四楓院の屋敷に一つの人影が近付いてきた時、周囲に待機していた黒服の男たちが一斉にその行く手を阻んだ。
彼らに下された命令は屋敷へ誰も入れぬこと。ひいては、現当主が溺愛する少年を守ることにある。
砕蜂の部下であるところの彼ら、少年、ソラとの面識がある。付き合いもある。彼から怪我の治療や差しいれ、飯を食わせてもらったことなども数知れず。恩義を感じる彼らの使命感は強く、それは仲間である死神に対しても変わらない。
命令なき場合は死神であっても通せない。しっかりと道を塞いだ後、一人の男が前へ進み出てそう言った。
「失礼ながら、今現在は砕蜂隊長の命により、屋敷の中へ通すことはできません。御用がおありでしたらまた後ほど――」
「その砕蜂隊長から言われて来てんの。悪いんだけど、そこ通してくれる?」
「隊長から……?」
その女性、ソウル・ソサエティに滞在する死神なら誰もが知るところの人物。
十番隊副隊長、松本乱菊。
酒に絡めば止めようの無いうわばみで、刀を握れば凄腕の剣客。真剣にしていれば良い女ながら、普段の勤務態度はひどいもので、男好きするような格好、胸元を大きく開いて谷間を見せつけるようにしている。
これまで幾度となく砕蜂の目を盗み、実質バレていることも承知で懲りずにソラを狙っている女の一人だ。
彼らの隊長、砕蜂から何か命令が下されてそこへ来たとは到底思えず、嫌な予感しかしない。応対するため一歩前へ出た男は少し後ろを振り返り、仲間の顔を見やって対応を考えた。
普段の態度が知れているだけに、そう簡単に信用することはできない。かといって相手は副隊長、それほど素直に「信用できません」などと言えるはずもなく、言葉や態度は選ばなければならないのは明白。
困った隠密機動隊の面々は悩み、返答に閊えた。するとその隙を縫うかのように乱菊は一歩を踏み出し、立ちふさがった男の肩をやさしい力で押しのけると、ずかずかと屋敷へ向けて歩き出した。
「ほらほら、どいたどいた。あんたたちの隊長を信じないでどうするのよ。心配しなくても、ソラちゃんに危害を加えるようなことは万が一にもないって」
にこやかにそう言い、乱菊は勝手知ったる様子で扉を開けて中へ入り、すぐに閉めてしまう。
残された男たちはどうすることもできず、砕蜂の名前を出されてしまった以上、引かないわけにはいかなかった。
ただでさえ今は外からの侵入者を許し、騒動が起こっている最中。仲間内で揉めている場合ではないことは誰もが理解できるところ。
彼女が何のためにここへ来て、これから何をするかは、およそ多くの者が理解できている。
しかしここで事を荒立てるわけにはいかないと、男たちは断腸の想いで彼女を見逃す決断をし、胸中で渦巻くもやもやとした感情から目を逸らしながら、再び屋敷の警護のために姿を隠した。
一方で、のうのうと嘘をつき、個人的な用件だけを持って屋敷内部へ到達した乱菊は、まず玄関で立ち止まると奥の部屋へと声をかける。
ここまではいつも通り。警備が厳重になっているとはいえ、隙を突くのは己が実力のみで副隊長にまで昇りつめた彼女にとってはお手の物。
あとはいつも通り、可憐で愛しい少年との一時に逃げ込むだけだった。
「おーい、ソラちゃーん。お姉ちゃんが来たよー、遊びましょー」
厳戒態勢だというのにのんきにそう言い、自ら土間へ上がることなく待つ。彼の御出迎えを待つからだ。
そうしているとすぐに廊下を歩く足音が聞こえ、乱菊の頬はさらに緩む。
しかし奥から現れたソラはなぜか廊下の角から顔だけを出し、全身を見せることなく乱菊を出迎えた。これまでも彼女の期待を知っていた彼は戸惑い、弱気とはいえ拒む姿勢を取り続けていたものの、ここまで顕著なのは初めてのことである。
「い、いらっしゃい、乱菊さん……え、と、今日は、どういったご用件で……?」
「あら、今日は妙につれないわね、ソラちゃん。あたしが遊びに来ちゃだめ?」
「だ、だめとは言いませんけど、その、砕蜂様が……あまりいい顔をしませんし……それに、いつもみたいなのは、やっぱりだめだと思うので……」
「ふふ、そんなこと言っちゃうんだ。口ではいつもそう言いながら、体はあんなに喜んでるのに」
乱菊は草履を脱ぎ、ソラへ近付こうと動きだす。
