途中、若干とは思いますが、男同士の描写があります。苦手な方はご注意を。
歌が聞こえた。山々に囲まれ、遠くには海が見渡せる、とある小さな町の中だった。
清廉にして、暖かく、そこにあるすべてを癒そうとするかのようなとても美しい歌声。それは子どもと言って差し支えない年齢のとある少年の口から紡がれている。
やさしく、儚くも思える小さな声。しかしどこかでは力強さを感じさせて、決して大きくはない声なのに町の全土に伝わるという、不思議な歌。
その歌を奏でる彼は不思議な人間だった。髪の色は見る者によって色が変わり、彼を見て「金色の髪だ」と語る者もいれば、「違う、真っ赤な色だった」と語る者もいる。そう語られる話に限りはなく、己の頭に七色を持つ彼の本当の髪の色を知る者は存在しなかったのかもしれない。
だが人々にとってはそれでもいいのだ。少年の髪の色がなんであろうと、その美しい顔は変わらない。その美しい体に変化はない。そして彼から与えられる大きな愛は、決して変わることはないだろう。そうした想いがあったからだ。
少年は多くの人から愛されていた。世界の片隅にある小さな町だけではなく、その町を知るすべての人間から愛されていたのだ。
それはすべて、少年の心がとてもやさしいから、とされている。それが真実かどうかは別として。
少年は常に町を見下ろす高い塔の中で生活している。そこから出ることを許されていないからだった。
彼はその中で、塔の管理人の世話を受けながら日々を過ごし、仕事をすることもなく、ただ毎日欠かすことなく自分の役目を果たしているのだ。
彼がそこにやってきて、その役割を受けたのはもう何年も前のことだった。歌に関する才能がなく、人々に愛されなかった彼に対して、管理人たちは言葉を重ね、彼に一つの役割を与える。世間を知らぬ小さな子供に、酷とも思える役目を果たさせていたのである。
「君は親から愛されなかった。家族から愛されていなかった。だからここに来たのだ」
「君は愛されるべき権利がある。だが人々から愛されるためには、それ相応の働きがなければならない」
「君はここで、人々の愛を受けるために、人々を愛するんだ」
そうして、少年は塔で暮らし始めた。食事や服は塔にいる人間が与えてくれる。仕事をする必要などなかった。
だから彼は己の役割を果たすことだけを考えていたのだ。自分の役割さえ果たしていれば、家族から愛されなかった自分も人々に愛されることができるのだろうと。
よって、少年は塔の中で監禁されたまま、毎日毎日様々な人間と体を重ねていったのである。
「んんっ、はぁっ、あぁ……」
時には町の男がやってきた。妻も家族も金も持たない、小汚いその日暮らしの男だ。
溜まった性欲だけはあるが、金も女もなければそれを発散する手立てがない。だから彼はその美しい少年を抱こうと塔へ赴き、自分に与えられた順番の時、与えられた時間内で何度も何度も少年を抱いた。それが少年の役目だと知っているからだ。
その町に住む者ならば誰もが知っていることである。塔にいる少年はとても美しく、誰をも等しく愛してくれると。
少年を愛することさえすれば、金を払う必要もなく、彼は誰にでも愛を返してくれると。
「んはぁっ、ああっ……くぅん……」
時には旅人の女がやってきた。疲れた体を癒したいと、噂に聞いた天使のような少年に癒してもらおうと。
少年のそうした生活はすぐに噂となって広がっていった。神に愛された肉体を持つ少年が、天使の如き心を持って人々を癒している。そういった噂を聞いて、女は期待して塔へと赴いた。
そして自分の順番が来た時、少年と顔を合わせた女はその美しい姿に大層驚き、迷うことなく彼と体を重ねた。抱いてほしい、とそう言って、少年の体を抱きしめた後に。
少年は拒まない。相手が男であれ、女であれ、自分が愛し、愛されることはできるはずだと思うから。
