毒されているな、とは思ったけど、結局その選択をしたのは俺だった。
もちろん責任は俺にある。決めたのは俺で、実行してるのは俺だけど、一方では俺たち二人の決断だという認識がある。別に俺が強制したわけじゃない。たまに俺の意にそぐわない行動や発言はあるけど、やっぱりパイモンは優しいから、相棒としてそう決断してくれたのだ。
ジンさんの要求はエスカレートしている。少なくとも俺たちはそう思っていた。その全ての過程と行動と表情を見ている俺たちとしては、開いた口が塞がらない想いで、順調におかしくなっているなとも思っていて、以前の姿を忘れるほどジンさんの奇行を目の当たりにしていた。
だけど、それがジンさんのためになるのなら。そう思って一度も断ったことはない。
たまに黙ってみたり、考えるふりをしてみたり、軽めに断ってみたりして、結果的に焦らすことはあるけれど、最終的には言うことを聞いている。というか、そうせざるを得ないようなセリフを吐いたり、捨てられた子犬のような顔をするからずるい。
ほとんど脅迫だと思いながら、今のところ従っている。
あれは仕方ない。俺とパイモンの意見は一致していた。別にへたれてるわけじゃない。
ジンさんの要求に従って俺がしたことは、大体が普通の人にすると怒られるようなことばかりだと思われる。無許可でやれば嫌われるのは間違いなく、許可を得るのは至難の業。そもそも今までやろうと思ったことがないことをやってくれと要求される。
思い切りビンタをしてくれは序の口。
顔を踏んでくれと言って地面に仰向けで寝たこともあるし、お尻を叩いてくれと言って四つん這いになったこともある。
頭を撫でてほしいっていうのは素直に受け入れられて即実行できたんだけど、その直後に排尿しているところを見てほしいと言われた時は、流石に目の前が真っ暗になった。
まあ、そのどれもを受け入れて実行したんだけど。
「ジンはよっぽど疲れてたんだな……」
唾液を飲む、の頃には興奮した様子で俺の背を押していたパイモンだったけど、深淵に向かうにつれて表情が硬くなっていき、今では憐れむようにジンさんを見ている。
俺にはもうわからない。あれが仕事を詰め込み過ぎて疲労が溜まり、おかしくなってしまった結果なのか。それとも元々ああいった欲求を抱えていたのか。
どちらにせよ、念願を叶えたジンさんが生き生きしているのは間違いなかった。
この狂ったおねだりはいつまで続いて、どういう終わりを迎えるのか。気になる一方でおそらくいつまでも続くのではないかと予想してもいる。
せめてどこかで一段落しないものか。しばらくモンドで旅をしているから、そろそろ別の土地を見に行きたいという欲求もありながら、今はまだジンさんのためにここに居る。
俺が協力したことで、ジンさんの仕事は捗っている様子だった。
周りの人も感心するほど仕事が速いし、顔色は良くなったし、何より機嫌が良さそうで騎士団の人たちも驚いている。その理由に気付かれてないといいけど。
この状況はしばらく続くのか。
そう思っていた時、いつものようにジンさんの執務室に行って、新しいことを言われた。
「入浴をしてほしいんだ」
ん? え? 誰と?
