一人暮らしを始めた僕の高校生活はバラ色でした。 作:チャンドラ=グプタ
少し肌寒い風が吹き込む日曜日の十時手前。世間は休日ということもあり、たくさんの人で溢れかえっていた。
俺は池袋駅東口である人と待ち合わせをしていた。
もうそろそろ来る頃だと思うが。
「お待たせ〜優馬くん!」
後ろから声がし、振り返ると薫さんが駆け足で俺の元へやってきた。
「お、おはようございます……薫さん……」
たどたどしく俺は薫さんに挨拶した。というのも薫さんの格好にドキッとしたからである。
今日の薫さんの格好は白いシャツと水色のプリーツスカートに身を包み、垢抜けた印象を感じさせた。
「ごめん、待った?」
「い、いえ! 俺もきたばかりです!」
「そう、良かった。それじゃ、行きましょうか」
俺と薫さんはショッピングモールを目指して歩き始めた。
歩くことわずか一分、俺たちは目的地へと辿り着いた。
俺たちが入るのは池袋PARCO店。
俺は地方から来たため、ここに入るのは始めてである。
「そういえば、薫さん、今日は何を見るつもりなんですか?」
「行けば分かるわ。ついつきて」
薫さんに言われるがまま、お店の中を徘徊した。
そして、着いたお店はなんとランジェリーショップであった。
「あ、あの……薫さん、ここって……」
「そう! 新しい下着が欲しくてね。優馬くんに選んで欲しいの」
清々しいほどの笑顔でそう言う薫さん。
ま、まじか……俺が薫さんの下着を……
なんと幸せな、いや違う。なんと難易度が高いことか。
「それじゃ、入るわよ!」
俺の右腕を掴むと、薫さんは強引に俺をランジェリーショップの中へと誘導した。
お店の中には様々な色の下着が備えられており、中には少し際どいデザインのものもある。
薫さんはじっくりと一つ一つ下着を観察すると、一つの下着を手に取った。
「これなんてどうかしら優馬くん?」
薫さんが見せつけてきたのは上下ピンク色のとてもセクシーな下着だった。
以前、留衣さんが着けていたものと少し似ている。
ただ、留衣さんのは紐パンで、薫さんが持っているのは少々面積が少ないくらいの普通のパンティなのだが。
「い、いいと思います」
「うふふふ。そっか」
まるで俺の反応を楽しむかのように訊いてくる薫さんである。
「ちょっと試着してこようかな」
薫さんは試着室の方を一瞥した。
「優馬くんにも見てもらいたいんだけど」
「ええ!? そ、それはちょっと……」
「何よー。私の裸、見たくせに」
薫さんは唇を尖らせ、不満そうにそう言った。
「ちょ、ちょっと……そんな大きな声でやめてくださいよ」
確かにそうなのだが……そもそも下着姿を試着室で異性に見せるというのはありなのか? そういうカップルとかもいるのだろうか。
「ふふ。まぁ、いいわ。それじゃちょっと試着してくるわね」
薫さんはピンク色の下着以外にも何着か持って試着室へと向かった。
手持ち無沙汰になった俺はスマホを取り出し、電源を入れる。
すると、留衣さんからLINEが来ていた。
――今日、ビーストファンタジー会あるから18時くらいに優馬くんの家に行くね! 瑠夏も来るけどいい?
