレはずっと蜘蛛と団長に尽くしてきた。で、尚且つ盗賊だ」
「そんなの当たり前だろ。確認するまでもない」
「ならさ。オレたちはいつまでこうなんだろうな」
「……何が言いたいんだよ」
神妙な雰囲気になってきた。
どうすればいいかわからず、どんな顔をしていればいいかわからない。
彼の声は聞いたことのない色だった。
「オレは外の世界を見過ぎた」
「外の世界?」
「あのゴミ山にずっと居れば、また違ってたのかもな」
青年が立ちあがって扉へ歩き出す。
次に目が合ったのはドアノブを捻ったところで、マチは奇妙な不安から目が離せなかった。
「んじゃ行ってくる。あ、それと前々から言いたかったんだけどよぉ、団長から直接連絡来るならおまえが話聞いてやってくれよ。オレ今度から行かねぇからな」
「はぁ? ちょっと待っ――」
「団長のこと頼むぞ。じゃ」
パタン、扉が閉められる。
伸ばした腕はしばらく降ろせなかった。
なぜ、今日に限ってそんなことを言うのだろう。今まで何度も団長からの呼び出しを伝えた。けれど嫌な顔一つせず向かっていたはずだ。今回だけはおかしい。強くそう思う。
嫌な予感がして、胸騒ぎが抑えられなかった。
彼女の勘は仲間内では当たると評判で、ただの勘でも信頼されている。それが今は恨めしい。
嫌な感じがする時に当たっているのは最悪だと自分でも悔しく思う。けれど、今は何ができるかもわからない。彼の変化の原因も知らない。
結局どうすることもできず、困った彼女はそのまま不貞寝を始めてしまった。
何事も無く帰ってくればいい。そう思いながら。
*
ある町。雨がパラつく一日だった。
人の気配がまるで感じられない通りを青年が一人で歩いている。
雨を避けるためフードをかぶり、誰も見えないため道の真ん中を堂々と進んでいた。
坂になっている石畳を歩き、山にあるせいかまるで山登りをするかのようだ。決して老人にはやさしくない道だが彼にとっては何の問題もなく、薄暗い町を気にせず前だけを見ている。まだ夜は来ていないがこの地方に降る雨が空気をどんよりさせているせいだろう。時間帯のせいで街灯がついていないのも手伝っている。それでも視界に問題が出るほどではない。
この町に来るのは初めてではなかった。団長と会うのは常にこの町、決まった店。
なぜそうなったかはしばらく忘れたままだが、理由はどうでもいい。要するに誰にも邪魔されずに話せる場所さえあればそれだけで。
青年は古びた一軒の店に辿り着く。
掲げられた看板には本のマークがある。本屋だ。
数年前からの付き合いで通い慣れているため、気軽に扉を開けて中へ入る。
雨に濡れていたが木目の床を踏むのに躊躇いはない。きっと主人も怒らないだろう。勝手知ったる様子でまず奥のカウンターへ向かった。
カウンターの内側には小柄な老人が座っている。物音一つない静かな店内で古びた本を読んでいた。近くには猫がだらしない格好で寝ている。
警戒心もなく近付いて、気軽に声をかけた。するとしゃがれた声で反応がある。まだ死んでいないようで一安心といったところか。
「よぉ。商売はどうだ?」
「近頃めっきり寂しいなぁ。お宝の一つも置いてってくれよ」
「ああ、いいお宝があればな」
会話もそこそこにカウンターの中へ入って店の奥へ進んだ。店主の許可は取っていない。正確に言うならば、この時は取っていなくとも数年前に許可を得たのだ。今更確認することはないし、止められることもないため気にしない。
奥へ入って階段を上り、真っ直ぐ伸びる廊下を歩く。
二つある木製の扉を素通りし、足を止めたのは突き当り、何もない場所だった。
左側は窓がついた壁。雨に降られる街並みが見える。
右手側にドアがあったがそれらも通り過ぎ、今あるのは白塗りの壁のみ。
青年はおもむろに、壁にあった燭台を掴み、ガコンと音を立ててレバーのように動かす。すると不思議にも、壁がわずかに動いて隠し扉が少しだけ開いた。
何の用途で作られたか、隠し部屋があるのだ。
扉を押して中へ入り、すぐに閉める。
室内を見回した青年は笑顔を浮かべた。
こじんまりとした部屋の中は数本のろうそくの火で照らされている。窓はなく、本が山積みになったわずかなスペース。本に囲まれて椅子に座った男が居る。
黒髪をオールバックに、額には独特の刺青があって、ちょうど青年が着ているコートに近い物を身に着けている。無音の部屋で本を読み、ページを捲る小さな音だけがあった。