「私と、君が、一緒に。お風呂に入ってほしい」
ついに直接的な感じになってきた。
正直に言うと今までで一番嬉しいかもしれない。なんというか、期待してしまうのも無理はないと思う。ある程度常識的な上に、その、お互い裸になるわけだから。
俺は乗り気だった。あまり深く考えずにわかりましたと言った。
むしろパイモンの方が驚いていたみたいだ。顔を覗き込まれて心配される。
「ど、どうしたんだ旅人!? 今まであんなに嫌がったり引いてたのに……さては、ジンの裸に釣られたな! エロいことに興味があるんだろう!」
人聞きの悪いことを言わないでほしい。これはジンさんのためだ。引いてはモンドのためだ。
俺がパイモンに言っていると、ジンさんは嬉しそうに微笑んでいて、ふふふと口から声が漏れるほど幸せそうにしている。俺の照れ隠しにも気付かず満足そうだ。
「ありがとう。君がそう言ってくれるおかげで、私はモンドのために働けるんだ。君が居なければどうなっていたことか……」
俺が居なければ、ジンさんは今も正常な人間性を保っていたかもしれない。少なくともトイレという閉鎖的な空間で、男の前でズボンとパンツを下ろし、おしっこをするところをまじまじと見つめられながら嬉しそうに悶えることもなかったはずだ。
ただ、それがあったからこうして仕事が捗り、やつれている姿からここまで復活したとも言えるわけで、複雑なところである。他人には絶対に説明も自慢もできないけど、俺が居たおかげでジンさんが健康を取り戻したことは間違いないと思う。
嬉しいのか悲しいのか微妙ではあるのだが。
しかし今回ばかりは違う。断るつもりはないし、パイモンにも文句を言わせない。
俺はジンさんと裸の付き合いをする。
今まで色々なことがあったのだ。これくらいの役得があっていいはずだ。不思議といつものような躊躇いは全くなくて、絶対にやるのだと強い決意に漲っていた。
「な、なんて晴れ晴れとした表情……! エロの力はこんなにも強いのかっ……!」
なんとでも言えばいい。俺はきっと今日この日のために様々な要求に応えてきた。この日のためにモンド中を旅しながら変態的要求をこなしてきたのだ。
俺が快く受け入れたことで、ジンさんはわくわくしている様子だった。
もはや誰にも止めることはできない。一緒に入浴はただ楽しみでしかなかった。
実行に移したのはその日の夜のことだった。
その日一日、ジンさんは夜を楽しみにして他のことは何もせず、いつものように俺の手や耳や足を舐めたりすることもなく、顔の上に座って窒息させてほしいと頼み込むこともなく、多少そわそわしながらも仕事に集中することに決めたらしい。
俺もそうだ。早く夜になってほしいと思いながら町でいくつかの仕事を手伝い、夜になるとジンさんの私室へ向かった。
すでにお風呂の準備は済んでいて、ジンさんも待ち切れない様子で顔を赤くしていた。
俺だって同じで待ち切れず、焦らす余裕も無くて、二人ですぐに風呂場へ向かった。
「ふ、ふふふ。なんだか恥ずかしいものだな……異性に裸を見せるのは初めてだ」
「恥ずかしいって、今更な気がするけどなぁ。下は見ちゃったし、もっとすごいのも」
パイモンはそう言って、確かにそうなんだけど、今までとは明らかに違うところがある。俺が裸になるのは初めてだ。異性に見られるのも、この目で全身を見るのも多分初めてだと思う。
とにかく、今日の経験は明らかに新しくて、緊張するのも当然だった。
同じ気持ちを味わってもらうためにパイモンの服を剥ぎ取って裸にした。真っ先に裸になったけど俺と二人きりで水浴びしたこともあるし、本人はけろりとしている。
本題はその後だった。
ジンさんが自分の服に手をかけようとするのを見た途端、俺の鼻息があからさまに荒くなっているのは自覚していた。だけど抑えることはできない。目を逸らす気もない。一日中この瞬間を楽しみにしていたんだから。
「あの……君の手で脱がしてくれないか? 君の服は、私が脱がすから……」
ぜひとも。喜んで。
俺は素直に動いてジンさんの服に手をかけた。焦ってはいけない。優しく、丁寧に。がっついている男なんて嫌われてしまうだろう。
「旅人、いつもと様子が違うぞ」
黙りなさい。男は狼なのよ。そして俺は素直で正直だ。
「もっと乱暴にしてくれないか。なんなら、引きちぎってくれても構わないのだが……」
うっとりした顔でジンさんが予想外のことを言ってきた。そうか、こういう人だった。