「うぅ、ッ、あぁっ……!」
その塔へはあらゆる人間が足を運んだ。貴族も平民も、騎士も兵士も商人も、男も女も、或いは老人からまだ十を越えない小さな子供まで。
誰もが少年を愛していた。その美しい肉体に目を奪われ、やさしい心に涙を流し、健気な行為によって心も体も癒される。そうした平和な日々が続いていたのである。
しかし、彼はあまりにも有名になりすぎた。噂はどんどん広まっていき、やがて世界の端まで彼を知らない人間はいなくなった。塔のてっぺんから聞こえる美しい歌声と、誰にでも抱くことのできる美しい肉体。噂を止める手段などなかった。
故に、ついに彼女たちも知ることができたのだ。ずっと探し続けていた、最愛の弟の居場所を。
彼女たちはすでに誓っていた。愛する弟を奪うばかりか、可愛い彼を利用してその存在すべてを汚した人間どもを許すわけにはいかないと。
これは復讐だ。彼女たちの最愛を取り戻した後は、彼女たちは人々の前から姿を消す。最愛の弟を引き連れて。
たったそれだけのことで、世界にどれほどの絶望が生まれるのかを、彼女たちは正しく理解していた。たった六人の人間が消えただけで、世界がどれほど悲しむのか、この世の人間がどれほど苦しむか。
だがそんなことは関係ない。今日にいたるまで、絶望に苦しんでいたのは彼女たちの方なのだ。
自分たちから弟を奪ったこの世界に、それ相応の報復を。
なだらかな日々を過ごしていたはずの、平和な世界の形が今、変わろうとしていた。
それはとある夜、少年が住む塔から始まったのである。
「んあぁっ! くぅ、ふぅん、んんっ!」
「いいぞ、いい具合だ……もっと締めろっ……!」
塔の中では、この日も少年は自分の役割を果たしていた。世界を平和にするためだ、という管理人の話をききいれ、できるだけ多くの人に愛されようと、己の体を開け渡している。
今夜少年を愛していたのはとある有名な貴族の男だった。でっぷりと腹が出て、頭はつるりと月明かりを反射する姿で、四つん這いにした少年の尻を己の分身で穿っている。巧みな腰遣いで動きは速く、迷うことなく少年を責め立てている。
明かりを灯さず、月明かりだけが差しこむ室内には大きな音が響いている。男が勢いよく腰を振り、肉と肉とがぶつかり合い、快感によがる少年の声が発せられていた。
少年が同性である男に抱かれるのはこれが初めてではない。何年も前から続けていることなのだから。
毎日毎日名も知らぬ相手に抱かれ、時には自分が抱き、数人を同時に相手したことも数え切れない。だから少年にとってこの行為は嫌がるようなものでもない。
少年は後ろから尻の穴を責められながらも、悦んでいた。口の端からだらしなくもよだれを垂らし、頬を上気させて男を受け入れている。
これが当然だと言わんばかりに。これが嬉しいのだと、そう言わんばかりに。後ろから突かれながら少年は自らも激しく腰を振っていた。
「んあっ! あっ! あっ、あっ!」
「くうぅ、いいぞっ、もうイクっ! イクイクっ!」
顔をしかめた男がさらに腰の速度を上げる。振るというより叩きつけるようなそれのせいで少年の体は前後に大きく揺れ、同時に自身の勃起した陰茎がブラブラと激しく揺れていた。
最後の時は近い。またいつものように、腹の中へと子種を注ぎこまれるのだろう。
それを嬉しく思いながらも最後の時を待っていた少年は、抗うことなく腰を掴まれて尻を振る。自身の限界も近かった。
そうして、その時はやってきた。
「さっさと逝けよ、ハゲデブ野郎」
バシャッ、と液体がかけられる。ただいつもと違ったのは、尻の中の最奥だけでなく、その丸くて白い尻にも同時にかけられていたことだ。町の子供たちを一斉に相手にした時などはそうしたこともよくあったが、今夜の相手は一人だけ。全く同時にかけることはできないはず。
