※この作品はR-18です。

蛇獣書房   作:ヘビとマングース

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コミュ形成(ペルソナ3)

 「おはようございます。起きてください」

 

 まだ眠い。起きたくない。せめてもう少しだけ……。

 そう思ってるのに体を揺する誰かは手加減してくれない。何が何でも僕を起こすつもりだ。そうしようと思った訳じゃなく、寝ぼけたままで寝返りを打ったみたいだけど、それすらも許されずに両手でひっくり返された。

 

 瞼が重くて開けられない。でもこれ以上無理に動かされるのも嫌なので必死にこじ開ける。

 場所は寮の僕の部屋。僕のベッド。その隣に少し前に知り合った女性が立っていた。

 

 どうしてここに居るんだろう。

 銀髪のショートカットで日本人離れした風貌。瞳の色なんて金色だ。

 身に着けているワンピースも帽子も青色。妙に目立つが彼女にはよく似合ってる。

 

 彼女は、ほんの一ヶ月ほど前に不思議な空間で出会った女性だった。日頃よく会ってはいるけど会う場所は決まっていたし、今まで僕が住む寮に来たことはなかったはず。それがなぜ今日は朝から僕の部屋に忍び込んでいるのだろう。

 薄く微笑む顔はきれいだけど今この状況では素直に喜べない。

 何よりもまず眠い。僕は体を起こすこともせず、横になったまま彼女を見上げた。

 

 「よく眠れましたか? 今日はあなたにお話があって参りました」

 

 窓の外を見ればまだ空が白み始めた頃。

 なぜこんな朝早くから?

 尋ねてみると彼女は笑顔で話す。

 

 「この時間でなければ私の姿が誰かに見られてしまう可能性がございます。それは好ましくないのでしょう?」

 

 確かにそれはそうだ。

 僕はこの春から月光館学園に転入し、寮生活を始めた。ここには僕以外にも男子生徒、女子生徒が住んでいて、彼らは仲間でもある訳だが、彼女と知り合った経緯は話していない。僕らは一般生徒が知らない秘密を共有しているけど、仲間でさえ知らない秘密が僕にはある。

 それが今目の前に居る彼女と、彼女がいつも待っている不思議な部屋の存在。

 知られない方がいい、と判断したのは僕の勝手だ。これからも明かすつもりはない。

 

 それは置いておくとしても、つい先日彼女に依頼されて、町を案内したばかり。色々と突飛な行動を取るものだから周囲の目を集めて困ってしまった。

 その経験のことも言っているのだろう。それならそうだ。確かに見られるのはまずい。

 あくまでも起きようとはせず、横になったまま頷く。

 

 「どうやら寝起きということでいつも以上にゆるいご様子ですので、このままご説明させていただきます」

 

 特に呆れた様子もなく彼女は説明を始めてしまった。

 眠いんだけど、寝ちゃいけないんだろうか。

 

 「有里湊さん。コミュニティの形成が遅れています。あなたがペルソナ能力に目覚めてからおよそ一ヶ月が経っているというのに新しいコミュができておりません。あなたが他人に興味がない性格とは理解しておりますが、これはあまりにも危機感がないのではございませんか?」

 

 なんだか小難しいことを言われている気がする。寝起きには辛い話だ。

 

 「コミュニティの形成により、新たに生み出されるペルソナはさらに強化されます。是非ともコミュニティの形成にご尽力ください。それがあなた方のためになります」

 

 うん、わかった。

 そう答えると彼女は微笑んだまま、僕の返事を聞いてないかのように話し続ける。もしかしたら無視されてしまったのかもしれない。

 

 「先日、合体事故で生まれたペルソナがあなたの手助けをしてくださるでしょう」

 

 合体事故? そう言えばそんなことがあったかもしれない。

 あの時の彼女は珍しく驚いていたみたいで、ちょうど今みたいに頬を赤く染めていた。

 

 「すごく……ご立派です」

 

 ちなみに今装備してるんだけど。

 

