一人暮らしを始めた僕の高校生活はバラ色でした。 作:チャンドラ=グプタ
「マジックバレット! マジックバレット! マジックバレット!」
再びヴィネは何発も連続でバイオレンスシャークへ魔弾を打ち込むが、あまりサメの体力は減らなかった。
ヴィネが魔法を打ち込むたびに水しぶきが顔や身体を濡らす。
奴は勢いよく船に体当たりしてきては、グラグラと船を揺らし、こちらの足場を悪くする。
「本当、厄介なサメね!」
瑠夏さんは背中の矢筒から一本の矢を取り出した。
ゆっくりと弓を引き、鮫に狙いを定める。
鮮やかに行われた射法はまさに手練れのよう。瑠夏さんは弓道の経験があるのだろうか。
「サイクロンアロー!」
矢はジャイロ回転しながら鮫に飛んでいった。一直線に矢はサメへと向かい、見事、奴の身体を貫き、四分の一ほど体力を削った。
「おお!」
感激した俺は感嘆の声を叫んだ。瑠夏さんはなぜか続けて攻撃をしようとはせず、じっとサメの様子を伺っていた。
「大丈夫ですか? 瑠夏さん」
「うん。さっきのスキルでMPを使いすぎちゃって。少しの間、スキルは使えそうにないわね」
「大丈夫ですよ。だいぶ、サメの体力も減らせましたし」
しかし、俺の予想はデパ地下で売られているスイーツよりもはるかに甘いものであると思い知ることになる。
海の奥深くにサメは潜り、姿をくらました。
「あいつ、どこに行ったんだ?」
注意深く、水面を観察していると、突然大きな水しぶきが巻き起こった。
大量の降り注いだ水に驚き、俺は一瞬目を瞑る。
ゆっくりと目を開けると、鋭い歯が並んでいる大きな口が目の前にある。
あ、オワタ。バクッとサメは俺の身体を吞み込もうとしている。
「しゃがんで!」
瑠夏さんの声が聞こえた。反射的に頭を下げた。
サメは俺の真上を通り抜けて行った後、船の手すりを飛び越え、再び海の中へと舞い戻る。
――ドクン、ドクン。
心臓が大きく振動している。もし避けなかったら確実にゲームオーバーであった。
まさか、直接俺たちを攻撃しに来るとは。まさにバイオレンスなシャークである。
「大丈夫? 優馬くん」
未知瑠さんが心配そうに俺のもとへ駆け寄ってきた。
「平気です。それよりも、未知瑠さん。未知瑠さんが持っているスキルはどんな能力なんですか?」
俺は未知瑠さんのスキルを聞いてみることにした。ヴィネや瑠夏さんよりレベルが低いがレベルは二十。
持っているスキル次第では立派な戦力となるだろう。
「私のスキルは自分のフィジカルを強化するスキルだよ。あと、味方の魔法を強化するスキルも持ってるんだ」
「魔法の強化……なら、ヴィネと相性が良さそうですね」
俺がそう呟くとヴィネが「ふふん」と上機嫌に鼻を鳴らした。
「そのとおりだ。我とミチルは相性バッチリである」
「なぁ、ヴィネ。お前のパワーアップした魔法ならあのサメを倒せるか」
「愚問だな。余裕だ」
腕を組んで自信満々に答えるヴィネ。赤い双眸を見つめると、闘志が迸っているのが分かった。
「そうか、なら俺と瑠夏さんで隙を作る。隙ができたらお前の全力の魔法であのサメをぶっ倒せ」
「ほう、任せてもいいのだな?」
ひしひしとプレッシャーが伝わってきた。
全く――たかだかゲームだってのに、面白くなってきたじゃないか。
「おう。任せてくれ」
「話はまとまったようね」
瑠夏さんが俺の肩に手を置いて来た。
「瑠夏さん、あのサメの隙を作って欲しいんですけど、協力してもらえますか」
「役割がちょっと不服だけど……まぁ、いいわ。美味しいところはその魔族の子に上げましょう。私のスキルであのサメの動きを止めてやろうじゃないの」
ヴィネと同様、瑠夏さんの目に闘志が宿る。背中の矢筒から矢を取り、狙いを定めた。
