一人暮らしを始めた僕の高校生活はバラ色でした。 作:チャンドラ=グプタ
「か、薫さん……」
俺たちの前に現れたのはなんと薫さんであった。
驚きのあまり言葉が出なくなりそうであった。
「久しぶり……ってほどでもないか。このゲームの中では時間が立っても現実の世界じゃ一日も経過していないみたいだしね」
その言葉を察するに俺と同じくゲームプレイヤーとして参加しているようだ。
このゲームの世界における薫さんではないのだろう。
「薫さん、どうしてマサと一緒に?」
「どうしてって? それは私がこの世界で生きていくことを決意したからよ」
「え? それは一体、どういう……」
薫さんは俺が質問する前に鉄扇で斬りかかってきた。
「危ない! 下がって!」
俺は留衣さんの言う通り、一歩前に下がった。『カーン』という金属と金属がぶつかり合う甲高い音が響く。
鉄扇での斬撃を留衣さんが日本刀で防御してくれた。
「留衣……あなた、やっぱり強いわね。思い出すわ。ビーストファンジターのこと」
「懐かしいですね。よく一緒にプレイしましたね……」
その後、留衣さんと薫さんによる斬撃の打ち合いが続いた。
素早い留衣さんの攻撃を薫さんは鉄扇と素早い身のこなしで防いでいった。
「留衣さん! 援護します!」
「ちょっ……ま……!」
止めるまでもなく花苗が薫さんに狙いを定め、発砲した。
しかし、銃弾は薫さんに当たることなく、横から現れたマサの肩に命中した。
「薫の邪魔はさせんぞ。お前ら二人は私が相手をしてやろう」
マサがゆっくりと俺たちに近づいてきた。
一歩づつ近づいてくるたびに異様なプレッシャーが感じられた。
身体に悪寒がし、冷や汗がとめどなく流れてくる。
「震えてるのか? 当然だ。私は地球人とは次元が違う存在。お前らとはもはや生物としての格が違うのだ」
銃弾が当たった肩の傷が一瞬にして回復してしまった。
「くそ! この、この!」
パンパンと花苗はひたすらマサの身体に銃を撃ち込むも全く意を介した様子を見せず、俺たちとの距離を縮めてきた。
「終わりだ」
「ひ!」
マサは腕を振り上げ、鉄扇で花苗の身体を切り裂こうとした。
やばい、このままでは花苗が殺されてしまう。
「やめろ!」
俺は木刀でマサに応戦しようとした。
しかし、木刀はマサの鉄扇によってあっさりと斬られてしまった。
「な……」
「お前は黙って見ていろ」
頬に強烈な痛みが走った。殴られたと認識するまで少し時間がかかった。
背中をコンクリートの柱に激しく打ち付けてしまった。
「ひ……た、助けて……」
花苗が泣きそうな表情で俺を見つめた。
しかし、脚がガクガクして動かない。
「や、やめろー!」
「マジックバレット!」
聞いたことのあるような声が耳に届いた。
「うわ!」
見たことのある強烈な黒い魔弾がマサに命中した。
まさか……けど、あいつしかいない。
「随分と無様だな。ユウマよ」
褐色肌、黒いツノ、尻尾を生やしたその人物は間違いなくヴィネであった。
「ど、どうしてここに?」
「ちょっと、優馬くん!? 大丈夫?」
なんと、ヴィネの隣には未知瑠さんもいた。
「未知瑠さんも……どうしてここに?」
「うーんとね。ヴィネちゃんと一緒にクエストしていたら時空の裂け目みたいなものに吸い込まれてさ、ここに辿り着いたんだ」
ビーストファンジターの世界とこの世界が通じたということか?
