一人暮らしを始めた僕の高校生活はバラ色でした。 作:チャンドラ=グプタ
愛子が家にやってきた日からすでに一ヶ月あまりが経過した。
あの日の夜の後、俺は愛子と共に実家に帰省し、地元でゆっくりと過ごした。
東京に戻ってから一ヶ月あまりが経過し、今は六月の上旬である。
梅雨の時期に入り、雨が続く日が多くなってきた。
「いやー、今日も部活大変だった。足が痛い……」
「そうだね。石崎さん、最近すっごく張り切ってるしね」
部活の帰り道。俺は綾女と一緒に歩いて帰っていた。
歩いている途中、綾女はなぜか立ち止まった。
「綾女?」
「優馬くん、実は優馬くんに見せたいものがあるんだ」
綾女は鞄からガサゴソと何かを取り出そうとしていた。
「見せたいもの?」
「うん……あった!」
綾女が取り出したのは薄い本であった。表紙にはやけに顎の鋭い男が二人裸で抱き合っている絵が描かれている。
注意深く観察すると、誰かに似ていることが分かった。
まぁ、大分美化されているのだが。
「おい、綾女。まさかそれ……」
「そう! 優馬くんと石崎さんのBL本だよ! 今度のコミケに出品してみようと思うんだ!」
綾女は鼻息を荒くながら説明した。
こいつ、なんというおぞましいものをビルドしやがったんだ……
ハザードレベル7の危険物質である。
「おい、それをよこせ!」
「ダメだよ! これは昨日徹夜で完成させたものなんだから! それにすでにデータをクラウドに保存してるから燃やしても何度でも蘇るよ! ラ◯タのようにね!」
「このやろう! バ◯ス! バ◯ス!」
綾女としばらくじゃれあった後、俺たちはキンキィ梅田の302号室に向かった。
今日、俺達は留衣さんの家に来るように言われていたのである。
その理由はと言うと――
「「「ハッピーバースデー! 優馬くん!」」」
『パン』というクラッカーの音が部屋に鳴り響いた。
留衣さんと瑠夏さん、それに薫さんがクラッカーを持って暖かく出迎えてくれた。
テーブルには大きなバースデーケーキと美味しそうな料理が並べられていた。
「留衣さん、瑠夏さん……薫さん。ありがとうございます」
「私からも改めておめでとう。優馬くん」
「ああ、ありがとう綾女」
「さぁみんな! 今日は私の大事な彼氏の誕生日だから楽しく過ごしましょう!」
薫さんはケーキにロウソクをさし、炎を灯して部屋の照明を落とした。
ケーキに刺さっているロウソクの数は16本。
俺はめでたく十六歳を迎えた。
「「「「ハッピーバースデートーユー! ハッピーバースデートーユー! ハッピーバースデーディア……」」」」
「優馬く〜ん♫」
おお、薫さん。結構美声だな。
カラオケとかめっちゃ得意なんじゃないだろうか。
「「「「「ハッピーバースデートーユー! おめでとー!」」」」
四人が「わー!」と拍手し、盛り上がった。
俺はケーキに顔を近づけ、息を吹きかけロウソクの火を消した。
「さて、それじゃみんな食べましょうか!」
薫さんはナイフでケーキを人数分に切り分けた。
「ところで優馬くん! 十六になった感想は?」
「えっと、なんかもう十六なんだなって感じですね」
「もーう! 優馬くんったら! 二十歳(ハタチ)超えてる私には辛い言葉だよ! これからもよろしくね、優馬くん!」
「こちらこそよろしくお願いします、留衣さん!」
すると、瑠夏さんがコンコンと俺の肩を突いた。
「ねぇ、優馬くん。もしも私とお姉ちゃん。付き合うならどっちにする?」
瑠夏さんが究極の二択を聞いてきた。
「えっと、そうですね……どちらも素敵ですけど、どうしても選択しなければならないってなると瑠夏さんですね」
留衣さんと結ばれる世界に行ったらゾンビだらけだったしな。
「えー!? 優馬くん、ひどーい! もしも私が優馬くんの彼女だったら優しくしてあげるのにな?」
留衣さんは可愛らしくウィンクした。
とてもキュンとくる仕草でくらっと来そうになる。
「ちょっと、留衣! 私の優馬くんを誘惑しちゃダメよ!」
「ねぇ、優馬くん。今度、佐々木くんとのBL本書くから読んでくれる?」
「読むか! そもそも、俺を題材にしてBL本を作るのはやめろ!」
ご飯を食べた後、俺たちは『ビーストファンタジー』をプレイした。
アップデートされたビーストファンタジーの世界を五人で目一杯楽しんだ。
「こいつら……超鬱陶しいわね! 私の魔法で殲滅しちゃうわ! スキル、発動! 『エクスプロージョン!』」
「わー! 薫さん! こんな洞窟で魔法使わないでください! 全滅しますよ!」
「なら、ここは俺に任せてください! スキル発動! 『インビジビル』!」
透明人間になるという世の男性全員が欲しいであろうスキルを発動し、二体のゴリラのモンスターを撃破した。
「やるじゃん! 優馬くん!」
「いえいえ、それほどでも!」
俺は瑠夏さんとハイタッチした。
「よし、私も負けてらんないね! 『エレキランス』!」
「留衣さん、私も助太刀します! 『高速移動』!」
留衣さんと綾女はモンスターに果敢に立ち向かっていった。
「いやー、楽しかったですね!」
「そうね。あら、もうこんな時間。今日はもう遅いし、お開きにしましょうか」
「それじゃ、最後はお二人の熱いキスで締めましょう!」
綾女がここぞとばかりにキスをするよう促した。
「えー? みんなが見てる前でそんな、恥ずかしいわよ」
「「「キース! キース!」」」
三人が手拍子し、キスをするように囃し立てた。
俺は真っ直ぐ、薫さんを見つめる。
薫さんは照れたような表情でサラッとした黒い髪をいじりながら俯いた。
とても可愛らしい仕草でグッときた。
「薫さん……」
「優馬くん、これからもよろしくね」
チュッと、薫さんの唇に自分の唇を重ね合わせた。やはり、薫さんとのキスは落ち着いて心地良い。
「「「ヒュー! ヒュー!」」」
「ちょっと、ちょっと! 三人ともからかわないの! それじゃ、みんな。また一緒にゲームしましょうね!」
こうして俺のためにわざわざ開催してくれた誕生日会はお開きとなった。
俺はひとり部屋に戻り、物思いにふけるながら窓から空の景色を眺めた。
空にはたくさんの星が浮かんでいた。
「都会の空も……結構綺麗なんだな」
上京し、一人暮らしを始めてから毎日が新鮮でとても楽しかった。
美人の女性達と一緒にゲームして、エッチなことをして。
本当に……
「一人暮らしを始めた僕の高校生活はバラ色でしたよ。神様……」