※この作品はR-18です。

【闇】東方短編集   作:slnchyt

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素敵な、感触

―素敵な、感触―

 

まだ薄暗い中、弁当を作っていた。私の為ではない。あの人の為だ。顔がにやける。もし誰かに見られていたとすれば、それはもう一端の不審人物である。手早くそれを詰め、荷物の中に忍ばせた。あなたは今日も食べきってくれるだろうか。私はしめやかに食堂を抜け出した。

 

私はその時の事を思い出していた。私が狂ってしまったあの日。出会わなければ、出会えなければ、或いはこんな風にはならなかった気がする。しかしもう、それはそうなってしまった。今更どうにもならないのだ。だから私は、こんな事をする。――素敵な事を、続けている。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

それはもう、大分前の事だ。

 

所用で、買い物に来ていた。烏天狗側の商店は、華美だ。ショーウインドウには可愛らしい衣服や道具、甘いものが並び、買われるのを今か今かと待っているようだった。帯剣した私の姿はどうしようもなく浮いている。さっさと身の丈にあった場所へ行こう。ふと、向いた側に看板が見えた。

 

ケーキバイキング。私には縁のないものだな、と通り過ぎる。そのつもりだった。そこから出てきた思い人――一方的かもしれないが――の姿に、目を奪われてしまった。はたてさん。幾人かの仲間と別れ、私の方を見た。私の――その、大好きな――姿が、駆けるように近付いてくる。

 

私の隣についたはたてさんは、私の背中を叩いた。いつもより遅い。何か苦しそうだな。「苦しそうではありませんか?」「ちょっと食べすぎちゃって」実際、内から押し出されたシャツの下は膨らんでいた。スカートが下にずり落ちている。行き場のないおなかを支えるように。

 

「これから一緒に行かない?」「…すいませんが」「そっか、仕事だもんね」はたてさんはそっとおなかを撫でた。「また今度遊ぼうね」私が頷くと、はたてさんは歩き去った。足取りはやはり、何処か苦しげだった。私は手早く仕事を済ませた。一度だけ振り向いた。一度だけ。

 

その時は何とも思わなかった。何とも。…ねぐらに帰った私は、寝台の上でどうしようもなく悶えていた。理由はわかっていた。はたてさんのおなかだ。膨れたそれを見たからだ。こんな感覚は初めてだった。何故それに魅力を感じるのかはわからない。わからないまま、朝が来た。

 

―――

 

  ―――

 

「お弁当、交換しない?」たまたま公園で出会ったはたてさんは、そう提案して、笑った。私も何の気もなくそれを承諾した。尤も、私のそれは弁当とも呼べぬ握り飯の塊だったが。「こんなのでも良いのですか」「たまにはおにぎりも食べたいなって」そういうものか。恐らくは。

 

はたてさんの弁当は如何にも女子、という感じだった。肉や野菜がふんだんに使われている。弁当箱は、相応に小さい。これでは足りない気もしたが、まあ夕食までは持つだろう。そう思いながら目の前を見る。握り飯は半分ほど減っていた。…中々食べるものだ。

 

「ふわぁ、苦しー…」苦しい。そうだ。あの時のそう言っていた。――隣を凝視する。はたてさんのおなかはあの時のように――いや、それ以上に膨らんでいた。茶を飲む。咀嚼する。気のせいではない。僅かずつそれは膨れている。私の中で、何かが破裂したようだった。

 

やがて握り飯はすべて消えた。「また交換しようね」手を振るはたてさんを見送る自分は、感情を処理できず、戸惑っていた。何がおかしい。弁当をただ食べていただけじゃないか。食べ過ぎればおなかだって膨らむ。自明の理だ。ならばそれに何故、余計な考えがひっかかる――?

 

―――

 

  ―――

 

「…見てこれ、大変な事になってる」…あれから少しして、私の視線が気付かれたのか、今ははたてさんの方からおなかを見せつけてくるようになっていた。私は背面に周り、それを撫でる。そうしていいよ、と許可したのもはたてさんだ。「椛のおにぎり、美味しいよね」撫でる。撫でる。

 

世辞ではないのはわかっていた。ちょっとした悪戯のつもりで、量を増やしていった。それは私の――いや、或いははたてさんにも想像できない効果を上げていたかもしれない。増やす度にそれをぺろりと平らげるのだ。明らかに胃が大きくなっている。私は、腹の奥を燃やした。

 

おなかは確実に硬くなっていた。撫でる。そして押す。確かな硬さがそれを押し返す。小さなげっぷがこぼれた。「いじわる」私は慌てて手を離した。はたてさんはその手を取り、自分のおなかに押し付けた。「これなら、いいよ」私は半ば夢中になってそれを撫で回した。

 

周囲からすれば奇妙な行為ではあるが、そもそも大して人はいなかったし、傍目にはイチャイチャ――私自身はそんなつもりはないのだが――しているようにしか見えなかっただろう。あんのじょう、今日は他に誰もいない。はたてさんは立ち上がり、私の手をずり上げた服の中に入れた。

 

