(……ん)
暗闇の中にぼんやりと、布張りの天井が見える。ぼーっとしていた女神官は、ややあって、自分がいまいるここが野営地のテントの中だと思い出した。
(何だろう……目が覚めちゃった)
感覚からして、まだ夜明けの時間は遠い。なのに、やけに目が冴えている。
しかし、野営中の睡眠は大切だ。女神官はゴブリンスレイヤーに教えられたことを思い出して、眠れなくとも目だけは閉じ、そのままじっとしていた。
「……んぅ」
だが、身体がムズムズして、妙に落ち着かない。そう、なんだか興奮してしまっている。水でも飲めば、あるいはテントの外に出て、夜の冷たい空気を吸えば、スッキリして落ち着くかもしれない。そう考えた女神官は、寝袋からもぞもぞと這い出ると、最低限衣服を整え、長い金髪を手で撫でつけた。
女神官の隣では、武闘家が安らかな寝息を立てている。さらにその隣には、魔術師の寝袋がある。――しかし、これは空だった。
女神官は、それを異常事態だとは考えなかった。きっと、今は魔術師が見張りをする順番なのだろう。そう思っただけだ。彼女は寝ている武闘家を起こさないよう、そっと這うようにして、テントの入り口の布を上げた。
(……あれ? あの背中って……)
テントの外のほうが明るいのは、空に満天の星が瞬いているのと、焚火の火が絶えていないからだ。女神官は、その薄明かりの中に浮かび上がる、例の「
女神官はテントを出る前に、もう一度自分の衣服を確認した。今の彼女は、下着姿というほどではないが、昼に着ていた神官依の上着部分などを脱いだ、比較的露出の多い格好をしている。膝上まで覆う白いブーツも脱いでいるから、普段は人目から隠されている滑らかな生足も丸見えだ。
(……まあ、これくらいなら、失礼ではないですよね)
女神官は、心の中で頷いた。今の自分の姿は、人前に出ても許容される範囲内であると、彼女は判断した。――ただし、それを「男」の前に晒すということの是非については、それほど重くとらえていなかった。昼間はあれほど、男のことを警戒していたというのに。彼女がまだ「少女」であるがゆえに、そのあたりの自己判断には、間違った基準が含まれていたと言わざるを得ない。
とにかく、女神官は改めてテントの入り口の布を上げ、そこから外に出ていこうとした。入り口は狭いから、ちょうど四つん這いになるような姿勢で。そして、彼女が体半分ほどを外に出したとき、男が何かを口にした。
「お~……イイ感じだわ」
女神官の動きが止まる。
男のその台詞は、女神官に向けて言われたものではなかった。女神官が見ている男の背中の向こう、おそらくは彼の正面に、誰かがいる。消去法で言えば、それは魔術師に間違いない。
「お前もチンポしゃぶるのが上手くなったじゃねぇか。あ~……たまんねぇ……」
「チンポ」、「しゃぶる」――スラング混じりの言葉には、神殿育ちの女神官が理解できない部分もある。しかし、男がとても気持ち良さそうにしているということは、女神官にも良く分かった。
そこでいったい何が行われているのかを完全に把握する前に、本能的に、女神官はゴクリと喉を動かし、口の中の唾液を飲み込んだ。
「ちゅ……♡ れろ……♡ ちゅるぅ……♡」
男の背中越しに、
「もう……♡ こんなとこでシて欲しいなんて、あの子にバレたらどうするつもりですか? ちゅ……♡」
「へっへっへっ、ワリぃワリぃ」
「本当に悪いなんて、思ってないくせに……。どうしようもない人ですね……♡ このおチンポもどうしようもない……。出発前にあんなに射精したのに、もうガチガチなんだから……♡ ちゅ……っ♡ ちゅぅ……♡」
それは確かに魔術師の声ではあったが、女神官が知っているはずの彼女の声とは、大きく異なっていた。昼間の魔術師の声にあった、理知的で少し冷たい響きはそこになく、ねっとりとした艶と媚を含んだ音色が、そば耳を立てている女神官の耳孔をくすぐった。
「ちゅる……♡ まあ、男性冒険者の性欲処理も……ちゅ♡ 野営中の重要な問題だとは、理解しているつもりですけど……♡ はむ……♡ れぇ……♡ じゅるる……♡」
「へっ、優等生ぶったこと言ってるがよ、お前もしゃぶりたくて仕方無かったんだろうが。ひっでぇチンポ面だぜ?」
「ちゅばっ♡ そんなことっ♡ じゅるるっ♡ ないっ♡ じゅっ♡ れろぉ♡」
「あー、そろそろ出るわ。おい、ぶっかけるぞ」
「――ちゅぽんっ♡ ふぁい……♡ わかりまひたぁ……♡」
男はおもむろに立ち上がった。そのとき、女神官の目に、男の股のあいだの向こうで、何かを待ち望むように口を開けて舌を出し、両手を口元に添えた魔術師の顔が映った。そして、ほとんどそれと同時に、男が獣のような吠え声を上げる。
「うっ!!!! オっ!!!! おおっ!!!!」
(――!?!?)