この前、大学の飲み会(合コン)でいなかった瑠夏さんも来るらしい。
特に断る理由はない。
――いいですよ。よろしくお願いします。
ぺこりとお辞儀しているクマのスタンプと共に返信する。
スマホを弄りながら待っていると、試着室から薫さんが出て来て戻ってきた。
「ごめん、優馬くん。待たせたわね」
「いえ。どうでしたか?」
良いものがありましたか? という意味合いを込めて訊いたのだが、薫さんは不満そうな表情をする。
「なんかイマイチ、ピンと来ないのよね。もう少し見てもいいかしら?」
「はい、勿論です」
もとより薫さんの行きたいところに付き合うつもりであった。少し恥ずかしいが、もう少しここに留まるくらいどうってことない。
薫さんは真剣な表情でゆっくりとお店の中を移動した。俺も薫さんの後を追う形で移動する。
やがて、薫さんは『ピタッ』と足を止めた。
「これ、良さそうだわ……」
薫さんが手に持ったのは、黒いスケスケなレースの下着であった。
「ちょ、ちょっと派手じゃないですか?」
エロい。最初に受けた印象はそれだった。
「えー!? そうかしら。優馬くんはこういうの……嫌い?」
上目遣いで訊いてくる薫さん。嫌いじゃないけど。ええ、嫌いじゃありませんとも。
「き、嫌いじゃないですけど……」
そう答えると薫さんは蠱惑的な笑みを浮かべた。
「そう。それじゃこれも試着して来るわ。優馬くんにも見て欲しいんだけど……」
少し恥ずかしそうな表情でおねだりする薫さん。
「そ、それはちょっと……」
やんわりと断るとぐいっと薫さんは体を近づけ、距離を詰めて来た。薫さんの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「お願い……」
あざとくも、とても可愛らしい表情でお願いしてくるので、くらっと来そうになった。
「わ、分かりました」
薫さんの甘い誘惑に負け、薫さんの下着姿を見ることを承諾した。
本来であれば、これは喜ばしいことである。
普通の男性であれば土下座してでも見たいくらいのことだろう。
付き合ってもいないのに薫さんのエロい姿を見れるというのはかなり幸せなことである。
「それじゃ、行きましょうか」
二人で試着室へと向かう。これからこのエロい下着を着けた姿を俺に見せて来ると考えると心臓がバクバクと鼓動していた。
薫さんは試着室の扉を開けて、中へと入る。
「それじゃ、用意が出来たら声かけるから待ってて」
「分かりました」
扉を閉めると、薫さんの姿は見えなくなった。しかし、衣服を脱ぐときに発する擦れる音が嫌が応にも耳に届く。その音のせいで色んなあらぬ想像を駆り立てる。
しばらく待っていると、
「優馬くん、用意が出来たから入ってもいいわよ」
扉越しから薫さんの声がした。いよいよか……
俺は恐る恐る扉を開け、試着室の中へと入る。
「ど、どうかしら……?」
薫さんは顔を赤らめ、俺に感想を求める。
「う……あ……」
俺の目の前にいるのはとても美しい女性。
上半身のみが下着姿で下はちゃんとスカートを履いていた。
小柄な体格とは反比例するかのようななとても大きな双丘を面積の薄い透けているブラジャーで多い隠しているが、肝心のところが隠しきれていない。
「どう? へ、変じゃない?」
「い、いえ……すごい素敵だと思います……」
あまり胸を直視しないようにしながら感想を述べた。やばい……超良い。
「そう。それは良かった」
薫さんは俺に嬉しそうな表情を見せると、俺の方へと近づいて来た。
「ちょ、ちょっと……薫さん!?」
薫さんは自分の胸を俺の身体に押し付けて来た。『ムニュ』っとした至福な感触が押しつけられている場所から伝わる。
「優馬くん、この下着姿を見て、エッチな気持ちになる?」
薫さんは「はぁ、はぁ……」と荒い息遣いをしながらそんなことを訊いてくる。
する――するに決まっているであろう。
「し、します!」
そう答えると薫さんは発情している表情からニッコリといつもの様子に戻った。
「そう。なら良かった。これを買うことにするわ。それじゃ、着替えるから出てくれる?」
「え? はい、分かりました」
想像の展開とは違うことに俺は少し落胆しながらも試着室から出た。
試着室の外でしばらく待っていると、薫さんが出て来た。
「それじゃ、ちょっと買って来るわね!」
薫さんは先ほど試着した下着を購入すべくレジへと向かった。
そういえばあの下着はいくらするのだろうか。
薫さんは袋を手に持ち、俺のところへと戻って来た。
「お待たせ! ごめんね、待たせちゃって」
「いえ、この後どうします? まだお昼ご飯は早いですよね?」
先ほど時刻を確認したが、まだ十時半前であった。
昼食にするには早すぎると思った。
「ちょっと見たい映画があるのだけどいいかしら?」
「ええ、良いですよ。何の映画ですか?」