しかし咄嗟に震えた彼自身の言葉により、一歩を踏み出した時点でその歩みは止められた。
「だ、だめですっ! あ……その、今日は、砕蜂様の命令で、誰も中へ入れないようにと、仰せつかってますので」
予想以上に大きな声。乱菊の動きはぴたりと止まり、思わず彼の顔を見る。
恐れを抱いた、同時に、何かを隠したがっている羞恥の表情。廊下から顔を出さないあたりに加え、今の言動や態度から、普段の顔を知るだけにますます怪しく見えてくる。
ふと、乱菊は角から覗いたソラの肩を見た。そこに見えたのは普段着ているはずのお気に入りの黒い浴衣ではなく、なぜか肌色。
なんとなく予想がついた彼女はにやりといやらしい笑みを浮かべ、気にせず次の一歩を踏み出した。
途端に慌て出すソラが逃げ出そうとする前、乱菊は角に隠れたソラの前に到達し、彼の全身を拝み見た。
やはり予想した通り、なぜか彼は裸。布の切れ端すら纏わぬ裸体で廊下に立ち、ぎゅっと体を隠すように、特に股間を隠すように両手を下に降ろしていた。
「なぁにソラちゃん、裸だったの? 昼間から一人で、それもすっ裸で、何してたのかなぁ?」
「ち、ちがっ――こ、これは、砕蜂様からの命令で……!」
「ふふん、ま、そんなとこだろうと思ったけど――さ、それじゃソラちゃんの部屋に行きましょ。鬼が居ぬ間にさくっと用事を済ませないとねぇ」
「え、え――」
ソラの裸体を見てもさほど大きな反応を見せない乱菊はその手を引き、ずかずかと奥へ向けて歩き出した。戸惑いは見られたソラの方が大きいようである。
これまで何度か、二人は体を重ねている。すべて、ソラを気にいった乱菊がほとんど無理やりに。
ソラの部屋、といってもそこは個人の物ではなく、正しく言えば砕蜂の部屋なのだが、人目を盗んでばれないようにと彼を誘い、嫌がる風でしっかり感じているソラを押し倒していたのだ。
おかげで部屋までの道もしっかり頭の中に入っており、ソラの手を引いたままの歩みにも迷いがない。
「あっ、わっ――」
勝手知ったる様子で部屋まで辿り着いた乱菊はさっそくソラを畳の上へ引き倒し、その上へ覆いかぶさった。
髪を掻き上げ、額に軽く口づけし、色気を含んだ女らしい声で囁く。
ウェーブのかかった明るい色の長い髪が頬にかかり、心臓の鼓動を速くするソラはごくりと息を呑んだ。
基本的に他人と関わる時間の少ない彼は、他人を傷つけることに慣れていない。もし自分の行動や言動が誰かを傷つけてしまったら、そんな想いが彼自身の抵抗力を失くさせていた。
「ねぇ、昨日もしたんでしょう? 砕蜂隊長と」
「は、はい……」
「そう……ずるいわね。そりゃあ、お世話をしてるってのはわかってるけどさ。一人占めはよくないと思わない?」
「ら、乱菊さ――んっ」
荒っぽく唇を塞いで、そのまま乱菊はねっとりと舌でそこを舐める。
怒っているかのような力強さは刺激が強く、息を詰まらせたソラは全身を硬直させ、懇願するように乱菊の肩を強く握った。
目を閉じている彼に対し、目を開けたままの乱菊はふと笑みを見せた。
「んっ……んふっ……」
「んむっ、んぅ……!」
ソラはなんとか彼女を押しのけようとするのだが、男と女という違いはあっても体格差は歴然。さらに相手は十番隊の副隊長を務めるほどの実力がある。
早々簡単に返せるはずもなく、逆に両手を取られると、力の入った手のひらは張りのある大きな乳房へと運ばれる。
ふにゅりと揺れるそれに手が添えられ、彼女の導きによってソラの指が動き始めた。
これに気を良くし、乱菊はさらに口づけを深くして、唇の形をなぞっていた舌をその奥へと差しこんだ。
だが、ソラはそれを拒むように歯を食いしばっており、途端に眉をひそめた乱菊は口を離して顔を覗き込む。
「どうしたのよソラちゃん、今日はその気じゃないの? ほら、大好きなおっぱい、好きにしてくれていいのよ?」
「あぅ、でも……やっぱり、砕蜂様の、ご命令が……」
「たまにはいいじゃない。それにソラちゃんだって、おっきいおっぱいの方が好きなんでしょ? あんまりこのお屋敷から出られないんだから、あたしといっしょに気分転換しよう」
「で、でも――」
「それにほら、さっきから指が止まってないわよ? ふふふ、口と体が裏腹なのはいつも通りよねぇ、ソラちゃん」
