執事ラーハルトはしみじみと思う、我が父達のティファ様を慈しむ心は筋金入りだと
魔界の片隅にティファが居を構えるまで、ティファは故郷デルムリン島に住んでいた。
大戦後の一年間は世界をその身一つで繋げ、そして世界の天命を変えた代償に魂と生命エネルギーを神に対価として持っていかれ、回復の為に眠りにつき、起きてからは五年ほどはあちこちに出掛けたのだと、執事ラーハルトは父ラーハルトから聞いて知っている。
聞いて知っているというのは、執事ラーハルトが物心がついた時にはもうティファが島の外に出ることがなかったからで、それは父と母マァムや今もデルムリン島の長をしている鳥人ガルダンディーと妻であったニーナの家族が時折り外に出掛けても見送るだけになっていた。
当時まだ子供だった自分は、優しくて時折りお菓子を作ってくれたティファお姉さんにも、一緒に行こうとガルダンディーの所の子供達と共に誘ったが、優しいティファお姉さんはその時だけ困った顔をしていつもこう言った。
そのうちにね
そのうちが訪れる日が来ない事を、執事ラーハルトは十歳の頃に知った。
デルムリン島はモンスターアイランドではあるが、賢者と同等とも言える鬼面導師ブラス様の下に、多くの知識人が集まって教えを乞いに来ていた。
モンスター達との付き合い方や対処法など多岐に渡り、そして稀にティファお姉さんの下にも人が来た。
それは教えを乞うのではなく、大戦時の手柄話を誉めそやし、そして是非自分達の下で共に宮仕をしないかとの誘いであった。
まだ当時は子供だった自分は、その話はすごい事だと思ったが、ティファお姉さん泣きそうなのを笑って誤魔化している顔で断り続けたのを、自分は勿体無いなと感じた。
しかし父は、、父達は違った。
「小娘、お前はデルムリン島でここにおられるブラス様とバラン様と共に静かに暮らしていればいい。空を眺めていろ、海の音を聞いていろ。雨上がりの虹や渡り鳥を見かけたら子供達に教えて共に見ていろ。」
「そうだぜガキンチョ、お前は働きすぎたんだからよ、もっとのんびりしてていいんだよ。偶に菓子作ってくれればな、それでいいんだよ。」
「左様、娘よ、お前がやりたい事をしていればいいのだ。」
それだけでいいのだと、ティファ様が仕官話しを断ったその日の夜は、ブラス様とバラン様の前であっても、父が必ずティファ様を膝に乗せ、その周りをガルダンディーおじさんとボラホーンおじさんも似た様な言葉をティファ様に言っていた。
それをブラス様と、ティファ様の父君たるバラン様が泣きそうなお顔で見守り、ティファ様自身はどこか疲れていて、、後に知った、ティファ様がこの世界を、三界全てを救う為にどれほどの茨の道をたった一人でお歩きになられたのか、そしてそれが為に心が擦り切れていかれたのかを。
ブラス様達は疲れ果てたティファ様をあの島で守られていた。
ティファが仕官の話を重荷にしているのを兄であるディーノ様にお知らせし、そこから各国の王達に詫びと共にティファ様は宮仕はしない旨をお知らせされ無くなった。
島には交易の為にウォーリア船団が訪れ、知識人達も島のモンスター達との交流から知識を得て図鑑が作られる中、ティファ様は家の中や洞穴、島の裏手で人目を避ける様に過ごされた。
そんな年月の中自分が二十歳をすぎた頃、始めはバラン様が身罷われた。
それは寿命であられた。まだ五十を少し過ぎられていたが、三界の為に戦われ続けたその身の内はボロボロとなり老化を早めてしまわれたとか。
ティファ様は無論のこと、ディーノ様と奥方でありパプニカ女王であったレオナ様も、テラン王ポップに女王メルルをはじめとしたかつての勇者一行の仲間達全員が駆けつけ、なんとカール王アバン様まで来られた中、バラン様は虫の息ながらも、良き人生を終えることができたのはティファ様達のおかげだと、微笑んで事切れられた。
他の方々も涙を流されたが、ティファ様はバラン様に取り縋って泣き崩れられ、予てよりのバラン様のご遺言通り、デルムリン島にて葬儀をされた。
そしてティファ様の悲しみが癒えぬうちに、母の父にして自分の祖父たるロカも逝き、数日後にはマトリフ大魔導士も逝かれてしまわれたのを機に、ティファ様の口数が減ってしまわれた。
悲嘆に暮れる中、世間ではティファ様の評価がおかしくなっていた。
島を訪れた者達が、いつまでも幼い少女のままのティファ様の容姿を取り沙汰にし、ただ島で過ごされているだけのティファ様からはかつての英気をも気概も感じられずに侮られ始めた。
外でその話を聞くたびに子供であった自分達は憤りを感じたが、大人達からは放っておく様に言われた。
あの慈愛に満ち、ティファ様を大切にしていた母もニーナさんも揃って。
その代わり、父達は一層ティファ様を包み込む様に守った。
ブラス様も寿命で逝かれ、ディーノ様達や母達が人間の寿命で逝った時、父とガルダンディー叔父とボラホーン叔父は長い話し合いの末に、ある決断をした。
