そして逢瀬の濃厚さは次回となります
「ティファ、俺はお前だけがいればいい。」
「あ・・う〜・・ハド・・」
「約束だ、俺はお前だけを愛する。お前だけを抱く。」
「そ・・んなの、約束しちゃ・・めなの・・」
強情な事だ。こうして組み敷けば従順に従い素直に与えられる快楽に溺れると言うのに・・あいも変わらず此奴は自分の事になるとてんで駄目になる。
小さなティファはベットに仰向けになり、ハドラーに覆い被され、彼の銀の髪に閉じ込められる。
魔族特有の青い肌に、黒い模様が穿かれた筋肉質の肉体は、神が作りし彫刻の様に美しく、ハドラーが好んで薫いている身嗜みの為の香木の香りと、情行で高まる雄独特の香りが入り混じった匂いにティファは頭がクラクラとし、そして全身がカッと熱くなる。
弱いのだこの匂いに。ハドラーだけが放つこの匂いに。
嗅ぐだけで子宮が疼く、まさに自分にとっては媚薬の様な匂いに。
独特の低く体に響きやすい声も、自分を見透かすダークルビーの瞳も、厳つく時に傲慢に、反対に優しく慈愛の笑みを浮かべるハドラーの顔も。
ハドラーの全てが愛おしい・,だから、彼には幸せになって欲しかったのに
「俺がお見合いとは何の冗談ですかバーン様。」
かつての大魔王は、その権勢を他に譲ってから幾年かが経っている。
とは言え魔界の中でも序列が高いハドラーが、新しい大魔王に忠誠は誓わず、自分にお見合いしろなどと言えるのはバーンのみ。
ハドラーには恋人がいる。
かつて死闘を演じ、そして何故かその死闘相手の命を救った勇者一行の料理人ティファと、恋人関係にある。
だが、彼女は魔界の片隅の館に引きこもり、恋人達の逢瀬を待つだけの身と成り果て随分と経つ。
そんな彼女が一国、それも魔界の大国を纏めあげ君臨しているハドラーと結婚する気は無かろうと言うのが周囲の専らの噂であり、新大魔王が,彼の後継の事をバーンが相談を受けたのが事の始まり。
当のハドラーには後継ぎ等はなから気にも留めていない事だが。
自分が子を持ち、その者を後継ぎになど考えたことはない。
この魔王の地位も自分の力で勝ち取ったものであり、世襲制にするなど馬鹿馬鹿しい限りである。
「する気はないと?」
「当然ですな。」
「では対案として、その方の後継者を見つけ育てよ。荒れ果てていたあの地を再び荒野にせぬ為に。」
「かしこまりました。大魔王バーン様。」
その返答に、バーンは苦笑する。
「余は最早大魔王ではないぞハドラー。」
呆けるには早すぎると。
だが、ハドラーの答えはいつも決まっている。
「俺にとっての大魔王は貴方のみ。ミストバーンにとりてもキルバーンにとりても。」
自分と彼等の心情は変わらず、忠誠を誓いし大魔王は終生変わらずバーンのみであると。
「それはティファにとりても・・」
そして、ティファにとっての大魔王もバーンのみを指し示す。
「・・そうか。」
「はっ。」
短いやり取りの中に、幾千の想いが詰まっている事か。
しかし2人も、バーンの横に控えている影も死神も何も言わない。
言葉は不要と。
下がって良いとバーンに許可されたハドラーは、引きこもりのはずなのに、耳だけはいい恋人の元に急いで向かう。
もしかしたら、見合いを勧められる事を聞きつけ、自分と別れると算段してそうなティファの元へと。
寂れた様に見える館にも、手入れするものはいる。
キメラの翼で館前に降り立てば、桃色の髪を緩い三つ編みにして纏めているメイドが箒を持ったまま急いで出迎えてくれた。
「ハドラー様!あ!私ったら、・申し訳ありません!!庭を掃いていたものでした・・」
桃色の髪を振り乱しながら、挨拶と謝罪と実に騒々しく元気いっぱいなメイドに、ハドラーは吹き出して気にするなと軽く手を振る。
「はわわ、いつもお優しく・・」
メイドは頬を真っ赤にしながら俯いてハドラーを先導する。
玄関の扉は開かれており、石畳のの横で、紫の肌に顔に黒い模様があり、銀髪の髪を短く刈り上げていお仕着せの燕尾服を纏った半魔の青年が、胸に手を当て一礼しながらハドラーを出迎える。
「ようこそお越しくださいました魔王ハドラー様。」
「出迎えご苦労。アレの様子は?」
「・・遠見にてハドラー様のお見合いを知り・・」
「分かった。案内はいい、美味いものを頼む。」
「「かしこまりました。」」
慌てて出迎えたメイドと、落ち着いて出迎えた青年は兄弟であり、共に先祖の特徴を受け継いでいる。
メイドは母方の、青年は父方の。
そしてメイドは短命な人間であったが、代々女子はその様に生まれているので周りも当人も気にしたことはなく、ティファに使えて久しい。
館の中と外の気配を探りながら、ハドラーはゆっくりと歩く。
アレが見合いのことを知れば、大人しく寝室にいるはずもない。
自分に幸せをと、隠れながら身を引く算段でもしていると思うと腹ただしい。
案の定寝室ではなく・・薔薇の茂みの中で、泣きながら眠っているティファを見つけた。