一人暮らしを始めた僕の高校生活はバラ色でした。 作:チャンドラ=グプタ
「やっと着いたね。優馬くん」
「うん、そうだね」
青葉城公園に訪れた後、俺と瑠夏さんは仙台駅へと戻りJR仙石線に乗った。
最寄り駅から徒歩十五分ほどして、水族館へと辿り着いた。
コンクリート造りの水族館の前では、土曜日ということもあってか、たくさんの観光客が建物の中に入っていくのが見えた。
「それじゃ、ちょっと入場券買ってくる」
「うん、ありがとう」
売り場へと向かい、二人分の入場券を購入する。
「はい瑠夏、入場券。早速中に入ろうか」
「うん!」
瑠夏さんと手を繋ぎ、建物の中へと入った。
水族館の中は薄暗く設定されており、入り口から少し進んだところにはとても大きな水槽が置かれていた。
「うわぁ! サメがいる!」
瑠夏さんは水槽の前まで移動し、目を爛々とさせながら水槽を見つめた。俺も瑠夏さんの横に並び、水槽の中にいる海洋生物達を観察した。
イワシの群が同じ方向に泳ぎ、一方でエイはのんびりとした様子で水中を漂っている。
多種多様な海洋生物が大きな水槽の中で優雅に泳いでいく様はなんだか生命の神秘を感じた。
「優馬くんは好きな魚とかある?」
「うーん、特にないかな。瑠夏は?」
「私はやっぱりペンギンね!」
なるほど、ペンギンか。しかしペンギンは……
「ペンギンは鳥だけどね」
「し、知ってるし! 話の流れでついそう答えちゃっただけ!」
顔を赤くさせ、恥ずかしそうに答える瑠夏がなんだか愛おしくて仕方なくなった。
その後も様々な海の不思議な生き物を見て楽しんだ。
「わークラゲだ! ねぇほら見て、優馬くん! クラゲだよ!」
瑠夏さんはクラゲを興奮冷めやまぬ様子で見つめていた。
俺もクラゲを観察した。
プカプカと水中を漂うクラゲは見ていると心が無になっていくようだ。
俺はふと、クラゲのいる隣のあるカニの水槽を見つめた。
二匹のカニがお互い近くで向き合っているが、じっとその場に止まり動こうとはしない。
カニの近くでは泡がプカプカと発生してはプツンと潰れて消える。
俺はふと、小学校の国語の授業で習った『やまなし』のワンシーンを思い出した。
クラムボンは一体、なんなのか考えたが結局、先生は教えてくれなかったし、正体は今もなお謎に包まれている。
一説によると、クラムボンは泡だと考えられており、俺も泡だと考えている。
まぁ、クラムボンがなんでも構わない。きっと自分がこれだと思うもの、それこそがクラムボンなのだろう。
その後も館内を楽しんでいた俺たちであったが、イルカショーの会場にてたくさんの人が集まっているのが見えた。
「ねぇ、優馬くん。せっかくだしイルカショー見ていかない?」
「うん、いいね。見て行こうか」
瑠夏さんがイルカショーを見たいというので、会場へと向かうことにした。
ベンチに腰をかけるとトレーナーの人が前にやってきた。
「みなさま! これより、イルカショーを始めさせていただきます!」
トレーナーの人は笛をつかってイルカを自分の近くに誘導する。バケツに入った魚を一匹取り出し、高らかにプールへと放り投げた。
イルカは勢いよく水面から飛び出し、3回転しながらジャンプし、口で魚をキャッチした。
「すごい技だね! 優馬くん!」
「うん! すごかった」
トレーナーとイルカの息はぴったりでその後もハイジャンプや輪くぐりなどの技を披露した。
「それでは最後に大技、『ロケットジャンプ』を披露したいと思います!」
トレーナーはゆっくりとプールの中に入っていった。
イルカとトレーナーはお互い見つめ合うと、ほぼ同じタイミングでプールの奥深くまで潜り込んだ。
三秒ほど会場が静まりかえったが、水飛沫を上げながら、イルカとトレーナーの姿が現れた。
イルカは自分の鼻の上に乗ったトレーナーを放り投げるようにジャンプした。
トレーナーの方はイルカのサポートによってさらに高く舞い上がり、宙で一回転した。
「「「おおー!」」」
見事な技に観客は盛大なスタンディングオベーションを送った。
「いやぁ、優馬くん。面白かったね!」
「そうだね」
イルカショーを見た後、俺たちは水族館を後にした。