 「その力があれば、必ずや女性とのコミュニティ形成に役立つでしょう。下手をすれば男性とのコミュニティ形成にも役立つかもしれません。すけこましでございます」

 

 なんだかあまり嬉しくないなぁ。

 確かにこのペルソナを装備して以来、寮に住む仲間や、クラスメイト、生徒会で出会った後輩や担任の先生、果ては神社で出会った幼女までもがちょっと態度が違ってる気がする。勘違いや思い込みでなければ熱っぽい視線を感じるのだ。

 

 まさかそんな。そんなに特別なペルソナなんだろうか。

 合体事故で生まれたとはいえ、僕は普通のペルソナだと思ってた。

 確かにレベルは高い。見た目は、ちょっと変わってるかもしれないけど、それはペルソナ全体に言えることだからおかしいとは思っていない。というか完全にアレだ。似ているとかではなく完全にアレな形だ。アレなというかアレの形だ。思わず自分のを確認してしまったくらいだ。

 面白半分で装備してたら、なるほど、そういう理由でみんなに見られてたのか。

 流石に順平が鼻の下を伸ばした時は思わず殴ってしまった。つい、反射で。

 

 しかしそんなことを言われても、なぜか乗り気になれない。

 女性にモテるとか、男性にモテるとか、多少興味はあってもいざその場面になったら多分僕は誘わないだろう。人間関係そのものがめんどくさいと感じてしまうためである。

 考えてみればこうして友達や仲間ができた現状の方が異常なのだ。

 ここに来るまで、必要以上に他人と接しようとしなかった。ようやく集団生活に慣れつつあったところなのに、そこからまたコミュだのなんだの言われても無理がある。

 

 「ご心配には及びません。ペルソナの声に耳を傾ければ良いのです」

 

 はぁ。

 

 「お試しになりますか?」

 

 何を?

 

 「未経験のままではすけこますことは不可能でございます」

 

 ああ……そうですか。まぁ確かに、朝なのでそれなりの状態には――

 

 「おぉ、中々ご立派な」

 

 早いですね。まだオーケーとは言ってないのに。

 

 「ふむっ、うむっ、んっ……ぢゅるっ」

 

 お、おおっ、そんな、すぐに……。

 というか、説明もそこそこに無理やりな気がするんですけど。

 いくらペルソナの力があるからって、そんな簡単にすけこませるはずがない。コミュニティというのが必要にせよ、彼女の作戦は無理やりな気が。

 

 「流石はご立派様を宿した御方……熱くて硬くて凶悪でございます」

 

 はうぅっ。そんなところまで舐めなくても……!

 

 「この程度の刺激に耐えられなくては、コミュニティの形成に難儀致します」

 

 うっ……ふぅっ……。

 

 「おや。早い」

 

 

 

 

 今朝は大変な目に遭った。

 嬉しかったと言えば嬉しいけど、はっきり言って無理やりだ。そもそも同意を得ようという気持ちを感じなかったし、気付いた時には終わっていた。

 初めて会った時はあんな人だと思わなかったのに、最近になってはっちゃけてると感じる。

 また様子を見に来ると言っていた。不安だ。

 

 変なことを言われたとはいえ、僕は大して動揺していない。

 おかしなことが起こるのは慣れてる。ペルソナ、タルタロス、両親が死んだ事故。そういった経験は人より多くしてるつもりだ。だから、驚いてはいない。もうすでに受け止めている。

 

 今まで直面した非日常より、なんだかエロの気配を感じて、ちょっとばかり興味を持ったりもしてるけどもそれで自分を見失うほどバカじゃない。エロ漫画やエロアニメじゃあるまいし、そんなイベントがあったからって即他の女の子に手を出すとかあり得ない。実際に起きれば上手くいくはずがないし、現実はそんなに甘くないはずだ。

 そういう考えもあって僕の日常は至っていつも通りだった。

 