不審に思った少年は呼吸を乱したままで、ゆっくりと後ろに振り返った。まだ尻の中には男根が感じられているため、そこに男がいることはわかっている。絶頂を感じ、びゅくびゅくと陰茎から大量の精液を吐いている最中から、少年は快感のせいでぼんやりとした瞳を背後へ向けたのである。
振り返るとやはり相変わらずの体勢で男がいる。ただ先程までと違ったのは、男の胸から肉厚の剣が現れていたことだ。
「――ぁ」
「おまえが触れていい相手じゃないんだよ、下種野郎。とっとと地獄で泣きわめいてろ」
ズボッ、と男の胸から剣が抜かれると、男の体はゆっくりと右に倒れていった。しかし倒れ終わるのを待たず、再度振られた剣が男の首を切り飛ばす。同時に少年の尻から男根が抜かれ、物言わぬ体と宙を舞った首はベッドから落ちてしまう。
そうして少年がそこに見ることができたのは、見たこともないとても美しい女性だった。
まっ白い髪と、まっ白い服。キリリと光る瞳はとても強い意思を覗かせていて、それでいながらやさしい色を称えていた。まるで、目の前の少年が輝いているかのように、かすかに目を細めている。
訳がわからぬ状況に少年は混乱し始め、すぐに彼女の方へ体を向けながら尻もちをついて、ベッドの上で小さく震え始めていた。それでも彼の陰茎はガチガチに固まったままで、まだ足りないと訴えるかのようにビクビクと小さく震えている。
表情と外見がそぐわない姿。少年はそのままで女性へと声をかけた。
「あ、あの……強盗さん、ですか? すみません、ここには金目の物なんて何もなくて……あの、渡せる物はないんです」
「違う」
「え? それじゃあ……あ、次の方ですか? えっと、すみません、気付かなくて。あの、でもまずこの人をどうにかしないと……それとも、すぐに始めた方が――」
「もういい」
おろおろと視線をあちこちに飛ばす少年の声を遮って、白い女性が動いた。
ふわりと白い服をなびかせながら、一瞬にして少年の体を抱きしめ、やさしくその頭を撫でていたのだ。まるで愛しくて仕方ないと、そう言うかのように。
「もう、こんなことはしなくていいんだ。待たせて悪かった。……もう二度と、絶対、おまえのことを手放したりしないから」
「え? あの……」
「大丈夫。私は、私たちはおまえの味方だ。おまえのことを助けに来た」
ベッドの上で、座ったまま抱き合う二人。傍らには先程まで生きていたはずの死体。あまりにも奇妙な状況だった。
だがこの時、すでに事態は動き出していた。時が止まることもなければ、時が巻き戻されることもない。
すでに少年の、そして彼がいたはずの町の運命は決められていた。
「さぁ、行こう――おまえはもう自由だ」
抱き合う二人が居た場所に、つまりは塔の最上階へ一匹のドラゴンが現れた。けたたましい音を立てて石の壁をいとも簡単に破壊し、その場にいた二人を背に乗せて空へと飛び立ったのだ。
この時、少年は少女の腕の中で横抱きにされながら、上空高くから自身がいた町を見下ろす。
そこにはすでに、絶望しか存在していなかった。
彼がいたはずの町は、そのすべてを業火の中に横たえていた。町民も旅人もそれ以外もすべて巨大な炎が呑みこんで、ことごとくを死に至らしめようとしていたのである。
町の中にはその光景の原因である異形の存在があった。二人が乗るドラゴンとは違った形の、町を踏みつぶす三匹のドラゴン。禍々しい様相を見せる巨大な蜘蛛。あらゆる物を破壊する巨大な蟹まで存在している。
そのどれにも、頭上と思える場所には人の姿があり、その顔もよく見えない誰かは上空にいる白いドラゴンを見つめ、おそらくは少年を見るためだろう視線を送っていた。
少年にとっては、すべてが理解できなかった。
現状、何が起こっているのか。なぜこうした出来事が起こってしまったのか。そしてなぜ、自分が愛していたはずの人々がすべて殺されなければならないのか。