「うぅ……」
頬をぺろぺろと舐めながら、声色には楽しげな物がますます混ざる。
嫌がるのはいつものことだが、いつもは抑えきれない好奇心や快楽に負け、ソラ自身も楽しんで彼女と体を重ねるはず。しかし今日ばかりは勝手が違った。
掴まされた胸を揉むことはやめられていないものの、口付けから逃れようと顔を背ける仕草はやはりおかしい。
それだけに、胸中に溢れる嫉妬を押さえこむことなどできなかった。
命令、そうは言うがソラは砕蜂の手足となって働くことを良しとしている。他者には見せない顔を向け、表情を見せ、慎ましくも穏やかに幸福という物を感じている。少なくとも乱菊には彼が幸せそうにしているよう見えた。
そもそもの所属が違うのだからそれ自体が悪いことではない。死神ではなく使用人、彼が砕蜂に対して従順な態度を見せるのは当然のことだ。
だがどこか、悔しいと感じている自分もいる。
乱菊はソラの耳たぶを甘く噛み、熱い吐息と共に囁きを吐いた。
「ねぇ、少しくらいならいいじゃない。ほらほら、パイズリだってパフパフだって、なんでもしてあげるからさ。裸で待ってたくらいなんだし、期待してなかったわけでもないんでしょ?」
「う、うぅ、だから、これは砕蜂様の……」
「そう言いながらも、こっちはかなり元気になってるわね。んふふ、もう先走りでぐちょぐちょ……」
肌の上を滑るように移動した指先がどんどん下へと向かっていき、やがて下腹部へと触れる。
股間でそそり立つ陰茎は子供にしては異様に大きく、女を知っているためか浅ましくもすでに体液を垂れ流しにしていた。乱菊の手が上下に扱く度、卑猥な水音が鼓膜を震わす。
ソラは嬉しさや快感を噛み殺すように歯を食いしばり、きつく目を閉じて声を我慢しようとした。
その表情に心を撃たれ、乱菊はさらに加虐的な笑みを深めて手の動きを速めた。
「聞こえるでしょ? ぐちゃぐちゃって、ソラちゃんのおちんちんから鳴ってるの――うふふ、腰がかくかくしてるわよ? 気持ちいい?」
「うっ、うっ、うっ――」
「おっぱい揉むのもやめないし、やっぱり好きなんじゃない。ソラちゃん、あたしのこと、好き?」
首筋を強く吸い、滾る肉棒を扱きながらそう尋ねると、ソラは必死に声を絞り出した。
揉むというよりも握りしめるように乳房へ触れるのは乱菊にとって痛みを伴うものであったが、愛しい彼がそうしているなら不思議と怒りも生まれないようである。
「す、好き……です、けど、こういうのはやっぱり、だめっ――うっ」
「じゃあ、やめる? 砕蜂隊長が帰ってくるまでまだずいぶん時間あると思うけど、それまでソラちゃん、我慢できるの?」
「そ、れは……」
「私だって鬼じゃないんだから、ソラちゃんが本当に嫌ならやめるわよ。でも、ほんとはしたいんじゃなぁい? だって――砕蜂隊長じゃ、こんなこと、できないでしょ?」
そう言って乱菊は彼の股間から手を離し、少し体を動かして位置を正した。
身に纏っていた衣から肩を露出し、そのまま腰まで脱いだことで、ふるりと揺れる平均以上の乳房が、ツンと立った乳首も加えて、ソラの眼前に晒される。
自然、ごくりと喉が鳴った。普段は胸の薄い砕蜂と同居しているわけだが、真実ソラは大ぶりの胸の方が好きだ。
それが先代当主を忘れられていない故だと気付かぬままではあっても乱菊もちゃっかり気付いており、彼女がソラに付け入る隙を見出しているのもこのためである。
両腕を畳へ突っ張り、顔の前でわざと体を揺らして、ゆっさゆっさと揺れるそれをソラへこれでもかと見せつける。
すると見る見るうちに彼の目は平静を失っていき、しまいには自分からゆっくりと伸ばされた両手がそこへと触れた。
まんまと餌に食らいついたと、乱菊はさっと体を伏せ、ソラの顔を己の胸の間に挟み込む。
「むぐっ!? んんっ、むぅっ」
「おっぱい大好きなソラちゃんは、こういうのも好きでしょ? して欲しいならそう言ってくれなきゃ。期待して目を潤ませてるだけじゃだめよ」
柔らかく温かい感触が顔を包みこみ、呼吸が辛いながらもなぜか幸せな気分になる。
この時すでにソラの体、及び精神からは抵抗する気がなくなっており、両手は嬉しそうに側面から乳房へ触れていた。まるで、自らの顔をそれで押しつぶそうかとするような動きである。