「それ」を目にしたときの女神官の驚愕は、並大抵ではなかった。男がビクビクと腰を震わせたかと思うと、男が噴射させた白い何かが、ボタボタ、べちゃべちゃと魔術師の顔に降りかかった。そして、魚介類を思わせる生臭い臭気が野営地に漂い、女神官の鼻を刺す。その臭いを嗅いで、さっきから暴れまわっていた女神官の小さな心臓は、さらに荒れ狂った。
男が魔術師の顔に向かって放出した「体液」の正体に、女神官は心当たりがあった。なぜなら、彼女はそれを、何度か目にしたことがあったからだ。そう、ほかならぬゴブリンの巣穴で、ゴブリンに犯され孕み袋にされてしまった女性たちの身体にも、あれと同じ粘液が振りかけられていた。
(あ、あれって……せい、えき?)
それが胎に入れば、女は子を宿してしまうのだと、女神官は知っていた。
それにしても不思議だ。ゴブリンの巣でその匂いを嗅いだときには、彼女は吐き気しか催さなかった。今もそのときと同じ――いや、もしかしたらゴブリンの精液よりも「濃い」、鼻が曲がりそうな匂いが漂っているというのに、女神官の愛らしい鼻は彼女の意思とは無関係にひくついて、その空気を肺一杯に吸い込んでいた。
「じゅるる……っ。もう……またこんなにたくさん出して……ずぞぞっ、眼鏡にもかかったじゃないですか……」
魔術師は男に抗議しているように見えて、本当には嫌がっていない。両手に受け止めた精液をすする彼女の瞳には、嫌悪の色は微塵も浮かんでいないのだ。むしろその顔には、幼子の悪戯をやんわりたしなめる姉のような、柔らかい微笑みが浮かべられていた。
「あーわりぃ、でも、お前みてぇなお高く留まった感じの女にぶっかけると、マジ興奮するんだよなァ」
「本当にしょうがない人ですね」
全く反省の意志が感じられない、形だけの謝罪。普通ならば、顔を真っ赤にして憤慨するのが当然の暴言。それを男にぶつけられても、魔術師は怒らなかった。それどころか、彼女は淡く頬を染めると、チラチラと男の顔色をうかがいながら、何かを期待するような問いかけを男に投げた。
「それで……どうしますか? 今夜はもう終わりにしますか?」
「逆にお前は終わりでいいのかよ?」
「もうっ」
良くないですと魔術師は言った。そして彼女は、膝立ちの姿勢で男の足元ににじり寄ると、また例の水音を響かせ始めた。
「ちゅ……♡ じゅる……♡ はぁむ……♡ はぁ……♡ まだこんなに硬い……♡ ねぇ……」
「んー?」
「……はぁ、はい、わかりました。私がオネダリすればいいんですよね? お願いします。あなたのおチンポ、おマンコに挿入してください……♡ お腹、疼いちゃってるんです……このまま眠れるわけありません……♡」
「仕方ねぇなぁ。ハメてやるからケツ向けろよ。立ちバックでブチ犯してやる」
「はい、ありがとうございます♡」
湖畔の温泉宿のときと同じだ。女神官は瞬きすることも忘れ、その光景に見入っていた。少し開いた彼女の口は、荒く浅い呼吸が繰り返している。顔は首元まで赤くなり、全身に汗がにじんでいた。
(あれって、おちんちん……? 人間の……男の人の……)
魔術師と男の位置関係が変わったことで、女神官の位置からも、それがはっきりと見えてしまった。張り詰めていて、反り返っていて、魔術師の唾液でテラテラと光っていて、発情したゴブリンたちのものとは、似ているようで感じが違う。
テントの入り口で四つん這いになっていた女神官の太ももが、もじもじと動いた。下着の奥から、何かがじわっと溢れてくる。無意識のうちに、彼女は自分のスカートの下に、片方の手を滑り込ませていた。
薄暗く、さすがに細かいところまでは判別できなかったが、魔術師がローブをまくり上げ、長い脚と尻を、男の前で晒したように見えた。男はそんな魔術師の背後に立ち、彼女の髪を手で撫でると、耳元で何事かを囁いていた。