彼にはわからない。わかるはずもない。彼が生きてきた世界は、狭い塔の一室だけ。風呂もトイレも隔てられていない、丸い大きな一室だけ。彼はそこでひたすらに快楽に染められていただけだった。
彼は知らない。外の世界で何が起こっていたのか、外の世界にはどんな人がいたのかを。彼を知っている人間がいたかどうかすら、知る方法がなかった。
町を滅ぼす業火も、人を死に至らしめる魔獣も、そしてそれらを操る少女たちも、彼は知らない。知らないはずだった。
だが彼女たちは知っている。白い少女、ゼロの腕の中にいる少年こそ、六人の姉妹にとっては他を見捨てても守りたい最愛の弟だと。
「気持ちの悪い連中だ。妙な宗教を始めるために、おまえの存在を欲したんだ。常人とは違う外見を持つおまえを、神様とやらに重ねるつもりだったんだろう――奴らはおまえを利用していた」
「かみ、さま?」
「だがそんなことはもうどうでもいい。おまえを縛るものはもう何もない。これからは自由に生きていいんだ。……私たちといっしょに暮らそう」
「いっしょに……?」
突然過ぎる出会いは、少年にとってどういった想いを抱かせたかはわからない。しかしそんな程度のことで少年の根底を変えられるはずもない。
彼が思うことは、昔も今もただ一つ。
「おかえり、テン。もう離さないぞ。おまえは私たちの――大事な家族だから」
「……家族……」
もう誰にも捨てられないように、誰かから愛されていたい。それが、物心ついたその瞬間から彼が持ち続けている、たった一つのものだった。
その日、世界の片隅にあった一つの小さな町が滅びた。それと同時に、世界にとって大きな損害となるある出来事が起こっていた。
これまで世界の各地を統治していた存在、六人のウタヒメが瞬く間に姿を消してしまったのだ。これにより世界は自分たちの主導者を失くし、守護者を失くし、破滅の一途をたどるだろうと絶望に包まれながら生きていかなければならなくなる。
しかし、それでいい。それこそが彼女たちの望んだもの。
二度と人間とは関わらないという、全世界に対しての復讐。自分たちの弟を奪った、すべての人間と運命や神ともいうべき存在に対する報復だ。
ただ単純に、姿を消してどこかでひっそりと暮らす。そんなささやかでちっぽけな、だからこそ世界にとっては絶望すべき事柄である。
彼女たちは以前から決めていた。溺愛していた弟が、物心もつかない内から大人たちによってどこかへ売られ、この世のすべてを恨むようになったその時から。
私たちは世界を見捨てて、弟だけを守り切る。そうした悲願がついに今日、実現されたのであった。
ウタの力を持たない、“出来損ないのテン”が利用される日々は終わりを告げた。これからはきっと、平穏な日々が続くのだろう。
少なくとも、彼女たちにとっての日々だけは。
◆
ウタヒメ、というのはこの世における奇跡の一つだった。
不思議な力を持つ歌声で人々を導き、圧政を敷く領主たちを倒して世界を救った美しい少女たち。世界を変えられる力を持った六人のウタヒメはそれぞれが担当する国を持ち、その地の新たな領主となって、新たな国を作りだす、はずだった。
しかしそれは表向きの意思。今の彼女たちはそんなことなど眼中になく、頭と心の中にあるのはたった一人の少年のことだけ。
彼女たちが望んでいたのは自分たちとは少し歳が離れた子供、これまで片時も忘れたことはない弟を取り戻すことだった。そして長年かかって取り戻せた今、ウタヒメたちの興味はこの世界にはない。
よって彼女たちはすべてを見捨てて人里を離れ、誰も近寄れない孤島に乗り込むと、そこを新たな拠点として住むことにしたのである。
普段は仲が悪い六姉妹が協力して用意しておいた木造の小屋に入った六姉妹と一人の弟は、時間も忘れて体を重ね続けていた。裸の女たちが何度も居場所を変え、最愛の弟を熱っぽく抱く。長い夜が終わり、朝が来てようやくといった様子で、行為が終わったのである。