むぎゅっと柔らかな肌を押し、感触を楽しむかのように指を動かす。すでに平常心はなく、あるのは抑えようのない極度の興奮。
ソラの陰茎がさらに固くなったのが自身の腹で感じ取れ、乱菊は艶めかしい悲鳴を発した。しかし嫌な気持ちなど微塵もあるはずがないため、逃げ出すような愚行も犯さない。
胸は彼の望む通りに任せ、自身は両手を腹の下にある肉棒へと伸ばし、しっかりと握って上下に扱き始めた。
片手だった先程とは違って両手、全体を包み込むようにして動くそれはソラの口からうめき声を洩らさせ、さらに興奮を高めさせたようだ。乱菊の笑みも、さらに深くなる。
「ね、パイズリ、してあげよっか。んっふふ、現世の本とかでしっかり学習してるからねぇ。前よりもっと気持ちいいかもよ?」
「あ、はぁ……あの、乱菊さん……」
「今からやめるっていうのは、ごめんだからね。ここまでやったんだから、ちゃんとあたしも満足させてもらうわ」
乱菊は体の位置を変え、自身の胸の間にソラの肉棒を挟みこむ。ふにゅりと柔らかな感触に包まれ、気持ちいい、だけど淡い刺激にソラの表情も変わる。
安心、なお且つ極度の興奮に染まった顔だ。子供のように目を輝かせる彼はいつしか前のめりになって自分の股間、引いては乱菊の胸を見つめていた。
思わず彼女も嬉しくなり、自分の両手で胸を側面から支え、口から唾液を垂らして胸元に塗りつけると、挟んだ肉棒を扱くため上下に動かす。
手で強く握られてそうされるのとは違い、確かな気持ちよさや安心感がありながらも、どこか刺激が足りないような、もどかしい感覚。女性の胸、特に大きな物が好きなソラにとっては天国にいるような感覚だ。
自分でも意識しないのに、ソラは前に体を倒し、乱菊の頭に額をつけ、強く目を閉じながら繰り返し荒く息を吐く。
至近距離にあって唇が届かない。少し寂しい気もするが、乱菊は胸を離そうとはせず、そのまま何度も上下に動かして刺激を与え続けた。
「気持ちいいでしょ? ふふ、すっごく幸せそうな顔してる……ねぇ、いつでも出していいのよ。顔でも胸でも、好きなところにかけて」
「あぁぅ、はぁぁっ……!」
「ふふ、可愛い声……」
楽しそうに胸を揺り動かし、時には舌を伸ばして亀頭へと触れ、頭を下げて口内に含む。
彼女のそれはひどく慣れていて、このまま流されて射精したくなるほど、ソラの心と体を揺さぶった。
今や彼はすっかり与えられる快楽に呑みこまれ、何も考えられなくなって与えられるすべてを享受していた。
囁き声、肌の感触、行為からの快感。初めてではないだけに期待も合わさって体が言うことを聞かない。
乱菊が胸の谷間から顔を出した亀頭を頬張って頭を振っている時、ついに我慢ができなくなってソラが射精を始める。
勢いよく飛び散る精液が彼女の顔や髪、乳房を濡らし、しかし乱菊は逃げることなく嬉しそうにそれらを受け止めた。
「うぅ、あぁっ……!」
「あんっ――ふふ、イッちゃった。すごく元気ねぇ。昨日もしたなんて思えないくらい」
うっとりと呟く彼女は、顔についたそれを指先で掬って口元へ運び、舌でちろちろと舐めながら微笑む。
ソラは脱力して寝そべり、息を整えようと必死に呼吸を繰り返していた。
少し力を失くしたものの、いまだ完全には萎えていない陰茎は天井を向いており、唾液や精液がついたまま。乱菊はそこに舌を伸ばし、ぺろぺろと舐めながら話しだす。
「もう終わり、じゃないわよね。いつまで寝てるのよソラちゃん、ほら、続きしましょう。まだこっちも満足してないみたいだし」
「うっ、うっ――」
乱菊の手のひらがまたソラの陰茎を掴み、弱弱しい力でゆっくり上下に擦る。それだけでソラは声を出して感じ、再び陰茎を固くする。
そろそろ本格的に楽しもうか、と乱菊が体勢を変えて気合を入れ直した時だ。
ちょうど彼女が服を脱ぎ、後は下半身を覆う下着を残すのみ、となったその時、背後にあった襖が開いた。
瞬間的に悪寒が走り、どっと汗が噴き出す。後ろへ振り返らずとも乱菊には部屋にやってきた人物が誰だかわかった。
恐る恐る振り返ってみる。やはり立っていたのは、やけに冷たい瞳で無感情に見下ろしてくる、砕蜂。
