一人暮らしを始めた僕の高校生活はバラ色でした。 作:チャンドラ=グプタ
「う……ん……」
しばらくの間、気を失っていた俺はテントにいることに気が付いた。
徐々に視界がはっきりとしてくると、花苗が俺の顔を覗き込んでいた。
「優馬さん! 気がつきましたか?」
「か、花苗さん……」
俺はゆっくりと上体を起こした。周囲を見渡すも留衣さんの姿が見つからない。
「無理しないでください! まだ休んでいた方が……」
「留衣さんは? 留衣さんは一体どこに?」
「留衣さんは秋葉原の方に向かいました。マサとの決着をつけにいくって……」
「そ、そんな一人で?」
「はい……」
バカな。いくらなんでも危険すぎる。
留衣さんがいくら強くても敵のアジトに単身で乗り込むなど自殺行為もいいところだ。
「お、俺も行きます!」
俺は立ち上がろうとした。しかし、身体に鈍い痛みが走りうまく立ち上がることができない。
「無茶です! 危険すぎます! ここは大人しくしていましょう!」
「何言ってるんですか! 留衣さんを放っておくなんてできません! 俺は意地でも助けに行きます!」
身体に鞭を打ち、立ち上がった。テントに置いてある木刀を手に持ち、外に出る。
「よし……行くか!」
秋葉原を目指して歩き出そうとした。薄暗かった空は徐々に明るくなり始めていた。
木刀を力強く握りしめ、目的地を目指して歩を進める。
建物は寂れており、完全にゴーストタウンのようでった。
日本の首都である面影をもはや残していない。
前方から何かが近づいてくるのに気づいた。
正気を失ったような表情をし、涎を垂らしながら近づいてくる女性――インフェクティドだ。
幸いにもインフェクティドの数は一人。
これならなんとか俺にも倒せるかもしれない。
木刀を握っている手に力を込めた。
「セイシー! チンコー!」
勢いよくインフェクティドが俺の元に駆け寄ってきた。
感染前はさぞや美人であったであろう、そう思わせるような顔立ちをしていた。
「オラァ!」
近づいてくるインフェクティドの頭を思いっきり木刀で殴りつけた。
インフェクティドは思いっきり倒れ込んだ。
よしいける。
このまま奴の頭に打撃を与えて頭をかち割ってやる。
俺はインフェクティドの頭に狙いを定めて木刀を振り落とした。しかし、
「セイシ、セイシ……」
俺の渾身の一撃をあっけなく片手で防いでしまった。俺が考えていた以上にインフェクティドの戦闘力は高かったようだ。
仮にも俺は運動部であるため少なからず常人よりは強いと思っていたが、普通のインフェクティドよりも戦闘力が低いのだと今更ながら痛感させられた。
「うわ!」
インフィクティドが俺を押し倒してきた。
形勢逆転となり、そのままインフェクティドは濃厚なキスをしてきた。
「んふ……」
みずみずしいキスの感覚に思考が停止する。いつの間にか股間に至福の快楽が流れ出した。
おそらく手コキさせられているのだろう。
なんというイヤラシイ手つきだ。
あっ。
イッてしまった。どんどん頭がボーとしてくる。
その後も幾度となく射精させられ、股間に痛みが走った。
やがて、痛みはおろか感覚がなくなってきた。
俺はこのまま腹上死するのだろうか。
留衣さんを助けることはおろか一目見ることもできず。
なんと惨めな最後を遂げるのだろうか。
死を覚悟した瞬間、『パン』という甲高い発砲音が耳に届いた。
俺をキスしていたインフェクティドはバタンと横に倒れ込んだ。頭部には小さな穴が出来ていた。
「だ、大丈夫ですか! 優馬さん!」
「花苗さん……どうしてここに?」
なんと、俺を助けてくれたのは花苗であった。
「勝手に一人で飛び出していくもんだから心配になってついてきたんですよ! 全く無茶して……早くそのおぞましいの、閉まってください」
花苗は恥ずかしそうに自分の茶色い髪の毛をかき分けた。
テントで散々見ていたくせにそんなに恥ずかしいものか。
俺は自分の局部をしまい、立ち上がった。
うぅ……股間がまだヒリヒリする。