「はい……私もです……♡ 大好きです……♡ 愛してます……♡ 孕んじゃってもいいですから、早くぅ……♡」
男の囁きに対する、それが魔術師の答えなのだろう。彼女はとてもうっとりとした表情で、シロップのように甘く蕩けた声を出した。――それは、背後の男に何もかもを捧げてしまった、メスの声だった。
「あっ♡ は、はいるっ♡ 太いおチンポ、はいってくるっ♡ あっ♡ ああっ♡ ひっ♡ あ~~~~っ♡」
「ふぅ……ドロッドロじゃねぇか。挿れただけでイったのか?」
「は、はいっ♡ はいっ♡ 甘イキしまひたぁっ♡ あっ♡ あ~~~っ♡ あ゛~~~~っ♡ イ、イクのつづいてるっ♡ おなかっ、あなたのチンポでよろこんじゃってるっ♡ んお~~~っ♡」
あれでも、彼女なりに精一杯声を抑えているつもりなのだろう。しかしそのメス声は、女神官の耳にもしっかりと届いていた。愛情、満足、幸福、悦楽、快感――あそこで行われている行為を実体験したことのない女神官にも、魔術師が何を感じているかは、考えずともわかった。
(え、エッチしてる。二人がセックスしてる。あれがセックス、セックスなんだ)
着衣での行為で、ほとんど素肌は見えないが、温泉宿のときのように湯気に視界を遮られてはいない。
背後から魔術師の両手首を掴んだ男が、リズミカルに腰を動かしている。男はそうして、バキバキに勃起した男性器で、魔術師の中を掻き回しているのだ。
「んおっ♡ ひっ♡ あっお♡ い゛~~っ♡ お゛ーっ♡ お゛ーっ♡」
「ハっ、お前、学院でも優秀だったんだろ? こんなチンピラにハメられて、情けなくアヘヨガってていいのかよ? そんなんで呪文とか唱えられんのか?」
「いいっ♡ いいのっ♡ 気持ちイイからいいのっ♡ このチンポ入れられてると、生きてる感じするからいいんだもんっ♡♡ あなたとのセックス大好きだからいいんだもんっ♡♡ 魔術とかどうでもいいっ♡♡」
「あ~あ、可愛いこと言っちゃってよ。じゃ、お望み通りハメ壊してやっかな」
「うんっ♡ うんっ♡ ハメてっ♡ ハメ壊してぇっ♡ お゛っ♡ んお゛お゛っ♡ ひぃいいっ♡♡♡」
今の魔術師は、魔術の技を積むために学院で学び、そこでも優秀と認められた才媛とは思えない。ただ本能に忠実に腰を振り、歯を食いしばって激しくイキ悶えるだけの動物だった。男のチンポに隷属することを望み、彼と一緒に気持ち良くなることを最優先に考える浅ましい性奴隷だった。
しかし女神官は、今の魔術師以上に幸福そうな女性を、今日のこのときまで見たことがなかった。
女神官は二人のセックスに見入りながら、下着の下に滑り込ませた手を、もぞもぞと動かしていた。湖畔の温泉宿で覚えた自慰行為を、彼女はここでも行っていた。あれから、宿の部屋で一人で致してしまったこともある。しかしそのたび信仰する地母神に対する後ろめたさがつのったし、それ以前に、あの露天風呂で覗き見しながらしたオナニーほど気持ち良くはなれなかった。
(すごっ♡ いっ♡ これ、イケそうっ♡)
あのとき以来、望んでも手に入らなかった絶頂を、女神官は手にしようとしていた。あまりにも夢中になったせいで、このテントの中に、自分以外にもう一人の少女がいることも忘れて、せわしなく手を動かした。
「あーヤッベぇ、ザーメン昇って来たわ。ナマ出しすっけどいいよな?」
「は、はいっ♡ もちろんですっ♡ あなたの濃いこだね、わたしのナカに吐き散らしてくださいっ♡♡」
「ガキができても堕ろすんじゃねぇぞ? 産んで育てろよ?」
「産むっ♡ 産みますっ♡ 可愛がって育てますっ♡ だからぁ♡」
「いい子だ」
「――ン゛っ♡♡ ひぃっ♡♡♡♡ あ…………♡」
男が一際強く腰を打ち付けると、男と魔術師の全身が、同時にビクビクと痙攣した。さっき放出していた精液を、男が今度は魔術師の胎内に放っていることが、女神官にもわかった。