「ねぇ、優馬くん。この後、ちょっとアウトレットモールに行きたいんだけどいい?」
「うん、もちろん」
アウトレットモールに着いた俺たちは、施設内にあるレストランで昼食を食べることにした。
俺達が入ったのは海鮮料理を扱うレストランで、俺は海鮮丼を注文した。生エビやサーモン、マグロ、イカといった豊富な魚介類がたくさん乗っかっている。
ちなみに瑠夏さんは生マグロ丼を注文した。こちらもまたぎっしりと新鮮な生マグロが乗っかっていてとても美味しそうである。
「いただきます」
俺は醤油を海鮮丼にかけて一口食べた。
脂が乗ったサーモンは豆腐のように柔らかく、白米と一緒に食べると、さらに美味である。
他にも生エビやマグロといった食べ応えのある魚介類の数々の濃厚な味わいに舌鼓を打つ。
「美味しいね、優馬くん」
「うん」
お昼ご飯を食べ終えた後、俺たちはアウトレットモールで買い物をした。
瑠夏さんは楽しそうな様子で買い物を行い、服を数着購入し、俺も帽子と財布を購入した。
「いやぁ、久々にここ来たけど、すごく楽しかった! 優馬くん、そろそろ行こうか」
「うん」
アウトレットモールを後にした俺たちは手を繋ぎながら徒歩で駅へと向かう。
最寄り駅から電車に乗り、仙台駅へと戻った。
東北の玄関口と言われる仙台駅では相変わらず多くの人が行き交い、改札を潜っていた。
西口から外に出ると、外はすでに薄暗くなっていた。
「優馬くん、暗くなって来たね」
「そうだな」
「ねぇ、せっかくだし展望台に行かない?」
「いいね。行こうか」
仙台駅の近くにはAER展望台という場所がある。
仙台屈指の夜景スポットと言われており、東北一の美しさを誇る夜景を展望台から眺めることができる。
エレベーターを使い、展望台まで登った。有名な夜景スポットということもあってかカップルが多く、仲睦まじげに夜景を眺めていた。
俺たちもガラスの前まで移動し、夜景を眺めることにした。
「うわぁ、すっごい綺麗……」
瑠夏さんはうっとりとした様子で仙台市の夜景を眺めた。
高層ビルや建物から漏れる光の数々が、暗闇の中で幻想的な光景を作り出している。
俺も思わず、夜景を魅入っていた。
午前中に見た青葉城公園から見た眺めとはまた一味違う良さがある。
すると、瑠夏さんは俺に腕を掴み、じっと見つめてきた。
「ねぇ、優馬くん」
「何?」
緊張した様子で何かを話そうとする瑠夏さんであった。
一体、何を話すつもりだろうか。
「私と結婚しない?」
突然、瑠夏さんから逆プロポーズを受けた。あまりの衝撃に言葉がでない。
「付き合ってもう五年くらい経つし、そろそろかなって思うんだよね。どうかな?」
瑠夏さんとの結婚。
決して悪いこととは思えない……いや、むしろこんなに嬉しいことは無いといってもいいだろう。
なんたって、こんな美人を人生の伴侶にできるのである。
だが――
「ごめん、瑠夏。結婚はできない」
ドクンドクンと自分の心臓が激しく振動していた。断るのはやはり辛い。
「どうして?」
とても悲しそうな表情をする瑠夏さんを見て、罪悪感に苛まれそうになった。
「俺……やっぱり、あの人のことを忘れられない」
すると、さっきまで俺がいた展望台が消え、あたり一面真っ白な空間へと変わった。
「なるほど。それがあなたの出した答えなわけですか」
俺の目の前に突如現れたのは、ガブリエルであった。
「ガブリエル……ああ、そうだ」
「結婚を受け入れていればさっきの世界で暮らしていけたのですよ? まだ間に合いますがどうしますか?」
「遠慮しておくよ。俺は……今の世界で生きていきたい」
俺が答えると、ガブリエルは意味ありげに微笑んだ。
「そうですか。それでは、次は別の方と結ばれた世界をお見せ致します。よろしいですか? それともハッピーワールドはここで中断しますか?」
「いや……見る」
俺がそう答えると、パチンとガブリエルが指を鳴らした。
黒い扉が現れ、俺はゆっくりとその扉を潜っていく。
「では、ご武運を」
果たして、次の世界は誰と結ばれた世界だろうか。
不安と期待を胸に膨らませながら次の世界へと向かった。