だがいくら常人以上の性欲を持ち、常人以上の身体能力を持ち、長年この日のために己の貞操を守り続けた彼女たちであっても、十時間も越えるほど快楽に浸り続けていれば限界もやってくる。一人が巨大なベッドの上で眠り始め、二人目も意識を失うと、姉妹は次々に幸せそうな表情で寝息を立てていった。
最後まで残ったのは、一番上の姉であるゼロと、一番下の弟のテンだけだった。疲れきっている表情を見せながら、二人はベッドの上でぴったりくっついて座っている。だらりと四肢を投げ出すテンの後ろから、色んな汁に全身を濡らしたゼロが抱きしめていた。
辺りはひどい状態となっていた。テンが放った精液が姉たちを含む色んな場所を汚し、その姉たちの蜜壺から溢れた液が全員の体を濡らし、誰もが汗だくになるまで体を酷使している。その証明が至るところにしみ込んで、ほのかに甘い匂いを漂わせていた。
ゼロはそんな中であることを気にせず、後ろから抱きしめたテンの股へ手を伸ばし、だらりと萎えてしまった陰茎をぐにぐにと揉んでいる。子供らしいサイズのそれはいまだ徐々に反応を見せており、また勃起するのは時間の問題のようだった。
「はぁ……テン、どうだ? 気持ちよかったか?」
「う、うん。すごくよかった……」
「そうか」
見るからにぐったりした様子の二人は小さな声でそれだけ言い、しばらくは黙ったまま手を動かし続けた。ゼロはテンの陰茎を扱き、テンはゼロの膣に指を差しいれて溢れ出てくる精液を掻き混ぜている。
気だるい雰囲気の中、小さな水音だけが続いている。お互いの性器を弄る手が止まらないせいだった。二人はあれほど強く求めあっていたというのに、いまだに手を止めようとしていない。
いまだに他の姉妹たちのように眠りにつかないのは、ゼロがテンへ伝えたいことがあったからだ。これまでの彼がしてきた経験を、彼女はなんとなくだが知っている。だからどうしても教えてあげたかったのだろう。
やさしい吐息がテンの耳へ吹きつけられると同時に、彼女はひどくやさしい声色で告げていた。長年いがみ合いながらも協力してきた妹たちですら知らない、とてもやさしい表情のままで。
「いいかテン、これが本物のセックスだ。おまえがあいつらとしていたことは違う、あれは――ただおまえを傷つけるだけの行為だ。すべて忘れろ。もうあんな想いはしなくていい」
「そう、なんだ。なんだかよくわからないけど、今日からは姉さんたちが愛してくれるんだよね?」
「そうだ。私たちがおまえを愛する。心から、未来永劫に」
「そう――それならいいや。もう、一人じゃないんだから」
「ああ、そうだな――」
顎に手を添え、顔を上向きにさせ、ゼロがテンの唇を塞ぐ。夜の間の激しさはすっかり消え去り、触れるだけのやさしいキス。せいぜいがちろりと舌先で唇へ触れるだけの、なんとも穏やかな口づけである。
頭や顔にも精液が付着しているまま、強く唇を押しつけられる。二人の間にある穏やかな空気は独特の気品さすら感じさせるというのに、その体液のせいで非常に淫靡な姿にも見えていた。
ゼロの主導で、二人は何度もついばむように唇を合わせ、ちゅっと音を立てる。顔色も良い状態で、表情も落ちついていた。
窓から差し込む陽光は暖かく、ふわりと揺れる白いカーテンは美しさを感じさせる。飛び散った体液で悲惨な状態だというのに、どこか神秘的にすら見える光景、まるでこの世の楽園にいるかのようであった。
ゼロの手の中にあるテンの陰茎はどんどん大きくなっていく。さほど強い刺激を与えたわけでもないというのに、何より特筆すべきは一昼夜の間ずっと勃起と射精を繰り返していた後でだ。信じられないほどの回復力も、ウタの力を持たずともやはりウタヒメたちの弟として生まれたおかげかもしれない。
