※この作品はR-18です。

【裏】東方短編集   作:slnchyt

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#強要


私は、私

―私は、私―

 

「…見合い?」

 

烏が二人、それを持ち帰った時、私は何の感慨も抱かなかった。またか。いつもの話だ。大天狗に成りあがってから幾度も幾度もそのような話は回ってきたが、私にそんなつもりは微塵もない。けんもほろろに蹴り飛ばしてしまえばいい。私は大天狗だぞ。お前達よりずっと偉いんだぞ。

 

「蹴られる前に、中身を確認されるようにと」見てきたように当てやがる。まあ、こいつらに迷惑を掛けても仕方がない。巻物を開いて、流し見する。どうやら随分と気位の高い御方のようだ。継承順――三十位? まあ、実質ないようなものだな。…写真が、はらりと落ちた。それを拾い、裏返す。

 

「…冗談だろ?」読み飛ばした部分に書かれていた家名は、姫海棠。名をはたて。正装とは不釣り合いなほどに明るい笑顔が、そこにあった。

 

私にとって、彼女は非常に扱いづらい部下である。実際、箱入り娘には粗野なお役だ。結局は予備役と称して好きにさせているのだが、如何せん何事にも首を突っ込みたがる。手伝われる方が逆に気を使うなんてのは本末転倒だ。今の所は何事もないが、怪我などさせようものなら…

 

いかん、怖くなってきた。トラブルメーカーなお嬢さん、それが今度は、私との見合い? 私は一応上司で、姫海棠は部下だぞ。どんな顔をしてつき合えというのか。…いや、それよりも、この見合い…成立しようとすまいと、私の足元が揺らぐのではないか?

 

逆に、この期に成り上がってやろうとは、私は思わない。成り上がるには危機管理も必要だ。この見合いは…やばい。或いは何者かがお膳立てした卑劣な罠であるとも思える。しかしてそれを蹴る事は、今の私にはできなかった。私は大天狗だが、逆らえないものもある。――特に、権力には。

 

やにわに立ち上がり、外を見る。まだ昼間だ。星は見えない。私にとっても、先の見えない話だ。烏を下がらせると、私は典を呼び出した。呼ぶ度に若干の後悔と胃痛はあるが、こいつにしかできない仕事もある。「聞いておりましたよ。そして私を頼っていただける! これは光栄!」少し黙れ。

 

私は手早く、しかし何とでも解釈できるようには伝えず、下手人の情報を集めるように命じた。いないなら、それでいい。いや良くはないが。少なくとも、身構える方向の見当はつく。「行ってきまーす」ふよふよと浮かびながら、典は冷房用のパイプから外に出て行った。

 

しかしまあ、今の生活がすぐに変わる訳でもない。どっしり構えていれば、問題は嫌でも向こうからやってくる。今はそうだな、昼寝でもするか。…少しばかり、疲れていたらしい。座布団を枕に、私は安らかな眠り、眠りへと――

 

―――

 

  ―――

 

「?」身体に違和感を覚えた。何か暖かなものが私に触れている。典かとも思ったが、あいつはこういう事はしない。それになにやら、花の香めいたいい匂いがする。…手を伸ばしてみると、これは…確かに柔らかいというか…例えるなら…そうだ、乳房のような…?

 

「うわっ!?」

 

飛び起きた隣にいるのは――姫海棠!? 「ふわぁ…」彼女は大きな欠伸をすると、私の方を向く。「いい夢、見られました?」「いや、そうだな、いい夢だったぞ…」どうやら触った事はばれていないようだ。「大天狗様がちっとも起きないから、私も眠っていました」正装を整え、彼女は微笑んだ。

 

年頃の娘がそれはどうなんだ、とは思ったが、彼女は気にしていないようだった。「今日は…そう、ご挨拶しようと思ってここまで来たのでした」随分な挨拶だな。「それなら無駄足を踏ませたな。私は断るつもりなんだ」顎の手を膝につけて、私はノーを告げた。直に言うのも酷だが、まあいい。

 

