一人暮らしを始めた僕の高校生活はバラ色でした。 作:チャンドラ=グプタ
タイムアウトが終わり、試合は俺たちのオフェンスから再開した。
観客席から観客の「ファイトー!」という声援が聞こえてくる。
内山が素早くボールをフロントコートに運ぶ。
観客は「オーフェンス! オーフェンス!」と大きな声を出し、精一杯応援してくれた。
「優馬!」
内山は俺にパスを回した。パスを受け取った俺はすかさずリングを見る。
「チェック!」
俺をマークする相手の11番がチェックの声を出した。激しいディフェンスに思わずパスを戻そうと思った。しかし――
「攻めろ! 優馬!」
石崎さんが攻めるよう指示を出した。よし、行ってやるか。
一つシュートフェイクを入れると、相手はすかさず反応した。シュートの体勢から咄嗟にドリブルに切り替えて、ゴール下へと向かった。
相手は俺のドリブルに対し、スライドして付いてきた。なかなか厳しいディフェンスだ。
だが、そのまま突っ込んでやる。
俺は強引にレイアップシュートを打とうとすると、相手は俺のシュートのタイミングに合わせてジャンプした。
「打たせるか!」
相手は俺のシュートをはたき落とそうとした。
なら――これならどうだ。
「な……!」
驚いたような声を出す相手。
俺はブロックを躱すべく、アンダーハンドでふんわりとボールを浮かせて打った。
このシュートはプロレイアップと言われるシュート。
ちなみに某バスケ漫画では主人公から『へなちょこシュート』と呼ばれたりする。
俺が放ったプロレイアップシュートは危なげなく決まった。
シュートを決めると、観客が盛大な拍手と声援を送った。
「みんな当たるぞ! オールコートプレスだ!」
残り時間は二分半ちょっと。
石崎さんは勝負所とばかりにフロントコートからディフェンスを仕掛けようとした。
「「「「おお!」」」」
石崎さんに促されるように俺たちはディフェンスを仕掛けた。積極的にボールを奪いに行くが、相手もさすがにプロ。慌てて攻めるような真似はしない。
冷静にボールを運び、ゆっくりとパスを回した。
「チェック! チェック!」「ボールボールボール!」
内山と佐々木が相手のガードにダブルチームを仕掛け、ボールを奪い去ろうとした。しかし、相手のガードは慌てる様子を見せず、冷静にフリーの選手にパスを出そうとした。
ここだ――俺はパスを受け取ろうとする選手に近づいた。
「淳!」
相手のガードはパスを出した。俺はパスコースを読み取り、パスをカットすることに成功した。
「ナイスカット! 優馬!」
前を走っている佐々木にパスを出す。佐々木はボールを受け取ると、素早いドリブルでゴール下まで切れ込み、レイアップシュートを打った。
しかし、後ろから走ってきた相手の選手がブロックに飛び、ボールは相手の手に触れ、シュートの軌道が狂い外れてしまった。
「オラァ!」
走っていた石崎さんが相手の後ろからランニングリバウンドをもぎ取る。
「優馬!」
スリーポイントライン手前で待ち構えて俺は石崎さんからパスを受け取り、シュートを打とうする。
「甘い!」
相手がブロックに飛ぶが、俺はまだシュートを打たない。
「な……フェイクか」
その通り。俺は深呼吸し、スリーポイントシュートを放つ。
ボールは縦回転し、綺麗な弧を描きながら、リングに触れることなく決まる。
これで点差は三点差まで縮まった。
ここで相手がタイムアウトを取った。
「よしよし! いいぞ! 優馬! どんどん積極的にシュートを打っていけ!」
監督がパンパンと手を叩き、俺に声を掛けた。
「はい!」
相手チームの方に視線を向けると、声を小さくして黙々とミーティングをしていた。
この試合終了間際で何か奇抜な策を打ってくるとは考え難いが、とにかく警戒しなければならない。
やがて、タイムアウトが終わり、試合が再開する。相手のオフェンスから始まり、相手はゆっくりとした立ち回りを行った。
シュートクロックが切れる直前。
相手のセンターにボールが入った。
相手のセンターは椎名をゴール下まで強引に押し込み、シュートを決めた。
こう言ってはなんだが、相手のセンター。正直言って、椎名より実力が上だ。
これで点差は再び5点差に広がった。
「ドンマイ! 取り返すぞ!」
テンションが下がり掛けた俺たちに石崎さんが声を掛けた。
さすが石崎さん。こういう時は本当に頼りになる。
俺たちのオフェンス。
内山からボールを貰い、攻めようとドリブルを仕掛けるが、ディフェンスが厳しく、中々抜けなかった。
「ち……」
抜けないと判断した俺は佐々木にパスを回した。そして、佐々木をマークしているディフェンスにスクリーンをかける。
「ナイス、優馬!」
佐々木は俺のスクリーンを利用し、ドリブルでゴール下まで突っ込んだ。
「スイッチ!」
俺をマークしていたディフェンスがマークを切り替え、佐々木にディフェンスする。
