冷笑を整った顔に浮かばせ右手を胸に当てて慇懃に一礼しながら【警告】を発する執事ラーハルトを、キルバーンはつくづくこの子は父親によく似ていると思いこそすれ、怒りは浮かばなかった。
ラーハルトがキルバーンの非道を知った様に、キルバーンもまたこの若き執事が自分の所業を知っているのだろうと、なんとなく察していたからだ。
ティファを苛みながらも治療をし、気絶する様に眠るティファを抱きしめて夜を明かした。
この腕の中にいるティファは今は自分だけのものと、、今ならばなんと愚かで最低な想いをしていたのだと思えるがあの時はひどく満足し、そしてティファに玄関まで自分を見送らせていた。
ここに来る時も出る時にティファに出迎えと見送りをさせる事で、ティファを隷属させた気分に浸れたから、、その時はラーハルトとマァムも必ずティファの傍にいて、マァムは何も知らずに柔らかく微笑んでいたが、ラーハルトの目は、、目だけは自分を食い殺しそうな気配であったが別に構わなかった。
自分の所業を知られようとも構わないと、その時の自分の中身はひどく荒んでいたから、、しかし今は、、
「うん、僕もティファと同じくらいに生まれてくる子供達をきちんと大切にする、、きっときっと、、僕のこの身を盾にしてでも何者からも何事からも守るから、、」
だからラーハルトの主人たるティファの側に居させて欲しいと、その言葉は口には出さずにラーハルトに頭を下げて態度で示す。
言葉ではなく、これから自分の行動で示すと言う誠意に、ラーハルトは一つ頷きほんの少しだけ横にずれて結界の中に入って良い許可の詠唱をキルバーンに施し、館への道を開いてキルバーンを通す許可を無言で出した。
この館に入る条件は二つある。
それはティファが許し、そして執事ラーハルトがティファが許した者に術を施して漸く入れる二重のセーフティーが掛かっている。
それほどまでに厳重に守られているティファを、傷つけたのが許された者だと思うとラーハルトは本気でキルバーンを壊したいがもう一度だけ信じる事にして、、本当にほんの少しの、ティースプーン半杯分の信頼だが、キルバーンにとってはそれだけでも有り難く、ラーハルトに信頼してくれてありがとうという一礼をして横を通る際、、心の重しがとれた様で浮かれてしまい、つい軽口をラーハルトに言ってしまった。
「ティファは身籠ったけれども、君と侍女のお嬢さんとの子もそろそろ、、」
「貴方には関わりのない事だ。」
ラーハルトは執事にあるまじく、主の恋人の言葉を冷たい殺気と口調で遮るも、ラーハルトのプライベートに踏み入ってしまったキルバーンは、その無礼な口調を咎めはせずに、反対に謝罪した。
「ごめんね、、今のは完全に僕が悪いね。君と侍女のお嬢さんを見ていると、、懐かしいからついね、、」
キルバーンにとっても、チウも他の子達もまだ若く、光り輝いていたあの頃は懐かしいと思うほどに、それなりに大切にしていた時間であったので、その頃を彷彿させる二人を見てつい口を滑らせてしまったのだ。
あの頃のラーハルトとマァムの様な二人に、執事ラーハルトは肌の色と顔にある半魔のあかしである黒い模様以外は、ラーハルトとマァムに瓜二つで、そして執事ラーハルトは侍女マァムに自分の事を兄と呼ばせながらも近頃は【女】を見る目でマァムを見ているのを知っている。
それは本当に、ごく僅かな時であろうとも自分と同じく少女が女になるのを虎視眈々と狙っていた自分と同じ気配を僅かに滲ませたからわかる事だが、ラーハルトからすればキルバーンに察知されるなぞ最低な気分で吐き捨てる。
「【長い年月】待ったのだ、、余計なことは言わずに何もしないでいただきたい。」
今の自分に言った様な事を、マァム当人と当然ティファ様にも言うなとガッツリ釘を刺す。
そう、待ったのだ【ラーハルト】は。父の言葉に従い、同じ腹から生まれた妹の血が、長い年月をかけて自分達とは違うと言えるほどに薄まるのを。
【ラーハルト達】にとって、理想とする女性の原型はティファであった。
世界を全て救うのだという強欲にも似た信念を持った果てしない慈愛の心を持ち続け、純真で無垢な少女、、、世間にはその様なものは少数であり、マァムを見つけられた父は幸運であると、大人になって羨ましく思った。