「そう言うと思っていました」彼女は再び、微笑んだ。…なんだか、自分の行いを咎められているようで、見ていられないぞ。「私も本当は、断ろうと思ったのです。でも、大天狗様の顔を見て、気が変わりました」机に置かれた羊羹を慣れた手つきで切り分けながら、姫海棠はこちらを向いた。

 

なんだ、こいつはこういう時でも私を困らせるのか。「…私なんてもういい年だぞ? もっと若いのがいるだろ、ほら、…うん」言葉に詰まった私に、羊羹の皿が差し出される。「どうぞ。甘いですよ」「ああ、すまん…」切り開き、口に放り込む。それは甘く、何処か柔らかな味がした。

 

「お酒もお持ちしましたが、頂かれますか」流石にそれはまずいだろう。「それでは…肩が随分とお疲れのようです。揉んで差し上げましょうか」「いや、それもいい。…随分と、世話を焼いてくれるのだな」「女房とはそういうものではありませんか?」私は耳を疑った。…女房、女房か…

 

「…随分と古い価値観だな。今日び流行らないぞ」軽く説教臭い事を言いながら、動揺を拭った。「そうですね」お前はクスクスと笑った。…いかんな。さっきからペースを握られっぱなしではないか。脈がないと重々お断りして、早く帰らせてしまおう。「すまんが、私はやはり断るつもりだよ」

 

「いいえ、私が断らせません」再び、耳を疑った。「私は、大天狗様が好きになってしまいました。かくなる上は、何としてでも私を好きになってもらいます」一連の宣言中、姫海棠は真剣な顔を崩さなかった。「いや、何を言って…」「なってもらいます」気圧され倒れかけた私の顔が覗き込まれる。

 

「――けれど、今日はここまでにしましょう」私の顔にそっと触れた手が、元へ戻った。完全に倒れ込んだ私を助け起こすように、両手が差し出される。私はその手を取ると、座布団に座り直した。「少し、意地悪だったかもしれません。ごめんなさい」「ああ、少し…な」…本当に、少しか?

 

「…というか、姫海棠。お前、そんな風に喋れたんだな」「――えへへ。お嬢様だもんね」姫海棠は笑った。意地悪な質問をしたせいか、その笑顔は私の咎を焼き尽くしたように思えた。要は、赤面した。「…いや、ぶしつけな質問だったな。忘れてくれ」…どうも、私ばかり謝っている気がするな…

 

「…それでは、本日はおいとまさせていただきます」「ああ…いや、明日からは来なくても…」「いいえ」彼女は首を振った。「…勘弁してくれ」「うふふ。それでは…」襖が閉じ、部屋は静かになった。…一体何だったのか。未だ私は、あの宣言を上手く呑み込めていなかった。

 

今日は、今日はか…まさか、これから毎日来る気じゃないだろうな。…私の危惧は、まあ当たっていた。その時はまだ、想像の内でしかなかったが。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

「連れてきましたよ、モトカノさん」今度それ言ったら殴るぞ。「いらっしゃいましたよ、わたくしまさしく射命丸」窓がガラリと空き、現れたのは見飽きたニヤニヤ顔。「なんだよ、お前か…」いささか呆れて、座り込む。「邪険になさる」私の正面に、文は座り込んだ。典もまた、その隣に座る。

 

「もういいぞ、典――なんだ、どうした」毛づくろいを始めた典は、文の方を向いたまま笑った。「波長が合うって言うんですかねぇ」こちらを見て、二人が笑っている。…困った奴がもう一人増えたって事で良いのか? まあ、お前は昔からそうだったよ。散々酷い目にも遭わされた。

 

こいつは千年――いや、もっと前だったか?――前に山へやってきた余所者だった。今でこそ馴染んで…馴染んで…? …はいるが、こいつは緩みに緩んだ山の連中を実力だけで押し退け、あっという間にのし上がった。妬む連中もいたが、どちらかといえば驚愕、或いは唖然の方が多かった。

 