しかし、先ほどまで船と並んで泳いでいたサメの姿がまたもや水中へと消えた。深いところへダイビングしたようである。どっから襲ってくるか。
俺は神経を研ぎ澄ませた。
そして、次の瞬間。背後から大きな水柱とともに、サメが俺たちの背後から飛び出して来た。
「な……」
意表をつかれたのか、瑠夏さんは驚愕の表情をする。大きなサメの口は瑠夏さんの身体を余すことなく飲み込もうとしていた。
「危ない!」
俺は反射的に瑠夏さんを突き飛ばし、強引にサメの攻撃を回避させた。サメは俺にまっすぐ向かってくる。
俺はゲームオーバーになるがしょうがない。
そう悟った時であった。
「スキル発動! 『バーニングスピアー』ーーー!」
聞き覚えのある声が耳に届く。俺の横を炎を纏った人物が通り過ぎる。
赤とオレンジの色が入り混じったメラメラと光る炎を纏ったランスをサメが鋭い歯で齧る。
「ぐぐぐ……!」
スキルを発動させたのは留衣さんであった。美しい顔立ちの留衣さんはサメと力比べをし、苦悶に満ちた表情をしている……ちょっとエロい表情である。
「お、お姉ちゃん!」
突如、参上した留衣さんに瑠夏さんは驚いたように声を上げた。
「さっき、船が揺れたから看板に駆けつけてみたの。こいつを倒すの手伝って上げるわ! おら!」
留衣さんはブンとランスを振り回すと、サメが宙を舞った。
ボチャンという音とももに再び水中へと戻った。
「すごいね。あの二人」
俺の横にやってきた綾女がポツリとそう呟いた。綾女も看板に来てくれたようである。
「ああ、さすがにレベルが高いだけあるな」
この数日間、留衣さんと瑠夏さんはそうとうこのゲームをプレイしたのだろう。
……大学の授業を犠牲にして。
「私達にも何かできることないかな?」
俺と同じくらいのレベルである綾女が訊いてきた。役に立とうとするその志は立派であるが、バイオレンスシャークのレベルは45。
ヴィネに啖呵を切っておいて実に情けない話であるがレベル10にも満たない俺たちが出向いても足を引っ張るだけであろう。
「よしておけ。ここは留衣さんと瑠夏さんの任せよう」
すると、一瞬悲しそうな表情を見せたが、納得したかのような表情へと変わっていった。
「うん、そうだね」
「サンダーアロー! サンダーアロー! サンダーアロー!」
瑠夏さんはトチ狂ったかのようにサメの近くの水中に矢を次々と放つ。
放たれた矢には雷のようなものがほとばしっており、矢が水面に触れるたびに『バチバチ』と感電したかのような音が聞こえてくる。
「グオオオオオ!」
サメは苦しそうに雄叫びを上げた。水面からひょっこりと顔を出したまま動きを止め、無防備な状態となった。
「ちょっと! サメの動きを止めたわよ! 早く魔法を放って!」
瑠夏さんはヴィネに今すぐ魔法を使うように促す。
ちなみにヴィネはというと、
「うふ……ミチル。いいぞ。もっとだ……揉んでくれ」
「うふふふ……ヴィネちゃんったら♡」
未知瑠さんとが抱き合った状態でお互いの胸や尻を触りあってはキスを幾度となく繰り返すという百合に満ちた世界へと没入していた。
お互い、恍惚に満ちた表情で上(おっぱい)と下(おしり)の、そして大きいのや小さい、それぞれの双丘を揉んで悦に浸っている二人は百合百合しく、それはなんとも言えぬ、怪しい色気(エロス)を醸し出している。
「ねぇ、優馬くん。あれ、もしかして未知瑠さん? それとあの子、前に始まりの森であったヴィネって子だよね?」
綾女はすぐにヴィネと、その抱き合ってる人物が未知瑠さんであることに気づいた。