ゲームの開発元が同じだから起きたのだろうか。
「それより、今直してあげるね!」
「え?」
「スキル、発動。『癒しの舞』!」
未知瑠さんが華麗に踊ると、見る見るうちに俺の身体の傷と痛みが治った。
「す、すごい……一瞬で治った」
ここでもビーストファンジターのスキルを使うことができるのか。
「おい、ユウマよ。このいけ好かない娘は私たちが相手をしよう。お主はそっちを助けてやれ」
ヴィネが留衣さんの方を指差した。身体中傷だらけで大分疲弊しているようであった。
「留衣さん!」
俺は急いで留衣さんの元に駆け寄った。
「終わりよ!」
薫さんが攻撃しようとするのを止めるべく、留衣さんの前に立った。
「やめてください! 薫さん!」
薫さんはピタッと動きを止めた。
「優馬くん……」
「薫さん、どうしてこんなことを……」
薫さんは腕を下ろし、ものすごい形相で俺を睨んできた。
「私、見てたの。優馬くんが妹さんとエッチしてたの……」
「え……」
み、見られていたのか。
全く気が付かなかった。
「すごい、気持ちよさそうだったわよね。優馬くん」
「す、すみません……」
「私とどっちが気持ちよかったかしら?」
怖い。さながら今の俺は蛇に睨まれた蛙のようだ。
しかし、悪いのは圧倒的に俺の方だ。
弁明の余地はない。
「えっとその……」
薫さんは呆れたようにため息を吐いた。
「もういいわ……ここで殺してあげるわ! 覚悟しなさい!」
「分かりました」
「へぇ……覚悟を決めたのかしら?」
「はい」
「ちょっと! 優馬くん、何言ってるの!」
留衣さんが俺の肩を揺さぶってきた。
「留衣さん。伝えておきたいことがあります」
「え、何……?」
「俺は別の世界からやってきました。そこにいる薫さんもです」
「え……どういうこと? 頭おかしくなっちゃったの!?」
まぁ、いきなりこんなことを留衣さんに言っても戸惑うだろう。
しかし、それでもハッキリと伝えておかなければならない。
「この世界の留衣さんも……とっても素敵です! けど、やっぱり俺は……」
俺は薫さんの方に向かって走り出した。
「薫さんが好きです!」
『ヒュッ』という空気を切り裂く音と共に首に強烈な痛みが走り、徐々に意識が遠くなっていった。
俺と留衣さんと結ばれるはずだったルートの世界はこれにて幕を閉じる。
「どうでしたか? 優馬さん」
気がつくと、俺は何もない白い空間にいた。
俺の目の前には柔和な笑みを見せるガブリエルが椅子に座っていた。
「ガブリエル……どうでしたかって。見ての通り殺されたよ」
「まさか薫さんがあなたと妹さんの性行為を見ていたなんて思ってませんでしたか」
「そりゃあ、まぁ……」
容赦ない言葉を投げかけるガブリエルに俺は思わず顔を伏せた。
すると、カブリエルは立ち上がり俺の肩を軽く叩くと、
「やり直したいですか?」
と訊いてきた。
俺は顔を上げた。透き通るような蒼い瞳が俺を覗き込む。
「で、できるのか?」
「はい。ですが、チャンスは一回切りです。失敗は許されませんよ? もしも失敗したら、あなたは灰色の高校生活を送ることになるでしょう。それでもやり直す覚悟はありますか?」
「ち、ちなみにやり直さなければどうなるんだ?」
「私が薫さんの記憶を書き換えます。とりあえずはあなたと妹さんが性行為しているのを見たことは綺麗さっぱり忘れるでしょう。やり直さなくても一応は楽しい生活を送ることができると思います」
「そうか……でも、やり直すよ」
躊躇わずに俺が答えるとガブリエルは大きく息を吐いた。
「妹さんのあなたへの愛はかなり大きいですよ? ちゃんと拒否することができますか?」
「ああ、必ずやってみせる。色んな世界を見てきたけど、やっぱり俺は……薫さんと結ばれたい」
「分かりました。それでは、ご健闘をお祈りします」
夢の中にいたような意識が徐々に現実世界に戻っていった。
俺はベッドの上で寝転んでいた。ゲームをするためにつけていたVRゴーグルは身につけていなかった。
スマホに電源を入れ、日付を確認した。
今日の日付は4月25日。
妹が突然、やってきた日である。
「ほ、本当に過去に飛んだんだな……」
これから俺は妹からの誘惑を徹底的に拒否らなければならない。