まあ、血筋だの地位だのが最重視されていた時代だ。されどもその能力を無視はできない。そこで老人連中は、大天狗のポストを与えて、こいつを飼い殺そうとした。形ばかりの選定を経て、残ったのは二人。私と、お前だ。当時は私も若かったから、お前とは正面から戦う気でいた。

 

それを投票に変えるよう直訴したのはお前だったし、僅差で負けたのも、お前だった。思えばお前は、私に大天狗の地位を譲る気でいたのかもしれない。或いは、自由な立場を失いたくなかったか。両方かもな。今となっては昔の話だ。

 

「…それで、この茶番をセットしたのは、お前なんだな?」文は扇で口を隠した。「そうとも言えますし、そうでないとも」迂遠な奴だな。「口を割らぬというなら…幾多の事案を蹴りだけで却下してきた飯綱丸様だぞ。お前の事だって軽く蹴り飛ばしてくれる」「おお、こわいこわい」

 

「あなたに贈ったのですよ、はたてを」…姫海棠を?「実際、はたてにも見合い話はさぞ殺到していたはずですがね。彼女に届く前に粗方握り潰されていた訳です。それをやってのけたのは、わたくし射命丸と、姫海棠のお偉いさん」…随分と、厄介な仕事をしているじゃないか

 

「悪い虫をつけたくなかったんですねェ」やれやれ、と手を広げて見せる。「私があなたを推薦して、姫海棠家も首を縦に振った訳です。あなたならはたてを任せられると」「それは贔屓目だと思うぞ」私も手を広げた。「そうは思いません。実際、あなたとはたては随分といい関係ではありませんか」

 

「…ああ、おかげで気の休まる間もない」あれから姫海棠は毎日訪れた。毎日だ。にこにこと笑いながら私の世話を焼き、楽し気に一方的な話をし、私の手をそっと包もうとする。とんでもない娘だ。大天狗がおさわりしたと広められれば――あれ、同僚にも案外いるな…?――私の評判が傷つく。

 

「相変わらずお堅い」扇で顔を隠すと、そいつはいやらしく片手を振った。「それで、答えてあげるつもりは?」「ない」ないに決まっている。大天狗様があんな小娘を…その、娶るなんてのはありえないだろう。常識的に考えて。「おやおや。生娘はあなたの方では?」やかましいわ。

 

「あなたはそろそろ、身を固めるべきなんですよ。行き遅れは悲惨ですよ。虫も喰わない」「そのつもりはない。今は」「今っていつです? 来週? 来月? それとも――私が取られてしまうまで?」――お前は何を言っているんだ。典と顔を見合わせて、こいつは笑っている。…何が可笑しい。

 

「それではごきげんよう。お二人の前途に幸多からん事を」文は――なんだその捨て台詞は――さっき開けた窓から、するりと飛び出した。扉から入って出ろよ。典は不心得者に手を振ると、私の道具の中に納まった。部屋の中は、ようやく静かになった。ここの所、騒がしいばかりだったな。

 

…口では拒んだ私だが、結局私は姫海棠の事を考えていた。押しかけ女房を喰ってしまうなんて、ガラじゃない。ガラじゃないが、情がないと言えば嘘になる。しかしこれは、あくまで上司と部下の情に過ぎない。それ以上も、以下も求めるべきではないんだ。私は、自分に言い聞かせた。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

たまには部下の働きを見てやろうと思った。それだけだ。それだけなのに、出会ってしまうものだ。「大天狗様ー!」…こっちを見るな。鉄骨落とすぞ。「はたてさん、危ない危ない!」こういう現場に姫海棠が来ると、ハラハラする心配と上がる士気でトントンらしい。そんなもんか。

 

今の所、一度も事故は起こしていない。その点は弁えていると見るか。…案外、お嬢様は周囲をハラハラさせるもの、とでも思っているのかもしれんが。「大天狗様、見物ですか?」視察と言ってくれ。「すごい、これが建物になるんですね!」高い所から見下ろせば、なるほど如何にも大工事だ。

 

…隣で現場を見つめる姿からは、あのズイズイした感じはしない。見合い以前と何も変わりがないように見える。…こいつは本当に、毎日来る姫海棠と同一人物なのか? 「なあ、姫海棠」首を傾けた。何の用事だろうか、と待っているようだった。「いやな、今日のお前は随分お前らしいな、と…」

 

「大天狗様。私は、私ですよ?」…純粋な瞳が、私を貫いている。…そうだな、変な事を聞いてしまった。「――どんな時も」「…えっ?」周囲の空気が凍り付いた。「大天狗様! みんなのごはん買いに行きましょう。ごはん!」「…あ? ああ、そうするか」…私は今、何を聞いた?