(ん~~~~っ♡ ふぁっ♡ んぅ~~~~っ♡)
女神官の脳内では、快感の嵐が荒れ狂っていた。パーティーメンバーの子作りの現場をオカズにしながら、彼女はアクメし、自分の下着に濡れ染みを広がらせていた。まぶたの裏でバチバチと火花が弾け、視界がピンク色に染まっていく。
(だ、ダメ……こんなの、クセになっちゃう……)
だが、一通りイキ終わった女神官の心を襲ったのは、激しい後悔だった。テントの外でイチャイチャと睦みあう二人とは対照的に、ぽっかりと穴が開いたような寂しさと、泣きたくなるほどの自己嫌悪が彼女を苛んだ。
いくらか冷静さを取り戻した思考で、彼女は思った。
男と魔術師が「そういう関係」だったのは衝撃的だが、それ自体は咎めるべきではない。二人が愛し合っているのなら、むしろ祝福すべきだ。この場であやまちを犯したのは、自分だけである。恥知らずにも恋人同士の情事を覗き見て、それを己の邪な欲望を発散するために利用した。
(もう、こんなの、これっきりにしないと……。申し訳ありません、地母神さま……弱くて愚かなわたしを、どうかお許しください)
これ以上地母神の教えに背くことは許されない。どんなに気持ち良かったとしても、それは絶対だ。
「はぁ……はぁ……はぁ……うふふっ……ずいぶんたくさん出したんですね……お腹のなか、ちょっと重たいです……。これ、本当に妊娠してますよ……? ――え? はい、そうですね。赤ちゃんができたら、冒険者は続けられませんね…………――でも、それでいいんです。私の夢は、この子に引き継いでもらいますから」
女神官が心の中で神への懺悔を繰り返し唱えていたころ、魔術師は、愛情深い声で囁きながら、自分と繋がったままの男の頬を撫でていた。
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「ねぇ神官ちゃん、神官ちゃんは
「…………」
「神官ちゃん? どうしたの?」
「…………え? ――あ! ご、ごめんなさい! えと、なんでしょうか?」
常緑の葉が生い茂る森の中、心ここにあらずの女神官は、自分が武闘家に何を尋ねられたのか聞いていなかった。武闘家は少し呆れたように笑いながら、同じ問いをもう一度繰り返す。
「いや、君は巨大蜘蛛と戦った経験はあるのかなって。あたしたち、これからそいつらを駆除しなきゃならないんだしさ」
「すみません、実は無いんです。……と言うより、わたしはゴブリン以外と戦った経験が…………」
「そっかそっか、そうだよね。ずっとゴブリンスレイヤーと一緒だったもんね。――あ、別に気にしなくていいよ。誰だって初めてはあるんだし」
「あまり、お役に立てないかもしれません……」
女神官の気に病んだ表情を敏感に察知して、武闘家はフォローを入れた。
「癒しの奇跡が使えるプリーストは、どんな相手とやりあうにしても必要でしょ? バックアップに神官ちゃんがいてくれるっていうだけで、あたしたち前衛は思いっきり戦えるからさ」
「そう言ってくださると……」
女神官が礼を言うと、武闘家は朗らかに頷いて彼女から離れた。そして武闘家は、木々の合間から見える石造りの構造物を眺める男の横に立った。
「どう?」
「まあ、依頼書通りだな。あの糸は普通の巨大蜘蛛のもので間違いない。他の魔物がいる気配もない。
「ふーん」
依頼に合った目的地の砦は、既に一党のすぐ近くに見えていた。今は砦に踏み込む前に、事前準備と索敵を行っている最中だ。女神官は、男とその隣に立った武闘家の距離がやけに――肩が触れそうなくらい近いのを見て、顔を熱くし戸惑った。装備の状態を確認している魔術師は、男の近くに他の女が寄っているのを、特に気にしていないようだ。それにも女神官は戸惑った。
(恋人さんが他の子と仲良くしてて、心配じゃないんでしょうか?)