「小娘、ディーノ様も最早逝かれたがここをディーノ様の生家として、後の人々にもモンスター達も共に保護してもらう為に、デルムリン島をパプニカ領土にしてもらう様に、ディーノ様の御子、レオン王に願いでた。」
「ん、、、そう、そうだね。後五十、、もっと早くにこの島にいるのは、はぐれモンスターとして討伐されるかもしれなね、、うん、それがいいと思う、、、そしたら、【私】はここにいられないね、、」
「、、ガキンチョ、、、ごめんな、、お前はなんも悪くねぇのによ、、」
「我等が、、居てもいいというのに、、、」
父達の決断は正しいと、その話し合いからの一連の出来事を見続けていた自分も思っている。
ただ一つ、ティファ様の事以外を除いてだが。
人間の世界ではティファ様が存在するだけでも煙たいようだ。
竜の騎士の娘にして現パプニカ王の叔母の立場は軽くなく、一つの国にとどまるにはティファ様の身は人間界では重た過ぎたのだ。
その事を父達は泣いてティファ様に詫びるのを、ティファ様はぼんやりとした弱々しい笑みで全てを飲み込み、、そして許したのだ、、
私は人も好き、モンスター達や魔族や半魔や精霊族や天族のみんなと同じくらい好きだよ
だから恨まないと言われた時、いっその事人間を身限り見切りをつけ、ティファ様の中から捨てられてしまえばいいと言いかけたのを飲み込み、胸の中で呪わしく思った、、それでも父達が愛し、今も子孫を残す子供達もまた人間やその混ざりものだと思うと身が切られそうになる思いがした時、ティファ様が何故疲れ果てたのかを知った。
一つの思いを胸のうちに抑えるのが辛いのを、、ティファ様はそれ以上の重荷を、業を、天命を背負わされたのだから、、
父達は直ぐに動いた。
魔界の神であり、ティファ様を慈しまれ時折り島に来られていたバーン様に現状を報告してはとティファ様をガルダンディー叔父が付き添って送り出し、その間に自分と【マァム】はティファ様の側仕えとなる事を命じられた。
父と母の息子は自分一人だか姉と妹達は大勢おり、当然島の外に出て暮らしているものもいる、
それでも年に一度は必ず島に自分の家族を連れて島に帰って来させ、ティファ様と兄君達がなした事をきちんと話して伝え、決してティファ様を蔑ろにしない事を命じられた。
人の思いは風化しやすく、そんな中、一族の者達だけでもティファ様のなした事を、思いを、辛き道を歩まれた事を忘れさせない為に。
おそらくガルダンディー叔父の一族も似た様な事をしていたはずだが、父はティファ様の気性を考え、いつか人の中にはいられないのを見越していた様だ。
いつティファ様が島を離れられても良いように、私に執事のスキルを身につけさせるべくレオン王がまだ王太子の頃から十年間執事見習いとして仕えさせられていた。
ティファ様の側を侍るものが無能では示しがつかないと言われたのに腹が立って、父を見返すべく半年で執事見習いを返上し、一年で上り詰めてやったのが懐かしいが、、今こうしてティファ様にお仕えをし、屋敷やティファ様の身の回り全てを維持していけるのはそのおかげで、、この度の【ティファ様の異常】を知れたのもそのおかげ、、
執事ラーハルトは、ハドラーと同じくらいの時期にキルバーンがティファを苛んでいるのを知った。
それはこの館に訪れた時のキルバーンの気配と、その翌日のティフの様子のおかしさから知れた。
決定的なのは、ラーハルトもキルバーンの様に、それ以上に小型化された目玉を用意し、キルバーンの気配が違う時にのみティファの寝室に潜り込ませて記録させて知った時、、壊そう、それのみが頭に浮かんだ。
自分達は父から常々キルバーンの【変態性と危険性】を教え込まれてきた。
しかし自分は、キルバーンもまたティファ様の恋人とし、ティファの意志を尊重したのだが、、、見事に裏切られ父の言う通り壊した方がよいものであったのを思い知る。
とは言え自分ではキルバーンに勝てたとしてもティファ様を悲しませてしまう、、とは言え主人の寝室の中を覗き見したので知れましたと、キルバーンを唯一止められるであろう魔王ハドラー様に言うわけにもいかずに一計を案じた。
キルバーンの治療は【治療後】が残らないほど完璧に治される。
そこでハドラー様が来る前に、夜ぐっすりと眠るティファ様の秘唇や乳房の下や背中の窪みに薄らと爪をたて傷をつけ、館に住まわせているホイミスライムに半分だけ治させ、ハドラー様に見つけさせる策を施し、どうやらうまくいった様だ。
これで安心できると執事ラーハルトは内心で満面の笑みを、表ではキルバーンに冷笑を以てむくいる。
「キルバーン様におかれましては、今やティファ様はこれまで以上に壊れやすい身にて。大切にされる事を卑小なこの身からではありますが切にお願い申し上げたく。」
ラーハルトの気配は冷たく、どこまでも慇懃な言葉と態度でキルバーンに釘を刺す。
貴様の所業は全てわかっている、次にこの様な事あれは我が主たるティファ様の意志に関わらず叩き壊すと言外に告げて
今宵ここまで
表と裏では大戦後の主人公や世界事情の設定がかなり違います。