流石に服を破くのも悪い気がするし、言う通りにはできない。だけど期待に応えるべく、なるべく荒々しい手つきで急いで脱がした。その方がジンさんも喜ぶし、実際嬉しそうにしていて、俺も待ち切れなかったのでちょうどいい。
ジンさんの裸体が晒された。
白くて、美しくて、鍛えられてもいて、力強さとしなやかさが共存した戦士の肉体。俺は片時も目が離せなくなった。
ジンさんは恥じらう素振りを見せるけれど、少しも自分の体を隠そうとはしない。顔を赤くして俯きがちだけど、いそいそと俺の服を脱がし始める。
俺は俺で恥ずかしさを覚えている。だけどそれ以上に今のジンさんに見惚れていて、見習うように自分の体を隠そうとはしなかった。それが礼儀のようなものだと思っていた。
当然のように、俺のちんぽは大きくなっているわけで。ジンさんはお腹の方に反り返るそれをまじまじと見つめていて、その視線がむず痒いけど、俺も負けじと彼女の全身を凝視する。
妙な二人だっただろう。どちらにも大した興味を示さないパイモンは、お互いの体をじろじろ見つめ合う俺たちを見て呆れていた。ひょっとしたら飽きていたのかもしれない。突然俺たちの間に入ってきてじとりとした目を向けてくる。
「おまえたち、いつまでそうしてるつもりなんだ? もう服は脱いだんだから、風呂に入りたいなら早く入ればいいじゃないか」
まったく、わかってない。この時間にも大変な意味があるのに。
だけどパイモンの言うことにも一理あって、いつまでもこうしてるわけにもいかないし、俺がジンさんの手を取って引いた。
ジンさんは従順についてきて、二人で浴室に入る。
「か、体をっ。先に体を洗おうか」
声を上ずらせてジンさんが準備を始める。
スポンジを取って石鹸で泡立て、俺の体を洗おうとする。一瞬頭をよぎったけど、断るのは彼女のためにならないと思って口を噤んだ。今までの経験からどうすれば喜ぶのかは大体わかっているつもりだ。でもジンさんの次の行動までは読めなかったのが現実だ。
ジンさんはまず自分の体を洗って泡を擦りつけ、その後で俺に抱き付いてくる。言わば自分の体をスポンジ代わりにして俺の体を洗おうとしていたのだ。
正面から抱きつかれて、大きな胸がふにゅっと潰れる感触。柔らかくてすべすべした肌。息遣いが近くて、石鹸とは違う甘い匂いがする。
抱き付いたままでジンさんが体を上下に動かす。彼女の肌が俺の体に擦りつけられて、そこには硬くなっている俺のちんぽもあって、あまりの気持ちよさにおふぅっと情けない声が出た。
なんていやらしい行為。
今までと違うのは、俺も気持ちがいいということ。
今までは基本的にジンさんのために俺が動いていた。ジンさんが自分のために動いたことは少なからずあったけど、俺が気持ち良くなったことはあまりない。
今日は違う。声が出るほど気持ちいい。
ずりっ、ずりっとジンさんが大きく動いて俺の体を擦る。俺は彼女の肌の感触や胸の柔らかさに驚いていて、喜んでいて、もっとしてほしいと強く願う。
ひょっとしたらジンさんもそう思っていたのかもしれない。何度も何度も、俺の全身を泡だらけにするまで擦りつけられた。
「こ、こういうのがいいんだろう? これが気持ちいいんだろう?」
気持ちいいです、もう最高ですっ。
俺は思わず声を大きくしていた。誰かに聞かれるとか、そんな心配はしない。思ったことを素直に伝えなければ失礼だと思ったのだ。
もっとしてほしい、いつまでもこうしていたいとは思ったけど、気付けば俺もジンさんも泡だらけになっていて、やり過ぎというほど洗っていた。
パイモンはすっかり自分の体を洗い終えてすでに風呂に入っているし、俺たちの行動に飽きて見ることすらしていない。
一瞬冷静になった俺たちは、泡を洗い流して、浴槽に入ることにした。
たっぷりのお湯の中に体を沈めて、向かい合って座る。
俺はジンさんから目を離せなくなっていて、ジンさんも僕から目を離さない。
さて、次はどうするのか。
俺のちんぽが大きくなったままなので、そりゃもちろん、何かを期待はするんだけど。無理やりにというのも違うし、合意は必要だ。今更だという気もするけど手順は大切だろう。
果たして俺から言っていいものか。ここまでしてもし違ったらどうしよう。ジンさんの求めるものが少しだけぶっ飛んでるだけに二の足を踏んでしまう。それとも、ただ単に俺が臆病なだけなのだろうか?