覇気とも殺気ともわからぬ異様な雰囲気を纏った彼女が、裸同然の乱菊と、裸で男根を屹立させて寝転ぶソラの姿を見ていた。
この時乱菊は、思わぬ展開と自らのミスに、自身の死すら覚悟していたという。
「あ……あの、砕蜂隊長。ええっと、これはですね、そのぉ……そ、ソラちゃんにも、たまには外にでてはどうかと提案に来た次第でして、お散歩の御誘いに――」
「松本」
「は、はいっ」
「ひとまず服を着て、仕事に戻れ――夜になってから再びここへ来い。話はそれからだ」
「は、はい……」
感情のままに激怒されるならまだしも、冷たくそう言われては何も言い返せず、自分が悪いこともわかっている乱菊に拒否権はない。
彼女は明らかに顔色を悪くしながらも脱いだばかりの服を身に纏い、小さく謝罪の言葉を口にすると逃げるように部屋から去っていった。
残された砕蜂とソラの間に、言葉はない。ようやく呼吸を整え、快楽の余韻から我に返ったソラはハッと顔を青ざめさせ、慌ててその場で正座をする。
眼前に立ち、腕を組んだ砕蜂が大きなため息をつくとそれだけでソラの心が締めつけられる。
彼女から大事にされていることがわかっているだけに、その想いを裏切るような行為、しかも最中を見つかるというのはなんとも気分の悪いものだった。
だからといって乱菊を恨むこともできないソラは、ただひたすら自分自身を責め続け、もはやまっすぐ前を見ることすらできずに俯くばかり。
砕蜂はそんな彼の心境を理解しているのか、厳しく追及することもなく、淡々と話す。
「現場を押さえたのは初めてだったな」
「す、すみません――あ、あの、でも、砕蜂様……悪いのは、僕なんです。僕がちゃんと断れなかったから、もっとちゃんと、断れていれば――」
「ソラ。おまえは、本当にバカだな」
そっと膝を折り、砕蜂がソラの体を抱き締める。
彼の頭を胸に抱え、あやすように髪を撫でる。そうする彼女の目はひどくやさしく、どこか寂しげにも見えた。
以前から乱菊がそうしていたのは気付いていた。他にも彼を気にいっている女は多いし、実際によく会いたがる人間もいるし、ひょっとしたら把握していないだけで他の女とも体を重ねているかもしれない。
だが問題なのはそのことではなく、忘れろと言ったのに過去を忘れていないこと。今まで何度も告げた命令がいまだに守られていないことだ。
他の女を抱いて過去を切り捨てられるのならば、それでもいい。そう思ったからこそ見逃していた。
しかし実際には、ソラは今も過去を決別できずにいる。これでは何のために見逃していたかわからない。
ソウル・ソサエティに侵入者がいる今、事は急がなければならないだろう。
「本当に、おまえはバカだ」
「すみません……」
すでに砕蜂の心は決まっていた。
たとえ自分じゃなかったとしても、何をしてでも先代にだけは渡さない。
腕の中で小さく鼻をすする彼の頭を撫でながら、胸の中には愛しさが溢れていた。
◆
夜になってから、乱菊は改めて砕蜂本人の招集を得、彼女とソラが住む屋敷へと赴いていた。
果たして今日生きて帰れるのだろうか、などと不安に思っていた彼女であったが、実際に砕蜂に会ってみれば、間違いなく自分に言われただろう言葉は予想だにできないものだった。
「え? そ、砕蜂隊長……今、なんて?」
上座に座り、女中にお酌をさせて酒を口にする砕蜂の前、ぴしりと背筋を伸ばして正座する乱菊が驚いた声を発する。
今しがた聞かされた言葉はとても信じられるものではなく、思わず自分の耳を疑ってしまったほど。
しかし砕蜂はあくまでも冷静、平坦に語り、変わることの無い言葉を彼女へ聞かせた。
「今ここで、ソラを抱け。それができないなら二度とこいつに近付くな」
「あっ、そいふぉ、さま……!」
胡坐を掻いた膝の上に座らされたソラは尚も裸、股を開き、砕蜂の手によって勃起した陰茎を扱かれ、恥ずかしがりながらも乱れた声を発していた。
その痴態すら、一瞬忘れてしまう。乱菊は何を言われているのか、正しく理解するのに時間がかかった。
怒られるとばかり思っていた。それどころか、最悪殺されることだって十分にあり得る。それだけのことをしているという自覚は以前からあったのだから、無事に帰れないかもしれないという予想すらしていたのだ。