薫さんはスマホを取り出すと、見たい映画に関する情報が書かれているサイトを俺に見せてきた。
こ、この映画は……
「薫さんもそれ好きなんですか! 俺も見たいと思ってたんです! 見に行きましょう!」
「優馬くんもこれ好きなのね! もう少しで開始時刻だし、見に行きましょうか!」
俺たちは池袋PARCO店を後にし、映画館へと向かった。
池袋駅の西口を出て、到着したのがシネマサンシャイン池袋である。
映画館な中へと入り、チケットを購入する。
「優馬くん、何か飲み物とかいる?」
「はい、コーラにしようと思います。薫さんは何か飲みますか?」
「そうね……私もコーラにしようかしら」
「それじゃ、二人分買ってきますね」
「ありがとう。お願いするわね」
薫さんからお金を受け取り、コーラを二つ購入する。そして、コーラを店員から受け取り薫さんの元へと戻る。
「お待たせしました! これどうぞ」
「ありがと。それじゃ、入りましょうか」
薫さんに促され、俺達はチケットに指定された部屋の中へと入った。
部屋の中ではこれから見る映画の主題歌が流れていた。
「私、中学時代から漫画読んでたのよね。優馬くんも原作読んだことある?」
「ええ。よく中学校の頃、読んでました。改造人間編が一番好きで何回も読み返してましたよ」
「あー! 2が初めて出るのもそこだったわね! 私、あの形態が一番好きだったわ! バチバチって髪が細かく逆立ての、あれ超かっこいいって思ってたわ! 3は個人的に好きじゃないのよね」
「そうなんですか? 俺は結構、3も好きなんですけどね。でも、3を使っての勝利シーンが原作じゃないからあれは確かに不遇の形態ですね。神やイエロー、そして勝手の極みが出たせいで3に変身する意味もなくなりましたし」
「そうね。今回の映画には勝手の極みは出るのかしら……」
薫さんとコアな話をしているうちに映画が始まった。
部屋の中の照明が落ち、スクリーンに10分ほど予告が流れた後、『No more映画泥棒』と違法動画のダウンロードの禁止と映画の撮影はNGだぞと釘を刺された後、ようやく映画が始まった。
映画の内容は平たく言って最高であった。
主人公の生い立ち、宿敵の悲しき過去、切れ味鋭いギャグもしっかりと描かれていた。
そして、最後の戦闘シーンは大迫力であった。
最新技術のCG駆使して描かれた戦闘描写は俺の心を滾らせた。
本編が終わり、主題歌とともにエンドロールが流れる。いやぁ、良い歌だ。終わったらスマホに曲をインストールしよう。
映画が終わると俺達は映画館を後にした。
「いやー! 面白かったわね! 想像よりも遥かに良かったわ!」
俺も薫さんと同じ意見だった。賛否両論あるかもしれないが宇宙の帝王が萌えキャラのように描かれていたところも良かった。
「そうですね。薫さん、そろそろお昼ご飯にしますか?」
「そうね、そうしましょう」
近くのパスタ屋に俺達は入った。中は空いており、俺はミートスパゲティ、薫さんはカルボナーラを注文した。
注文してから10分ほどで料理が届いた。
「初めて入りましたけど、美味しいですね。このお店」
「でしょ? 私の行きつけで良く来るのよ」
昼食を食べ終えると俺達は池袋駅へと向かった。
「薫さん、この後どうします?」
「そうね……ビーストファンタジー会までは結構時間あるし、秋葉原に行かない?」
「いいですね! 行きましょう!」
秋葉原と言えば、日本屈指の電気街である。電化製品のみならず、アニメやゲームのグッズ専門店もたくさんある。
「よし! そうと決まったら行きましょう!」
池袋駅から山手線で20分、秋葉原駅へと着いた。
改札を通り、電気街口を出るとラジオ会館やゲームセンターなどが目に入った。
今日は日曜日とあってたくさんの人が電気街を歩いていた。
秋葉原に来るのは中学校の修学旅行以来である。
「それじゃ色々見て回りましょうか!」
「はい!」
俺と薫さんはたくさんのお店を物色した。
ラジオ会館、animate、とらのあな、まんだらけなど、どのお店も品揃え豊富であり、地元のお店や仙台のお店よりたくさんのアニメグッズが売られていた。
薫さんは今日見た映画のグッズを中心に買い、俺はバスケ漫画のグッズをいくつか購入した。
「そろそろ帰りますか」
時刻を確認すると17時過ぎになっていた。
「そうね……でもその前に、ちょっとついてきてくれる?」
そう言われて俺は薫さんに付いて行った。
薫さんに連れてこられたのは秋葉原UDXの前。
そこは電気街が立ち並ぶ通りよりも人気が少なかった。その代わり、手を繋いで歩いてるカップルを何組か見かけた。
薫さんは俺のことをまっすぐ見つめた。
「優馬くん……聞いて欲しいことがあるの……」
薫さんは緊張した趣でそう切り出した。
茶色の双眸が俺を覗きこんでくる。
「な、なんですか?」
「私と……付き合ってくれないかしら?」