 今朝の襲撃を乗り越えた後、寮の仲間に挨拶をして、朝食を取って、モノレールに乗って移動して学校へ来た。

 いつも通りの風景。転校して少し経ち、この生活にも慣れた。

 今までとは違う。

 同じクラスに友人が居て、部活に所属していて、放課後にどこかへ寄り道することもあって、寮に帰っても一人じゃない。仲間が居て、なんでもない話をして、共通の目的を持って協力する。それがここに来てからの生活。

 一人で過ごして、一人の家に帰って、一人で暮らす。そんな生活じゃない。

 

 なんだか、自分が普通の人間になったような。そんな気がする。

 めんどくさい時もあるけど基本的には悪い気はしていない。もう慣れた。

 

 「有里君、さっき腰押さえてたけど大丈夫? どっか痛めた?」

 

 がやがや賑わう教室の中で自分の席に座ってると、岳羽が声をかけてきた。同じ学生寮に住んでるクラスメイトの女子生徒だ。

 うん、大丈夫。と答えておく。

 流石にありのままを伝える訳にはいかない。それにペルソナ使いになってから体力の回復や傷の治りは早い。今は直後よりもマシだ。

 

 「そう? それならいいんだけど。君は無茶しがちだからさ」

 《押し倒せ……》

 

 恐ろしい言葉が頭に響いた。

 別に驚かない。誰の声かはわかってる。というより発言内容からして他はあり得ない。

 

 《漢ならば力強く肩を抱き寄せ、唇を奪い、体をまさぐって押し倒せ! 男は度胸! 漢は更なる度胸と強引さ! さあ今すぐこの場で押し倒せェ!》

 

 アドバイスのつもりだろうか。全く参考にならない言葉が聞こえてくる。

 むしろそれは絶叫だった。

 僕が意図して無視するせいなのか、徐々にテンションが上がっていき、まだ岳羽と話しているのに邪魔になって仕方ない。ここまで来れば公害だ。

 

 「そういえば昨日部活でさー……」

 《そこだッ! 行け! 引き倒せ! 勢いに任せてスピード勝負だッ!》

 

 無視しているとどんどんうるさくなってくる。

 そんなことをすれば間違いなく大問題だ。大体ここは教室。生徒もたくさん居るし、もう少しすれば先生だって……って、そういう問題じゃない。岳羽の気持ちだってある。どんな理由にせよ無理やりはよくない。今朝僕の場合は無理やりだったけど。

 

 《テクニックが心配か? 任せておけ。わしが居れば問題なし》

 

 ちょっと、邪魔だなぁ……。

 頭の中で声が響くから、無視はできても完全に遮断することはできない。それならペルソナを付け換えればいいだけかもしれないけどそれは彼女に止められていた。タルタロスでの戦闘時ならまだしも、日常生活ではあくまでもコミュを作ることに専念してくれって。

 コミュを作るのって大変なんだな。

 

 「どうしたの? 今度は頭が痛い?」

 

 岳羽が心配そうに質問してくる。

 幻聴みたいなものが聞こえる、と答えておいた。

 

 「大丈夫? 保健室行く?」

 

 言い方が悪かったのか、心配させてしまったようだ。間違ってはいないと思うんだけど。

 一応、ペルソナが関わってると思う、と小声で伝えておいた。他人に知られてはいけない問題だけど彼女は事情を知る仲間。すると少し顔色が変わったみたいだった。

 

 「そっか。そうだよね……まだこの力のこと、よくわかってないし。しょうがないよね」

 

 岳羽は理解してくれたようだ。それと同時にやっぱり心配してくれてるみたいで、朝の時よりも心配そうな目で僕を見ていた。

 

 「先輩に言う? 何かわかるかもしれないし、そのままにしておけないでしょ?」

 

 大丈夫、と答えておく。

 どうせ例のアレが張り切ってるだけだ。そんなに大問題じゃない。

 もうすぐホームルームも始まるし、気を使ってそう言ったつもりだったけど、むしろ良くない返答だったらしい。岳羽は立ち上がって僕の手を掴んだ。

 

 大丈夫だから、と伝えても手を離してくれなかった。こういうところ、岳羽は優しいと思う。多分さっきよりも力が強くなってたかもしれない。

 授業を欠席することになるけど、別にいいか、と考えて、僕は岳羽と共に保健室へ向かった。

 