肩をすくめてわざとらしく嘆息。
青年も椅子を動かして彼の前に座り、それから男――クロロが口を開いた。
「たまにはオレより先に来れないのか?」
「本を読む時間も必要だろ。良いことしたつもりだったんだけど」
「フッ、相変わらずだな。遅刻をするのも、その口ぶりも」
クロロは本に目線を落としたまま顔を上げない。
話す相手はたった一人。どちらもそれを気にしなかった。
「オレを呼んだってことは仕事か?」
「ああ。一つ頼まれて欲しいと思ってな」
「悪いけどそれはパスだ」
青年がそう言うと初めてクロロが顔を上げた。
二人の視線が合い、見つめ合う。
「しばらく暇が欲しいんだよ。やりたい事ができた」
「ほう。前に言ってたアレか」
「まぁな。やりたい事っていうより、欲しい物、かな」
「また悪巧みか?」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える」
「そうか」
視線が降りて再びページへ。
発言は決して多くない。しかしそれで十分といった顔だった。
表情もほとんどなく、冷淡な顔つきのまま、冷ややかさは一切変わらない。
いつも通りだ。何も変わらない。
青年の態度も柔らかいままで、別段大きな反応を見せるでもなかった。
「ならシャルに連絡を入れておいてくれ。内容はオレから伝える」
「わかった。それと、結構面倒なこともあったぜ」
「どうした? オークションの件は成功したと聞いてるが」
「いや、それとは別で。妙な奴に気に入られてな。どうもオレを殺したがってるらしいんだ」
またページが捲られる。
「どんな奴だ」
「ピエロみたいなメイクした奴。雨で流れたけど。とにかく変な奴だからすぐわかる」
「戦ったのか?」
「ああ。マーキングしたんで目ぇ盗んで逃げといた。あれだとまた来るだろうけどな」
「それなら問題ないだろう。おまえの能力は強い」
「ミスったら一発で殺されるのに?」
「制約を理解してるおまえならそんなミスもないだろう。最悪逃げれば問題は解決するしな」
「集団戦闘じゃそうも言ってられねぇんだよ。盗めたとしてもどうせ一人ずつだし」
「負けそうか?」
「んなこたぁねぇけどよ」
唇を尖らせて青年が言った。
初めて薄く笑みを見せ、クロロが本を下ろす。
「必要なら護衛をつけろ。マチはおまえのところに行ったはずだ」
「あの子は口が悪いからねぇ」
「だが呼吸は合ってるだろう。仲良くやれよ」
「親か、あんたは」
ふぅーっと息を吐いて青年が席を立つ。
椅子を適当に部屋の端へ寄せ、今度は立って男へ向き直った。
すぐに出ていく。その前に一つだけ。
何を想ったのだろうか、青年ははっきりと笑みを浮かべていた。
「まぁとにかく、オレはしばらくふらっと歩いて来る。その間蜘蛛はよろしく。それと一応だけどピエロには注意しといてくれ。名前はヒソカ」
「わかった」
「じゃすぐに発つから。しばらくは連絡取れないかもなぁ」
そう言って青年は部屋を出ようとした。
内側から扉を開けようとしたところ、クロロに声をかけられる。
「ルツ」
「ん?」
「何かあったか?」
何気ない問い。振り返って視線が合うと妙な沈黙が生まれる。
それも一瞬。
青年が笑って肩をすくめた。
「そういやあんたに隠してたことがあった。というよりオレにとっちゃどうでもいいことだったんだけど。一応言っといた方がいいか」
「突然どうした」
「まぁ聞けって。あんた、あの連中のこと気に入ってたよな」
青年が自分の目を指差す。
奇妙な仕草を見つめていれば、瞳の色がみるみる変わっていくのがわかった。
茶色に近いはずだったが、気付けばとても美しい緋色。
それがなんと呼ばれているかを知らないはずがなかった。クロロは少しだけ驚いた表情を見せ、大きな反応はせず、感心した様子で見つめる。
「な? 聞いといてよかった」
「そうか……確かに知らなかった」
「ま、捨てられてたことに変わりねぇからな。なんとなく言いたくなった。ただそれだけだ」
くるりと振り返って扉を開ける。
首だけで彼を見ながら、行こうとする彼は最後に言った。
「欲しかったら盗みに来てもいいぜ。盗賊だろ」
「フッ、ああ。気が向けばな」
扉は閉められ、また静かな空間に戻る。
クロロはさほど動揺した様子もなく、再び本を読み始めた。