※この作品はR-18です。

【闇】東方短編集   作:slnchyt

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膨腹
丸いイシ、食べられるイシ


―丸いイシ、食べられるイシ―

 

いつもの湖畔には、いつもの相手がいる。わかさぎ姫。草の根仲間。昔はカジったりもしたけれど。今は親友だ。少なくとも私はそう思っているし、間違ってもいないと思う。…しかしなんだか、姫の方は親友と他所事を使い分けている気がするのは、気のせいかしら?

 

…けれども。今日は姫の姿はない。どうしたのだろう。いつもいつでもこの辺りにいるはずなのに。イシ探しに夢中で遠出したのかしら。しばし待つ。しばし。しばし。…本当に何処へ行ったのだろう? 潜って探す訳にもいかない。泳ぎは得意ではないのだ。

 

その時だった。バシンと水面から飛び出した影。あれは私がカジったシルエット…そうだ、姫が帰ってきたのだ。「ごめんね、ちょっと捗っちゃって。…待った?」岸に乗り上げた姫の腹には、ずた袋一杯のイシを抱えていた。光るもの。歪んだもの。透き通ったもの。見るからに大漁に違いない。

 

「待ってない、待ってない」姫が無事ならそれでいい。「…安心したら、おなかがすいてきちゃったな」そういえば、朝から何も食べていない。すぐにおさかなにありつける予定だったから、ギリギリまで腹を空かせていたんだった。

 

「それならいいものが」おさかなかな?「はい、これ。食べられるイシ」…はい?「これを食べるの?」スイと差し出されたのは、実際イシだ。角度を変えてもイシ。覗き込んでもイシ。手のひらサイズの重い込みストーンに見える。…見えるというか、どう考えてもそのまんまでしょう、コレ。

 

わかさぎ姫のイシへの情熱は覚えるほど聞かされたが、食べられるイシなんてものは聞いた事がない。気付けば傍らに山と積まれていたそれは、如何にも食用に適しているようには思えない、ただのイシだ。摩耗した、なめらかなイシ。姫がよく川底で拾ってくる"スカ"にも似ていた。

 

「はい、口を開けて」嫌だ。開けたら捻じ込む気でしょう。「開けてって。絶対美味しいから、ね。――私は食べた事はないけど」食べてみてから言ってください。食べて。いやだ。食べて。いやだ。…不毛なやりとりに飽きてきた私は、込み上げる眠気に大きなあくびを――あくびを?

 

「もががっ!?」姫の手が意外な力で口を固定する。私の意思に反し、萎びた胃袋は押し込まれる石を快く受け入れた。ずしりと感じる重みに比例して、鳩尾辺りがずい、と迫り出し始める。苦しいのは僅かな間だった。胃袋へ落ちる小さな音。コツを掴めはするするとイシは流れ込んでいく。

 

膨れ上がる位置が次第に下がっていく。やがてはこれ以上は拡がれないとばかりに、腹全体がどんどんと膨れ迫り出し始めた。私は戸惑っていた。恐ろしいほどのイシを受け入れる胃袋にも。素面でそれだけの量をねじ込み続ける姫の意図も。わからない。わからなくても、イシは次々に放り込まれる。

 

「はぁ、はぁ…もういいでしょう、姫…」酷く息切れがする。気持ちが悪い。身体の中がめちゃくちゃに圧迫されているせいだろう。先の山は傍目にかなり崩れていた。それでもまだ、もう一人の被害者を出すだけの量は軽くあるだろう。「そうね」姫が手を放す。…うう。顎が外れるかと思った。

 

「安心して。少しずつ消化されて出ていくから。…たぶん」たぶんかあ。…姫もいかがです? 食べられるイシ。「私は遠慮しておくね」否、否、そうはいかない。張り詰めた腹を苦労して抱え、私は姫の方へ歩む…いや、倒れ込む。姫はこれを避けようとしたが、陸の上ではそうもいかない。