だが砕蜂が放った言葉はそれとは真逆。彼女が最も大事にしていると言っても過言ではない、ソラを、今この場で再び自分に抱かせようと言うのだから。
ぽかんとした表情で思考を停止させた乱菊は上手く反応することができず、口を半開きにしたまま黙って砕蜂を見つめるばかりだった。
その間にも砕蜂はソラを責める手は止めず、片手では彼の肉棒を扱き、片手では女中から受け取った酒を口に含む。普段は呼ばない女中を二人も侍らせているあたり、やはり普段とは何かが違った。
隊長然とした雰囲気を持つ彼女は普段より冷徹に見え、背筋が凍るような空気すら周囲に漂っていた。
「おまえがソラに手を出していたのは以前から知っていた。知っていて敢えて止めなかった――だが、だからと言って罪がないわけではない。おまえは私が大事にしている男に手を出し、あまつさえこそこそと隠れていたわけだ。それ相応の罪は償わなければならない。違うか?」
「わかっています……覚悟はしてきました」
「そうか。といっても、何もおまえの命が欲しいわけじゃない。護廷十三隊から去れとも言わん。……おまえはただ、ソラを悦ばせる道具になれ。こいつはすでに私のものだ、おまえに渡す気はないが、こいつを裏切らないと言うのなら……ソラと寝ることを許可する」
「……あの、砕蜂隊長……本気ですか?」
「本気だ。嫌なら断ってもいい、ただしその時は、二度とおまえにはソラを近付けさせん。どちらか選べ」
ソラを虐めつつの言葉は明らかに本気であった。まっすぐ射抜くような視線や瞳がそう物語っているし、有無を言わせぬ迫力がある。
どちらかを選ばなければならないのは明白。ならばどちらを選ぶかと問われれば、必ず前者を選ぶだろう。
たとえ自分だけのものにならなくても、彼を手放すことなど今さら出来ない。
すぐさま覚悟を決めた乱菊は目の色を変え、小さく頷いた。
「……わかりました。では、あなたの目の前で、彼とすればいいんですね?」
「ああ。その気があるなら、服を脱げ。こちらは準備ができている」
指示に従い、ゆっくりと立ちあがった乱菊は急ぐことなく服を脱いでいく。
一枚、また一枚と、まるで見せつけるかのように。ただ、今のソラが自分を見る余裕がないことは顔を見ればわかるため、むしろ見せつける相手は砕蜂だ。
自信を持つ肉体を一部も隠さず晒し、彼女はそこへ仁王立ちした。
身じろぎするだけで乳房が重そうに揺れ、むっちりと肉付きのいい、けれど太すぎない裸体。男が好むであろう、女としての魅力が存分に詰まっていた。
真っ正面からその体を見た砕蜂は気にいらないとばかりに小さく鼻を鳴らし、ソラの肉棒から手を離した。
荒く呼吸を繰り返し、ぼうっとした目で見つめてくるソラへ視線を合わせ、数度唇を奪いながら告げる。親のような、それでいて女だとわからせる、乱菊に向けるものとは違って色気のある声だ。
「ソラ、聞いていたか? これからあいつを抱け」
「え……砕蜂様、でも、それは――」
「命令だ。逆らうことは許さん」
最後に軽く唇を吸い、砕蜂は彼の背を押して乱菊の方へと向かわせる。
いきなり解放されてしまったソラは戸惑うが、振り返った先にある目がひどく真剣だったため、逆らうこともできずに顔の向きを変える。
目の前では裸で立つ乱菊が腕を広げて待っている。薄暗い室内でもよくわかる、彼女の股はひどく濡れていた。
昼間の中断が効いているのだろう。もはや辛抱堪らんと、淫らに蕩ける笑みを見せて、ソラが来るのを待っている。
「おいで、ソラちゃん。私と、しよ?」
言われたソラは困ったようにちらりと背後を確認するのだが、砕蜂は無言で見詰めてくるばかり。
命令に逆らうことはできない。再び視線を戻した彼は、こくりと小さく頷き、前へ進んだ。
「……はい」
ゆっくりと抱きつき、どちらからともなく口づけを交わして、畳の上へと二人で寝そべる。
至近距離で視線を合わせ、両者は頬を赤く染めて言葉を失くす。
かつてこれほどまでに熱っぽく見つめ合ったことがあっただろうか。いつもソラは快楽に身を沈めながらも脳裏に砕蜂の姿を思い浮かべており、乱菊はそんな彼の表情に苛立ちや嫉妬をぶつけ、どちらも純粋に楽しめてはいなかった。