「花苗さん。悔しいけど俺が助けに行ってもほとんど留衣さんの役にはたちないと思います。けど、留衣さんを助けに行きたい。だから……一緒に付いてきて欲しいです」
俺は深々と頭を下げて花苗にお願いした。
「仕方ありませんね。私も日頃から留衣さんには感謝していますし、いいでしょう。私も付いて行きますよ」
「あ、ありがとうございます!」
こうして、俺と花苗は共に留衣さんがいるところへと向かうことにした。
秋葉原に向かう途中、何度かインフェクティドに遭遇したがその都度花苗と協力して撃破していった。
花苗と遭遇してから約一時間後、ようやく秋葉原の電気街へと到達した。
秋葉原――今でこそオタクの聖地として知られる秋葉原であるが、第二次世界大戦後の日本において、闇市として発展していた。
ジャンク品及び家電量販店が中心の電気街であった秋葉原であるが、時代の流れの共にゲームショップ、アニメショップ、アイドル劇場などが出来上がり、現在の秋葉原が出来上がった。
「ようやく着きましたね……」
花苗が警戒した様子であたりを見渡した。アニメショップやゲームショップなどの建物はすでに寂れており、この時間ならいつも賑わっているオーディオ会館には全く人気(ひとけ)がなかった。
「そうですね。留衣さんは一体どこにいるんでしょうか」
俺がそう呟くと同時に大きな発砲音が耳に届いた。
「優馬さん! 今の音!」
「ええ、行ってみましょう!」
俺と花苗は走って発砲音が聞こえた方向へと向かった。
中央通りの交差点ではたくさんのインフェクティドが密集しており、留衣さんが必死に応戦しているのが見えた。
「はぁ! はぁ!」
留衣さんは日本刀で次々とインフェクティドの首を切り落としていった。
「私たちも助けに行きましょう!」
花苗が留衣さんを救いに向かった。俺も花苗の後を追うように向かう。
「留衣さん! 助けに来ました!」
花苗が留衣さんに声を掛けた。
すかさず二体のインフェクティドの脳天に鉛玉をぶち込む。
「留衣さん! 大丈夫ですか!」
俺は近くにいたインフェクティドを木刀で殴りつけた。
「花苗ちゃん! 優馬くん! ど、どうしてここに?」
「説明は後です! 今はここのインフェクティドを殲滅しましょう!」
「ええ! そうね!」
三人でインフェクティドと交戦し、なんとか全て倒しきることができた。
ほとんどは留衣さんの功績であるが。
「な、なんとか倒せたね……それよりどうして二人ともここに来たの?」
留衣さんは額の汗を手で拭った。息を激しく切らしており相当疲労しているようだ。
「留衣さんが心配になったからですよ。黙って出ていくなんてひどいですよ」
「優馬くん……ありがとう」
突然、前の方から『パチパチ』という拍手の音が聞こえてきた。
「いやぁ……まさか人間がここまでやるとはね。驚いたよ」
俺たちの前に颯爽と現れたのは病人のように色白い肌をした銀髪碧眼の少女であった。
その少女は白を基調とした着物を身に纏っており、浮き世離れしたような美しさとどことなく儚さを感じさせた。
「マサ……」
留衣さんが今まで見たことのないような険しい表情で少女を睨みつけた。
「マサ? こいつが……」
留衣さんから話は聞いていた。
マサ――こいつがこの世界をインフェクティドだらけにした張本人。
マサと目が合った。すると、奴は蠱惑的な微笑みを浮かべた。
「お前、中々良い男だな。私が直々に貴様を気持ち良くしてやろう」
気持ち良く……いや、それは間違いなく死を意味する。
「優馬くん下がってて!」
留衣さんの指示を受け、俺は一歩後ろに下がった。
「ここであなたを殺すわ!」
刃をマサに向け、宣戦布告した留衣さんは地面を強く蹴り込み奴を切りつけた。
「うふふ……久しぶりね」
「あ、あなたは……どうしてここに!?」
留衣さんの前に突如現れた人はあっさりと斬撃を手に持った鉄扇で受け止めた。
茶色い髪をし、赤いメガネを掛けた人物。
間違いなくその人物はキンキィ梅田の大家さん――梅田薫さんであった。