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

「――今日は、おにぎりを作ってまいりました」今日もだろ。…いや、おにぎりではなかったが。今日は少しばかり暇だったので――暇だったんだぞ。ホントだぞ――私も食べ物を用意していた。被ったのは、たまたまだ。「素敵。麦飯おにぎりですね」私はこれしかできん。二つを一つずつ交換した。

 

「一度だけ食べた事があるな」具は、シイチキンだ。こいつの出自はシイなのかチキンなのかはわからんが、味付けも中々悪くない。手指をぺろぺろと舐める。結構ベタベタしてるな。私はチリ紙に手を伸ばした――その時だった。姫海棠は不意に、私の指の油を舐めとったのだ。

 

「おひょっ!?」我ながら珍妙な悲鳴だ。手を引けばいいのだが、姫海棠は手首をガッチリと掴んでいる。見た目に反して、力がある。或いは私より上かもしれない。「いけませんか」いいわきゃないだろ。「や、できれば、やめて欲しいかな…」煮え切らなかったのは、何故だろうか。

 

「やめません」姫海棠は舐め続けた。私が幾度目かの抵抗を見せると、今度は私の首筋を舐め始めた。背中がぞわぞわする。着衣の中に手が這いずった。私は一体何をされているのか。わからないが、これを放っておくと大変な事になるのはなんとなくわかった。…拒むなら、今しかない。

 

「――いい加減にしろ!!」

 

左の頬を、手の平で叩いた。加減はできなかった。姫海棠は音を立てて倒れ込んだ。何も言わなかった。言えなかったのかもしれない。麦飯が転がった。転がった事も、意識に上らなかった。怒りとも恥辱ともつかぬ感情が、頭の天辺を苛んでいる。

 

「私がお前を嫌うのだから、お前も私を嫌ってくれ」私ははっきりと、姫海棠を拒絶した。思えばもっと早くそうするべきだったのかもしれない。「二度と来るな。そうすれば何もかも、水に流そう」手の平に痛みを感じた。頬を張られたお前は、もっとだろう。それが、答えだ。

 

姫海棠を分掴み、部屋の外へ追い出す。抵抗はなかった。御付きの烏が、その身体を外へ運び去っていく。

 

――それから数日。姫海棠はやってこなかった。ほっとすると同時に、来なければ来ないで、気にはなる。…しかし、これであの姫海棠とはお別れだ。いつもの姫海棠に戻ったら、挨拶くらいはしてやろう。そう思っていた。…思っていたんだ。私は。

 

夜、それはしめやかに私の部屋へと現れた。「…姫海棠か?」七割方寝ぼけていた私は、布団の中から問う。「はい」天窓を見る。深夜だ。「こんな時間に来るのは流石に無粋というものだぞ…」私の言葉を聞いているのかいないのか、それは近付き、布団の隣に座り込んだ。

 

「今日は――お答えいただきたく、失礼を致しました」「答えぇ…?」何の事だか、わからなかった。先日のそれであると、思い出せる状況ではなかったのだ。「三日三晩、考えました」影が、手を伸ばしてきた。「やはり、あなたが好きです。狂い死んでしまいそうなくらいに」私の頬を、撫でた。

 

これは…なんだ? ひょっとして、私はあの時の続きをされようと言うのか。私は水に流すと言った。それを反故にするのなら、如何に姫海棠といえど、罰さねばならないぞ。私の睨みを、純粋な瞳が返した。声を上げるべきか、迷った。何故迷いがあったのは、わからない。