 

 *

 

 

 四方をカーテンに仕切られた狭い空間で、岳羽ゆかりは熱くなった吐息を洩らした。

 ベッドが軋む。

 上にのしかかられて、顔が近くなり、離れたばかりの唇が濡れている。こんな経験は初めてだ。彼女は目を潤ませて体をわずかに震えさせている。

 

 戸惑いはある。初めての経験に不安を抱いて、同時にこの状況を不思議に思っている。なぜこんな状況になっているのだろうと。

 普段の彼女は、いわゆるそういった行為は嫌っていたはずだ。

 それどころか男性との付き合いにも興味がなく、男性不信とまではいかないまでも、基本的に用がなければあまり近付かない節すらある。それなのに、なぜ彼に限って。つい最近知り合ったばかりの少年となぜこんなことをしているのか。

 

 いつもの自分ならこの行為を拒絶している。嫌っている。

 今まで望んだことはないし、彼氏が欲しいと思ったことも、自慰をしたこともない。

 それがなぜ、彼を相手にした時だけこうなってしまうのだろうか。

 

 転入してきた男子生徒、有里湊。

 青みがかった黒髪が片目を隠して、細身なのに意外にも運動能力は高く、勉強も得意で、いつも無表情で無気力。ミステリアスで謎が多いと評判の人物だ。

 校内には彼を気にする人物が多く、得体が知れないとして男女共に注目している。

 本人はきっと気付いていないだろうが、彼に関する噂話というのは実は多く存在していた。

 

 転校してきた当初、確かに目をかけた自覚はある。

 同じ寮に住んでいる上に、秘密を共有する仲間だからだ。

 同学年で同じクラスだったことも関係している。湊の席はゆかりの一つ後ろで、教室でも寮でも課外活動中でも話すことが多く、無気力な彼を叱咤することが日常だった。

 ただ、男として見たことがあるかと問われれば一度もない。

 ゆかりにその欲求がなかったためだ。湊の魅力に関係なくその選択肢を持っていなかった。

 

 そのはずなのに、なぜ、こんなことに。

 彼女は今、保健室のベッドの上で彼のキスを受け入れている。自ら彼の首に腕を回し、強く抱きついて、湊の手が自分の体に触れているのを止めようとしない。

 

 何かがおかしい気がする。だが何かを欲する体は、欲求は止められない。

 全身が熱くなって、意識がぼんやりしていて、ゆかりは救いを求めるように湊を見つめた。

 

 (何やってんだろ、私……こんなの、あの人みたいで、一番嫌だったのに……)

 

 服の上からぐっと胸を持ち上げられる。

 他の男ならあり得ない。彼だけだ。

 湊に触れられる度に熱い息が吐き出されて、動きに合わせて小さく声が洩れる。それが恥ずかしくて仕方ないが、嫌がる心も徐々に変化していき、少しずつ受け入れようとしていた。

 

 (結局、私もあの人の娘だから、同じだったってことかな……)

 

 あの人のようにはならない。あの人とは違う。

 そういった想いを強く持っていたのに。なんなら今も忘れず持っているのに、頭で考えていることとは裏腹に体は言うことを聞かない。

 

 (悔しいけど、でも……)

 

 湊の手がスカートの中にぐいっと入ってきて、瞬く間にショーツの中へ侵入した。

 そこへ触れられた途端、ゆかりは目を閉じて背を逸らし、体がビクッと震える。

 

 指先がぴったり閉じた割れ目を撫でていた。

 優しい、ほとんど力を感じない手つき。ゆっくり、少しずつ時間をかけて、徐々に力が込められていく。誰にも触られたことがない場所に触れられている。

 ゆかりは彼のシャツを強く握りしめ、抵抗せずにそれを受け入れていた。

 

 「濡れてる……」

 「やっ……言わないで……!」

 

 言葉を紡いだ少し掠れた声。

 いつもの彼とは違う。色っぽい、セクシーとも称すことができる様子。

 顔がすぐ傍にあって小声でもはっきり聞こえたため、ゆかりの体は反応せずにはいられない。

 