しかし今、命令とはいえようやく彼の目が自分だけに向けられている。ともすれば視線は下に落ち、胸に当たって潰れる乳房や、屹立したそれが触れる股間へ向かうが、彼女にとってはそれがとても嬉しい。
体をぶるりと震わせた乱菊は自らソラの唇を奪い、熱っぽく舌を絡ませる。ソラもそれに、おずおずと戸惑いが残る様子で反応を返した。
「んっ、ふっ、ソラちゃん……」
「あっ、ふぅ、乱菊、さ――んんむっ」
砕蜂が見ている前、裸で寝そべり、乱菊の上にソラが乗る形で口を隙間なく合わせている。それだけで室内には独特の熱気が溢れるようで、何が始められるか知っていた女中たち二人も、思わず頬を赤く染めた。
近頃は屋敷に近付かないよう指示されていた彼女たちも、以前から四楓院の屋敷で働いていたのだ。砕蜂とソラがどんな生活をしていたのか、その目でもって知っているし、さらに言えば先代がいた頃の生活すら知っている。
現当主が差し出す銚子に酒を注ぎつつ、視線はどうしてもちらちらと裸の二人へ向かってしまい、当事者でなくとも体が熱くなってくる。
ぐいとそれを呑む砕蜂は冷めた目で体をまさぐり合う二人を見ているが、すでに女中たちの変化にも気付いているようで、決して大きくはない声ではっきりと言う。
「おまえたちも服を脱げ。あとでソラに抱かせてやる」
「えっ? し、しかし砕蜂様、それではあなたが……」
「構わん。あれにはある程度女を与えることにした。おまえたちも時間とその気があれば、いつでも抱いていいぞ。その代わり、あいつを裏切ることがないと言い切れるならの話だが」
多くは語らぬ目が、着物を脱げと女中へ向く。困惑する彼女たちもその気が止められなかったのか、抵抗は少なく、すぐに言うことを聞いてもたもたと服に手をかけ始める。
二人の女中のストリップと、ソラと乱菊の熱烈な愛撫。両方を見ながら、砕蜂は酒を進める手を止めなかった。
「それにソラがいないのでは私の体も寂しいのでな。向こうが終わるまで私の相手をしろ」
「は、はい……」
すっかり裸になった女中、どちらかがそう小さく答え、戸惑いがちに砕蜂へ体を寄せる。
すると彼女は男らしい様子で女の腰をぐいと引き、おもむろに唇を奪った。奪われた女は目を白黒とさせ、それを見ていた女は思わず口元に手をやって驚愕を露わにした。
彼女たち三人もまた痴態を繰り広げることにより、室内にはますます、他では得難い熱気に包まれていくようである。
それに呼応するかのようにソラと乱菊の動きはますます激しさを増そうとしていた。
何度も体勢を変え、上下を入れ替え、互いの体を丹念にねちっこく舐め清め、時には強く吸って肌に痕を残し、熱い吐息を相手に降りかける。次第に汗が噴き出し、与えられる弱弱しい快感で興奮が増していき、プンと香る雄と雌の匂いが彼らという存在すべてを高ぶらせる。
ついには我慢できなくなって、ソラが乱菊を押し倒してのしかかり、彼女もそれを待っていたかのように口元を綻ばせて、自ら股を開いた。
「ら、らん、乱菊さんっ。もう、もうっ、い、いれますっ」
「あぁっ、来てぇ……ソラちゃんの固いの、私のなかに……」
堪え切れない様子の肉棒が淫らに震え、乱菊の膣に頭を当てると、喜びを表すように一際大きく震えた。
ソラは目を閉じ、強く歯を食いしばるものの、その顔は快楽に染められきっていると言える。また、乱菊も同じ、緩んだ口元はあまりにもわかりやすい。
ゆっくり、己の体液や彼女の唾液で濡れた亀頭が、膣の中へと入りこむ。しかしその瞬間にはもはや気遣いなどというものはかなぐり捨て、ソラの腰は勢いよく動き、肉棒もまた勢いをつけて奥まで打ちこまれた。
「んはぁんっ!?」
衝撃と共に言い表せない快感が襲い掛かる。
この時すでに乱菊はこれまでに感じたことがないほどの絶頂へ至っており、白目を剥きかねんほどに目を見開き、口を開けて震わせていた。
入りこんだだけでそれなのだ。このまま動かれたら、一体どうなってしまうのか。
乱菊がそれを考える前にソラは腰を引き、一度は抜きかける地点まで達し、続けて再び奥まで先端をねじ込む。勢いは強く、速度は速く、さらには腰遣いに慣れや技術もあるため、一突きごとに乱菊は我を忘れて高く鳴いた。