 

…気付けば、御付きの烏も狼もいない。…あいつら、やりやがったな。今度姫海棠の爺さんに苦情を入れてやる。「よせ、そういうのは――気の迷いだ! そうだろう!?」私の言葉は通じていなかった。「あなたに、好きになってもらいたい」吐息。「――いいえ、そうなる。そうさせてみせる」

 

腕が、脚が、まるで絡みつくように動いた。抵抗する間もなかった。抱きすくめられた私の頭の横に、姫海棠の頭があった。「悦んでください」耳元で囁かれた。顔を突き合わせた。それは徐に近く、近くへと動き――私にとって、初めての、キスをした。

 

「!!!??」私は姫海棠を思い切り引き剥がすと、慌てて顔を覆った。今、何をされた? 唇の感触がはっきりと思いだせる。今、何をされたんだ? …それがキスだと理解するまでに、永遠とも思える時間が必要だった。錯乱する私の身体を、再び姫海棠は覆った。逃げ出す事は、できなかった。

 

右手。左手。完全に組み伏せられた。何処にこんな力があるのか。疑問に思う間もない。暖かい吐息が近付く。その顔は影になって、よく見えない。「あなたは、あの時の私だけを、本当の私だと言いました」天窓に、月が現れた。反射光に照らされた顔は…ぽたぽたと、涙を流していた。

 

「違うのです」涙が、頬へと落ちた。「箱入りの私も、あなたを好きになった私も――」新たに零れたそれが、服を濡らした。「今、あなたを犯そうとする私も、みんな私。私なのです」目尻をきらめかせるお前の瞳は、月の光を受け、どうしようもなく純粋な光を放っている。

 

――もはや、言葉は紡げなかった。私も。お前も。どちらが受け入れた訳でもない。お前は絡める。私は絡められる。絡み、絡め合う。そう決められていた。

 

剥かれた私の身体が、お前の四肢に絡め捕られていく。私達は限界まで近づいた。しかしお前はそれ以上、それ以上とばかりに腰を押し付けてくる。再びのキス。背中に回ったお前が胸を揉みしだいている。片手がそこに触れた。最初は静かに、徐々に疾く強く、私の中を掻き回してきた。

 

キスをする。離れる。抱き合う。互いの内側を掻き回す。乳房を含み、舌でやみくもに転がす。お前はどっちだ。私は何をしている。段々とわからなくなってくる。玉の汗が流れた。腰をぶつけ合う。お前の長い髪を抱き込む。私の耳を舐める。お前も。私も。首筋を舐めあい、三度のキスをした。

 

そこを舐める。舐め続ける。上下逆に並び、お前の中を舐め続ける。手指を更に深く深く挿れる。緩やかに掻き回す。お前が大きく声を上げた。私も声を張り上げた。ただ抱き合った。互いの熱が覚めるまで。手を組み、身体を震わせ。お前が、私が、戻ってきた。…周囲は再び、静寂に包まれていた。

 

―――

 

  ―――

 

「…あーその、なんだ」どうにも気まずく、目線を逸らした。「責任は取る。すまん」…大天狗の甲斐性も大した事はないな。「それを言うなら」純粋な視線が、こちらを見た。「私だって、あなたの責任を取らねばなりません」真剣な顔は、しかし直ぐに笑い顔に変わった。

 

「お互い様、ですね」「…そうだな」空は白み始めていた。星々が静かに消えていく。…いや。星はいつもそこにあるはずだ。観測されないといって、存在しない訳ではない。心も同じなのだろう。お前がいくつもの心を砕いていた事を、私は何も知らなかった。

 

「私といる時は、もっと気易くていいぞ。はたて」「…うん、わかった」身に纏った雰囲気が、如何にも気さくな印象に変わる。どれが本当のお前なのか、悩む事はもうない。みんな、そうなのだ。お前は常にお前で在り続ける。「とりあえず、お風呂入ろ?」…ああ、めちゃくちゃだな。色々と。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

「あの時、私の胸…触ってたよね」「…!」

 

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