私は動転していたに違いない。はたてさんはクスクス笑っていた。直に肌を触る感覚が私を現実に引き戻した。こんな事になったのなら――もう、やるしかないのだ。私は貪欲だから、そうする。私は全体を擦り上げた。背中の向こうではたてさんがどんな表情をしているかは、わからない。

 

下から持ち上げるようにおなかを抱え上げた。そういう表現が似合うほどにそれはどっしりと存在を主張していた。私はおなかを落とし、そして抱えた。息を吐く音がした。胃の辺りを撫でまわした。ここで消化されるのだ。そこは全体が円形とは呼べなくなるほどに迫り出していた。

 

はたてさんが手を掴み、外に出した。ずり上げたそれをしまい、私にそっと抱き着いた。「またね」――またね、とはどういう意味だったのか。またここで弁当を食べようという事か、それとも――今の続きをしようと、そう言う事だろうか。…私は軽く頭を抱え、息を上げた。

 

―――

 

  ―――

 

食事に金を使うようになった。弁当の中身は大きく変わった。私が食べる訳ではない。はたてさんに渡すのだ。一つだけ、粗野な握り飯を添える。普通ならこれ一つで一食賄えるようなものだが、今のはたてさんにとっては恐らく前菜に過ぎない。今日こそは、苦し気な顔を見たい。

 

わくわくしていた。自分でもわかる。用意したそれは私でも食べきれるか怪しい代物になった。これをはたてさんの中に詰め込むのだ。腹の中が熱くなるのを感じる。小さな身体の何処にそれが入るのだろう。私は自分の腹を撫で、そして空を撫でた。にへら、と笑いが零れた。

 

―――

 

  ―――

 

「ふー、ちょっと苦しくなってきたかな…」はたてさんはげっぷをした。その時、頬を赤くするのを私だけが知っている。テーブルの上には半分ほど残った私の弁当と、同じく半分くらい減ったはたてさんの弁当が広げられていた。最近は時々、私の分まで食べさせている。

 

背面に周り、胃の辺りを撫でた。おなか周りが大分太くなってきたように思う。タイトなシャツがぴちぴちだ。スカートの位置も下がっているように見える。「みんなから太ったね、なんて言われるの。…そんなに太ったかなぁ?」服の下に手を入れる。抵抗はなかった。

 

遠慮のない手がはたてさんのおなかを撫でた。「…少し、太ったかもしれませんね」少しどころではない事は自明だった。こんな生活を続けていれば、当然、太る。何kg、いや…十何kg増えたのだろう。表面はやわらかい。しかし胃袋は存在を強く主張し、硬く硬く膨らんでいるように思える。

 

身体全体にも、如何にも柔らかそうに脂肪がついていた。顔が少し丸くなった。胸が大きくなった。手足も若干太くなってきたように思う。見る人が見れば、確かに肥満と言っても良いだろう。しかし私には、それすらも愛おしく感じられた。はたてさんが大きくなるのだ。そう、大きく。

 

「今度、服のサイズ二つくらい上げようかなって思ってるんだけど、…大きすぎかな?」もう半分を平らげながら、はたてさんは苦笑いした。「そんな事ないですよ」このままだとその内、脱ぎ着にも苦労することになるだろう。…張り詰めたその眺めも悪くはなかったが。

 

「食べさせてあげますよ」私は弁当を手に取り、箸でそれを近付けた。もっと食べてほしい。もっと胃袋を一杯にしてほしい。異常な性癖が私を捕らえていた。食べさせてどうする? 太らせてどうする? そんな事は考えなかった。食べてほしい。太って欲しい。私好みに、なってほしい。

 

よだれが垂れた気がする。息が上がった気もする。頬もそうだ。今の私は正気ではなかった。口が見える。接吻するのは私ではない。食べ物だ。砕かれたそれが喉を通る。膨れ上がった胃を無理矢理に膨らませる。はたてさんのおなかが更に更にと大きくなる。それは素敵だ。素敵な事だ。

 

口が開いた。ここぞとばかりに卵焼きを――しかし優しく、押した。はたてさんの口がそれを受け取った。私はその行為にすら酷く興奮していた。箸を引く。次は何を食べさせよう。箸が迷う。そうだ、肉にしよう。これはあなたの血となり肉になる。さあ、口を開けてほしい。口を――

 

「――椛ちゃん、私にたくさん食べさせようとしてるでしょ?」

 

弁当を取り落としそうになった。はたてさんがそれを受け止め、肉詰めを一つつまんで食べた。如何にもハイカロリーなそれを、何の抵抗もなく口にするのだ。私は激しく取り乱しながらも、腹の中がどうしようもなく熱くなるのを感じた。「えへへ、わかってたよ。そうしたいんだって」

 

「いいよ。私、もっと食べたいな。椛ちゃんのお弁当」おなかを撫でながら、はたてさんは微笑んだ。「その為に服のサイズ上げるんだもんね」握り飯を私の手から受け取ると、はたてさんはそれをぺろりと平らげた。「触っていいよ」私は促されるまま、それを撫でた。素敵な、感触だった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

「どうしよう椛ちゃん、そろそろ70kgいきそう」「元が軽すぎたんですよ」「そ、そうかな…?」

 

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