ひどく興奮していたことも良い材料になっている。そして何より、ソラが砕蜂のことを一旦は頭からどかし、彼女だけを見ていることが大きい。
ほとんど半狂乱で乱菊は体を捩り、彼へ抱きついて腰を振った。もはや自分自身を制御できず、ここまでの乱れぶりは生まれてきて初めてのことである。
「はぁぁっ、あぁっ! すごいっ、すごいのぉ……おちんちん、熱くてぇ……気持ちいいのぉっ!」
「うぅ、あぁっ、乱菊さんっ……」
人というよりもまるで獣のよう。我を忘れて激しく水音を鳴らす二人は三人の女たちに見守られながら、畳の上を濡らして善がった。
肉と肉がぶつかる音が響き、熱気が体に纏わりついて、汗を振り乱して快楽に耽る。
体勢を変え、乱菊が四つん這いになって尻を掲げ、ソラが腰を掴んでまたしても激しく膣内を抉る。
パンパンッという音がさらに大きくなり、やがて二人は同時に限界へと達した。
ぐんと腰を突きあげて亀頭が子宮の入り口を叩き、熱い精液がそこへ注ぎこまれると、乱菊が背を逸らして声も高らかに叫んだ。
「ああぁぁぁっ!」
ソラは尚も押しつけるように腰をわずかに揺らし、最後の一滴まで膣内へ注ぎこみ、ようやく肉棒の動きが止まってから体の力を抜く。
倒れ込んだ乱菊の上にぐったりと乗り、陰茎を抜くことなく目を閉じる。乱菊も目を閉じ、荒く息をついて脱力していた。
しかしそんな二人に砕蜂が声をかけ、休憩を挟むことすら許されなかった。
「ソラ、次はこの二人だ。同じように膣内へ注ぎこんでやれ」
「よ、よろしくお願いします……」
「はぁっ、んっ――は、はい……」
先程まで散々砕蜂に体を弄られ、すでに我慢できなくなっている裸の女中二人がソラへ歩み寄り、彼の体を簡単に持ち上げて乱菊から離した。
太ももまで濡らした彼女たちは快感を得ることしか考えておらず、浅ましくも畳の上に押し倒したソラへと群がり、片方は早々に彼の陰茎を膣内へと迎え入れ、片方は彼の頭を跨いで秘所を舐めさせた。
放っておかれた乱菊はそれを見てようやく我に返り、まだ自分も満足していないと動き出そうとするのだが、それよりも一歩早く、裸になった砕蜂が彼女の腰を掴んで仰向けにひっくり返した。
「おまえの相手は私がしてやる。さぁ、股を開け」
「えっ、ちょ――あっ、んむっ……」
咄嗟のことで戸惑う乱菊の唇を塞ぎ、砕蜂はねっとりと舌で触れる。
巧みでやさしく、高圧的な態度。ソラとは正反対に位置する触れ方。まだ絶頂から完全に立ち直ったわけではないこともあり、予想外の技巧に乱菊も思わず抵抗せずに目を閉じる。
しなやかな指が乳房へ触れて、手のひらで押すかのように揉まれる。しかしそう思った直後、砕蜂の手は乱菊の大きな胸を力強く握り、そのまま潰さんとするかのような力を込めた。
唇を塞がれたままだったが、思わず乱菊は首を振って口付けから逃れ、声を発する。しかしそれは反抗する物と言うより、ひどく弱弱しい物だった。
「んむっ、んんむぅっ――ぷはっ。いっ、たぁ……!」
「私は、胸が大きい女が嫌いだ……ソラの奴に、思い出さなくていいことを思い出させる」
憎しみを込めるかのように強くぐにぐにと揉みしだいて、砕蜂は目を細める。その目を見てしまった乱菊はなんとなく恐ろしくなって、痛みで顔を歪めることはできても、逃れることはできなかった。
「いっ、たい、痛いです、砕蜂隊長……!」
「ソラに抱かれるおまえは気に食わない。だが、もし、この胸を使ってソラがあいつを絶ち切れるなら、おまえを許してやる。ひどく腹立たしいことではあるがな」
もう一度舌を使ってぴたりと閉じられた唇に触れた後、砕蜂は後悔を残すことなくさっと離れる。
そしてすぐに乱菊の股を開かせ、自身もしっとりと濡れているそこを、秘所同士を擦り合わせた。
彼女の動きはどこか慣れているようにも見え、どことなく不思議な感じもしたが、すぐにそれどころではなくなって乱菊は大きく喘ぎだす。
「あぁっ、んんっ、すごっ、いっ、気持ちい……砕蜂、たいちょおぉ……!」
「はぁっ、んっ、はぁっ……」
しかし砕蜂の目は、女中たちに襲われて悦ぶソラを映して離さず、自分ではない女と気分を高ぶらせている彼の姿を見つめながら、砕蜂と乱菊はそのまま淡々と腰を振り続けた。