 とろりとした体液が湊の指に付着する。

 彼が手を上げたことで糸を引いて、湊はその様子に感動してすらいた。

 

 初めてという言葉を聞いたせいか、彼の愛撫はひどく優しい。割れ目をなぞるように指で撫で、少しずつ力を入れてその奥までこじ開けようとする。

 時間をかけて、彼女の反応を見ていた。

 肌が触れるほど近いゆかりの顔。呼吸は荒くなり、快感よりも羞恥の方が大きいらしい。顔は赤くなって恥じらいを隠しきれなかった。

 

 ぐにぐにと動かされていて、その様子が如実に感じ取れるのが複雑だった。

 ゆかりは彼の胸に顔を押しつけ、必死に羞恥に耐える。

 今はまだ快感を得られるほどの余裕がない。他人に秘部を初めて触られていて堂々としていられる人物などいようか。少なくとも彼女は辛そうにもしていた。

 

 先に緊張をほぐすため、湊は彼女の体に優しく触れる。

 股を触るのはゆっくりとでも慣れてもらうためだったが、意外にも大きい胸を揉むのは彼の好みの問題であった。

 

 「んっ……ん……ふっ……」

 

 ゆかりの反応は初々しく、声を押し殺して体を小さくしようとしている。

 湊とてほとんど童貞に近い状態であり、彼女の反応は愛らしく好意的に受け取れるものだった。それだけに行う愛撫も優しさに満ちている。

 

 彼女の反応こそ嫌がっているかのような素振りだが、体を見れば違った。乳首はピンと立って存在感があり、秘所を触っていると勃起したクリトリスが指に当たる。

 触っている内に湊の興奮も高まっていった。

 外見こそ普段と変わらないものの、服の下ではペニスが痛いほどに勃起している。

 

 「んんっ、はぁっ、んっ……!」

 (指……入れたいなぁ)

 

 ぼんやりと思いながら彼女の股を撫でる。

 触れるのに慣れてくれば薄い陰毛すらも愛しく感じて、戯れに軽く毛を引っ張ってみたりした。すると目を潤ませたゆかりが睨んでくる。どうやら怒っているようだがそんな表情すらも愛しくて湊は薄く笑みを浮かべた。

 

 湊の指が膣の入り口に触れた。

 ビクッと震えたゆかりの表情が変わる。

 その顔をじっと見つめながらゆっくり指を沈めようとする。ゆかりはぎゅっと目を閉じた。恐怖心は少なからずあるが抵抗する様子は見られない。

 きっと膜があるだろうと想像しながら、あまり入れ過ぎないよう気をつけて指を挿入する。

 濡れてほぐして、その甲斐があった様子でつぷりと入り込んだ。

 

 溜息が洩れる。おそらく二人同時にだ。

 ある意味で一線を越えてしまったかのような、そんな実感があった。

 ゆかりは恐る恐る目を開けて湊を見上げ、湊は彼女の不安そうな顔を見つめる。

 

 「はぁ……なんだろう、これ……」

 「ん?」

 「もう、わかんないよぉ……」

 

 再び首に腕を回して、首筋に顔を埋めるようにして抱きついた。

 湊はそうしたゆかりを受け止めながらゆっくり指を動かし始める。

 

 激しくすればいいというものではないだろう。時間をかけて緩やかな刺激を与える。あまり激しくし過ぎないように自分自身を抑えた状態だ。

 幸い、性格的に彼はあまりテンションが上がる性質ではなく、常に冷静さを失わない。

 初めてといってもゆかりを不安にさせない程度には頼りになりそうな風格があった。

 

 「んっ、んっ、んっ――」

 

 穏やかに小さく、消え入りそうな声で鳴く。

 決してまだ受け入れきれてはいない。不安や戸惑いは残っていた。

 それでも、献身的な湊の態度に感化され、少しずつ彼女の気持ちも彼に向いてくる。

 バラバラになっていた心と体が少しずつ合わさっていくかのようだ。

 