「そうだ。この船に乗ってたらしくて、偶然ここで会ったんだ。一緒にあのサメをぶっ倒すことに協力してくれることになった」
「ちょっと! 何、イチャイチャしてるのあんた達! 早く攻撃して!」
瑠夏さんが顔を真っ赤にさせブチ切れながら叫ぶと、二人は百合百合フィールドを解き、気怠そうにヴィネはサメの方を見つめた。
ヴィネはいいところを邪魔されて不服のようである。
未知瑠さんも物足りなさそうな顔をしていた。
「分かった、分かった。今すぐ、そのサメをぶっ倒してやろう」
両腕を上げたヴィネは先ほど打ったものよりもさらに大きなサイズの黒いエネルギー弾のようなものを作り出した。
密度の濃い、ドス黒いエネルギー弾は実にかっこよく、厨二病をそそられた。
「す、すごい……」
不意に自分の口から感想が溢れた。レベルの低い俺でも分かった。この攻撃はかなりの威力となりうるもの。おそらくこれ一発でサメを倒せるだろう。
「ぐおお……オオオオおおぉぉ!」
感電の束縛から強引に脱出したサメは再び水中を飛び出し、船に向かって来た。
強大な口がヴィネへと襲いかかる。
「危ないヴィネ! 避けて」
心配そうに未知瑠さんが叫んだ。
しかし、ヴィネはそんな未知瑠さんの心配を他所(よそ)に回避せず、真っ向から魔法を繰り出した。
「安心しろ。未知瑠。くらえサメ公、『マジックランチャー』!」
球体の黒いエネルギー弾から直線上のぶっといビームが発射された。
その黒いビームは見る見るうちにサメの体全体を飲み込み、骨すら残さず消滅させてしまった。
やがてビームは空の彼方まで飛んでいった。
「ふぅ……まぁ、こんなもんだな」
さすがに疲れたのか、ヴィネは片膝をついた。
「ヴィネちゃん、大丈夫?」
「ああ、心配かけてすまないなミチル。大丈夫だ」
差し伸べたミチルの手を掴むヴィネ。この二人はまるで親友や恋人のような何か硬い絆で結ばれているようであった。
「ヴィネ。あんた、結構やるのね」
瑠夏さんはバイオレンスシャークにトドメを刺したヴィネの力を認めたようであった。
「貴様もな。そう言えばまだ名を聞いてなかったな。貴様、名はなんと申すのだ?」
「瑠夏よ。それよりも、どうする? ここで今、私と戦う?」
「いや、今は気分が乗らぬ。遠慮しておこう。いずれあの魔王の城でやり合おう」
ヴィネは前方を指差した。その先には急斜面の山がそびえ立っており、その頂上に黒いお城のような建物が見えた。
あれが――魔王のお城か。
「そう、分かったわ」
「では行くぞ。ミチル。我に掴まるのだ」
すると、『バサッ』という音と共に黒い禍々しい羽が出てきた。
羽をゆっくりと羽ばたかせるとヴィネの身体が中に浮く。
そんなヴィネの腰に未知瑠さんはしがみついた。
「ミチル、お前、結構重いな」
「ひどーい!」
ヴィネの言葉に抗議する未知瑠さん。すると、未知瑠さんはぐいっと、
顔を俺たちの方へと向けた。
「綾女ちゃん、優馬くん。次にあった時は敵同士だから、倒しちゃっても恨まないでね! それじゃ、バイバーン!」
そう言い残すと、ヴィネと未知瑠は魔王の城へと向かって飛んでいった。
「未知瑠ちゃんとヴィネちゃんか……思わぬ強敵が現れたね、瑠夏」
「ええ、でも絶対に倒してやるわ。そして、魔王を倒して豪華商品ゲットよ!」
ヴィネの力にも臆することなく、相変わらず魔王を倒すことに闘志を燃やす瑠夏さんだった。
すると、軽快なBGMとともにアナウンスが流れた。
「まもなく、シークアイランドに到着します。お降りの方はご準備をお願いします」
準備を整え、船から降りる俺たち。いよいよ、これから魔王の城を目指すのである。
果たして、無事に魔王の城まで辿り着くことができるのか。
俺たちの冒険はまだまだ続く。