しばらく無言で見つめ合って、たまにパイモンを構って頭を撫でていると、ついにジンさんが行動を起こした。
湯の中で足を動かし、俺のちんぽに触れてきたのだ。
痛くない程度にぐいっと足蹴にされて、思わず体が震える。
「考えてみれば、君には助けてもらってばかりだな……」
視線を落としてぽつりと呟かれた。
パイモンが俺たちの間でジンさんに顔を向ける。
その下ではジンさんが足の裏で俺のちんぽをぐりぐりしていて、気を抜くとすぐに出てしまいそうだった。早いわけじゃない。それくらい興奮していただけで。
「だからというわけじゃないんだが、その、君にしか頼めないことがあって……」
「何言ってるんだよ。今までだって旅人が役に立ってきたじゃないか。オイラたちの関係なんだから今更だろ? 隠さずになんでも言ってくれ」
それは君が言うことじゃなくて俺が言うことだと思うんだが。おふぅ……。
「そ、それなら、もう一つだけ、頼まれてくれるか?」
「もっちろん! なぁ旅人?」
もちろん断りはしないけど、んん、あぁっ……。
「どうしたんだ? 変な声が出てるぞ?」
気にしなくていい。んはぁ。
「前からずっと考えていたんだ。わ、私を、君の……」
「うんうん!」
ここは、ここだけは集中して聞かなければ。聞き逃してはいけない。だというのに、動きが激しくなってるから、もう少し弱くしてほしい……!
「性奴隷にしてほしいんだ!」
「うんう……ん? えーっ!? なんだそりゃ!?」
んんんっ、あぁぁっ……!
「おい旅人! 変な顔してぐったりしてる場合じゃないぞ! ジンがもっとおかしくなった!」
それは、知ってる……前からのことだから。
それに、正直に言えば、俺だって前からそれを望んでた。
ただちょっと理想の形が違っただけだ。恋人と性奴隷じゃ、似ても似つかないから。
ともかく、一旦落ち着いて話をしないといけない。
心なしかすっきりした気もする。
「ん? お湯に何か浮いてないか?」
気のせいだ。深く考えなくていい。
俺はパイモンを後ろから抱きしめてやって、ジンさんと向き合う。
こんな状況だし、気持ちがいいし、決着はお風呂の中でつけた方がいい。多少長引いたとしても苦にはならない。
とりあえずさっきのとんでもない発言について熟慮する必要があるだろう。
ジンさんに尋ねてみると、ひどく真剣な表情で語られる。
「私はモンドと結婚したようなものだ。代理団長とはいえ、西風騎士団としてモンドを守らなければならない。恋愛や自分の幸せに現をぬかしている場合ではないんだ」
「そんな……ジンにだって幸せになる権利はあるはずだろ!」
「いいんだ。これは私が自分で決めたことだから」
すごく真面目な話をしながら足先で金玉をたぷたぷされている。真面目な顔をしていた方がいいんだろうか。
「だから、たまにでいいんだ。私のところへ来て思う存分欲望をぶつけ、めちゃくちゃに汚してくれればそれでいい。私の息の根が止まりそうになるほど苦しめてくれるだけでいい。それ以上は何も望まない……君がどこへ行こうとも、私は君を想っているよ。君にボロ雑巾のように扱われた思い出に浸って自分を慰めよう。私はそれで十分に幸せだ。飽きたら捨ててくれて構わない。もちろん私は君との末長い付き合いを望んでいるが、もしそうならなかったとしても、自分を責めなくていい。至らなかったのはきっと私の方だから」
「なんか、気遣いがあるようで欲望がダダ洩れのセリフだぞ。ジンにこんな一面があったなんて少し前まで思わなかったな」
ああ、そうだね。現に今も俺の金玉が足でたぷたぷされてるから。
「ふふ、まさか自分でもこんなことを言うなんて。君と出会ったからかな。ありがとう」
「良い笑顔だな」
ああ、本当に。ただ内容がひどいだけで。
「受け入れてくれるのなら、証というわけじゃないんだが、その……今夜は、私の部屋で」
もちろん、断るはずはなかった。
ちょっと内容に不安を覚えはするけれど、それは俺も望んでいたもので。
俺が力強く頷くと、ジンさんはほっとした顔で幸せそうに微笑んだ。