 

「むぎゅう!」姫は珍妙な鳴き声を上げた。私の腹に潰されたのだ。どれだけ体重が増えたかはわからないが、これであなたは逃げられない。「さあ、どうする? このまま潰れるか、イシを食べるか!」腹の下でもだえる感覚。ふふふ。意地を張れば本当に潰れてしまうだろう。

 

「わかった。食べる…」勝った。ほくそえみながら、腹を持ち上げてやる。「さあ、おあがり。遠慮なく」「い、嫌ぁ…」美味しいですよ。ええ。満たされる事請け合いです。「…むぐぐ!?」苦しいのは最初だけ。そう、最初だけ。ふふふ…

 

◇◆◇◆◇◆

 

げふぅ。げふぅ。胃袋から追い出された空気が漏れる。私だけではない。姫のそれも、湖へ不可思議な音を響かせている。積み上がっていたイシは、遂にその役目を終えたとばかりに、そのほとんどが胃袋へと消えてなくなっていた。まだ残ってはいる。まだ。いつまであるかは時間の問題に思えた。

 

「もう無理、食べられないよお…」しきりにげっぷを繰り返しながら、姫は懇願する。すらりとしたフォルムは今や、遠に聞くアザラシめいてぱんぱんに張り詰めていた。…よし、もう少しいけるな。手に取ったイシは大きい。わざと選んだ。腹一杯になるがいい。そのくらいは許されるはずだ。

 

小脇に姫を抱え、無理矢理口を開かせてイシを捻じ込む。喉を通り、食道を抜け、胃袋がぐい、と膨らむのがわかる。感触がそれを伝えている。姫は息を荒げながらも、私の腹に抱きついている。…もう少し、食べてもいいかな。胃袋がこなれてきたのか、今の私は今以上に膨らめるようだ。

 

イシを乱雑に掴み、喉に放り込む。飲み込んだそれが胃袋を僅かに、しかし確かな圧力で膨らませる。姫にも伝わっているはずだ。下を覗くと、姫は頬を赤らめながら、自分の腹を、そして私の腹を撫でさすり、求めるように身体を押し付けていた。押して、撫でて、押して、撫でて。

 

「すごく、いい…」どうやら姫は、腹を膨らませるのがとてもお気に召したらしい。変わった趣味だ。…お互い様か。姫の興奮に反比例するように平静を得た私は、姫の腹を慰撫しながら、この膨れ上がった腹をどうしようかと考えていた。…本当にどうしよう。これって元に戻るの?

 

…それにしても、喉が乾く。乾いたイシばかり腹に詰まっているのだ。水を欲するのも当たり前かもしれない。丁度いい所に姫のバケツがあった。膨れ上がった腹を持て余しながら、なんとか水を汲む。飲む。飲む。…飲み干す。

 

まだだ。まだ足りない。私は幾度も水を汲み、その度にバケツを飲み干した。まだだ、まだ、まだ。横たわった姫も湖からガブガブと水を飲み続けていた。イシとイシの隙間を埋めなければならないと。強迫観念、或いは欲望のままに、水を飲み続けた。

 

「もう動けない…」やがて気が済むまで湖を減らした私は、伏した姫を苦労して傍らに引き上げる。大量の水を加えた腹は更にその膨らみを増し、私も、姫も、硬く硬く迫り出していた。「へへぇ…」姫の手が自分の腹を撫でさすっている。もはやフグめいて膨らんだ身体を、愛おしく思うように。

 

「いいよ…」再び腹を押し付けてくる。私も姫を押し返す。腹は形を崩さずに、二人の圧力を伝え合う。どうしようもなく苦しいけれど、私達はそれ以上に、どうしようもなく興奮していた。押す。押される。押す。押される。永遠のループ。喉元まで水が上がってきても、構わず二人、押し合い続けた。

 

◇◆◇◆◇◆

 

「この間だけど、あんたら何してたの」「えっ」

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