一人暮らしを始めた僕の高校生活はバラ色でした。 作:チャンドラ=グプタ
「どうした? 冒険者よ。私のこのおっぱいが気になるのか?」
魔王は見せつける様に暴力的とも言える大きさのおっぱいを俺の顔に近づけてきた。
ごくりと生唾を飲み込む。褐色のおっぱいとそこに乗っかっているピンクの大きめな乳輪と乳首は何とも言えぬエロスを感じさせた。
「き、気になってなんかいない……」
しかし、魔王は間髪入れず自身のおっぱいを俺の顔に押し付けて来た。
「ふ、ふご……」
顔から至福の感触を感じる。柔らかくって気持ち良い。生暖かく、それでいてミルクのような甘い匂いがする。その物体から、生命の神秘を感じられた。
「ふふふ、男の人間は本当におっぱいが好きなのだな」
魔王のパフパフはとても心地良く、このまま永遠にし続けてもらいたいと思った。
「優馬くん……」
切なさに満ちた薫さんの声が耳に届く。
ごめん、薫さん。
魔王に身体、本当に心地良いんだ。このまま身を委ねたい。
――最愛の方が悲しんでいます。このまま魔王に身を委ねますか?
突如、俺の目の前にそんな説明文が現れた。なんだこれは。
「は……」
『はい』と答えようとした。
しかし、俺は今日のビーストファンタジーをプレイする前にした、薫さんとのデートを思い出した。
一緒に映画を見たり、ランジェリー店に入ったり、秋葉原を巡ったり――とても楽しかった。
このまま魔王に身を委ね、快楽の波に溺れてしまいたかったが、理性がそれを食い止めた。
あぁ、そうか。
俺はやっぱり、薫さんのことが好きだったんだな。
――もう一度聞きます。このまま魔王に身を委ねますか?
「いいえ」
反射的にそう答えた。
ダメに決まっている。俺は薫さんのことが好きなんだ。このまま、魔王に喰われてたまるか。
――『魔王の誘惑』に打ち勝ったことにより、あなたの職業が『変質者』から『勇者』へと変わります。
すると、俺の上から眩い光が降り注ぐ。
「うわ!」
魔王は驚きの声を上げ、咄嗟に後ろに下がった。
光に包まれ、その光が消えると自分の服装が変わっていることに気づいた。
股間に葉っぱ一枚乗っかっているものだったのが、厚い生地で出来た緑を基調とした服を着ており、腰には剣が収められていた。
「嘘……優馬くんの服装が変わった……職業は勇者で、レベル……は0!?」
薫さんは驚愕の表情で俺を見つめた。魔王に掛けられた魔法が解けたのか、薫さんはゆっくりと立ち上がった。
「貴様……何者だ?」
戦慄した様子で俺の正体を訊く。
魔王はいつの間にか女性の姿から元の姿へと戻っていた。
「通りすがりの……天才ゲーマーだ! 覚えておけ! 今からお前を倒してやる。Are you ready? 答えは聞かないけどな!」
腰に収められている剣を抜き出す。剣はズッシリと重量感があり、刃の部分は鏡のように磨かれていた。
俺はその剣を魔王に向ける。
「ふん」
魔王は鼻を鳴らすと、右手を俺に向けた。
「マジックバレット」
右手から黒いエネルギー弾を発射させ、俺に撃った。
黒い弾はものすごい速度で向かってくる。
ヴィネが使っている魔法と同じものだが、弾のサイズは魔王の方が一段と大きい。
「はああああ!」
黒いエネルギー弾が俺にぶつかりそうになるタイミングで、勢いよく剣を振り落とした。
すると、その黒いエネルギー弾はたちまち真っ二つに割れ、俺の後ろへと移動し、勢いよく爆発した。
「な、なんだと……」
魔王は驚きのあまり、口を開けていた。
「今度はこっちから行くぞ」
俺は戦闘画面を操作する。スキル一覧を確認すると、使えそうなものがあったので、それを選ぶことにした。
「スキル発動、『高速移動』」
このスキルは綾女が使っていたスキル。このスキルにより、一瞬で魔王の背後に回り込むことに成功した。
「な……」
魔王が振り向いたがもう遅い。防御をさせる暇もなく、さらにスキルを発動する。
「スキル発動、『ヘル・スラッシュ』」
剣が黒色に発光し、その剣で魔王の身体を斬った。このスキルはシンヤが使っていたものだ。もっとも、ヤツが使っていたのは剣ではなく、鎌であったが。
「ぐああ!」
魔王が苦しそうに悶え出した。切傷からポタポタと血が滴り落ちており、痛々しい光景であった。
「魔王様!」
魔王のピンチに見かねたヴィネが俺と魔王の戦いに参戦しようとしたが、
「サンダーアロー!」
「ぐあ!」
雷の矢がヴィネに刺さり、奴の動きを止めた。
「悪いけど、行かせないわ」
ナイスアシスト、瑠夏さん。これで心置きなく魔王にトドメをさせる。
「薫さん! 今、スキル使えますか?」
「へ? 使えるけど……」
「なら、お願いします! 同時に撃ちますよ!」
「わ、分かったわ!」
職業が勇者になったことで、薫さんのスキルも使えるようになった。
俺は剣を、薫さんは杖を上に掲げた。
「「エクスプローーーーーーーーーーーーーーージョン!!!」」
魔王の上から大きな爆炎が降り注ぐ。その炎は今まで薫さんが放ったものと比べ物にならないほど規模が大きく、対戦中であった未知瑠さんの身体も巻き込むように飲み込んだ。
「え? ちょっと……うわーーーー!」
未知瑠さんの叫び声が耳に届いた。