そして自分には世間を探してみても見つけることができなかった、、世間には、、、いたとしてももう恋人か夫があり、運よく独り身であっても知り合うきっかけが見出せず、恋人ひいては妻となってくれる人探しの旅から疲れて帰ってきた時、妹が優しく出迎えてくれていた。
また見つからなかったと落ち込めば、いつかきっと素敵な人が兄さんの前に現れると優しく励ましくれた母、、、時間が経つにつれ仕事の合間に探しに行っては落胆して戻る自分を優しく慰めてくれる役目は妹となり、その子供の姪となり、、いつしか執事ラーハルトは物狂おしさを【優しく出迎えて慰めてくれる少女達】に覚えたある時、父から警告を受けた。
お前の女性の好みは俺とな同じだ。
だから気持ちは分かると言われた時、今生で初めて父が憎いと思った。
自分はこれほどの思いで伴侶を探しても見つからない、、比べて父は、母と出会ってすぐに相思相愛になったというのを周りから散々聞かされていただけに、自分の気持ちがわかると言われたのが不快ですらあった。
これほどのたうち回る想いを、分かると言われたのが。
そう言えるはずもなく、黙っている自分に父は【待つ】様に言ってきた。
今はまだ血が近すぎる。それでは今いる少女達は親も含めて受け入れまい。
なによりも
マァムに拳で止められるぞ
父の最後の一言に面食らったが納得もした。
血が近い、それ以上に兄妹が結ばれるにも等しい結婚を、【倫理観】がきちんとした母が許すはずもない。
母の目のあるうちは、血が薄まるのを待つ意味合いも込めて執事ラーハルトは父の言いつけ通りにひたすら耐えた。
どの世代の少女を愛おしく思いながらも、その気配は一切表に出さずに父以外知られる事なく、他の男と結ばれ子を産もうともひたすらに耐え、良き兄を叔父を、頼りになる優しい親族として振る舞い代々において信頼を得てきた。
無論母マァムの事も慈しみ、父と同様にいつまでも長生きして欲しいと願い、その甲斐あってか八十まで母は長生きしてくれた。
そしてその翌年に生まれたのがこの館にいる【マァム】であった。
母マァムから数える事六代目であり、一族からはすっかり出なくなった桃色の髪をした丸い玉の様な女の子が生まれた時、執事ラーハルトは確信した。
漸く【自分のマァム】に出会えたのだと、、
この想いが狂っていることなぞラーハルトは承知している。
その赤子をずっとそばで守った。厄介な害虫や、余計な悪き思いや言葉がマァムに届かない様に文字通り全てから守り抜き、そしていつか自分と結婚するのだとしっかりと刷り込み済みである。
長い年月の果てに見つけた【マァム】を逃がさないように、しかしマァムにも自分を好きになって欲しいと願って、ラーハルトの優しい一面しかマァムは知らないがそれでいいのだと進めてきた事を、壊すものには容赦する気はない、、例えそれが主の大切なの恋人であろうとも、、
ラーハルトの様々な本気の思いを気配で受けたキルバーンは、再び頭を下げながらも胸の中で一人心地る。
この館の住人で、まともなのは侍女のマァムただ一人であり、狂る狂ると歪な愛情が屋敷を満たしてマァムをも飲み込もうとしている、、、
ハドラーも常識人を気取っているが、自分からすれば彼もまた自分の同類である。
出会ってから百年間もティファを愛していつか己の手に入れようとしていたのを知っているのだから。
自分とハドラーとミストはティファに、ティファ自身は自分達三人に、そして目の前の若き執事は、、この館にいるのは本当に強すぎる愛と執着を胸に抱いている、、、世間からすれば碌でもないが今更であろうし、どうでもいい。
この若い執事も、マァムと相思相愛となり子を設けるのでればそれも自然である。
好きになったのだから、、なってしまったのだら仕方がないではないかとキルバーンは無言で微笑むのをラーハルトは鼻を鳴らして館に入るように指し示してその場を去る。
嫌な気分を、愛しいマァムに慰めてもらい晴らしてもらうべく
今宵ここまで
狂る狂ると歪な愛情が広がる世界のお話し