 湊がゆかりにキスをした。彼女もすぐに目を閉じる。

 唇を押しつけ、ほんの少しだけ動かす。最初はぎこちなかったゆかりも慣れようとする努力が感じられた。そう知ってから舌を出してみた。

 

 指先に少し力が入った。制服をきゅっと握られる。

 抵抗らしい抵抗はないと感じて、湊は彼女の唇に触れ、その奥へ侵入しようと割って入る。

 

 初めて舌が触れ合った。

 同時に、膣内にほんの少しだけ入っていた指がピクッと関節を曲げ、彼女の腰が揺れる。

 深いキスをしたまま、示し合わせた訳でもなくお互いの目が開き、至近距離で見つめ合う。今の気持ちを的確に表現することはできない。だが幸せだった。

 ゆかりは確かに幸福感を実感していて、ようやく彼を真っすぐ見ることができた。

 

 「ふぅっ、んっ……はっ、あっ」

 

 強く抱きついて貪るようにキスをする。

 舌を擦って、絡めて、吸って。何度も何度もそうする。

 ようやく何かが弾けたのか。ゆかりは自ら彼を求めていた。強く、強く。片時も離れたくないとでも言うかのように腕に力を込める。深く深くキスをする。

 

 (もう、わからないけど……)

 

 自分の中から消えていく。

 正気も、冷静さも、異性への拒否感、嫌悪感、今だけは母への想いも。あらゆるものが霞の如く薄れていき、どこかへ消えていく気がする。

 これが良い変化なのか、それとも悪いことなのかは彼女にもわからない。正常な判断力は今はなくなっている。今後もずっと変わった状態のままなのか、それも想像できなかった。

 ただ、彼には、有里湊には任せてもいいと思った。

 体を委ねて、心を預ける。それでもいいと思える人だと感じていた。

 

 気付けばゆかりの膣からは、小便を垂らしたかのように愛液が出ていて、シーツをびっしょりと濡らしていた。

 些細だとしても大きな変化は湊も感じ取っていた。

 膣から指を抜いて、自らの意思でゆっくりと体を離す。

 

 ベッドに横たわった彼女はひどく色っぽかった。

 力が入らず四肢を投げ出して、潤んだ瞳は逃がさずに彼を見ている。

 湊もその目を見つめ返し、そうしながらズボンを脱いだ。

 

 服を脱ぐ暇も惜しいと言わんばかりに、制服のズボンと下着を同時に下ろして、膝辺りまで下ろすとそれ以上は脱ぐのをやめて動き出した。

 天を向いていきり立つペニスが解放される。

 おそらく以前とは違い、ゆかりはそれを見ても怯えず、むしろ期待するように確認した。視線はすぐに湊の顔へと戻り、彼が来るのを待つ。

 

 再び彼が覆いかぶさって体が近くに来た。

 ゆかりはすぐさま湊に抱きつき、背中に両腕を回して胸に顔を擦りつける。

 

 体がぴったり触れ合うため多少の動きにくさはあったが、湊は自分のペニスを握り、腰の動きだけでゆかりの膣を探し当てて先端を触れさせた。多少の不安や驚きはあっただろうが逃げる素振りはない。拒否する意思は消えていた。

 気遣いはあったが彼自身も我慢していたのだ。

 意を決して腰を前へ突き出し、徐々にという動きを意識しながらペニスを挿入する。彼女の膣はすでに濡れそぼっていて、しかしぴたりと閉じたままで強引にこじ開けるかのようだった。

 

 ゆっくり、壁を一枚ずつ壊すかのようにペニスが奥へ進んでくる。

 決して楽ではなかった。ゆかりは強く抱きついて必死に耐える。痛みらしいものはあまりない。とはいえ慣れていないせいか、表情は優れず、快感だと感じる余裕もない。

 

 一方の湊は見るからに表情が変わっていた。

 辛そうにも思える顔である。目を細め、歯を食いしばり、体に力が入っていた。

 