ぐにぐにと肉棒をやさしく揉むゼロは頬を緩め、テンの口内へ舌を差しこみながら手の動きを変えた。非常にゆったりとした速度で舌を絡める一方、陰茎へ触れる手は竿を掴むようにして上下に扱いて、もう片方の手で睾丸をやさしく揉んでいる。
この時間になるまで、狂気の沙汰と思われてもおかしくない姿で激しく求めあったのだ。せめて妹たちが眠っている今くらいは。そう思うゼロはひどくやさしい様子でテンへの愛撫を続ける。
それでもそのままテンを寝かせようとしないあたり、やはり彼女も性欲が旺盛なウタヒメの一人なのであった。
「んっ――ぷはっ。なぁテン、眠る前にもう一度だけ、してもいいか?」
「ん? ゼロ姉さんがしたいなら、いいよ」
「あぁ、いや、そうじゃない。テン、今のおまえには拒否する権利がある。私たちに従う必要なんかないんだ――嫌なら嫌だと言ってくれていいし、したいのならしたいと、言ってほしい。おまえの言葉で、おまえの意思を聞かせてくれ」
「そっか。それなら、やっぱりボクは姉さんとしたい。だって、姉さんとのセックスは気持ちいいから」
「そうか……そう言ってくれるか」
光の当たり方によって色が変わるという、他の者にはない独特の性質を持つ髪を撫で、姉らしい様子でゼロは微笑んだ。彼女もいくらか心配していたのである。
奇妙な集団の監視下で、治外法権となっていた奇妙な塔の中で、テンは様々な人間に犯されていた。洗脳に近いその行為によって長年支配されていれば、もしもの場合には人間と思われる者に肌を見せ、体を重ねることを拒絶する可能性すらあったのだ。もしそうなっていれば、おそらくウタヒメたちは狂乱に陥って全世界を呪っていたであろう。
六人の願いは、テンと共に平穏に暮らすこと。そこには当然のように弟に抱かれるという展開も加わっていたのである。
最悪の想定が起こらなくてよかった。今はすやすやと眠りについている少女たち同様にそう思っていたゼロも、この時ばかりは普段の剣呑さを引っ込めて安堵している。そして同時に、彼を気持ち良くしてあげようと強く陰茎を扱いていた。
すぐにテンは表情を変え、首を逸らしながら目を閉じる。眉根にはしわが寄り、感じていることは明白であった。
その瞬間にゼロは再びテンの口を塞ぎ、舌を侵入させる。やさしい仕草であることには変わりないが、彼を捕えて逃さない捕食者のようにも見える姿だ。
陰茎を扱きながらの口付けは一分もしない内に終わり、唇を離したゼロは自ら背を倒してベッドに寝そべった。それだけで体液が溜まっていたシーツの上でべちゃりと音が鳴るが、全身にそれが付着している今、彼女もテンも気にしてはいない。
自ら股を開いてどろどろと精液を垂れ流す膣を見せたゼロは、テンに向かって微笑みながら呟いた。
「テン、おいで。いっしょに気持ちよくなろう」
「うん」
テンの肉体は子供と称することのできるものだ。よってゼロに覆いかぶさろうとする彼の姿はどこか滑稽にも見える。
しかし、膣へ陰茎を挿入させる仕草や、実際に夜の間に見せた女を悦ばせる技術は大人も顔負けのものであった。それだけに、彼がこれまで過ごしてきた日々を想像せざるを得ないのであるが。
そんなことを気にしないようにと考えつつ、体内に入り込んだテンの小さな熱を感じる。年齢的に見ればかなり大きなサイズだが、成長しきっていない今では大人のそれには劣る。もっとも彼女たちは他の男など眼中になかったため、そもそも他の男のものを知らないのだが。
恐れる様子もなく入りこみ、ゆっくりと前後に動かされる肉棒を感じつつ、テンの顔を見つめるゼロは小さく吐息を発した。熱く、固いそれは巧みにゼロの急所を突いてくるのである。子供とは思えぬ技術に、まだ処女を失ったばかりのゼロが喘ぐ。
今はそれすらも心地よかった。彼を救いだした時は、自分が彼をリードしてあげようと画策していたが、彼に抱かれている今は想像していた以上に気分がいい。だからこれでいいのだ。