そのまま佐々木は構わずシュートを打とうとしたが、相手のディフェンスが二枚ブロックに飛んだ。
「打たすか!」
佐々木は二枚飛んだことでフリーになった俺にパスを出した。
「ナイスパス!」
俺はパスを受け取り、そのままバックシュートを決めた。
これで再び点差は三点差。
「ナイスだ! 当たるぞ!」
石崎さんがフロントコートからディフェンスを仕掛け、俺たちも積極的にボールを奪いに行く。
しかし、相手は相変わらず慌てた様子を見せることなく丁寧にパスを回し、慎重に時間を使ってくる。
もう残り時間は僅かとなっていた。
「くそ……取れない……」
シュートクロックが切れる直前、相手チームの9番が外からシュートを打とうとした。
「オラァ!」
石崎さんが豪快なブロックをかました。
会場が一気に湧き上がる。すかさずルーズボールを内山が拾った。
「走れ!」
内山の声がコート中に木霊する。反射的に俺はフロントコートに走り出した。内山は俺にパスを出した。
『キュ、キュ』というバッシュのスキール音が聞こえてくる。
相手のディフェンスが追っているのだろう。
俺の前方にはディフェンスがいない。チラッとタイマーを確認すると、残り時間は僅かだった。このままレイアップシュートを決めてもおそらく次のオフェンスの機会はこず、一点差で負けとなる。
俺はスリーポイントライン手前で急ストップした。
そして、そのままシュートを打つ――すると、俺の後ろを走っていた相手の選手はブロックに飛んだ。
しかし、相手のブロックはボールに触れることなく、空を切った。勢い余った相手は俺に身体に激しくぶつかった。
ピーーーーーーーーー
激しい笛の音が会場に轟いた。
俺が放ったスリーポイントシュートはクルンとフープを一回転した後、リングに収まった。
「バスケットカウント! ワンスロー!」
一瞬、会場が静まり返り、
「「「「わーーーー!」」」」
と激しく盛り上がった。
「ナイスだ! 優馬!」「よく決めた!」「俺はやってくれると信じていたぜ!」「グッジョブ!」
チームメイト達が次々と俺に賞賛の声を投げかける。
「みんな、安心するのはまだ早いよ。まだ勝負は終わっていない。全力でフリースローを打つけど、もしも外したらリバウンド頼む」
「ああ!」「分かった!」
リバウンドを担当する石崎さんと椎名が元気よく返事をした。
「フリースロー、ワンショット!」
審判が俺にボールを渡した。会場が一気にシンと静かになる。
いつも通りルーティンをこなし、シュートフォームに入った。
とても緊張する。果たして俺はこのフリースローを決めることができるだろうか。
すると、観客席のところで綾女の姿を目撃した。
綾女は目を瞑り、お祈りのポーズをしている。
よし。
深呼吸し、俺は『シュッ』とシュートを放った。
すると、シュートはリングの奥に上がり、ボールは大きく跳ね上がった。
外してしまった――そう思ったがボールはガン、ガンと二回ほどフープをバウンドした後、リングに収まった。
会場が一気にヒートアップする。残り時間は残り二秒。相手チームはボールインし、ブザービーダーを打とうとするが打つ前に、試合終了の音が虚しく鳴り響いた。
試合は見事一点差で俺達、アルベルク東京が勝利した。
やった。俺たちは勝ったんだ……
勝利の余韻に浸りながら整列をした。
試合が終わった後、そのまま俺たちは都内のホテルへと移動し、祝勝会を上げた。
「みんな! 今日はよくやったな! 今日は思いっきり飲んで楽しむぞ! 乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
監督が乾杯の音頭を取り、俺は周りの選手とグラスをぶつけ合った。
『カチャ、カチャ』というグラスとグラスがぶつかり合う心地良い音が響きあう。
ぐびっと一口ビールを飲んでみた。
この世界の俺は成年済みであるため、お酒を飲んでも問題ない。
味は正直言って、あまり美味しくない。なんか苦かった。
しかし、仲間達とお酒を飲むという行為はなんとも言えない幸福を感じた。
祝勝会が終わった後、俺はまっすぐ、自宅へ帰宅した。
鍵を使って家に中に入ると、リビングのソファーに綾女が座っていた。
「おかえり、優馬くん」
俺が帰ってきたことに気が付いた綾女はおかえりと声を投げかけた。綾女は眠いのか虚ろげな瞳をしている。
「おお、ただいま」
俺が返事をすると綾女が俺に近づき、じっと顔を見つめてきた。
綺麗な綾女の顔を見ていると、心臓の鼓動がどんどん速くなってきた。
「ん……」
綾女が俺にキスをしてきた。綾女の香水のような香りが鼻孔をくすぐり、官能的欲求が湧き上がってきた。
お互いの舌を絡ませ合い、ディープなキスを三十秒ほど楽しんだ。
綾女がキスを止めると、ぎゅっと身体を抱擁し、俺の耳元でこう囁いた。
「優馬くん……今日、久々にシたいんだけど……いい?」
「ああ……シようか……」