 男を知らない体は彼を強く締めつけ、少しとはいえあったはずの余裕や冷静さをあっという間に失わせる。全く予想していない感触であった。

 身じろぎするだけで暴発しそうになる。これほどの刺激があるとは驚きだ。

 苦しさを感じているゆかりとは対照的に、湊は凄まじい快感だけを感じていた。

 瞬く間に呼吸が乱れる。吐き出した息が彼女の顔に当たり、ゆかりはぞわぞわとそれだけは快感のように感じていた。

 

 「うぅっ……ふぅんっ、んんっ……!」

 「入っ、た……」

 

 全身に力が入っていたがなんとか奥へ進むことができた。

 湊の呟きを聞いたゆかりは目を開け、彼の顔を見上げて質問する。

 

 「入ったの……? 全部……?」

 「うん……多分」

 「そっか――」

 

 目を閉じて唇を突き出したゆかりは、何も言わずにキスをねだった。

 すぐに理解した湊は彼女と唇を合わせる。

 触れたまま胸を触り、制服の上からではどこかもどかしく、深いキスに移行しながら生で触りたいと考え始める。しかしそれほど時間を使っていいものか。

 ゆかりにはあまり余裕がなかった。湊もそうだ。いつ暴発してもおかしくない。

 必死に尻の穴へ力を入れて堪えながらのキスは彼にとっても辛かったらしい。

 

 やがて唇を離して見つめ合う。

 ゆかりは恥じらった様子で目を閉じると、震える声で呟いた。

 

 「いいよ……好きにしても」

 

 どういう気持ちだったかは知る余地がない。だが湊にはその言葉が突き刺さった。

 彼はまず最初に制服を脱がし、ブラジャーを外して上半身を裸にすることから始めた。瞬く間に露わになった胸は形が良く、乳首がピンク色で、見ただけでペニスがさらに大きくなる。

 膣内でその動きを感じ取ったゆかりは声を洩らし、恨めしそうに湊を見る。

 

 「男ってやつは……そんなに胸が好きかな」

 

 呆れたような口調に感じた。しかし湊は反応せずに胸へ集中している。

 身じろぎ一つでふるりと揺れる乳房を見下ろして、嬉々として手が伸ばされた。

 指を開いてぎゅっと掴み、その柔らかさを確かめる。指を埋めたり、揺らしたり、まるで玩具のように扱って遊ぶ。そうする様は無表情でも楽しそうだった。

 

 ゆかりは彼の顔を見上げて恥じらう。

 まさかそんなに楽しそうな顔を見ることになるとは思わなかった。

 自分の胸を触って幸せそうな彼になんとも言い難い感情を抱く。

 

 「んっ、ふっ……ねぇ、いつまで触ってるの?」

 「え?」

 「別にいいんだけどさ……あんっ」

 

 初めてゆかりから甘い声が出た。湊が彼女の乳首を口に含んだのだ。

 舌で転がしたと思えばちゅーちゅー音を立てて吸い始める。どうも調子が狂ってゆかりは困惑していたようだった。

 

 しばらく彼は熱中していた。

 膣に挿入して、射精感すら忘れて、胸にばかり気を取られて他の一切を横へ置いておく。

 

 散々彼女の胸を揉み、乳首を吸った結果、それが良い方向へ転がったらしい。されるがままで困惑していたゆかりだが緊張がほぐれて快感を得るようになっていたのだ。彼が胸を弄る度に甘い声が洩れ、赤面して目は潤み、腰がぎこちなく揺らされている。

 彼女が自分から腰を動かそうとしていたことでようやく湊も思い出した。

 そういえば射精するギリギリだったと気付き、また息を詰まらせる。

 

 「あっ、ふぅ、んもうっ……!」

 「ごめん、そんなにもたないかも……」

 

 両手で胸を掴んだまま湊が言った。ゆかりはぐったりした様子で辛うじて答える。

 

 「いいよ……ここまで来たんだし、全部好きにしていいから。好きに動いて……」

 