森に入る前の野営地で見た光景は、まだ女神官の頭にこびりついていた。自分と武闘家が寝ているテントのすぐ前で、激しく交わり快楽を貪る二人。あんなものを、すぐに忘れられるはずがあるだろうか。
同じ年ごろだと思っていたが、魔術師は、女神官が考えるよりもはるかに「大人」だった。野外で妊娠の可能性のあるセックスをする相手がいるのだから、それはもう大人に違いない。二人は年も離れていて性格も全然違うように思えるが、自分の命の恩人に憧れ、やがて想いを寄せるようになってしまうという感情の流れは、女神官にも心当たりがある。
しかし、そう思って改めて観察すると、女神官の中に新たな疑問が沸き上がる。魔術師と男との距離が近く、彼女が態度の端々に男への強い信頼を見せるのは、彼らが恋人同士だから当然のことだ。それはいい。だが、武闘家も魔術師と同じように男に接しているのは、どう解釈したらよいのだろう。ひょっとしたら、武闘家も命の恩人である男に想いを寄せていて、三人のあいだでは複雑な恋模様が生まれているのではないだろうか。女神官はそんなことを考えて、一人でハラハラしていた。
あるいは、彼女はそうすることで、魔術師と男の情事を覗きながら自慰をしてしまった罪悪感や、まだ消えそうにない身体の火照りを誤魔化そうとしていたのかもしれない。
「そろそろ行くぞ。戦闘と探索に必要な物以外は、ここに置いていく」
見るものは見たと判断したのか、振り向いた男が、3人の少女に同時に呼びかけた。女神官は慌てて頭を振り、今までの思考を頭から追い出した。
杖とともに立ち上がった魔術師が、男に聞く。
「作戦はどうしますか? 私が外から火をかけましょうか?」
まるで「あの人」が思いつきそうな物騒な作戦だと、女神官は思った。
「やめとけ。依頼主は、魔物の駆除が済んだらあの砦を再利用したいんだそうだ。砦まで焼け落ちたら話にならん。それに、燃え広がって山火事になりでもしたらコトだ。おい」
「なぁに?」
返事をしたのは武闘家だ。
「基本的に、俺とお前で巨大蜘蛛を潰していくが、奴らの生命力を舐めるなよ。頭や腹が潰れても、奴らはしばらく動き続ける。油断するな」
「うん」
「お前も、砦の中に入ったら
「わかりました」
そのような感じで、男は少女たちに向かって手早く指示を出した。中には、そんなことまでいちいち確認しなくてもと女神官が思うような注意も入っていたが、それも彼がベテランゆえの慎重さということだろう。虫は光に弱いから
「あれは古い砦だ。何か罠が残ってるかもわからん。惨たらしく死にたく無きゃ、俺より前に出るな。何かに触る前は、必ず俺に確認しろ」
全員が治癒と毒消しの水薬を持て。嫌な予感がしたらすぐに言え。わずかな傷でも報告しろ。少しでも異変があれば退却して出直す。思ったより時間がかかっても退却する。命は一つしかない。死んだら取り返しがつかない。呆れるほどしつこく念を押してから、男は言った。
「どうしてもってなったら、他の奴は見捨てて逃げろ」
それを聞いたとき、魔術師と武闘家はすぐに頷いたが、女神官は身じろぎした。それが見えたのか、男は女神官の目だけを見て言った。
「恨まれるとかは、考えなくていい。自分の命が最優先だ。俺もそうするし、お前もそうしろ」
「は……はい」
やけに真剣な視線に貫かれて、女神官は、首肯することしかできなかった。
それで満足したのか、男は言った。
「行くぞ」
結果として、一党がその砦を攻略した際には、重大な問題は何も発生しなかった。巨大蜘蛛を一匹一匹駆除し、蜘蛛の巣を切り払い、男が罠を解除して、奥の部屋にあった卵を全て破壊し、誰もかすり傷一つ負うことなく依頼目標を達成した。
「助かった。今回はお前の働きが効いたな。ありがとう」
砦からの去り際、女神官は、男にそう声をかけられた。仕事をやり遂げた達成感と、思いがけない素直な称賛と礼の言葉に、女神官はつい嬉しくなって、笑顔で「はいっ」と頷いていた。
そしてこの冒険をきっかけにして、女神官は、ゴブリンスレイヤーの姿が見当たらないときは、男たちの一党に加わるようになった。
「あっ♡ あっ♡ あっ♡ いいよぉっ♡ すごぉっ♡ すっごい♡ あたしのお腹のなかで、おチンポ暴れてるっ♡」
(ぶ、武闘家さんも、あの人と……?)
魔術師と同じように、武闘家も男と肉体関係を持っていることを知り、宿屋などで、時には三人一緒に交わっていることを知っても、女神官は彼らから距離を置こうとしなかった。
「んっ♡ イっ♡ いいっ♡ イっく♡ イクよっ♡ イクぅっ♡ んぅう~~~っ♡♡ ――あっ♡ はぁっ♡ ぜぇっ、はぁっ♡ はぁっ♡ はぁっ♡」
(――ンッ♡ イっ♡ ちゃう……っ♡ あっ♡ ……イっちゃった……また……わたし……いけないって、わかってるのに……)
それどころか、彼らの性行為を覗き見て自慰にふけることが、いつしか女神官の、やめようにもやめられない習慣となっていったのだ。