愛しい男に体を弄ばれる。ウタヒメという存在に生まれたことを後悔していた彼女、ゼロが初めて女であることを喜んだ瞬間である。
ずぶずぶと肉棒が膣内を掻きまわし、カリが内部を引っ掻く度にひだが蠢き、全身がぶるりと震える感覚が最高だった。今、ゼロは確かに最愛の弟の存在を、己の体で感じている。
「あぁっ、はぁっ、テン――」
「ん、ゼロ姉さん――」
小さな水音を立てながら、テンはゆっくりと彼女の中で動く。ただやみくもに相手を求めるのではなく、相手と過ごす今この時を楽しむかのように。
非常にやさしく、大きな思いやりが込められていることがわかる丁寧さだ。どんな人をも愛する彼らしい、慈愛に満ちた動きはゼロの心を暖かくさせる。在りし日から忘れていた、彼によってのみ与えられる幸福な感覚だ。
かつて会っていた時は赤ん坊だったのに、今では女を抱けるほどに大きくなった。姉のような、母のような想いを持ちながら、しかし女としての欲望を露わにして声を大きくする。
愛しい弟に抱かれている今、彼女はひどく幸せだった。
「はぁっ、んっ、んあっ――あぁっ、テンっ。よかった、おまえに会えて、本当によかったっ……!」
「ゼロ姉さん……僕も、僕も姉さんたちに会えてよかった」
非常にゆったりと膣内を味わい続けて、およそ三十分は経っただろうか。次第に二人の呼吸は荒くなっていき、シーツに出来ていたシミもさらに増えることとなった。
だんだん腰の動きを速め、ラストスパートへ入るテン。その時の彼は目を閉じてゼロの大きな乳房に顔を挟みこんでおり、安堵した表情を見せている。ゼロもまたそんな彼の頭を強く、しかし痛くないようにと配慮をした上で掻き抱き、突かれる度に甘い声を発して感じる。
二人の息はぴったりと合っており、絶頂へ達する瞬間までも全くの同時であった。
「はぁぁっ、んんっ、んんんんっ――」
「うっ、イクっ、イクっ」
またしてもどぴゅどぴゅと、もう何度目かもわからない射精を膣内で始める。彼女は今も尚熱いそれを受け止め、嬉しそうに頬を緩めた。
胸に埋まる顔をぎゅうと抱きしめ、気丈な彼女らしくないが、ゼロは縋りつく少女のような声を発する。そうしてびくびくと震えた後、快感の波が引いてから、ゼロの方からそっとテンの唇を奪う。
お互いの暖かさと唇の柔らかさを確かめるようなキス。触れるだけのそれはじっと止まったまま続けられ、名残惜しそうな態度を見せながらゆっくりと離れる。
繋がり合った股間からはどろどろと様々な物が入り混じった体液が垂れ落ちてくるが、一向に気にすることもなく、二人は正面から見つめ合った。
「なぁテン。私は、ずっとおまえに会いたかった。そして今、ようやくおまえとの日々を勝ち取った――私たちはこれからずっといっしょだ。おまえも私も、妹たちも、自由を得た。誰に縛られる必要もない。これからは自分の意思で生きていい。この島の中で、静かに暮らそう」
「うん」
「もう二度と離さないぞ、テン――おまえは私たちの家族なんだから」
体を一つにしたまま、その言葉を受け取ったテンは静かに目を閉じた。その時の表情はひどく安堵した様子で、うっすらと微笑んでいるようにすら見える。
彼が見せた初めての笑みだ。ゼロはこの瞬間にようやく心配事がなくなったらしく、誰にも見せたことがないような緩んだ表情を見せていた。
テンの頭を抱きしめたまま、彼女も目を閉じる。耳に届く小さな寝息がひどく心地よく、かつてない安堵をくれる。今日はよく眠れそうだった。
思えば、彼と再会するまでは過酷な道のりだった。偽りを演じ、嘘をつき続け、弟を取り戻すことだけを望んでいた日々。辛かったそれはもう終わったのだ。
これからは家族七人で、誰もいない孤島で、自分たちだけの世界で生きていく。今、ようやく念願だった瞬間がやってきた。
自分の手で夢を掴みとったゼロは、最愛の男の陰茎を膣の中に銜えこんだまま、自らもやすらかな様子で眠りについたのである。