 頷いた湊が動き出す。

 ゆっくり腰を前後させて、ピストン運動が始まった。

 ペニスが奥まで進んだかと思えば入口へ向かっていく。途中でカリが引っ掛かり、抜かれる動きで力が抜けて息を吐き出すが、奥まで入ってくると逆に息を呑む。

 

 訳も分からず、ゆかりは湊にしがみついてそれらを享受していた。

 気持ちいいのか否か、それすらもわからなくなる。だが少なくとも嫌ではない。彼がそうして自分の中で動いていることが幸福に感じられた。

 

 (あぁ、すごい……)

 

 ずっ、ずっ、と一定のペースで動いている。

 感触が伝わり、形がわかる。

 必死になっていてもゆかりは彼のペニスを意識せずにはいられない。

 

 (わかんないけど、これ……なんか、いいかも)

 

 甘い声が洩れる。

 突かれる衝撃で途切れ途切れになり、その声が湊の体を熱くさせる。

 

 初めから痛みはなかった。今や戸惑いも消えてしまい、ゆかりは性交の快楽に酔いしれる。湊の息遣いや体温を感じて、それが安心できるものに変わっていた。

 今まで知らなかったものに身を包まれる。

 何も考えられなくなった時、真っ白な世界には湊の存在だけが残る。

 

 腰の動きが速くなる。限界を超えていよいよ最後の瞬間だ。

 湊は必死に堪えて、最後の最後まで腰を叩きつける。

 ゆかりも声を抑えられず大声で喘いでいた。

 

 「あっ! あっ! んんっ……あぁっ!」

 「うっ、くぅっ……!」

 「んああっ! あああぁっ!」

 

 一瞬、ペニスが大きく膨らんだ気がした。

 直後には破裂するかのように体液が飛び出して膣内に注ぎ込まれる。もしかしたら子宮に届いたかもしれない。奥へ奥へと来る液体を感じずにはいられなかった。

 意外と悪くない。息を切らして呆けるゆかりはそう思う。

 竿の律動が止まるまで動かず、二人は強く抱き合ったままだった。

 

 「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ……!」

 

 やがて出し切った後、ぐったりした彼らは重なった状態で動かなくなる。

 荒い呼吸音だけが室内に響く。

 保険医が居なくて良かった。居れば全て知られていたであろう。ひょっとしたら声が大き過ぎて廊下まで聞こえていたかもしれないが、誰も居なかったことを願うばかりだ。

 

 先に余裕を取り戻した湊がゆかりの顔にキスをした。頬や額、或いは唇にキスを与えて触れては離れを繰り返す。息を乱していた彼女もそれに気を良くしていたらしい。

 ようやく落ち着こうとしていた。ゆかりは彼の胸に顔を埋めて穏やかに目を伏せる。

 

 「ん、はぁ……しちゃったね」

 「うん。ありがとう」

 「別にいいけど……なんか……はぁ」

 

 頭の中に声が響く。

 湊はハッとした様子で目を見開いた。

 

 【有里湊は“恋愛”のコミュを手に入れた】

 

 あらゆる意味で満足感を覚えながら湊は視線を動かす。

 ゆかりは落ち着いて、今まで見せたことがないほど安堵した顔で湊に抱きついている。

 そんな彼女の頭を撫でながら、湊はなぜかベッドを囲うカーテンの下に目を向けた。

 

 彼特有の冷静さで一切反応は見せなかったものの驚愕する。

 カーテンの下から青い帽子を被った女性、エリザベスが覗き込んでいたのだ。

 彼女は湊と目が合うとにこりと笑いかける。

 そしてぐっと親指を立てて見せた。

 

 (グッドジョブでございます。ナイスピストン)

 (見られてた……)

 

 流石に声はかけられなかったとはいえ、一部始終を観察されていたかもしれないと思い、今までの最高な気分が微妙なものに変わってしまう。

 それでも、彼も図抜けたマイペースさを持つ人間だ。

 まぁいいかと考えて、エリザベスから目を離し、そのままゆかりにキスをした。

 




 《傷ついた娘は大いなる胸で受け止めるべし!》
 (チェンジしようかな……)
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