部屋中を白い煙が包み込む。煙によって一分間ほど、周囲の様子が分からなかった。
徐々に煙が晴れてくると、魔王が地面に蹲っているのが確認できた。
驚いた。まだ魔王が倒れていない。しかし、体力ゲージを確認すると、HPは残りわずか。
未知瑠さんの姿が見えない。おそらくはゲームオーバーになったのだろう。
俺は魔王にトドメをさすべくゆっくりと近づいた。すると、ヴィネが慌てて駆け寄った。
「ま、待ってくれ! 魔王様を見逃してほしい!」
ヴィネは俺に土下座をした。
「優馬くん! 気にすることないわ! そいつらはゲームキャラクターなんだから!」
瑠夏さんは魔王にトドメを刺すよう俺に指示した。
「ふん、貴様ら冒険者……いや、ゲームプレイヤーからしたら我らのことなど、『命』を持つ存在だと思っていないかもしれないが、我らだって生きている。この世界で生を受け、知らずのうちに魔族としてゲームプレイヤーに襲われる……貴様らにこの苦しみが分かるか! これまでにも何人もの部下が殺されて……我らは殺されるために生まれてきたのか!?」
魔王は自分をゲームのキャラクターだと自覚しているようである。
「お前らは死んだら生き変えられないのか?」
「ああ、同じキャラクターはまた生まれるが、元の人物とは別の人物だ。貴様らは死んでも問題ないみたいだがな」
「そうか……」
ゲームキャラクターがきちんと自我を持っており、生きたいと願っている。
俺はこの二人にトドメを刺すのに気が引けた。
「お願いだ! どうか勘弁してほしい! せめて、我の命で勘弁して欲しい!」
「ダメよ! 魔王を倒さないと、特典が貰えないんだから。優馬くん、早くトドメを刺しちゃって」
瑠夏さんはあくまでも魔王とヴィネをゲームキャラクターとして割り切ってい見ているようだ。
すると、魔王がゆっくりと立ち上がった。
「もうよい、ヴィネ。『父親』としての最期の指令を聞いてくれ……次の我によろしくな」
魔王は諦めたような表情でヴィネにそう依頼した。
「魔王様……い、いえ、父上! そんなこと言わないでください! 例え……設定であったとしても、あなたは私の父上です! 他に誰にもいません!」
感極まったのか、ヴィネは涙を零し始めた。ああ、ダメだ。やっぱり俺にはトドメを刺せない。
「すみません、瑠夏さん。俺、この二人は倒せないです。いや、倒させたくないです。もし、瑠夏さんが二人に攻撃するのなら、俺は瑠夏さんを倒します」
ゆっくりと剣を瑠夏さんに向ける。
瑠夏さんに静かな敵意を見せたが、彼女は表情を崩すことなく、俺を見つめ、やがてため息をついた。
「分かったわ。私じゃ優馬くんに勝てなさそうだしね」
瑠夏さんはあっさりと諦め、画面を操作を始めた。
あっさりと俺の意見に瑠夏さんは納得してくれたようである。
「そうだね、綾女ちゃんも暇にしてるだろうし、帰りましょうか」
瑠夏さんと留衣さんは先にログアウトしてしまった。
「貴様ら、我らを見逃してくれるのか?」
「ああ、そうだ」
魔王はびっくりしたような表情をしていたが、やがて和やかな表情に変わった。
口元を緩め、軽く頭を下げた。
「変わった冒険者だな、貴様。お礼という訳ではないが、今度来たらたっぷりサービスしてやるぞ」
魔王は露出の多い服装を着た先程の女性の姿に変身し、誘惑するかのように谷間を見せてきた。
「おぉ……」
魅入っていると、薫さんに頭を叩かれた。
「いて!」
「何まじまじと見てんの! もう!」
「す、すみません……それよりも、デートでの告白の件なんですが……」
「な、何?」
薫さんは目を丸くさせ、慌てただした。可愛い。
「俺からも言わせてもらいます。俺と付き合ってください」
頭を下げて返事すると、顔を真っ赤にさせ、俯くと俺に腕を掴んだ。
「い、いいけど……。それじゃ、私に魔王とのキスを見せつけたんだから、私にもキスしてちょうだい」
薫さんを目を瞑り、キス待ちの表情をした。ああ、すっごく可愛い。今すぐしたい。したいのだが……。
「薫さん、せっかくですがから、ここではなく『現実の世界』でキスしましょう。いや、キス以外も……」
薫さんは目を開けると、拗ねたように唇を尖らせた。
「わ、分かったわよ! それじゃ、帰ってとっととするわよ!」
「みんながいる前でする気ですか!?」
「別にいいじゃない!」
「いやー、それはちょっと……」
「問答無用!」
「は、はい……」
薫さんの勢いにおされ、思わず頷いた。
俺と薫さんは操作画面を開いた。後は『ログアウト』の項目をタップすれば、現実の世界に戻る。
「二人とも達者でな」
魔王が俺たちに手を振る。
「ああ、魔王とヴィネも倒されないように注意しろよ」
「ふははは! 脆弱な冒険者など、返り討ちにしてやるのだ!」
元の調子に戻ったヴィネは高らかにそう宣言した。
ビーストファンタジーの世界に住む魔王とヴィネ。
どうか、これから楽しく暮らして欲しい。魔王と部下ではなく親子として。
「それじゃ、また」
こうして、俺と薫さんはログアウトし、ビーストファンタジーの世界を去った。
後日、俺の元にどういうわけか豪華特典という名の『あるもの』が届くことになるのだが、それはまた別の話である。